物流業界2024年問題と食品業界

水上 雄斗

日本M&Aセンター業種特化2部

業界別M&A
更新日:

⽬次

[非表示]


当コラムは日本М&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
今回は水上が「物流業界2024年問題と食品業界」についてお伝えします。

物流業界の2024年問題とは?

2024年問題とは、働き方改革関連法によって2024年4月1日以降、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることによって発生する問題のことです。

トラックドライバーの時間外労働の制限や改正改善基準告示が適用され、労働時間が短くなることで輸送能力が不足する可能性が懸念されております。

物流業界では、トラックドライバーの不足が深刻な問題となっており、2030年までに営業用トラックの輸送能力が不足する可能性がでてきています。

人材が不足する一方で、物流の供給量は年々増加しています。コロナ禍で通販の需要が拡大したこともあり、EC市場の拡大により、2020年以降宅配便個数は急激に増加しました。

2024年問題は物流業界のみではなく、様々な業界でこの問題に対応していく必要があります。

2024年問題が食品業界に及ぼす影響

食品業界にとっても物流は欠かせない要素です。
中でも、水産品や青果などの食材は小ロット・多頻度・長距離輸送という特徴があります。2024年問題が食品業界へ与える影響として考えられることは主に以下の三点です。

2024年問題が食品業界へ与える影響

  • 当日、翌日配達ができない
  • 新鮮な食材を提供できない
  • 必要な時に必要なものが届かない(配送の遅延)

例えば、食品スーパーは毎日新鮮な食材を仕入れ、それを消費者に販売しています。
しかし、2024年問題が深刻になると、仕入れの回数が週に数回へと減ってしまうかもしれません。

遠隔地から運ばれてくる、水産品や青果は鮮度が落ちる可能性があります。
中継輸送等により、リードタイムが長くなるからです。

現状、店舗に並ぶまで2日間かかる水産品や青果は3日間を要するようになり、3日間かかっていたものは4日間かかるといった影響が考えられます。

鮮度も重要視される食品業界はこの2024年問題に対応していく必要があります。

食品企業がM&Aを活用することによる解決

2024年問題への主な対応策は、労働環境の改善、効率を高めるためのDX化や配送ルートの見直し等があげられます。

自社単独では解決できない2024年問題の対応策の1つとして、実はM&Aも有効な手法であり、その動きは近年活発化しています。

M&Aによって、食品企業がグループ内で物流事業を保有することで、自社の輸送能力を確保することができます。

これにより、トラックドライバーの不足による輸送能力の不足を補うこともできます。さらに、自社の物流ネットワークを構築することで、急な需要に迅速かつ柔軟に対応することも可能になります。

1.バローホールディングスの事例

株式会社バローホールディングスは、同社の連結子会社である中部興産株式会社が、株式会社鷺富運送の発行済株式の100%を取得しました。

中部興産は、 1969年の創業以来、物流システム、設備などを設計・開発する独自の物流技術を活用した倉庫運営と自社配送を行っております。

また、東海・北陸・関東・関西エリアに展開する当社グループ店舗に対応して物流センターを24拠点運営しております。

鷺富運送は、主に石川県・福井県・富山県を中心に3温度帯別の食料品と医薬品の輸配送業務を事業基盤としています。

幹線輸送から各センターでの仕分け、共同配送など多様な物流サービスを提供しております。

中部興産は物流センターから各店舗への配送を得意としており、鷺富運送はより川上に当たる各メーカーから問屋倉庫への配送を得意としております。

今回、バローホールディングスが株式取得することで下記のシナジーが期待されます。

倉庫運営ノウハウの共有

  • 今後複雑、高度化するシステム投資等の圧縮
  • マテハンの共有化 ・人材交流と育成

川上への物流領域の拡大とサプライチェーンの高度化の高度化

  • 両社ネットワークを活用した新規集荷、配送業務の受託拡大
  • 両社の近隣集荷先、配荷先の整理による配送効率の向上
  • 両社の事業所、倉庫の共同利用

2.三菱食品の事例

三菱食品株式会社は、株式会社キユーソー流通システムと両社の物流事業の一部を統合し、両社を出資者とする合弁会社へ会社分割により承継させることに関し、統合契約および合弁契約を締結し業務提携を行うことを決定しました。

分割する事業は、主に食品を対象とした首都圏における低温物流事業です。

三菱食品は、国内外の加工食品、低温食品、酒類、菓子の卸売を主な事業内容とし、物流事業およびその他サービス等を展開しております。キユーソー流通システムは、食品物流の運送会社です。
両社はトラック運転手の不足が懸念される物流の「2024年問題」への対応が求められるなか、異業種間の協業を深めていきます。

まとめ

物流業界の2024年問題が食品業界に与える影響は大きいです。

しかし、食品企業がM&Aを活用することによって、輸送能力の不足や品質の低下を最小限に抑えることもできます。

企業間で共通した顧客を持つ場合、配送ルートが重なることも多いです。M&Aによってそれを集約し、ひとつの車で効率的に配送ることでコストや時間の削減にも繋がります。

また、M&Aを活用することで大企業の子会社になり、ブランドイメージの強化や労働環境の改善に繋げることができます。そうすることで、採用力が強化され新たな人材の確保がしやすくなることも期待できます。

