海外M&Aにおける買収監査/DDチームの選び方

西井 正博

プロフィール

西井正博

Nihon M&A Center Singapore Pte. Ltd

海外M&A
更新日:

⽬次

[非表示]

本記事ではM&Aにおける終盤ステージである買収監査(デューデリジェンス)における留意点について解説したいと思います。

ASEAN・中小M&Aにおける買収監査(デューデリジェンス)

M&Aのプロセスでは基本合意契約を締結した後、最終契約に至る準備段階として買収監査が行われます。

内容や期間はディールの規模や複雑性によって様々ですが、一般的に財務・税務・法務について専門チームに依頼します。また、場合によってはビジネス・環境などの範囲で監査が行われるケースもあります。

一般的にASEANの中堅中小未上場案件の場合、1カ月~2カ月程度で買収監査が行われることが多いです。
また、リモート環境になる為、一般的にオンライン上にセキュリティが確保されたバーチャルデータルーム(VDR)を設置し、そこに依頼資料や質疑応答の変遷をまとめる事となります。

また中堅中小企業の場合、もっとも時間が掛かるのが資料の収集・整備となります。極端な話、依頼資料が全て完璧に揃えられた時点で買収監査の70~80%が完了できたと言っても過言ではありません。

そのような理由から、基本合意交渉がある程度まとまり、お互いに次のステージに進める意思が確認できた段階で買収監査の準備(監査チームの選定・依頼資料の収集)を先んじて始める事をいつもお勧めしています。

買収監査チームの選定方法

買収監査チームの選択肢としては、主に以下の3つが挙げられます。

  1. 4大監査法人・法律事務所
  2. 独立系の中堅会計事務所・法律事務所
  3. 小規模ローカル会計事務所・法律事務所※
    ※3は上記1、2から独立したプロフェッショナルが運営していることが多い

費用は当然ながら選択肢1>2>3となりますが、ベストな選択肢は、ディールの規模・複雑性によって変わってきます。例えば、対象会社のグループ会社の数が多く、また複数の国で展開されているような場合は選択肢1をお勧めしています。逆に、対象会社の売上が数億円の小規模で、ビジネスもシンプルな場合は、費用対効果の面から選択肢3を選ばれるお客様も多いです。

また、こういった専門性の高い業務の場合は、「どの事務所に頼むかではなく、誰に頼むか」が重要となってくるため、信頼できる特定のプロフェッショナルがいる場合は事務所の規模に関係なくお勧めすることもあります。

費用についても、同じ事務所であっても依頼の仕方、業務のスコープによって費用がかなり変わってきますので、目的に合わせて選別し具体的業務内容を相談するのが必要となります。

売主側の感情・ストレスにも注意

一般的に、中堅中小企業の売主オーナーにとって買収監査は非常に手間・ストレスが掛かります。また、買収監査チームのプロフェッショナルも業務を遂行する事に集中するあまり、売主側に対する当たりが強くなることがあります。

この時に、売主側のケアを同時並行で行っていく事が、信頼関係の維持・今後の最終交渉の前段階として非常に重要になります。買収監査で長期間拘束され、ストレスを掛けてしまうと売主オーナーが感情面で意固地になってしまい、その後の最終交渉そして買収後の運営に悪影響を与えてしまうケースもあります。

買収監査自体は当然ながら論点の見落としの無いようしっかりと行う必要はありますが、同じことをするとしても伝え方・やり方を変えるだけで売主側のストレスはずいぶん変わります。
なので、買収監査を進めながら同時に大変な作業に長期間協力して頂いている売主側への感謝、気遣いもしっかりと伝えていく事が全体のプロセスをスムーズに進める為に重要になります。

今回は、ディールの後半ステージで必要となる買収監査について現場の視点から解説させて頂きましたが、如何でしたでしょうか?
日本M&Aセンターでは、皆さまが公正な形で納得のいくM&Aを出来るように引き続き支援していきたいと考えています。

日本M&Aセンターの海外・クロスボーダーM&A支援

日本M&Aセンターでは、中立な立場で、譲渡企業と譲受企業双方のメリットを考慮にいれたM&Aの仲介を行っております。また、日本企業による海外企業の買収(In-Out)、海外企業による日本企業の買収(Out-In)、海外企業同士の買収(Out-Out)も数多く手掛けてまいりました。
海外進出や事業継承に関するお悩みはいつでもお問い合わせください。

「海外・クロスボーダーM&A」って、ハードルが高いと感じていませんか?  日本M&Aセンターは、海外進出・撤退・移転などをご検討の企業さまを、海外クロスボーダーM&Aでご支援しています。ご相談は無料です。

『海外・クロスボーダーM&A DATA BOOK 2023-2024』を無料でご覧いただけます

データブック表紙

中堅企業の存在感が高まるASEAN地域とのクロスボーダーM&Aの動向、主要国別のポイントなどを、事例を交えて分かりやすく解説しています。
日本M&Aセンターが独自に行ったアンケート調査から、海外展開に取り組む企業の課題に迫るほか、実際の成約データを元にしたクロスボーダーM&A活用のメリットや留意点もまとめています。

プロフィール

西井 正博

西井にしい 正博まさひろ

Nihon M&A Center Singapore Pte. Ltd

2008年日本M&Aセンターに入社。入社以来、一貫して中堅・中小企業M&Aを担当。2016年シンガポール国立大学のMBA課程修了後、シンガポールオフィスの設立に携わり、以降は東南アジアの中堅・中小企業と日本企業の海外M&A支援に従事。これまで30件以上の国内外M&A支援実績を持つ。

この記事に関連するタグ

「海外M&A・クロスボーダーM&A・買収監査」に関連するコラム

大槻代表に聞く!新たなファンドコンセプトを持つAtoG Capital本格始動

広報室だより
大槻代表に聞く!新たなファンドコンセプトを持つAtoG Capital本格始動

2024年9月、日本M&Aセンターグループの一員として新たな一歩を踏み出した「株式会社AtoGCapital」。新たなファンドコンセプトを持つ会社ですが、どのようなコンセプトなのか、その取り組みや設立への想いをAtoGCapital代表取締役の大槻昌彦さんに聞きました。※会社設立は2023年12月、ファンドの1号ファンド設立は9月20日、出資実行完了は2024年10月23日AtoGCapital代

ベトナムM&A成約事例:日本企業との資本提携でベトナムのリーディングカンパニーへ

海外M&A
ベトナムM&A成約事例:日本企業との資本提携でベトナムのリーディングカンパニーへ

ベトナムの成長企業が日本の業界大手企業と戦略的資本提携を実施日本M&AセンターInOut推進部の河田です。報道にもありましたように、河村電器産業株式会社(愛知県瀬戸市、以下「河村電器産業」)が、DuyHungTechnologicalCommercialJSC(ベトナム・ハノイ、以下「DH社」)およびDHIndustrialDistributionJSC(ベトナム・ハノイ、以下「DHID社」)の株

タイにおける日本食市場の2024年最新動向

海外M&A
タイにおける日本食市場の2024年最新動向

コロナ禍から復活最新のタイの飲食店事情日本M&Aセンターは、2021年11月にタイにて駐在員事務所を開設し、2024年1月に現地法人を設立いたしました。現地法人化を通じて、M&Aを通じたタイへの進出・事業拡大を目指す日系企業様のご支援を強化しております。ASEAN進出・拡大を考える経営者・経営企画の方向け・クロスボーダーM&A入門セミナー開催中無料オンラインセミナーはこちら私自身は、2度目のタイ駐

ベトナムM&A成約事例:日本の「ホワイトナイト」とベトナム企業

海外M&A
ベトナムM&A成約事例:日本の「ホワイトナイト」とベトナム企業

今回ご紹介するプロジェクトTの調印式の様子(左から、ダイナパック株式会社代表取締役社長齊藤光次氏、VIETNAMTKTPLASTICPACKAGINGJOINTSTOCKCOMPANYCEOTranMinhVu氏)ASEAN進出・拡大を考える経営者・経営企画の方向け・クロスボーダーM&A入門セミナー開催中無料オンラインセミナーはこちら私はベトナムの優良企業が日本の戦略的パートナーとのM&Aを通じて

シンガポールに代わる地域統括拠点 マレーシアという選択肢

海外M&A
シンガポールに代わる地域統括拠点 マレーシアという選択肢

ASEAN進出・拡大を考える経営者・経営企画の方向け・クロスボーダーM&A入門セミナー開催中無料オンラインセミナーはこちら人件費、賃料、ビザ発行要件、すべてが「高い」シンガポールASEANのハブと言えば、皆さんが真っ先に想起するのはシンガポールではないでしょうか。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、シンガポールでは87社の統括機能拠点が確認されています。東南アジアおよび南西アジア地域最大の統括拠

小さく生んで大きく育てる ベトナムM&A投資の特徴

海外M&A
小さく生んで大きく育てる ベトナムM&A投資の特徴

本記事では、ベトナムでのM&Aの特徴と代表的な課題について解説します。(本記事は2022年に公開した内容を再構成しています。)比較的に小粒である、ベトナムM&A案件ベトナムのM&A市場は、ここ数年は年間平均300件程度で推移、Out-Inが全体投資額の約6~7割を占め、その中で日本からの投資件数はトップクラスです(2018年:22件、2019年:33件、2020年:23件)。興味深いことに、1件当

「海外M&A・クロスボーダーM&A・買収監査」に関連する学ぶコンテンツ

「海外M&A・クロスボーダーM&A・買収監査」に関連するM&Aニュース

ルノー、電気自動車(EV)のバッテリーの設計と製造において2社と提携

RenaultGroup(フランス、ルノー)は、電気自動車のバッテリーの設計と製造において、フランスのVerkor(フランス、ヴェルコール)とEnvisionAESC(神奈川県座間市、エンビジョンAESCグループ)の2社と提携を行うことを発表した。ルノーは、125の国々で、乗用、商用モデルや様々な仕様の自動車モデルを展開している。ヴェルコールは、上昇するEVと定置型電力貯蔵の需要に対応するため、南

マーチャント・バンカーズ、大手暗号資産交換所運営会社IDCM社と資本業務提携へ

マーチャント・バンカーズ株式会社(3121)は、IDCMGlobalLimited(セーシェル共和国・マエー島、IDCM)と資本提携、および全世界での暗号資産関連業務での業務提携に関するMOUを締結することを決定した。マーチャント・バンカーズは、国内および海外の企業・不動産への投資業務およびM&Aのアドバイス、不動産の売買・仲介・賃貸および管理業務、宿泊施設・飲食施設およびボウリング場等の運営・管

京三製作所、中国子会社の京上貿易を完全子会社化

株式会社京三製作所(6742)は、子会社である京上貿易(上海)有限公司(中国・上海市、以下:京上貿易)の持分を追加取得し、完全子会社化した。京三製作所は、鉄道信号システムや道路交通管制システムの生産および販売を行っている。京上貿易は、半導体製造装置に実装される産業機器用電源装置の修理・保守などを手がけている。目的京三製作所グループの中国における産業機器用電源の修理・保守業務の充実を図る。持分の状況

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース