商法とは?民法や会社法との違い、直近の改正内容を解説
商法はビジネス活動における規定を定める法律の一つです。本記事では、商法の基本的な概念や主な項目、民法や会社法との違いなどについて解説します。
商法とは?
商法とは、商人の商業活動に関する法的な規制や構造を定める一連の法律のことを指します。
第一条 商人の営業、商行為その他商事については、他の法律に特別の定めがあるものを除くほか、この法律の定めるところによる。
2 商事に関し、この法律に定めがない事項については商慣習に従い、商慣習がないときは、民法(明治二十九年法律第八十九号)の定めるところによる。
ここで出てくる「商人」とは、自己の名をもって商行為(営利を目的として行われる活動)することを業とする者、のことを言います(商法4条1項)。この商人には、個人も法人も含まれます。そのため、自営業者やフリーランス、会社も全て商人です。ただし、会社については商法の特別法である会社法が適用されるため、商法が適用されるケースは多くありません。
この記事のポイント
- 商法は企業の商業活動に関する法的規制を定める法律であり、企業経営における透明性や公正な運営を目的とする。
- 商法が一般法であるのに対し、会社法は特別法として企業の運営に直接関与する。
- コンプライアンス遵守のため、商法および会社法の基本的事項を理解することが重要である。
⽬次
商行為とは
一定の業務を反復継続していても、それが「商行為」でなければ、商人とは言えません。商行為とは、営利を目的として行われる活動のことです。
なお、弁護士や司法書士、税理士などの士業や医師などは、自己の名をもって業務を行いますが、業務内容が営利目的ではなく商行為には該当しないため、商人に含まれません。
商法では、商行為に該当するものとして次の3つを規定しています。
- 営業的商行為(商法502条)……営利を目的として反復継続した場合に商行為となるもの
- 付属的商行為(商法503条)……商人が営業活動のために行った場合に商行為となるもの
「絶対的商行為」の例としては、証券上での株の取引や転売目的での売買などが挙げられます。
「営業的商行為」は、1度限りではなく商売として繰り返し行った場合に商行為となる行為です。具体例としては、不動産の賃貸業や運送業、建設業などが挙げられます。
「付属的商行為」の代表例は、商人が商売を始めるための開業準備行為です。その他の行為でも、商人が行うものは付属的商行為と推定されます(商法503条2項)。
商法と民法
民法は商法と並んで重要な私法の一つです。商法が商行為に限定して適用される「特別法」であるのに対し、民法は社会生活、経済生活の取引行為全般に適用される「一般法」の関係にあります。
【商法】 | 【民法】 |
---|---|
特別法 | 一般法 |
一般法と特別法とでは、特別法が優先的に適用されます。冒頭にご紹介した商法1条2項では、商法と民法の適用順位が明確に規定されています。
第一条 商人の営業、商行為その他商事については、他の法律に特別の定めがあるものを除くほか、この法律の定めるところによる。
2 商事に関し、この法律に定めがない事項については商慣習に従い、商慣習がないときは、民法(明治二十九年法律第八十九号)の定めるところによる。
商法1条2項によると、商事については、商法、商慣習、民法の順に適用されるため、民法は商慣習も存在しない場面でのみ適用されます。
以下は、商法と民法とで異なるルールが定められた規定の例です。
規定 | 商法 | 民法 |
---|---|---|
代理の顕名 | 原則として不要(商法504条) | 原則として必要(民法99条,100条) |
代理権の消滅 | 本人の死亡によっては、消滅しない(商法505条) | 本人の死亡によっては、消滅する(民法644 条) |
保証人になった場合 | 債務が商行為である場合等、連帯保証になる(商法511条2項) | 特約がなければ単純保証になる(民法454条) |
例えば「代理の顕名」は、代理行為において代理人が本人のために行うことを示すことです。民法では、取引の相手方に本人の代理人であることを示さなければ、代理行為の効力は本人に帰属しませんが、商行為では、代理行為の度に顕名を求めるのは煩雑であるため、顕名は必要ありません
その他「保証人の区別」について、商法は連帯保証を原則としており、単純保証を原則とする民法とは扱いが異なります。
商法と会社法
会社法は、2005年に制定、2006年に施行された、比較的新しい法律です。会社法の制定以前には、会社法は商法の第2編として、商法の一部を構成していました。
株式会社や合同会社などの会社は、商法が適用される主体である「商人」です。しかし、商法と会社法は、商法が「一般法」で、会社法が「特別法」という関係にあります。
【商法】 | 【会社法】 |
---|---|
一般法 | 特別法 |
そのため、商法と会社法で異なる規定がある場合、会社法の規定が適用されます。
商法には、個人の商人だけでなく会社にも共通して適用される規定もあるため、会社は、商法の規定も理解し、遵守しなくてはなりません。会社について、民法も含めた適用順位は、「会社法>商法>民法」の順になります。
M&Aにおける商法と会社法
M&Aは、基本的に譲渡側(売り手)も譲受側(買い手)も、会社が主体となって行われます。そのため、株式譲渡、株式交換、合併、会社分割など主要なM&Aの手法については、主に会社法が適用されます。
ただし、個人事業主の事業譲渡の場面では、商法が適用される場面もあります。個人事業主同士のM&Aや、会社が個人事業を買収する場面では、商法が適用されるか否かについても配慮が必要です。
商法の構成
制定時の商法は5編で構成されていましたが、手形法や小切手法、会社法の制定を経て、現在は以下の3編で構成されています。
第1編(総則)で商法全体の通則を規定した後、第2編(商行為)で個別的な行為について規定するという形式になっています。これは、民法や会社法など他の多くの法律と同様の形式です。
第1編: 総則(第1条~第500条)
商法全体の一般規定です。商事に関わる基本的な概念や、商人の定義、商行為の一般的なルール、商事登記などが規定されています。
第2編: 商行為(第501条~第683条)
具体的な商事活動や商行為に関する規則を定めています。商事取引でよく用いられる契約形態(売買、貸借、委託など)や手形・小切手の取り扱い、破産手続きなどが含まれます。
第3編: 海商(第684条~第850条)
海上輸送に関連する商事活動に特化しています。船舶に関する契約、海上運送契約、船舶担保権など、海商特有の事項が詳細に規定されています。
これらの編は、商事活動が公正かつ円滑に行われるようにするための法的枠組みを提供しています。
商法の歴史
旧商法として、日本で初めて商法が制定されたのは1890年(明治23年)です。しかし、旧商法は民法との矛盾が多く、商慣習に沿わないものであったため長くは定着せず、1899年(明治32年)に現在の商法が制定されました。
商法の制定前には、商行為のルールは商慣習に従ったものでした。しかし、商慣習は地域によってもばらつきがあるため、国内でルールを統一するために商法が制定されたのです。
商法は、制定当初の5編から1933年に小切手法が2005年に会社法が分離したものの、現在に至るまで120年以上の長い歴史があります。
近年の商法の改正(運送・海商の分野)
2018年5月に、商法のうち運送・海商関連の規定を現代社会の実情に合わせるべく、「商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律」が成立しました(2019年4月1日から施行)。これは制定以来120年ぶりの改正でした。同じタイミングで民法も債権法の改正が行われ、商法の改正は民法と並行して進められました。 ここでは、2018年5月に改正された事項のうち、主な概要を見ていきます。
複合運送に関する規定が新設
複合運送とは、陸路や海路、空路を合わせた運送方法のことで、現代の運送業界では一般的な運送方法です。
改正前には、航路を用いた運送と航路を用いない場合とで適用される条文が異なり、ルールも複雑でした。商法の改正により、複合運送の共通ルールが定まり、顧客にとっても、より安心して運送業者を利用できるようになりました。
運送人の責任が軽減
改正法では、全体的に運送人の責任が従来よりも軽減されています。例えば運送品が滅失、損傷、延着した場合、荷受人が運送人に損害賠償を請求できる期間が、荷物の引渡しの日から1年間、運送人が滅失などの事情を知っていた場合には5年間とされていました。
改正後は、運送人の認識にかかわらず1年間となり、1年以内には法律関係が確定するようになりました(商法585条1項)。
危険物通知義務の明文化
改正法では、運送人に危険物の運送を依頼するときは、運送品の品名や性質など危険物を安全に運送するために必要な情報を通知しなければならない通知義務が明文化されました(商法572条)荷送人が通知義務を怠った場合には、荷受人は運送人に対して損害賠償責任を負います。
運送人の責任を軽減する特約が無効に
旅客の生命・身体が損なわれた場合、運送人の責任を軽減する特約が原則として無効となり、旅客の保護が図られています(商法591条1項)。
近年の会社法の改正
商法のほか、会社法でも2019年12月に大きな改正法が交付されました。2019年改正のメインは、コーポレートガバナンスに関する事項です。
合わせて会社法の主な改正内容についてもご紹介します。
株主総会に関する見直し
・近年のインターネットの普及やデジタル化の状況に対応すべく、電子提供制度を創設(会社法325条の3第1項)。個別に株主総会資料を送付する必要がなくなり、会社サイトに資料を掲載するなどの方法で対応可能となった。
・株主提案権の濫用的な行使に対応すべく、株主が1回の株主総会で提案できる議案数は10件までに制限された(会社法305条4項)。
取締役会に関する見直し
・各取締役に付与する新株予約権の数の上限や権利行使の期間など、具体的な内容までを株主総会の決議で定めることになった。
・新法では、報酬に関する事項は株主総会の権限とすることで、取締役会が不当に報酬を得ることを防止している。
・また、社内における監視・統制によるコーポレートガバナンスを実現するため、監査役設置会社においても社外取締役の設置が義務付けられた。
株式交付制度の導入
・株式交付制度が新設され、他の会社を自社の完全子会社とならない範囲で子会社化することが可能となった。
終わりに
商法は、法人である会社にも適用される法律で、会社経営を行う上では会社法とともに押さえておくべき基本的な法律です。
商法や会社法は、ビジネスシーンで適用される法律で、時代の流れに合わせて改正が行われています。コンプライアンスを遵守し健全な会社運営を続けるには、商法や会社法の改正における基本的事項は確実に押さえる必要があります。
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