2023年の外食業界の振り返りと2024年の展望

岡田 享久

日本M&Aセンター業種特化2部/食品業界専門グループ

業界別M&A
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日本М&Aセンター食品業界支援グループの岡田享久です。
当コラムは日本М&Aセンターの食品専門チームのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
今回は「2023年の外食業界の振り返りと2024年の展望」について解説します。

2023年の外食業界振り返り

「コロナ禍で日本人の食習慣が変わった」と言われるように、外食大手から中堅企業まで軒並み影響を受けた近年の日本の外食産業。インバウンドの復活による日本食人気の影響もあり、復活の兆しを見せる中、23年度の振り返りと今後について触れていきます。

2023年外食業界:業態別の市場動向

まず昨年末の市場環境から見ていきます。
一般社団法人日本フードサービス協会より、23年の12月期の外食産業市場動向調査が発表されました。

新型コロナウイルス感染症に伴うまん延防止等重点措置が全面解除されて 以降始めての年末年始を迎え、外食業界における売上高の回復度合いは業種ごとに明暗が分かれました

ファストフード業界では2019年度と比較しても売上高が120%を超えています。
一方、宴会需要の減った居酒屋・パブ業態では前年度からは売上高を約118%伸ばしていますが、19年度比で見るとまだ70%にも満たない水準となりました。

一番の書入れ時である12月の忘年会シーズンでも居酒屋・パブ業態では、未だ厳しい環境を強いられています。


出典: 一般社団法人日本フードサービス協会の外食産業市場動向より日本M&Aセンター作成

令和6年1月25日に発表された一般社団法人日本フードサービス協会の外食産業市場動向調査の年間結果報告によりますと2023年全体の傾向としては、外食全体の売上高が対19年比で107.7%となっています。
要因として、コロナ禍から抑制された人流が外食へ向かったという特徴に加えて、下半期はインバウンド需要も復活したことも業界全体の回復に貢献したといえます。
観光庁が1月17日に発表した23年の訪日外国人消費額は5兆2923億円と過去最高と、外的要因もプラスに作用された1年でした。

過去最高最高の倒産件数

外食業界全体の業績は右肩上がりの傾向があるものの、2023年は過去最高の倒産件数を記録しています。

東京商工リサーチ「2023年(1-10月)飲食業の倒産動向調査」によると飲食業の倒産件数は、2023年10月までで727件(前年同期比76.0%増)と、すでに2022年の522件とコロナ禍真っ只中の2021年の648件の年間件数を上回っています。

コロナ関連倒産は462件(前年同期比86.2%増)で、飲食業倒産に占める構成比は63.5%でした。
また、倒産企業の85.2%が負債額1億円未満の企業だったことから、新型コロナウイルスにより市場の変化は、中小飲食業に強い影響を与えたといえるでしょう。

外食業界において、『倒産件数が多い≒新規で出店できる立地が増える』という側面もあります。
大手チェーンも出店を加速させる中、2024年度はこの空白を埋める企業の争いが活発化していくことが想定されます。

外食企業の動向・大手各社の決算状況

続いて、外食大手企業の決算発表を見てみます。
時期の違いはありますが、2023年11月までに四半期ベースで決算発表をしている外食上場企業売上高上位11社(参考:各社直近決算)全てが、営業利益を黒字で着地しています。

営業利益率は業界最大手ゼンショーホールディングス、ハンバーガー需要が好調な日本マクドナルド、うどん最大手トリドールなど11社中5社が営業利益率が5%を超えるまで回復しています。

業界最大手で“すき家”や“はま寿司”を運営するゼンショーホールディングスでは、中間報告書によると24年3月の業績見通しを9600億円(前年比約23.1%増)、営業利益510億円(前年度134.7%増)を見込んでいます。

特になか卯や、ロッテリヤ、かつ庵といったファストフード部門で+144店舗とコロナ禍でも強さを見せた部門での出店を加速させています。

日本マクドナルドでは年間20店舗前後の純増店舗数に加え、コロナ禍で減ったイートイン客をドライブスルーやデリバリーによる売上増でカバーしました。
モバイルアプリでオーダーなどデジタル面でも素早い対応を見せました。

クリエイト・レストランツ・ホールディングスでは、立地環境に見合った業態の組み合わせによるマルチロケーション戦略や積極的なM&Aを通じて成長性のある業態を同社の成長に取り込む「グループ連邦経営」を特徴に成長してきた企業です。

コロナ禍でもJTから中食需要を取り込むためにベーカリー事業のサンジェルマンを譲り受けており、アフターコロナにおける市場環境を見据えた、素早い戦略の打ち出しと、効果的な出店・M&A戦略がコロナ後にも好業績を続けた要因であるようです。


出典元:各企業有価証券報告書より日本M&Aセンター作成

2023年における外食業界のМ&A事例

23年度の外食業界で起こった代表的なM&A事例を3つ紹介します。

【譲渡企業】MUGEN×【譲受企業】マルハン

マルハンでは人生にヨロコビをという経営理念に基づいて、パチンコホール「マルハン」を中心に、ボウリング場、アミューズメント、映画館などのレジャー施設を運営しています。
北・東・西の社内3カンパニー制を取り、2023 年は売上高 1 兆 3,196 億円を超すアミューズメント業界のリーディングカンパニーとしての地位を確立しています。

MUGENは「なかめのてっぺん」や高級飲食業態「鮨おにかい」など国内23店舗、国外3店舗を展開しています。業界でも注目される教育手法や開発アイデアを持ち、理念経営により従業員の高いエンゲージメントを引き出す企業です。

今回のМ&Aにおいては、マルハンが、観光事業展開に向けて2022年に設立した子会社 『 株式会社KITAI resort 』にて、MUGENの株式を80%譲り受けを行い、株式取得後も、「 代表取締役社長:内山 正宏 氏 」並びに「 取締役副社長:前原 妙子氏 」による強いリーダーシップのもと現行の経営体制を継続すると発表されております。

KITAI resortが進める富裕層向け観光事業に必要不可欠な圧倒的食体験に関して、MUGENの持つ人材・教育・流通・アイデアなど各種リソースを最大限に発揮し、双方にとってwin-winとなることを狙ったものとなります。

マクドナルドのレストランビジネスの考え方にもあるように、Q(メニューの品質 Quality )S(接客の品質 Service)C(お店の清潔さCleanliness)に加えて、V(体験価値 Value)の4つの要素が飲食ビジネスにおいて重要であり、特に V(体験価値 Value)による差別化が今後はより求められるように感じます。

【譲渡企業】竹井×【譲受企業】壱番屋

壱番屋ではカレーハウスCoCo壱番屋を運営し、本件以外にも成吉思汗の大黒屋、博多もつ鍋前田屋もM&Aで取得しております。
「食のエンターテイメント企業」を目指しM&Aによるグループ売上を2030年まで200億増やすという中期経営計画を発表しています。

竹井は濃厚豚骨魚介つけ麺を関西に広めたとされる「麺屋たけ井」を京都・大阪で8店舗経営しています。
創業者の竹井光一氏は、ゼロから店舗を立ち上げ、理想の味を追い求めて全国からファンが訪れるほどの有名店に育て上げました。

今回のМ&Aを通じて、「麺屋たけ井」のブランドは関西から全国へと展開領域を拡大していくことが想定されます。
余談ではありますが、近年の外食業界において、ラーメン店に対するМ&Aの注目度が上がっているように感じます。

吉野家ホールディングスはラーメン店を『現状は国内外で約70の店舗数を2034年めどに約4倍の300店舗まで増やす。』と発表しました。
また町田商店や豚山、がっとんなどのラーメンブランドを運営する、ギフトホールディングスにおいても、中期経営計画にて積極的なM&Aを盛り込みラーメンの新業態の取り込みを画策しています。

このようにラーメン業態は日本が誇る食文化の代表格の一つとして、今後更にグロバールなマーケットを獲得できる大手外食企業からポテンシャルがあると見込まれております。

しかし、ラーメン業態は新規参入のハードルが低い一方で、数多くのブランドが存在し玉石混合な市場のため、確固たるブランドを作り上げる難易度が高いと想定されます。
そのため、ラーメン業態においてはチェーン展開しているブランドだけでなく、地方で人気の老舗ラーメン店まで含めて大手企業を中心に今後M&Aが活発に行われていく領域と推測します。

###【譲渡企業】ニュールック×【譲受企業】あみやき亭
ニュールックは、横浜市のホルモン行列店である「野毛ホルモンセンター」をはじめとした焼肉・ホルモン・焼鳥業態等の店舗を横浜市エリア中心に直営 19 店舗、FC9 店舗展開しています。

あみやき亭はロードサイトに強みを持つ郊外型焼肉店です。あみやき亭以外にも20種類近く肉業態を展開しています。
ロードサイドでの強さはあるものの、都心型飲食店はM&Aにより取得をしており、過去にも新宿エリアのブラックホールや、亀戸や上野などに展開するホルモン青木といったブランドを買収しています。

自社の強みとはそのまま伸ばし、弱い部分をM&Aで補うことで企業の成長に繋げています。

外食業界におけるトレンドと2024年度の展望

昨今の外食業界のトレンドとして消費者の機会食化があげられます。
これは少し見慣れない表現ですが、「機会食」は「普段食」の対義語として使われる言葉で、特別な時に食べる食事のことを示します。

コロナにより外食をする機会が減ったことで、これまでなんとなくしていたお店選びから、より吟味してお店選びをするようになった消費者が多い(消費者の機会食化 )のではないかと想定しています。

そのような環境下で増えている形態が、会員制や招待制といった来店そのものに付加価値をつけていくという手法です。

新進気鋭や暴飲暴食といった焼肉や鮨業態を中心に展開する株式会社アイランズはこの手法の効果もあり、コロナ渦で30店舗以上のお店を拡大させています。

一般人でも繋がりさえあればいける、ただ簡単にはいけないという絶妙なラインを消費者に訴求しています。
その結果新店舗と同時に3ヶ月先まで予約が埋まってしまうというような人気ぶりです。

他にもブライダル出身のオーナー率いる一石三鳥などのブランドを運営する株式会社Human Qreateも、会員制も採用すると共に、体験価値を重視した店舗設計を得意とし、創業約3年で10店舗まで店舗を伸ばしています。

今後、新規でお店をオープンする場合には、「機会食化」を意識し、選ばれ続ける仕組みを作る重要度が高まるように感じます。

世界的も注目されている日本食を、海外富裕層向けをターゲットとし、来店に希少性を持たせ、海外の口コミサイトにリーチさせる新業態を開発するなども発想として面白いかもしれません。

2024外食トピック:豊洲千客万来オープンから考える「機会食化」

最後に、2024年2月1日、豊洲に「豊洲 千客万来」がオープンしました。
温泉棟の「東京豊洲 万葉倶楽部」と江戸前グルメやショッピングが楽しめる「豊洲場外 江戸前市場」からなり、豊洲ならではの活気を味わうことができます。観光地が少なかった豊洲の新たな観光スポットになり、インバウンド需要を含む多くの観光需要の創出が見込まれます。

このような取り組みは、まさに外食業界の「機会食化」の波に乗り、 V(体験価値 Value)を高めることによる差別化を狙った事例かと思います。

今後の外食業界において、原材料価格や人件費など外的コストは上がっていくと想定される一方で、消費者の機会食化に伴う客単価の向上や、インバウンド需要増加に伴う客数の増加といったプラスの要素も見込めるようになっているかと思います。

そのため、値下げをせずとも顧客を確保する手法や、インバウンド需要に対してアプローチする手法等がより求められる時代に入ってきていると考えます。

2024年は外食業界に大きなインパクトを与えた、新型コロナウイルスに左右されない久しぶりの年始まりとなりました。そういった意味においては、2024年は外食企業にとって、真の実力が試される年であり、売上を伸ばす企業、廃業へ進む企業と明暗がさらにくっきりと分かれる1年となりそうです。

食品業界のM&Aへのご関心、ご質問、ご相談などございましたら、下記にお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。

買収のための譲渡案件のご紹介や、株式譲渡の無料相談を行います。
また、上場に向けた無料相談も行っております。お気軽にご相談ください。

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著者

岡田 享久

岡田たかだ 享久たかひさ

日本M&Aセンター業種特化2部/食品業界専門グループ

神奈川県出身。早稲田大学法学部卒業後、大手保険会社にて営業企画・債券投資業務に従事し、日本M&Aセンターに入社。食品業界専門チームにて、企業の存続と発展に向けたM&Aの提案に従事している。外食、食品EC、食品製造業など食分野における知見と支援実績を持つ。

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