タイでM&Aを検討する際に留意すること
⽬次
- 1. タイ王国 中小企業M&Aマーケットの今
- 1-1. のびしろのあるM&Aマーケット
- 1-2. 非製造業の増加
- 2. タイにおける外資規制
- 2-1. タイの外国人事業法
- 2-2. 譲渡企業の事業が外資規制対象となる場合
- 3. ほかにもある留意点
- 3-1. 株式会社設立時の株主の人数
- 3-2. 土地所有
- 4. 日本M&Aセンターの海外・クロスボーダーM&A支援
- 5. 『海外・クロスボーダーM&A DATA BOOK 2023-2024』を無料でご覧いただけます
- 5-1. プロフィール
本記事ではタイでのM&Aにおいてよく問題となる、タイ特有の留意点について解説します。
(本記事は2023年2月に公開した内容を再構成しています。)
※日本M&Aセンターホールディングスは、2021年にASEAN5番目の拠点としてタイ駐在員事務所を開設、2024年1月に現地法人「Nihon M&A Center (Thailand) Co., LTD」を設立し、営業を開始いたしました。
タイ王国 中小企業M&Aマーケットの今
のびしろのあるM&Aマーケット
もともとM&A自体はタイでも以前から大小さまざま行われていましたが、中小企業のM&Aマーケットは成熟しておりません。
証券会社、銀行などは経営戦略上、中小企業向けのM&Aに手が回っておらず、我々のように小~中規模のローカル(現地資本)案件を扱うM&A仲介業は現地では珍しい存在です。それに起因し、ローカルの(中堅)弁護士事務所などは、M&Aの契約書作成に慣れていないケースもあります(弁護士事務所の規模や得意領域によります。)
他方、日系企業のタイ進出ニーズはどうなのかというと、過去から継続して引き続き強いニーズがあります。タイと言えば、ASEAN、ひいては世界でも有数の製造業大国ですが、進出業種のトレンドとしては、製造業から非製造業にやや変化しているようです。
非製造業の増加
少し前のデータですが、日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所が2021年3月に公表した「タイ日系企業進出動向調査2020年 調査結果」によれば、タイで活動が確認された日系企業は5,856社あり、2017年の調査時の5,444社と比較して412社増加しています。
業種別にみると、1位が「製造業」で2,344社、2位が「卸売業・小売業」で1,486社、3位が「サービス業」1,017社でした。2017年の調査時と比較すると、製造業の企業数は-0.1%で、ほぼ横ばいであったのに対し、卸売業・小売業、サービス業など、非製造業の企業数の増加が12.7%と、顕著に増加していました。
今後も日系企業のタイ進出が継続することが予想されますが、M&Aにおいてまず論点となるのは、後述の外資規制です。
タイにおける外資規制
タイの外国人事業法
タイで「外国人」が一定の事業を営む場合、タイの外国人事業法(Foreign Business Act、通称FBA)による外資規制の対象となり、同法は、「外国人」がタイで一定の事業を営むことに制限を設けています。
したがって、タイ企業を買収では、以下を事前に確認・検討する必要があります。
- 事業が規制対象事業かどうか
- 買収後のタイ企業の「外国人」該当有無
1の規制対象事業は、2023年現在、3種類43業種に分類されており、それらの業種への「外国人」の参入が規制されています。規制の詳細については紙幅の都合上、ここでは申し上げませんが、ごく簡単に概要を述べれば、多くの製造業は規制対象とされていない一方で、サービス業は広範に規制対象とされています(飲食業、各種コンサルタント業、小売業、卸売業、物流業等)。
また、2の「外国人」とは、FBAの定義によると、以下のいずれかに該当する場合をいいます。
- タイ国籍ではない自然人(natural person)
- タイで登録されていない法人
- 株式(capital shares)の少なくとも半分(at least one half)を1または2が保有しているタイで登記された法人
- マネージングパートナーまたはマネージャーが1であるlimited partnership(合資会社)、registered ordinary partnership(登録合資会社)
- 3または4のいずれかが資本の半分以上を保有または相当額の投資を受けるタイ法人
参考文献:Department of Business Development Ministry of Commerce (Thailand)「FOREIGN BUSINESS ACT, B.E. 2542 (1999)」
上記において、「株式」の「半分以上」とは、議決権ベースではなく、株式数ベースで計算する必要がある点に留意が必要です。また、上記1から5までのうち、日本企業がタイへ進出するにあたってよく問題となるのは3と5です。
譲渡企業の事業が外資規制対象となる場合
また、買収対象のタイ企業(対象会社)が営んでいる事業が外資規制の対象となる場合でも、適切な対応を講じることで譲受可能となります。代表的なのは下記の2つの方法です。
- 外国人事業許可を商務省事業開発局より
- 取得対象会社の持株比率を調整
2の持株比率の調整は、友好的なタイ人・タイ企業等と「合弁」し、日本企業の持株比率を半分未満に抑え、対象会社を「外国人」の定義に合致させないことで、規制の対象から外すという方法です。しかし、Anti-Nominee規制と呼ばれる規制が外国人事業法36条、37条、41条で定められており、タイ人の名義だけ借りて規制対象事業を無許可で営むことは禁止されているようで、安易には進められない現実もあるようです。
ほかにもある留意点
株式会社設立時の株主の人数
これまでタイにおいては、株式会社設立の際は、最低3名の株主が必要(民商法典1097条)でしたが、2022年11月8日に公布された改正法(2023年2月7日施行)に基づき、2名以上での株式会社設立が可能となりました。
土地所有
土地法典上の「外国人」は、タイ投資委員会(Board of Investment of Thailand、通称BOI)または工業団地公社から許可を取得しない限り、原則として土地の保有が不可となります。なお、土地法における「外国人」は、株式の(50%以上ではなく)49%を超えて外資が保有し、または株主の人数の過半数が外国人であるタイ法人は「外国人」に該当するとされています。
したがって、対象会社が土地を所有している場合や、対象会社に土地を取得させて事業を営むことを検討している場合には、下記のいずれかを検討する必要があります。
- BOIまたは工業団地公社から許可を取得する
- 対象会社における買い手企業(その他外国人)の持株比率を49%以下とし、かつ、外国人株主の人数が株主全体の過半数にならないよう調整する
今回は、タイM&Aにおける規制や日本との違いを解説させていただきましたが、いかがでしたでしょうか?日本M&Aセンターでは、引き続き皆さまの海外進出を全力で支援していきたいと考えています。
日本M&Aセンターの海外・クロスボーダーM&A支援
日本M&Aセンターでは、中立な立場で、譲渡企業と譲受企業双方のメリットを考慮にいれたM&Aの仲介を行っております。また、日本企業による海外企業の買収(In-Out)、海外企業による日本企業の買収(Out-In)、海外企業同士の買収(Out-Out)も数多く手掛けてまいりました。
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