いかがでしたでしょうか?
食品業界のM&Aへのご関心、ご質問、ご相談などございましたら、下記にお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。
買収のための譲渡案件のご紹介や、株式譲渡の無料相談を行います。
また、上場に向けた無料相談も行っております。お気軽にご相談ください。

日本M&Aセンターでは、事業売却をはじめ、様々な手法のM&A・経営戦略を経験・実績豊富なチームがご支援します。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。

著者

水上 雄斗

水上みずかみ 雄斗ゆうと

日本M&Aセンター業種特化2部

千葉県出身。成蹊大学経済学部卒業後、三井住友銀行にてリテール営業に従事した後、日本M&Aセンターへ入社。以来、全国の食品業界を専門にM&A業務に取り組む。

この記事に関連するタグ

「食品業界」に関連するコラム

焼肉業界の現状とM&A戦略|焼肉店・焼肉屋M&A

業界別M&A
焼肉業界の現状とM&A戦略|焼肉店・焼肉屋M&A

当コラムは日本М&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。今回は勝又が「焼肉業界の現状とM&A戦略」というテーマでお伝えします。@cv_button1.外食産業:焼肉業界の今本項では、外食産業の中で特に近年、動きの激しい焼肉業界について現状を記載いたします。自明の事実も多々ございますがご一読ください。コロナ禍では“勝ち組”の焼肉業界2019年、世界中を騒がせた

多様化する食品業界の出口戦略|スイングバイIPO事例紹介

業界別M&A
多様化する食品業界の出口戦略|スイングバイIPO事例紹介

こんにちは。(株)日本М&Aセンター食品業界支援グループの岡田享久です。当コラムは日本М&Aセンターの食品専門チームのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。今回は「多様化する食品業界の出口戦略」について解説します。@cv_button今注目の経営手法スイングバイIPO2024年3月26日、IoTプラットフォームを提供するソラコムが東京証券取引所グロース市場に上場しました。ソラコムは2015年

セブン&アイホールディングスに対する買収騒動について

業界別M&A
セブン&アイホールディングスに対する買収騒動について

当コラムは日本M&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。今回は水上が「セブン&アイホールディングスに対する買収騒動」についてお伝えします。@cv_button当社の関連ニュースセブン&アイ、カナダのコンビニ大手より買収提案米アーティザン、セブン&アイに買収案巡る情報開示要求今回の買収提案の概要セブン&アイホールディングスは2024年8月19日、アリマンタシォ

外食・食品業界における投資会社/PEファンドの動向

業界別M&A
外食・食品業界における投資会社/PEファンドの動向

当コラムは日本M&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。今回は高橋が「外食・食品業界における投資会社/PEファンドの動向」についてお伝えします。@cv_button外食・食品業界における投資会社/PEファンドによるM&Aの推移PEファンドを中心とする投資会社による外食・食品業界に対するM&A件数は、2024年に入り8月末時点で過去最高水準の件数を記録しており

【2024年上半期総集編】盛り上がりを見せる食品M&Aについて

業界別M&A
【2024年上半期総集編】盛り上がりを見せる食品M&Aについて

当コラムは日本М&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。今回は白鳥が過去一水準の盛り上がりを見せる食品関係のM&Aについて2024年上半期の事例に基づいて記載します。@cv_button食品全業種で実施!2024年上期大手企業M&Aニュース2024年上半期は、新型コロナウイルスが収束し、第5類に分類されてから2年が経ち、食品業界のМ&Aの件数はコロナ以前の水

外食企業が将来の売却を見据えた物件選定のポイント|飲食店M&A

業界別M&A
外食企業が将来の売却を見据えた物件選定のポイント|飲食店M&A

当コラムは日本M&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。今回は江藤が「外食企業が将来の売却を見据えた物件選定のポイント」についてお伝えします。外食企業のM&Aで最重要ファクターである物件(立地)について2024年も早いもので後半戦に差し掛かろうとしており、外食企業は年末の繁忙期に向けて、新規出店や人員の確保など、非常にやることの多い時期に入って来ています。そ

「食品業界」に関連するM&Aニュース

ヨシムラ・フードHD、中華料理材料製造の富強食品を買収

株式会社ヨシムラ・フード・ホールディングス(2884)は、株式会社富強食品(千葉県野田市)の株式を取得し、子会社化することを決定した。ヨシムラ・フード・ホールディングスは、食品関連会社の株式を保有する持株会社。富強食品は、中華料理用材料の製造販売を行っている。目的ヨシムラ・フード・ホールディングスは、富強食品の商品力とノウハウ、確立されたブランド力、ニッチな市場における高いシェア、確固たる事業基盤

一正蒲鉾、インドネシア持分法適用関連会社を子会社化

一正蒲鉾株式会社(2904)は、PT.KaiaAnugerahIndonesia(インドネシア・ジャカルタ)から、持分法適用関連会社であるPT.KMLICHIMASAFOODS(インドネシア・西ジャワ州)の株式を追加取得し、連結子会社化することを決定した。一正蒲鉾は、水産練製品・惣菜の製造販売及びきのこの生産販売を行っている。PT.KMLICHIMASAFOODSは、水産練製品製造販売を行っている

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース