スーパー業界のM&Aと今後の戦略
⽬次
- 1. 2023年のスーパーM&A件数は、昨年1年間のM&A件数にほぼ並ぶ
- 2. 「スーパー×スーパー」から「異業種×スーパー」へ
- 3. スーパーの3つの経営戦略
- 3-1. 1.ドミナント戦略によるM&A
- 3-2. 2.製販一体型M&A
- 3-3. 3.ドラックストアとのM&A
- 4. まとめ
- 4-1. 著者
株式会社日本М&Aセンター食品業界専門グループの下平 健正です。
当コラムは日本М&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
今回は下平が「スーパーのM&A動向と今後の戦略」というテーマでお伝えします。
2023年のスーパーM&A件数は、昨年1年間のM&A件数にほぼ並ぶ
下記グラフ(出典:レコフM&Aデータベースより日本M&Aセンター作成)は、1996年から2023年5月12日までのM&A件数(公表ベース)とスーパーの市場規模を表すグラフですが、2015年以降は10件から20件の間を推移するのみであり、全体としては若干減少トレンドにあります。
しかし、2023年4月末時点で、昨年にほぼ並ぶペースでM&Aが行われています。
本コラムでは、これからスーパー業界でM&Aが更に進むであろうことを主張させて頂くとともに、スーパーM&Aの「3つの型」について、事例を紹介しながら解説していきます。
出典:レコフM&Aデータベースより日本M&Aセンター作成
【検索期間】1996年1月1日から2023年5月12日(公表日など)、【業種】スーパー、【形態】合併, 買収, 事業譲渡(営業譲渡)
「スーパー×スーパー」から「異業種×スーパー」へ
約20年前と現在を比較すると、スーパーのM&Aの傾向が変化しています。
2003年から2005年、スーパーのM&Aが最もピークだったこの3年間でのM&Aは、50%以上がスーパー同士のM&Aでした。
この時期は、大手スーパーが行うドミナント戦略によるM&Aがほとんどであり、各地方でスーパーの再編が進んでいました。
一方、2021年から2023年に行われたM&Aのうち、スーパー同士のM&Aは全体の約40%程度にとどまり、「スーパー×食品製造・卸売業」と「スーパー×ドラックストア」の件数が大幅に増加しています。
コンビニエンスストア、ドラックストアなどの競合が犇めく今日、スーパー各社がどう付加価値を発揮していくかを考えた結果だろうと思います。
出典:レコフM&Aデータベースより日本M&Aセンター作成
【業界】スーパー、【形態】合併, 買収, 事業譲渡(営業譲渡)
スーパーの3つの経営戦略
ここからは、スーパー各社が行う経営戦略を、3つの形式に分けて具体例と共に提示していきます。
1.ドミナント戦略によるM&A
スーパーが関わるM&Aの中で、最も多い形態である「ドミナント戦略によるM&A」は、今後も続くと思われます。
少子高齢化による人口減少が進む中、店舗数は前年比で266店舗(全日本スーパーマーケット協会、2023年スーパーマーケット白書より引用)増加しています。
スーパー同士で「胃袋」の奪い合いが激しくなっているため、M&Aによる近隣でのスーパーの提携は、今後も続いていくだろうと思います。
直近では、北海道・東北でM&Aを数多く実行してきた「アークスグループ」が、北海道内での優位性をより加速させるため、人口約20,000人の中標津町への新規出店を実行しました。
中標津町には、アークスグループの株式会社福原が既に出店済みですが、コープやセイコーマート、ツルハドラックなど、競合が犇めく中標津町での優位性を保つため出店したものと思われます。
また、アークスと資本業務提携を結ぶリテールパートナーズも、2021年から2024年までの3年間で20店舗出店することを掲げています。
今後は、少子高齢化に伴い胃袋の数が減っていき、かつ、既存店舗に関しては売場面積も限られているため、新たな販売経路を求めた出店や、ドミナント戦略によるM&Aは、今後もスーパー各社の経営戦略の軸になるだろうと思います。
2.製販一体型M&A
先ほど円グラフで示した通り、「スーパー×異業種」のM&A件数が増加しています。
スーパーにあって、コンビニ・ドラックストアにない特徴の1つは、「インストア加工」です。
顧客が商品を選ぶ棚の奥で、食品の加工や包装を行うことで、食品を手に取るまでの過程をよりリアルに感じてもらうというものです。
この強みを生かしつつ、「地元の製造会社」と「地元スーパー」が一体となって、地域での存在感を発揮しようとする事例が増えています。
岡山県でスーパーを展開する「天満屋ストア」は、同じ岡山県で弁当製造を行う三好野本店を買収しました。
食料品小売業と食品製造業が一体となって、よりスーパーの付加価値を上げていこうとする動きの具体例であります。
また、新潟県で「チャレンジャー」の商号でスーパーを経営するオーシャンシステムは、群馬県にある惣菜の宅配サービス業を行う会社を買収しました。
コロナをきっかけに中食需要が強まる中、スーパーに並ぶ商品も宅配サービスに乗せて販売することで、購買機会の獲得に努めた結果だろうと思います。
出典:各社公表資料より日本M&Aセンター作成
3.ドラックストアとのM&A
コスモス薬品、クスリのアオキホールディングス、Genky DrugStoresなど、ドラッグストアの品揃えに加えて、加工食品や酒類・飲料なども扱う「フード&ドラッグ」の動きが活発になっています。
少子高齢化に伴い日本の胃袋の数は変わらない一方で、今後は客単価を上げていく必要があると考えると、スーパーとドラックストアが提携することで、顧客のニーズに答えていくことが可能になるため、今後はより「フード&ドラッグ」の動きは加速していくと思われます。
クスリのアオキホールディングスに関しては、本社がある石川県を中心に合計10社程度の買収を実施しており、他社に関しても今後このような動きが出てくるだろうと思います。
出典:レコフM&Aデータベースより日本M&Aセンター作成
【業界】スーパー、【形態】合併, 買収, 事業譲渡(営業譲渡)
まとめ
スーパーにおいて、M&Aの形が変化してきたこと、それに伴う3つの型の解説を事例と共に説明しました。
ドラックストア、コンビニなど競合が犇めく今日、いかにスーパーがポジショニングを取っていくかが重要になります。ぜひM&Aをご活用頂き、スーパー業界がより発展することを願っています。