ついに上場 東大発AIスタートアップのビジョンに迫る

広報室だより
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日本M&Aセンターではスタートアップ領域におけるM&A支援実績の増加を背景に、2018年から次世代の日本経済を牽引するスタートアップ企業を表彰する「スタートアップピッチ」を開催しています。2021年は「日本M&Aセンター30周年記念スタートアップピッチ」と題して、日本M&AセンターLP出資先VCが関与する約2,000社の中から15社がエントリーし、アイデミーは「DX賞」を受賞しました。今回は、アイデミーの「その後」をテーマに、同社代表取締役社長の石川聡彦氏に創業後の経緯や今後の展望について、日本M&AセンターIT業界専門グループの竹葉聖が伺いました。


アイデミー代表取締役社長 石川聡彦氏(左)日本M&AセンターIT業界専門グループ 竹葉聖(右)

会社概要

会社名:株式会社アイデミー
設立:2014年6月
事業内容:AI/DXに関するプロダクト・ソリューション事業。AI/DX人材育成事業。
代表石川氏のnoteはこちら( https://note.com/aki1275/ )

竹葉:まずはアイデミーさんの事業内容を教えてください。

石川氏:アイデミーは「先端技術を、経済実装する。」をミッションとした東大発のスタートアップで、主に法人向けにAI/DX人材の育成を通じたDX内製化支援を行っていますが、事業は大きく3つに分類できます。1つ目は「Aidemy Business」というデジタル人材育成支援事業です。エンタープライズ企業のデジタル変革を行う土台づくりやデジタル技術内製化のために、AI/DX人材を育成する「オンラインDXラーニング」プロダクトの提供等を行っていますが、従業員数が1,000名を超えるようなエンタープライズ企業が顧客比率の95% を超えている点に強みがあります。
2つ目は「Modeloy」というデジタル変革伴走型支援事業です。「Modeloy」はエンタープライズ企業のデジタル変革における成功体験の提供のため、育った顧客人材と二人三脚で伴走するコンサルティング型の支援サービスです。
3つ目は「Aidemy Premium」という個人向けAI/DXリスキリング支援事業です。これはAI/DX技術を身につけるための完全オンラインブートキャンプで、Pythonに特化して3ヵ月等の期間集中型で学ぶカリキュラムが特徴です。厚生労働省の教育訓練給付制度(※1)や経済産業省のリスキリングを通じたキャリアアップ支援事業の対象となる講座は、受講料の最大70%が国から支援されます。
(※1)専門実践教育訓練給付制度:厚生労働大臣の指定する講座を受講し修了した場合、修了時点までに実際に支払った受講料の最大70%が支給される制度  
アイデミーHP「専門実践教育訓練給付金について」: https://aidemy.net/grit/premium/benefit/

竹葉:普通のDX支援企業がやっているのは顧客の要望を基にシステムを開発して納品するというビジネスですよね。人材の育成支援から行っているというのが他社との大きな違いでしょうか。

石川氏:はい、そこが大きな違いであると考えています。ただ、当社はプログラミングの工程まで全て社内の人材で内製化しないといけないとは考えていません。社内にDXの知見を持った人材がいて、彼らがSIerに丸投げをしないという状態を目指しています。

竹葉:内製化すべきシステムと外部に発注してもよいシステムがあると思いますが、どのように使い分ければよいでしょうか。

石川氏:たとえば会計システムのような汎用性の高いものは既存のパッケージを使ったほうが良いでしょう。他方、自動車メーカーの自動運転システムや製薬メーカーの製薬研究システムのように競争優位となるようなものは外部のパッケージソフトではいけませんよね。他社にはない競争優位を生むためには、社内にDX人材を抱えて、彼らにPDCAを回してもらって経験を積んでもらわなければなりません。

竹葉:「Aidemy Business」の顧客は95%以上がエンタープライズであるとのことですが、その理由はどのようなものが考えられますか。

石川氏:競合の変化に対する強い危機感です。たとえば自動車メーカーの競合は、自動車メーカーでなくGAFAになりつつありますし、他にもありとあらゆる産業で競合がIT企業になりつつあります。このような変化の中で、エンタープライズはソフトウェア・AI・DXに攻めの投資をし始めています。

起業につながった学生時代の原体験

竹葉:M&A仲介業界にもIT企業が参入してきていますから、石川社長が仰ることはよくわかります。ところで話が変わりますが、起業のきっかけや原体験をお聞きしてもよろしいでしょうか。

石川氏:大きく分けて2つありまして、1つ目は 学生時代のせどりでの成功体験です。せどりでビジネスの楽しさを学びまして、大学生になったらより壮大なビジネスに挑戦しようと思うようになりました。
2つ目は東大に入学して起業が身近になったことです。東大のKINGというビジネスコンテストを運営するサークルに入部したのですが、OBの出雲充さんが代表を務めるユーグレナ(※2)が上場したのを目の当たりにし、勘違いかもしれませんが「自分でもできるのではないか」と思うようになったことで起業に対するハードルが下がり、大学3年生の時に休学して起業しました。
(※2)株式会社ユーグレナ:ミドリムシ等の微細藻類の研究開発や商品販売を行う。東大農学部卒の出雲充氏が2005年8月設立し、2012年12月東証マザーズへ上場したのち、2014年12月に東証一部へ市場変更。

PMFの失敗とピボットの成功

竹葉:創業当初から現在と同じような事業を行っていたのでしょうか。

石川氏:2014年6月に設立し、最初の3年間は現在とは全く違うビジネス、例えば弁当のデリバリーサービスやポイントカードアプリサービスをしていて、開発してはユーザーが付かずに撤退するということを繰り返していました。
そんな中、もっとテクノロジーを学びたいと復学して触れたのがAIです。私の所属していた研究室のテーマは水処理で、教授も先輩も水処理に対しては専門的な知識を持っていましたが、AIの活用に対しては苦手意識を持っており、そこにビジネスチャンスを感じ、AI教育事業を立ち上げました。弁当デリバリーサービスやポイントカードアプリサービスをやっていた際は、どれだけ試行錯誤してもユーザーが付かず撤退していたのが、AI教育事業の場合は、プレスリリースを一本打っただけで高い受講料であるにもかかわらずユーザーが数十名も集まり非常に驚きました。

竹葉:AI教育事業では想定外の事態は起きましたか。

石川氏:いい意味で想定外だったのが、エンタープライズに所属しているユーザーが多かったことです。個人向けのAI教育事業「Aidemy Premium」は私のような若手の研究者や学生をターゲットとして立ち上げた事業でしたが、学生は2~3割で7~8割が社会人でした。また、領収書の宛名を書いた際に、社会人のユーザーは自己負担ではなく会社負担で受講していることがわかり、であれば、直接法人にアプローチしたほうがいいのではないかということで2018年にローンチしたのが「Aidemy Business」です。

竹葉:当時は実績があまりないなかでどのように法人顧客を獲得していったのでしょうか。

石川氏:2018年当時からプログラミング教育サービスは数多くありましたが、最先端のAIを学べるサービスはあまりなかったので、むしろユーザーのほうからインバウンドで問い合わせをいただいていました。また、個人向けから法人向けにいち早くピボットし、法人向けにサービスやオペレーションを修正したことで、法人からの信頼や安心感を得ることに成功しました。

竹葉:いち早くユーザーのニーズを見抜き、ピボットされたのですね。事業ドメインを選定するうえでのフレームワークがあれば教えてください。

石川氏:Will(やりたいこと)-Can(できること)-Must(やらなければならないこと)という考え方を大事にしています。過去の失敗した事業はWillだけを考えていましたが、2017年に出資していただいたVCからMustという考え方を教えていただいたことで、「今、自社がやらなければならないことは何だろう」「顧客に対して提供すべき価値は何だろう」と顧客のニーズを起点として構想を練られるようになりました。

竹葉:学生だと顧客起点でサービスを開発するのは難しいですから、VCの力を借りるというのは有用ですよね。一方で、創業当初から変わらないことはありますでしょうか。

石川氏:素早く事業を立ち上げて仮説を検証し、上手くいかなかったら撤退するというカルチャーは創業当初から変わらないですね。ローンチしてすぐにクローズしたサービスやピボットしたサービスは数多くありますが、失敗を恐れずに挑戦するというマインドセットはこれからも持ち続けたいです。

上場後、さらなる飛躍を目指す

竹葉:2023年6月22日に上場しましたが、どのような決意をお持ちでしょうか。

石川氏:ほっとしたと同時に燃え上がるような気持ちでいっぱいで、例えるなら400m走を走り切って、今からフルマラソンが始まるという感覚です。ファイナンス手法をはじめ上場企業だからこそ取ることができる戦略がたくさんあり、より選択肢が広まったように思います。今後、10年、20年、30年という長期的な視点で成長していきたいです。

竹葉:上場したことでM&Aの可能性も大きくなりました。どのようなM&A戦略を描いていますか。

石川氏:当社はトップティアの企業のデジタル部門と直接の取引がありますので、まずはそういったお客様に対してクロスセルできる商材を持っている企業の買収を検討しています。また、ソフトウェアではなくリアルアセットを持った企業の買収も検討しています。たとえば、AI企業でいうと、PKSHA Technologyが駐車場機器メーカーのアイドラを買収していたり、ニューラルポケットが高級マンション向けにサイネージ広告を展開するフォーカスチャネルを買収したりしています。リアルなアセットを持つ企業に当社のAI/DXノウハウを導入することで、業界の常識を変える挑戦をしていきたいと考えています。そして、最後は海外企業です。当社のサービスは日系企業の海外支店や海外子会社でも利用していただいておりますので、そこへクロスセルできるようなサービスを持った企業は魅力的です。

竹葉:どういった文化の企業にグループジョインしてほしいと考えていますか。

石川氏:全ての歴史の転換点には技術的なブレイクスルーがあり、たとえば産業革命の時代においては蒸気機関の発達が社会を豊かにしましたが、現代においてはAIがその役割を担うと考えています。技術が好き、技術の可能性を信じているような企業と一緒になることができれば、シナジーが生まれやすいのではないでしょうか。

インタビュアー

業種特化1部 チーフマネージャー IT業界専門グループ グループリーダー
竹葉 聖
公認会計士試験合格後、有限責任監査法人トーマツを経て、2016年に日本M&Aセンターに入社。IT業界専門のM&Aチームの立上げメンバーとして7年間で1000社以上のIT企業の経営者と接触し、IT業界のM&A業務に注力している。18年には京セラコミュニケーションシステム(株)とAIベンチャーの(株)RistのM&A、21年には(株)SHIFTと(株)VISH、22年には(株)USEN-NEXTHOLDINGSと(株)バーチャルレストラン等を手掛ける。
IVS2022 LAUNCHPAD NAHA審査員。

著者

M&A マガジン編集部

M&A マガジン編集部

日本M&Aセンター

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