【2024年】スーパーマーケット業界の課題解決に向けたM&A戦略
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株式会社日本М&Aセンター食品業界専門グループの下平 健正です。
当コラムは日本М&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
今回は下平が「【2024年】スーパーマーケット業界の課題解決に向けたM&A戦略」というテーマでお伝えします。
スーパーマーケット業界が抱える様々な課題
先日、2023年の日本のGDPがドイツに抜かれ世界4位に転落する見通しになるとのニュースが各報道機関から発表されました。
国のGDPは、国際社会での発言力にも影響するものであり、世界での日本の立ち位置がまた1つ低下するとも言えます。人口減少が進む日本において、労働生産性を上げていくことが喫緊の課題です。
スーパーマーケット業界においても、人口減少に伴う人手不足や需要減少等によって、経営が難しい時代であるという話をよく耳にします。
人口減少に伴って需要が減り、企業間の過当競争が起きていると言っても過言ではない今日において、生産性を向上させ、どのように付加価値の高いものを販売できるか、その上で他社とどう差別化を図っていくか、はたまた、エネルギー価格上昇による固定費の高騰、トラックドライバーの労働時間が制限され物流の停滞が懸念されている2024年問題、コロナウイルス感染拡大が落ち着いたことによる巣ごもり需要の落ち着きなど、考えるべき課題は様々です。
我々の食生活を支える上で重要な役割を担うスーパーマーケット業界は、本格的に変革期に突入したといっても過言ではないと考えます。
競合が犇めくスーパーマーケット業界の生き残り戦略、リポジショニング
かつてスーパーマーケットは「青で引き、赤で稼ぐ」と言われました。
「【青=青果】の鮮度や価格で集客し、【赤=精肉】で粗利益を取る」という戦略です。
しかし、スーパーマーケットでの食料雑貨類や日用品の販売がコモディティ化した今、スーパーマーケットに求める人々の需要は変化しているものと思われます。
スーパーマーケット業界において、人々の需要を理解した上で他社とどう差別化し、リポジショニングをしていけばいいのかについて、2023年版スーパーマーケット白書によると、*リポジショニングのために必要な「3つの柱」*と、商品カテゴリー別に購入する「タイミング」と「理由」が分けられるという事実が記載されています。
※2023年版スーパーマーケット白書より、日本M&Aセンター作成
スーパーマーケット白書によると、上記グラフの③に位置する商品カテゴリーが*「集客の柱」*となります。
かつての日本でいうならば「青で引く」に該当する部分です。このカテゴリーに属する商品は、顧客がおおよその参照価格を認識していて、コストパフォーマンスが高いと感じた時に買う傾向が多いカテゴリーです。
また、①、②に位置する商品カテゴリーが*「利益の柱」*となります。
①に位置する商品カテゴリーについては、いつも買う商品が決まっているものや、商品にこだわりがなく店頭で買う商品を決定するようなものと定義されています。
つまり、精緻な価格戦略に基づき、確実に買ってもらうことで利益を創出できるカテゴリーです。
②に位置する商品カテゴリーについては、CMや店頭での商品説明など、メニュー提案が購買意欲を大きく左右するとされるカテゴリーであり、その分、手が伸びやすい商品カテゴリーともいえます。
さらに、④に位置する商品カテゴリーについては*「客単価の柱」*となり、心が動きやすく非計画購買が発生しやすいため、魅力的な見せ方を行うことで客単価の向上につなげることが出来る商品カテゴリーです。
このように、スーパーマーケットの今後の戦略として「青で引き、赤で稼ぐ」というような一辺倒の戦略から、大量の購買履歴を基にした緻密な分析を実施し、商品カテゴリー別に販売していく戦略に移行し、かつ他社との差別化をしていく必要があるのではないでしょうか。
PB(プライベートブランド)商品の台頭と、それに伴うM&A
近頃、物価の高騰に対抗する手段として、スーパーマーケットで販売されるPB商品が注目されています。
PB(プライベートブランド)商品とは、スーパーマーケットなどの小売業者が、独自で企画や開発をして販売をする商品のことです。
セブンアンドアイ・ホールディングスの「セブンプレミアム」や、イオンの「トップバリュ」などが挙げられます。
卸売業者へ支払う手数料や広告費等がかからないことや、小売店独自の機能を用いて大量生産をしたり、パッケージをシンプルにしたりすることでコストが抑えられるため、安い価格での提供や高い利益率の確保が可能になるものです。
日本経済新聞によると、加工食品や調味料、清涼飲料水、アルコール飲料などで、スーパーの食品販売額に占める食品PBの割合は、2023年に16.8%と、統計がある2012年以降で最高の割合となりました。
また、スーパーマーケット年次統計調査によると、PB商品を取り扱っていると答えたスーパーの割合は、2023年に80.5%と、過去最高の割合となりました。
※スーパーマーケット年次統計調査より、日本M&Aセンターが作成
PB(プライベートブランド)商品は、コストを抑えることだけにメリットがあるというわけではなく、企画・製造・販売を一貫して1社にて行うことが可能になるため、素早く顧客ニーズに対応でき、商品の質の向上やブランド価値の向上に繋がると期待されています。
さらに昨年行われた、M&A戦略によってPB商品の普及が期待できる事例をご紹介します。「イオン株式会社」が「株式会社いなげや」の株式を公開買付により取得した事例です。
株式会社いなげやは、関東地方を中心に約140店舗を展開するスーパーマーケットで、仕入れる商品をある程度品質の高い商品に限定し、他社と差別化を図る戦略で経営していると言われてきました。
そんないなげやが、本件を通して、トップバリュの積極的な販売に踏み出すという事は、これまでこだわってきた仕入商品の割合を減らしてトップバリュに移行するという事であり、従来の差別化戦略から大きく舵を切ったことを意味する事例とも言えるのではないでしょうか。
このように、これまでの差別化戦略から大きく舵を切るためのきっかけのような意味を持つM&Aの数は今後も増加すると考えますし、PB商品も今後さらに普及するものと思われます。
2023年スーパーマーケット業界のM&A戦略活用事例
2023年スーパーマーケット業界の、経営権の取得が伴うM&A件数は、イオン×いなげやの事例を筆頭に、2023年12月28日時点で約20件となりました。
昨年1年間のM&A件数は約10件ですので、約2倍の件数のM&Aが行われたことになります。
また2024年に入り、クスリのアオキホールディングスが2件のスーパーマーケットを買収した旨のリリースをするなど、引き続きスーパーマーケット業界再編の流れは継続しているものと思われます。
出典:レコフM&Aデータベースより日本M&Aセンター作成(1996年1月1日から2023年12月28日、データ種別「M&A」、業界「スーパー」、形態「合併、買収、事業譲渡(営業譲渡)」)
ここで、2023年に行われたスーパーマーケット業界の注目M&A事例をご紹介します。
2023年スーパーマーケット業界注目M&A事例
- 【スーパー×スーパー】*JMホールディングス×スーパーみらべる *
- 【スーパー×異業種】JMホールディングス×柳田商店
JMホールディングスは、関東地方を中心に「ジャパンミート生鮮館」「肉のハナマサ」など、食品スーパー約100店舗(2024年1月24日現在)を展開するスーパーマーケットチェーンです。
スーパーみらべるは、東京都の中でも北部を中心に約15店舗を展開するスーパーマーケットです。
また柳田商店は、茨城県に本社を置く米麦卸売業です。
JMホールディングスにとっては、東京都北部における販売基盤の強化や、商品の品質・価格・品揃えの強化、安定調達を想定し資本提携を実施しました。
また、スーパーみらべるにとっては、JMホールディングスがこれまで培ってきたスーパーマーケットの経営ノウハウの共有を受けることで、より生産性の高いスーパーマーケット経営に繋がり、また柳田商店については、JMホールディングスとの強固な関係構築により、商品の安定供給が期待できる事例です。
- 【スーパー×異業種】クスリのアオキホールディングス×サンエー(食品スーパー事業)
サンエーは、新潟県糸魚川市内でスーパー2店舗を経営する会社です。
クスリのアオキホールディングスは石川県に本社を置き、サンエーが持つ生鮮食品の調達力と、クスリのアオホールディングスがもつ日用品・調剤薬局の販売力が結びつくことで、ドラッグストアにて多様な買い物の実現が可能となり、新潟県における事業基盤の強化に繋がる事例です。
まとめ
スーパーマーケット業界が抱える課題とそれに対する解決策、それらに対してM&Aがどのように活用されているかについて、事例を基に解説を致しました。
いずれにせよ、限られた自社資源をどのように配分し投資していくかについて考えていくことが重要だと考えます。
例えば、PB商品の企画など1から立ち上げるには、それ相応にコストがかかります。店舗での販売員のみならず、商品開発力や製造経験のある人材の採用、自社にて製造するための設備投資や工場を建設するための立地の確保とそれに伴う費用、また、自社ブランドとして人々の頭に定着し、投資回収が可能になるまでの時間的なコストなど、まさに人・モノ・金が大きく動く一大プロジェクトであることは、容易に想像頂けるかと思います。
また、商品カテゴリー別に販売戦略を考えていく際にも、大量の購買履歴を基にした緻密な分析を実施する必要があり、更に地方スーパーにおいては、日々変化する地域の嗜好性を理解し、【集客・利益・客単価】の3つの柱を検討する必要があります。そこに1から投資をするよりは、既に購買履歴などのリソースを保有する企業とグループになることで、レバレッジの効いた経営体制の構築が可能になると考えます。
スーパーマーケット業界の変革期と言っても過言ではない今日において、いかに効率よく生産性を向上させられるかを考える必要があるのではないでしょうか。
近頃、能登半島地震により、多くの方々が苦しい生活を余儀なくされています。そんな中、関西地方の某スーパーマーケットでは、「石川県応援フェア」と題して、石川県の食品を積極的に販売することで被災地支援を行っていたり、別のスーパーでは、車を使った移動スーパーにて無償で食料品を配布したりと、スーパーマーケットならではの方法で支援を続けているというニュースを多く耳にします。
地震による被害、日本GDPの低下など、決していいニュースばかりではありませんが、このような将来予測が困難な時代だからこそ、スーパーマーケットが人々の笑顔と明日へのエネルギーを生み出す食のインフラ的企業であることを再確認できたのではないでしょうか。一方で、人手不足や人口減少による需要減少、2024年問題などにより、食のインフラ的企業としての基盤が損なわれる可能性があると考えます。
今後も「日本の食卓」を守るためにも、スーパーマーケット各社が資本を共にし、経営ノウハウの共有と差別化戦略を考えていくことで、食のインフラとしての基盤を維持することが可能になるのではないでしょうか?
ぜひ今年はM&A戦略を考える1年にして頂ければと思います。
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