ベトナムM&Aの競争環境 引くてあまたの現地優良企業を獲得するには

渡邊 大晃

プロフィール

渡邊大晃

Nihon M&A Center Vietnam co., LTD

海外M&A
更新日:

⽬次

[非表示]

Xin chào(シンチャオ:こんにちは)!
本記事では、ベトナムでのM&A投資における問題のひとつ、「厳しい競争環境」に関してお話させて頂きます。

(本記事は、2022年11月に公開した記事を再構成しています。)

独占交渉権とは

「独占交渉権」とは、買手である譲受企業と売手である譲渡企業との間で、一定の間に独占的に交渉することができる権利の事です。

一般的に買収ターゲット企業の選定後に、初期的な面談(対面/オンライン)で相性を確認し、守秘義務契約を経て、企業情報と事業内容を精査の上で基本条件の合意に進みます。
その後、買収監査、最終契約、そしてクロージングという流れになります。各種専門家をアサインし、多額なコストが発生する買収監査を実施する前に、基本条件を両当事者合意の上で、独占交渉権を譲渡側が譲受側に付与することが通例となっています。

独占交渉権をめぐる競争

コロナ禍の事例

コロナ渡航規制がある中、とあるM&A案件について日系3社が前向きに検討を開始。
各社はオンライン面談に加え、リモートでビデオカメラを持ち込みバーチャル工場見学も実施しました。
日系企業以外にも韓国企業等からの積極的なアプローチがあったこともあり、日本M&Aセンターでは、バーチャルデータールームを設置し各種情報をデジタルで取得できる環境を用意したうえで、各社に早期LOI(意向表明)の提出と独占交渉権の獲得をお勧めするアドバイスを致しました。

日系3社の内2社は対面での面談にこだわり、これ以上は進められないと中断されました。
一方、成約した譲受企業では、競合が動けないコロナ渡航規制をむしろチャンスと考えてスピード重視で検討を行い、渡航前にLOI(意向表明書)を提出、入国規制の撤廃と同時に社長自らが渡航し、基本条件の合意と独占交渉権をセットで早々に取得しました。
他の2社からは「海外出張が解禁となるまで待ってほしい」との要望がありましたが、残念ながら今回は土俵に上がる事すらできませんでした。

譲渡側企業によると、基本合意の1週間後に、他社から新たなオファーが入り、その後も複数の好オファーが舞い込んできて頭を悩まされたとの事でしたが、独占交渉権を尊重して頂き無事に成約まで進めることができました。

競合他社の強引なオファーも

1日の僅差で独占交渉権を獲得できたケースもありました。
対抗馬のタイの競合企業は全ての条件面を上回るオファーを後出してきて、更に「(譲渡側が日本M&Aセンターに支払っている)アドバイザリー手数料の倍以上を払う」と言い、買手候補を切り替えるようにと、譲渡側企業に揺さぶりをかけてきたそうです。アグレッシブなアプローチからは、このM&Aディールがいかに他社にとっても魅力的であるかを感じ取ることができました。

しかし、日本M&Aセンターでは各方面から情報収集に努め、譲渡側と買収側(譲受企業)の各時間軸のギリギリのタイミングをなんとか調整することができました。
私は、「勝った負けたが世の常」を常に実感させられるM&A業界に20年在籍していますが、「生き馬の目を抜く」とはこのことか……。と久しぶりに実感した次第です。

引く手あまたのベトナム優良企業を獲得するには

ベトナムでのM&Aを甲子園に例えると、まず地方大会で日本企業同士が予選を行い、全国大会本選で、日本企業以外のグローバル会社が入り混じって熾烈な獲得競争を行うという感じでしょうか。

グローバル企業と勝負する厳しさ

海外M&Aを検討する多くの日本企業からは、「日本企業の傘下に入るほうが、従業員を大切に長期的な視点で経営をするからメリットがある」、「譲渡側も譲受企業をしっかり精査するべきだ(日本企業である我々を選んだ方が安心なはずだ)」、「企業規模が大きく意思決定に時間がかかるので、検討スピードを合わせてほしい」といった声をよく頂きます。
このような国内市場では一定の理解を得られるだろうメッセージも、残念ながら海外では神通力を失います。

優良なベトナム企業の譲渡案件はタイ、シンガポール、韓国といった従来からの積極的投資国に加えて、特に近年は米国や欧州先進国のグローバル企業、また最近力をつけてきた現地国内企業からも積極的なアプローチを絶えず受けます。

譲渡側は、日本型の詳細な事業シナジーや買収後の成長戦略の検証作業は二の次に、経済的な条件(金額)と検討スピードをセットに買収側(譲受企業)の本気度を最優先で検討し次々と結論を出して行きます。
逆に各オファーの検討に時間をかけすぎると、現地のビジネス環境におけるダイナミックな変化についていけなくなるといった事情もあるかもしれません。

3倍速で動く!

