2023年上半期食品業界M&A動向
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当コラムは日本М&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
今回は高橋空が「2023年上半期食品業界M&A動向」についてお伝えします。
売上維持も利益率減、成長の鍵はМ&A
2023年上半期は新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い、いつかの日常が戻ってきました。
ただ一方で、鳥インフルエンザの拡大による、鶏卵不足の深刻化や、長引く原材料とエネルギー高騰など、食品業界にとっては、まだまだ難しい局面が続いています。
また、2023年10月からスタートするインボイス制度や、物流業務が伴う企業においては、2024年4月に適用される働き方改革関連法(自動車運転業務)への対応など、目先の課題対策に加えて、将来的に対策を講じなければいけない法的問題も抱えています。
このような環境下においては、同じ売上高を維持出来たとしても利益率が下がるといった構造に陥ってしまいやすくなります。
2021年版「中小企業白書」によると、М&A実施企業とМ&A非実施企業で以下のような成長率の違いがあると発表をしています。
出展:2021年版「中小企業白書」コラム2-3-4:M&A実施有無別のパフォーマンス比較
注目して頂きたいのが、営業利益成長率の違いです。
М&Aの実施の有無に関わらず、売上高は成長するものの、営業利益はМ&A未実施企業はマイナス成長の傾向があるとしています。
もはやオーガニックでの成長だけでは、外部環境の変化に伴うコストアップには耐えきれない構造になりつつあるという見方が出来るのではないでしょうか。
そういった中、上半期食品業界のМ&Aは前年の上半期と比較してほぼ同水準の買収・事業譲渡が行われました。
カテゴリー別にみると、
- 食品スーパーは増加外食
- 食品卸は横ばい
- 食品製造は減少
上記といった傾向の違いが見受けられます。
いくつか上半期において、盛んにМ&Aが行われた業界の事例を紹介いたします。
競争激化と再編進む食品スーパー業界
食品スーパー業界における、上位10社の売上高合算数値の市場に対するシェアは80%を超えていると推測され、業界再編が後期に差し掛かっています。
また、隣接業種であるドラッグストア業界において、クスリのアオキが中心となり積極的な食品スーパーのМ&Aを行っており、2023年上半期には、新潟県の食品スーパーであるサンエーをクスリのアオキが譲受けました。業界の垣根を超えた競争激化が進んでいます。
そういった中、2023年上半期の食品スーパー業界において、大型のМ&Aが公表されました。
イオン、いなげや、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスの3社は、「関東における1兆円のSM構想」実現のための経営統合に向けた基本合意書を締結しました。
3社は首都圏地域でスピード感をもって顧客のニーズに応え続け、地域社会と共生し、ともに成長、地域の持続可能な未来を築き、スケールメリットを活かした新たなビジネスモデルへの進化を進めるとしています。
また、業務用スーパー「肉のハナマサ」などを運営するJMホールディングスは、食品スーパー運営のスーパーみらべるや、米穀小売業を営む柳田商店とのМ&Aを行い、展開エリアにおける店舗網の拡充、商品調達力の強化を推し進めています。
更に、地方における同業同士のМ&Aも盛んに行われています。
福島県のリオン・ドールコーポレーションと栃木県のヤオハンとのМ&Aや、九州を拠点とするリテールパートナーズ子会社である山口県の丸久と宮﨑県のハツトリーとのМ&A等、同一商圏内におけるシェア拡大・スケールメリットの創出を意図した合従連衡的なМ&Aが成立していきました。
食品スーパー業界は業界再編が終盤戦へと向かっています。自社のポジショニングを意識することが今後益々重要視されてくるでしょう。
PEファンドによる関与が増加する菓子業界
菓子業界においては、観光地ビジネスの企業は苦戦を強いられているものの、巣ごもり需要の増加に伴い、好業績を記録した企業が多く見受けられました。
消費者のニーズの変化に伴い、これまで以上に菓子業界が注目されやすくなった中、2023年上半期の菓子業界においてはPEファンドが関与したМ&Aが目立ちました。
愛知県のロピアによる東京都のCOMMEPARIS(コムパリ)の譲受事例
ティーキャピタルパートナーズ(東京都)が運営するファンドの投資先で、愛知県でチルドスイーツ企画・開発・製造のロピアは、東京でカヌレなど洋菓子商品企画・開発・製造・販売のコムパリとのМ&Aに踏み切りました。
コムパリは2015年に設立した会社であり、ギフト向け高価格帯製品による催事出店を本格的に進めており、大手百貨店との取引実績が豊富です。
ロピアは2016年からティーキャピタルパートナーズのもと経営を行っており、コンビニエンスストアと食品スーパー向けに様々なデザートを製造することを強みとしています。
異なる販路・価格帯の商品を有する2社間で、主に製造・商品開発・ECなどのノウハウ共有を進めるとしています。
大手菓子メーカーのブルボン(新潟県)によるマルキンの譲受事例
ブルボンは投資ファンドであるキャス・キャピタル(東京都)と共同で新会社を設立し、バウムクーヘン、プチケーキなど製造・販売する愛知県のマルキンとのМ&Aを行いました。
マルキンは1964年に設立。売上高約50億円の流通・小売業向けバウムクーヘンの取扱量でトップクラスを誇る会社です。ブルボンはマルキンと製品戦略やグループ経営の展開を加速させていきます。
まだまだ業界再編が進んでいない業界ではありますが、PEファンドが絡む、中堅大手菓子企業のグループ化の促進により、今後も中長期的に再編が進んでいくと想定されます。
コロナからの復調見せる外食業界
2021年はコロナの影響で大きくМ&Aの件数が減少した外食業界でありましたが、2022年のМ&A件数は前年の約20%増、2023年上半期においても、前年同期比と同数程度のМ&Aが発生しており、外食業界のМ&Aは復調の兆しを見せています。
そんな中でも積極的なМ&Aの動きを見せているのでが、GYRO HOLDINGSです。
GYRO HOLDINGSは、2019年にsubLimeとカフェ・カンパニーが経営統合して発足した会社であり、祖業の居酒屋を中心に90ブランド以上のレストランを展開しています。
日本国内に加え、アジアを中心とした海外展開をも通じた成長戦略を進め、日本を代表する外食企業のポジションを確立するために、2021年に香港の資産運用会社のパシフィック・アライアンス・グループ(PAG)とのМ&Aを行いました。
サブライム時代からМ&Aで規模を拡大させている会社ですが、PAGとのМ&A以降も積極的なМ&Aを行っています。
2022年には、黒毛和牛のA4ランク以上のメス牛を提供している焼肉専門店「牛8(USHIHACHI)」事業をパッションアンドクリエイトから譲受けています。
2023年上半期においては、「yaesu海老talianバル ルクア大阪梅田店」「かきカツオLINKS UMEDA」「焼はまぐりstandLINKS UMEDA」「幸の鳥」の飲食事業を縁尽から譲受け、ワインビュッフェ「ESOLA」事業をヴィクセスから譲受けています。
今後も事業基盤の強化と商圏エリアの拡大に向けたМ&Aを積極的に行っていくと想定されます。
また、コロナ禍では減退していた大手外食チェーンやPEファンドによるМ&Aも復調傾向にあります。
2023年上半期においては、ココイチを展開する壱番屋による関西の有名ラーメン店を運営する竹井の譲受けや、あみやき亭による神奈川のホルモン焼きチェーンのニュールックの譲受け、PEファンドであるエンデバー・ユナイテッドによる、兵庫県の中堅外食チェーンであるバサラダイニングの譲受けなどが行われ、下半期もこういった企業によるМ&Aが勢いを増すのではないかと考えられます。
激動の数年間を終えた外食業界が食品業界のМ&Aを牽引する日は近いでしょう。
いかがでしたでしょうか?
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