食品ECのM&A事例とトレンド

勝又 俊

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勝又俊

日本M&Aセンター業種特化2部/食品業界専門グループ

業界別M&A
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株式会社日本М&Aセンター食品業界専門グループの勝又 俊です。
当コラムは日本М&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
今回は勝又が「食品EC事業のM&A事例とトレンド」というテーマでお伝えします。

食品EC事業の定義

まず初めにEC業界の「EC(electronic commerce)」の定義についてご説明いたします。ECとは日本語で直訳をすると、電子商取引を意味します。
“電子商取引”は経済産業省の公開している報告書では、ECの定義を「インターネットを利用して、受発注がコンピュータネットワークシステム上で行われること」としています。
本記事においては、上記定義のもと、食品業界に特化してEC事業、また同業界のM&Aの現状を記述していきます。

食品EC事業の市場と現状

2023年8月に、経済産業省より「令和4年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」が実施され、日本の電子商取引市場の実態等についての調査結果が発表されました。
調査結果によると、令和4年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、22.7兆円(前年令和3年は20.7兆円、前々年令和2年は19.3兆円であった。前年比9.91%増)に拡大しているということになります。
重ねて、令和4年の日本国内のBtoB-EC(企業間電子商取引)市場規模は420.2兆円(前年令和3年372.7兆円、前々年令和2年334.9兆円であった。前年比12.8%増)に増加しました。数字ベースでみると、ToC、ToB共に成長率が高く、右肩上がりの業界であることが理解できます。

【BtoB-EC 市場規模の推移】


経済産業省「令和4年度 電子商取引に関する市場調査」を引用・参照

また、物販系分野のBtoC-EC市場規模の内訳をみると、「食品、飲料、酒類」(2兆7,505億円)、「生活家電・AV機器・PC・周辺機器等」(2兆5,528億円)、「衣類・服装雑貨等」(2兆5,499億円)、「生活雑貨、家具、インテリア」(2兆3,541億円)と、実は市場全体をみても『“食品”EC事業』の市場規模は大きく、今後も業界として存在感を出していく領域であると考えられます。

【BtoC-EC 市場規模の推移】


経済産業省「令和4年度 電子商取引に関する市場調査」を引用・参照

2022年の法人企業統計データを参考に、改めて“食品”にフォーカスをしてみていきます。日本国内における「食料品製造業」の総売上高は2020年41兆 8,353億円、2021年40兆3,496億円、2022年41兆9,226億円であります。左記の売上高(前年比3.8%増)の増加及び EC化率の伸びに伴い、2022年の食料品製造業のBtoB-EC市場規模は、29兆6,443億円(前年比9.4% 増)となりました。

2022年は消費者の外出機会が増加し、外食やホテル需要が増加した結果、業務用食品市場規模等が拡大し、当カテゴリーの商取引市場規模が増加したと考えられます。
*経済産業省「令和4年度 電子商取引に関する市場調査」を引用・参照

周知のとおり、現在の日本国内での食品業界においては、「人口減少による胃袋減少」や「健康志向による食品選定基準の上昇、酒類消費量の減少」など、将来的に業界を取り囲む課題は多くあります。
それにより、従前のルート営業や単一商材の販売での現状維持は衰退と考えられます。

今後、より一層発展する企業になるためには、狭いターゲット層へのアプローチから、多様な顧客層、年齢層に対してもアプローチしていける競争力をつける必要があると推測されます。
そういった状況下、EC事業への参入、展開が企業の存続と発展のカギになると想定されます。

食品EC事業のM&A事例

本項では、食品EC業界のM&Aについて考察します。
日本M&Aセンターでもお手伝いさせていただいた同業界のM&Aは数多くあります。本コラムでは具体的な社名は控えますが、なぜM&Aしたのかという観点から、同業界のM&A背景を抽出していきます。

飲食事業(譲受企業)×食品EC販売(譲渡企業)

通販事業への“新規参入“を。譲渡企業の“ノウハウ”獲得のためのM&A

譲受企業は主に飲食店を複数店舗展開している企業でした。いわゆる店舗運営には長けておりましたが、“通販”領域への進出も将来的な会社のために必要であると強く考えておりました。譲渡企業の扱っている商材は、譲受企業にとって新規取り扱いとなりましたが、商材のクロスセル(同じ顧客に異なる商材を展開する)の意味で意義があると考え本件検討するに至りました。また、譲渡企業の長年のECノウハウ、顧客リスト等メリットも大きくM&Aが遂行されました。

酒造、EC事業(譲受企業)×酒造、EC販売(譲渡企業)

メーカー同士かつ“通販事業同士”で商材の拡大を。互いの“販路”共有のためのM&A

譲渡企業は実質後継者不在であり、会社の存続のためM&Aを検討し始めました。酒造事業を営んでおり同時に、EC販売にも注力している事業体でした。譲受企業は、譲渡企業とは異なる酒類の製造を行っており、新規商材の獲得、販路の拡大を求め本件検討するに至りました。互いのエリア、商材、ECサイトターゲット層が異なることから相互補完が可能であり、明確なシナジーが想定されたため本件実行されました。

水産加工EC事業(譲受企業)×惣菜製造EC販売(譲渡企業)

“新規顧客層の獲得”と“欠点の補完”を目指す。相互成長のためのM&A

譲渡企業は、単独での売上の伸び悩みに苦しみ、ヒト・モノ・金・情報を獲得するための成長戦略としてM&Aを検討するに至りました。一方、譲受企業は、水産加工品のEC販売を主に行っていましたが、会社としてECの中で食の総合ショップを目指しておりました。それゆえ新規商材に関心があり、かつ付随する新規顧客層の獲得を企図し本件検討するに至りました。水産加工品の性質上、季節によって売上にばらつきがあることが課題であった譲受企業にとって、年中安定した売上の惣菜という商材は魅力に移り、M&Aが実行されました。

同業界におけるM&Aのご提案

これまで食品EC業界の市場とM&Aについて様々述べさせていただきました。
もちろん、M&Aではなく独力で商材を増やす、独力でEC販売を始めるという手段も一つあります。

ただし食品EC 業界において、独力で商材を増やす、独力でEC販売を始めるには課題があります。
例えば具体的な課題の1つとしては、物流面が考えられます。物流面において、EC対応を強化していくためには、多品種小ロットの輸送拡大をしていくことが一般的でありますが、その結果トラック積載効率が低下し、物流コストが高騰しやすい点が挙げられます。徹底した管理を行う必要があり、新規参入した多くの企業にとってその管理ノウハウを構築していくことは、容易なものではありません。。

重ねてEC事業においては、市場の成長性に合わせて参入している企業が多く、商材の差別化が難しい業界のため、新規参入で成長をおさめることが難しい業界であると言えます。
マーケティングに多額のコストをかけることが出来る大手企業は、インフルエンサーなど様々な広告手法を活用し、初動から売上を立てることが出来るケースがあります。しかしながら中小企業においては、投下できるマーケティングコストが限定的なため、EC事業の立ち上げ・拡大に時間がかかってしまうケースも多々あります。

そういったノウハウ構築の難易度の高さ・費用・時間等のリスクを考慮すると、“ノウハウ獲得”のため、あるいは“新商材獲得”のためM&Aを考えてみるのは有効と考えられます。

最後に、小規模食品EC事業者のM&Aについて述べさせていただきます。
地方の特産物や魅力的な商品の拡販においてECモールは大きな役割を果たしていますが、そのECモール内において、年商1億円未満の小規模食品EC事業者が圧倒的に多いのが現状です。
それゆえ、今後の食品EC業界の発展のためには、そういった小規模事業者の発展が必要不可欠です。しかしながら、現状をみてみるとヒト・もの・金・情報の観点で課題を感じ、思うように事業を拡大できない企業様もあります。

そのため、小規模食品EC事業者がヒト・もの・金・情報を獲得し成長するための経営戦略の一つとして、BATON等のオンラインマッチングサイトを活用したM&Aを選択肢に入れる企業様が増加しています。
これまでの環境下であれば、事業規模が一定規模になってからでないと、М&A仲介会社等へ依頼が費用面において難しかった側面がありましたが、 BATONZのようなオンラインマッチングサイトを活用することによって、小規模事業者でも気軽にМ&Aを選択することが可能となりました。

小規模食品EC事業者においては、0-1で良質な商品を“作る” ことに長けている事業者が多く見受けられますが、その商品を“広げる”ことに課題を感じている事業者が多くいらっしゃるように感じます。
BATONZのような気軽にМ&Aを活用できる仕組みが整うことで、プロダクトを“作る” プレイヤーと“広げる” プレイヤーの役割分担が促進され食品EC業界全体が更に活性化していくのではないかと考えています。

食品を取り扱いECも活用されている経営者の皆さま、業界全体の動き出しに合わせ一度、様々な角度からM&Aによる会社の発展可能性を模索されてみてはいかがでしょうか。

今後も食品業界専門チームから最新の業界情報をお届けさせて頂きます。
食品業界のM&Aへのご関心、ご質問、ご相談などございましたら、下記にお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。
買収のための譲渡案件のご紹介や、株式譲渡の無料相談を行います。
また、上場に向けた無料相談も行っております。お気軽にご相談ください。

著者

勝又 俊

勝又かつまた しゅん

日本M&Aセンター業種特化2部/食品業界専門グループ

1998年千葉県県生まれ。早稲田大学文化構想学部を卒業後、新卒で日本M&Aセンターに入社。外食・食品業界専門チームにて、企業の存続と発展に向けたМ&A支援に携わる。

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