コラム

過去最多の倒産件数、競争激しいラーメン業界のM&Aを徹底解説

岡田 享久

日本M&Aセンター業界再編2部/食品業界専門グループ

業界別M&A
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こんにちは。(株)日本М&Aセンター食品業界支援グループの岡田享久です。
当コラムは日本М&Aセンターの食品専門チームのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
今回はラーメン店のM&Aの歴史とその後について解説します。

ラーメン業界の市況

過酷な競争の中、倒産件数の増加

『2023年、ラーメン店の倒産件数は過去最多を大幅に更新しました』という記事を目にした方も多いのではないでしょうか?

東京商工リサーチの調査によると「2023年度(4-3月)の「ラーメン店」の倒産(負債1,000万円以上)は、63件(前年度比173.9%増)で、前年度の2.7倍増と大幅に増加。
これまで最多だった2013年度(42件)の1.5倍増で、過去最多を大幅に更新した。」とのことでした。
(参照:株式会社東京商工リサーチ「「ラーメン店」の倒産、過去最多の63件 前年度の2.7倍に急増」)

ここまで倒産件数が増えたのは補助金等でコロナ禍を乗り切ったお店でも、一度離れたお客様を再度獲得することが難しくなったことが主な原因と推察されます。
飲食業界の中でも特に競争の激しいラーメン業界において、認知を獲得し、客足を継続的に保つラーメン店は稀有な存在であると考えられます。

そういった存在であるからこそ、外食大手企業や、ファンド、異業種企業に至るまで、有名ラーメン店を買収し、成長させることを常に考えております。

近年の市況

前述の倒産件数の増加とは相反して、上場ラーメンチェーンは業績を伸長させています。
海外進出を強めるラーメン業界大手の「一風堂」を運営する力の源ホールディングスは、23年3月期売上約261億円、24年4月期の予想が315億円と2018年度244億円から業績を伸ばしています。

町田商店を中心として複数のラーメンブランドを運営するギフトホールディングスは、M&Aを積極的に行いながら出店を重ね、23年10月期売上約230億円とコロナ禍前の2019年10月決算時時点の約90億から4年で約2.5倍業績を伸ばしています。

また2023年12月に東証スタンダードに上場をした魁力屋は2019年度売上約71億から2023年度約106億円まで伸ばしています。

一方で、ラーメン店は個人店や小規模チェーンが他外食ジャンルと比べて多いことが特徴です。

日本経済新聞の「ラーメン・中華料理店業界 市場規模・動向や企業情報」によると、業界シェア上位3社の売上高が市場規模に占める割合はハンバーガーが92%、牛丼が88%と寡占なのに対し、ラーメン店は8%程度にとどまり、業態が乱立していることが読み取れるかと思います。

そういった市場環境においては、大手外食企業においても、顧客から安定的に支持されるラーメンブランドを、0から築くことは難しいという声をよく聞きます。

そのため、大手外食企業から、規模の小さい2~3店舗のラーメン店であってもブランド力があるお店に関しては、買収候補先として共有頂くことが多々あり、店舗数の比較的少ない企業でも業界大手と手を組むチャンスがあるのがラーメン業界の特徴であると言えます。

現状のラーメン業界においては上位プレイヤーの市場占有率が低い業界ではありますが、今後は小規模店の市場からの撤退と、M&Aの活性化に伴い、上位プレイヤーによる市場の占有化が加速する可能性があります。

代表的なラーメン店M&A事例

ラーメン業界では、個人店が多く、公表されていないM&Aも多いですが、ここ20年ほどの間で年間数件程度は定期的にM&Aが行われております。以下に代表的なラーメン店のМ&A事例を8つ紹介いたします。

ラーメン業界のM&A推移


参照レコフM&Aデータベースより日本M&Aセンター作成
【フリーワード】「ラーメン」 (すべてのワードを含む) 【検索期間】1996/01/01~2023/12/31 (公表日など)
【データ種別】[M&A]M&A【業界】外食【形態】合併, 買収, 事業譲渡(営業譲渡)

ラーメン業界のM&A代表事例

2023年 フルキャストホールディングス×グロービート(「らあめん花月」を運営)

人材派遣・人材紹介を手掛けるフルキャストホールディングスは、ラーメン専門店「らあめん花月嵐」をチェーン展開するグロービートを買収しました。同族経営からの脱却、上場企業傘下企業としての信用力向上、経営基盤の拡充を企図し、買収が行われました。フルキャストホールディングスにとっては飲食事業への進出は初めての試みです。

2023年 壱番屋×竹井(「麺屋たけ井」を運営)

カレーハウスCoCo壱番屋を運営する壱番屋が、つけ麺店「麺屋たけ井」を運営する竹井を買収しました。壱番屋の自社工場で食材を生産できるようにし、2024年度以降に出店ペースを上げる考えです。壱番屋は既存のカレー店舗以外の飲食店の買収を進めており、23年には「もつ鍋前田屋」を運営する「株式会社LFD JAPAN」も買収しております。「食のエンターテイメント企業」を目指し、2030年にはグループ全体の3割を占める30億円の営業利益をM&Aによりグループ入りした企業によって稼ぐ計画を発表しています。

2020年 イートアンドホールディングス×一品香(「横濱一品香」を運営)

イートアンドホールディングスが買収した一品香ではほとんどの店長や従業員は辞めず、昭和30年創業の地域の伝統を守りました。既存店のリブランディングオープンや、新規の出店も行っています。冷凍餃子の製造で培った食品製造ノウハウを生かし、自社製麺や冷凍ラーメンの製造も併せて行っています。

2020年 鉄人化計画×直久(「直久」を運営)

「カラオケの鉄人」等を運営する鉄人化計画は、フククルフーズより「麺処直久」、「らーめん直久」を運営する直久の全株式を取得のうえ子会社とし、フククルフーズのラーメン事業を株式会社直久にて譲受しました。鉄人化計画は新規事業によりでカラオケ事業一辺倒からの脱却を目指している中で、カラオケ事業と相関の高いラーメン事業に目を付けました。新規出店を増やすことで、地域密着型の店舗展開を目指すと同時に、ブランドイメージを大事にするため、急速な出店計画をたてず、丁寧な出店を目指しています。

2019年 吉野家ホールディングス×ウィズリンクホールディングス(「ばり馬」を運営)

吉野家ホールディングスがとんこつ鶏がら醤油スープのラーメン「ばり馬」を中心に運営するウィズリンクホールディングスを買収した。ラーメン事業の買収は2016年に買収した「せたが屋」以来の2件目になります。直近の24年4月にも、ラーメン店向けの麺・スープ・タレなどの関連商品の開発や製造を手がける宝産業株式会社を買収しています。次なる柱をラーメン事業と位置づけ、外食企業大手が本格攻勢を仕掛けています。

2019年 ギフトホールディングス×ラーメン天華、ケイアイケイフーズ

「町田商店」や「豚山」、「がっとん」を中心に運営するギフトホールディングスはラーメン天華を運営する、ラーメン天華と、自社製麺と餃子製造のケイアイケイフーズを買収しました。北関東エリアの事業基盤の強化を狙ったものです。ギフトホールディングスは2020年時点の直営100店舗から勢いを止めずに、現在は国内外726店舗(23年12月現在)にラーメン事業を展開しています。国内6つの自社工場から製造機能を強みにもち、26年10月期には現在の倍近い、売上400億を目標に今後も国内外において積極的に出店を拡大する予定です。

2017年 トリドールホールディングス×ZUND(「ZUND屋」を運営)

丸亀製麺を運営するトリドールホールディングスが買収したZUND屋を運営するZUNDでは24年3月時点で80店舗まで拡大し、M&A実行時国内33店舗海外1店舗だったより倍以上に増えています当初上場を検討していた中で、内部管理体制や労務管理能力の弱さを痛感しており急角度での成長を実現するために売却に舵を切りました。丸亀製麺事業で培った「手間暇かけてこだわって展開する」と同時に、「スピーディーに効率的に展開する」という二律両立の経営で、外食企業最大手企業の一翼を担っています。

2014年 クリエイト・レストランツ・ホールディングス×YUNARI(「つけめんTETSU」を運営)

「マルチブランド・マルチロケーション戦略」のもと外食大手となった、クリエイト・レストランツ・ホールディングスが「つけめん TETSU」等のブランドを運営する株式会社YUNARIを買収しました。買収後は愛知、大阪、京都など全国でショッピングモールや、駅ビル等でも店舗展開をしております。

ブランドを0から作りあげた創業オーナーから、店舗展開力、資金力のある大手企業、大手外食企業がバトンを受け継ぎ、長く続くブランドへと進化をしていくことができることもM&Aの魅力です。業界全体としては、価格競争力のある大手企業が買収したブランドをブラッシュアップし、出店を重ねることで、業界の再編がさらに進むと考えられます。

店舗数ごとのオーナーの悩みと譲渡理由

当社では年間数十件のラーメン店の譲渡相談を受けます。譲渡相談の中で、M&Aにおけるメリット、デメリット等、お伝えさせて頂く内容はオーナー様の目指したい方向性によって変わります。以下、店舗数に応じて、よくお伺いするお悩みやМ&Aの検討背景について解説致します。

1店舗~2店舗

創業時の体制で、オーナーが現場を見ながら数人のアルバイトや共同で始めたスタッフとともに現場を回しています。
この段階では個人商店に近く、日々おいしいラーメンを作る、知名度を上げ集客を伸ばすということが一番の仕事です。店舗展開を考えるオーナーであれば、店長の育成や、採用、味を同じにするのか、セカンドブランドを作るのか、事業展開について悩み始める時期です。
この段階でM&Aを考える方の多くは、後継者がいないか、別の事業をしてみたい等が挙げられます。

2~5店舗

1店舗目が人気となり2店舗目、3店舗目と順調に出店し、オーナーとしても一番楽しい時期、楽しい規模感ではないでしょうか。自身の目の届く範囲で管理もでき、従業員ともコミュニケーションをとりながら日々各店舗の集客数、1店舗ずつ売り上げを上げるために努力をします。
一方で、店舗数が増えると、「セントラルキッチンを作り、各店舗での味を均一化する」のか「店内調理にこだわりあえて違いを出す」のか等、店舗展開におけるラーメンのクオリティー面に悩みが行くことがあります。こだわりが強いオーナーのラーメン企業が更なる店舗展開をしようとすると、何かを捨てる作業が必須になってきます。
この段階からは、後継者不在以外でも当社に相談をされるオーナーが格段に増えてきます。
他社とのМ&Aを行い、社長だけのワンマン経営から脱却することで、

5~10店舗

地域では名の知れた有名店になり、社長の人脈も広がります。現場に行く回数が減る社長も増え管理業務が多くなってきます。人の採用、労働時間の管理、出店費用や全体のコスト管理、従業員のモチベーションを上げる施策や新メニュー開発、出店店舗の視察等やることが大きく増えます。会社の売上、利益を上げる、従業員の給料を上げるためには会社は成長をしなければいけません。このように会社を成長させるために、やらなければいけないことが増え、社長自身の“疲れ”から譲渡を決断されるケースも増えます。

10店舗~30店舗

会社が大きくなると同時に、業態・出店フォーマットが確立してきているため、出店が単純作業に感じる社長がいらっしゃいます。従業員も成長し、社長業務負担が減る半面、創業当時のこだわり、勢いが薄れてくるケースがあります。つまり社長の“やり切った感”や “飽き”が出ていきます。
コロナ禍以前の2010年代後半では、この段階で相談をもらうことが多く、数多くの人気ラーメンチェーンが、大手企業やファンドに譲渡しています。
オーナー企業としての成長の限界を超え、10年、20年、30年と生き残るブランドへとつながる分岐点に差し掛かかる時期だからこそ、自身が作り上げたブランドを第三者に託す選択肢をフラットに検討する必要があるのではないかと思います。

M&Aのタイミングに正解はありません。ただ1店舗目が繁盛し、2店舗目の出店を検討するタイミングで店主から、社長になります。社長のなった段階で、ラーメン店のオーナーは企業経営を考えます。企業経営を考えるタイミング=M&Aも考え始めるタイミングとしても良いのではないでしょうか。

食品業界のM&Aへのご関心、ご質問、ご相談などございましたら、下記にお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。
買収のための譲渡案件のご紹介や、株式譲渡の無料相談を行います。
また、上場に向けた無料相談も行っております。お気軽にご相談ください。

日本M&Aセンターでは、事業売却をはじめ、様々な手法のM&A・経営戦略を経験・実績豊富なチームがご支援します。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。

著者

岡田 享久

岡田たかだ 享久たかひさ

日本M&Aセンター業界再編2部/食品業界専門グループ

神奈川県出身。早稲田大学法学部卒業後、大手保険会社にて営業企画・債券投資業務に従事し、日本M&Aセンターに入社。外食・食品業界専門チームにて、企業の存続と発展に向けたM&Aの提案に従事している。

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