世界的にも「日本企業の検討スピードが遅すぎる」、「そもそも買い手として見なしていない」といった悪評が上がっているのも事実で、大親日国家であるベトナム市場においては、まだギリギリ土俵に上がれるといった状況です。
海外で勝負をすると決め、自前進出ではなくM&A戦略で“時間を買う”と決めた時点で、世界の競争相手と本選が始まると考えてください。
実現性はともかく、「従来の3倍速で検討が必要」だと覚悟を決めて、是非一緒に取り組んで頂きたいと思います。

現地企業からは「遅すぎる」、日本企業からは「早すぎる」という批判を受け、板挟みになりがちな日本M&Aセンターの立ち位置ですが、今後も両国の架け橋となり当事者全員に満足いただけるM&A事例を量産していきたいと考えています。その結果、まずベトナムにて「日本企業とのM&Aは時間がかかるけど、結果は大成功である」等の良い評判を広めて行けると確信しています。

日本M&Aセンターの海外・クロスボーダーM&A支援

日本M&Aセンターでは、中立な立場で、譲渡企業と譲受企業双方のメリットを考慮にいれたM&Aの仲介を行っております。また、日本企業による海外企業の買収(In-Out)、海外企業による日本企業の買収(Out-In)、海外企業同士の買収(Out-Out)も数多く手掛けてまいりました。
海外進出や事業継承に関するお悩みはいつでもお問い合わせください。

「海外・クロスボーダーM&A」って、ハードルが高いと感じていませんか?  日本M&Aセンターは、海外進出・撤退・移転などをご検討の企業さまを、海外クロスボーダーM&Aでご支援しています。ご相談は無料です。

『海外・クロスボーダーM&A DATA BOOK 2023-2024』を無料でご覧いただけます

データブック表紙

中堅企業の存在感が高まるASEAN地域とのクロスボーダーM&Aの動向、主要国別のポイントなどを、事例を交えて分かりやすく解説しています。
日本M&Aセンターが独自に行ったアンケート調査から、海外展開に取り組む企業の課題に迫るほか、実際の成約データを元にしたクロスボーダーM&A活用のメリットや留意点もまとめています。

プロフィール

渡邊 大晃

渡邊わたなべ 大晃ひろみつ

Nihon M&A Center Vietnam co., LTD

大手化学メーカーを経て、2004年日本M&Aセンターに入社。2010年以降、海外M&A業務(東南アジア、米国、中国、インド等)に従事。2019年ベトナム法人設立に伴い、同代表に就任。上場未上場企業のM&A支援実績多数。米国公認会計士(USCPA)、英ノッティンガム大学修士(MBA)。

この記事に関連するタグ

「海外M&A・クロスボーダーM&A」に関連するコラム

ベトナムM&A成約事例:日本企業との資本提携でベトナムのリーディングカンパニーへ

海外M&A
ベトナムM&A成約事例:日本企業との資本提携でベトナムのリーディングカンパニーへ

ベトナムの成長企業が日本の業界大手企業と戦略的資本提携を実施日本M&AセンターInOut推進部の河田です。報道にもありましたように、河村電器産業株式会社(愛知県瀬戸市、以下「河村電器産業」)が、DuyHungTechnologicalCommercialJSC(ベトナム・ハノイ、以下「DH社」)およびDHIndustrialDistributionJSC(ベトナム・ハノイ、以下「DHID社」)の株

タイにおける日本食市場の2024年最新動向

海外M&A
タイにおける日本食市場の2024年最新動向

コロナ禍から復活最新のタイの飲食店事情日本M&Aセンターは、2021年11月にタイにて駐在員事務所を開設し、2024年1月に現地法人を設立いたしました。現地法人化を通じて、M&Aを通じたタイへの進出・事業拡大を目指す日系企業様のご支援を強化しております。ASEAN進出・拡大を考える経営者・経営企画の方向け・クロスボーダーM&A入門セミナー開催中無料オンラインセミナーはこちら私自身は、2度目のタイ駐

ベトナムM&A成約事例:日本の「ホワイトナイト」とベトナム企業

海外M&A
ベトナムM&A成約事例:日本の「ホワイトナイト」とベトナム企業

今回ご紹介するプロジェクトTの調印式の様子(左から、ダイナパック株式会社代表取締役社長齊藤光次氏、VIETNAMTKTPLASTICPACKAGINGJOINTSTOCKCOMPANYCEOTranMinhVu氏)ASEAN進出・拡大を考える経営者・経営企画の方向け・クロスボーダーM&A入門セミナー開催中無料オンラインセミナーはこちら私はベトナムの優良企業が日本の戦略的パートナーとのM&Aを通じて

シンガポールに代わる地域統括拠点 マレーシアという選択肢

海外M&A
シンガポールに代わる地域統括拠点 マレーシアという選択肢

ASEAN進出・拡大を考える経営者・経営企画の方向け・クロスボーダーM&A入門セミナー開催中無料オンラインセミナーはこちら人件費、賃料、ビザ発行要件、すべてが「高い」シンガポールASEANのハブと言えば、皆さんが真っ先に想起するのはシンガポールではないでしょうか。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、シンガポールでは87社の統括機能拠点が確認されています。東南アジアおよび南西アジア地域最大の統括拠

小さく生んで大きく育てる ベトナムM&A投資の特徴

海外M&A
小さく生んで大きく育てる ベトナムM&A投資の特徴

本記事では、ベトナムでのM&Aの特徴と代表的な課題について解説します。(本記事は2022年に公開した内容を再構成しています。)比較的に小粒である、ベトナムM&A案件ベトナムのM&A市場は、ここ数年は年間平均300件程度で推移、Out-Inが全体投資額の約6~7割を占め、その中で日本からの投資件数はトップクラスです(2018年:22件、2019年:33件、2020年:23件)。興味深いことに、1件当

インドネシアM&AにおけるPMIのポイント

海外M&A
インドネシアM&AにおけるPMIのポイント

本記事では、クロスボーダーM&Aで最も重要であるPMIについて、インドネシアの場合を用いてお話しします。(本記事は、2022年に公開した記事を再構成しています)M&Aのゴールは“成約”ではありません。投資側の日本企業と投資を受ける海外の現地企業両社が、思い描く成長を共に実現できた時がM&Aのゴールです。特にインドネシア企業とのM&Aは、他のASEAN諸国と比較しても難易度は高く、成約に至ってもそれ

「海外M&A・クロスボーダーM&A」に関連するM&Aニュース

ルノー、電気自動車(EV)のバッテリーの設計と製造において2社と提携

RenaultGroup(フランス、ルノー)は、電気自動車のバッテリーの設計と製造において、フランスのVerkor(フランス、ヴェルコール)とEnvisionAESC(神奈川県座間市、エンビジョンAESCグループ)の2社と提携を行うことを発表した。ルノーは、125の国々で、乗用、商用モデルや様々な仕様の自動車モデルを展開している。ヴェルコールは、上昇するEVと定置型電力貯蔵の需要に対応するため、南

マーチャント・バンカーズ、大手暗号資産交換所運営会社IDCM社と資本業務提携へ

マーチャント・バンカーズ株式会社(3121)は、IDCMGlobalLimited(セーシェル共和国・マエー島、IDCM)と資本提携、および全世界での暗号資産関連業務での業務提携に関するMOUを締結することを決定した。マーチャント・バンカーズは、国内および海外の企業・不動産への投資業務およびM&Aのアドバイス、不動産の売買・仲介・賃貸および管理業務、宿泊施設・飲食施設およびボウリング場等の運営・管

米ベインキャピタル、ティーガイアへのTOBが成立

米投資ファンドのベインキャピタルによる株式会社BCJ-82-1を通じた、株式会社ティーガイア(3738)への公開買付け(TOB)が2024年11月20日をもって終了した。応募株券等の総数(11,718,929株)が買付予定数の下限(7,076,300株)以上となったため成立している。また、ティーガイアは現在、東京証券取引所プライム市場に上場しているが、所定の手続を経て、上場廃止となる見込み。本公開

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース