M&Aでノウハウを獲得し、急成長したスーパーマーケットを解説
⽬次
- 1. スーパーマーケットが今後採るべきM&A戦略とは
- 2. 規模拡大型M&Aの事例
- 2-1. 買い手:北雄ラッキー 売り手:熊谷商店(ドミナント戦略)
- 2-2. 買い手:Olympicグループ 売り手:あまいけ(ドミナント戦略)
- 2-3. 買い手:ゆめマート熊本(イズミ) 売り手:西友(九州エリア)(ドミナント戦略)
- 2-4. 買い手:イオン北海道 売り手:西友(北海道エリア)(ドミナント戦略)
- 2-5. 買い手:OICグループ 売り手:イトーヨーカドー堂の一部店舗(エリア拡大)
- 3. ノウハウ獲得型M&Aの事例
- 3-1. ドミナント戦略とはいいきれない株式会社OICグループのM&A戦略
- 3-2. 面白い売り場で急拡大した「ドン・キホーテ」
- 4. 最後に
- 4-1. 著者
こんにちは。株式会社日本М&Aセンター食品業界専門グループの豊田匡です。
今回は、「自社にないノウハウを獲得し、付加価値を高めたスーパーマーケットのM&A戦略」というテーマでお伝えします。
スーパーマーケットが今後採るべきM&A戦略とは
2024年4月1日から「2024年問題」と、5年前から取り上げられてきた時間外労働の上限規制が、「運送業・建設業・医師」にも適用がスタートしました。
働き方改革に伴って労働基準法が改正され、3業種以外は、2019年から時間外労働に上限が設けてられていましたが、3業種は5年間の準備期間が設けられていました。
また、世界情勢の大きな変化でエネルギー価格が上がり、2023年1月使用分から開始した経済対策の一つである「電気・ガス価格激変緩和対策事業」も2024年5月31日で終了しました。
最低賃金のアップ・歴史的な円安・2024年問題など様々な環境の変化があり、消費者物価指数食品(全体)の2024年4月度前年同月比は4.3%でしたが、夏以降2023年度下期平均の8.2%近くまで上昇していくと予測しています。
単純は販売価格へのコスト転換は、客離れを招いてしまいます。それに見合う付加価値の提供を業界問わず悩んでいると思われます。
そのような状況下で、これまでスーパーマーケットは規模の拡大を主たる目的としてM&Aを多く実行して来ましたが、ただただスケールメリットを取りに行くだけでは消費者のニーズに応えられない経済環境となりつつあり、それらを打破すべく、独自のノウハウを獲得するためのM&Aに舵を切るスーパーマーケットが出てきています。
本コラムでは、過去に実施されてきた規模拡大型のM&A及び、新たな戦略として増えているノウハウ獲得型のM&Aを解説すると同時に、今後スーパーマーケットが採るべきM&A戦略を解説して行きます。
参照:総務省・2020年基準消費者物価指数・2024年4月中分類指数(全国)
規模拡大型M&Aの事例
当社独自調べで2024年度スーパーマーケット業界では約20件のM&Aが実施されており、2023年度M&A年間件数を5ヶ月目で超える勢いです。
スーパーマーケット業界は、イオンとセブン&アイ・ホールディングスの2台巨頭が主導して業界再編が進みましたが、多くのロイヤルカスタマーを獲得している地域密着型の有力企業のドミナント戦略と新規エリア進出によるM&Aはまだ多い業界です。
買い手:北雄ラッキー 売り手:熊谷商店(ドミナント戦略)
北雄ラッキーは、スーパーマーケット事業の熊谷商店(北海道白老町)からスーパーマーケット事業を譲り受けました。
熊谷商店は、「スーパーくまがい」を運営しており、北雄ラッキーは道央地区での店舗拡大を図っています。
顧客の囲い込み(商圏・シェア強化)、大量発注によるコストダウンや物流の効率化を目的としてM&Aだと考えております。
買い手:Olympicグループ 売り手:あまいけ(ドミナント戦略)
Olympicグループは、食品スーパーマーケット運営のあまいけ(東京都東久留米市)を2023年11月に買収しています。
あまいけは、東京都多摩地区を中心に11店舗展開しており、Olympicグループは東京都多摩地区での店舗網の拡充、仕入れなどでシナジーを見込んでいます。
買い手:ゆめマート熊本(イズミ) 売り手:西友(九州エリア)(ドミナント戦略)
イズミは、ゆめマート熊本を通じて、西友から会社分割により九州地域で「サニー」ブランドなどで展開しているスーパーマーケット69店舗を買収しました。
イズミは、仕入れ・販促・物流などでシナジーを見込んでいます。
買い手:イオン北海道 売り手:西友(北海道エリア)(ドミナント戦略)
イオン北海道は、西友から会社分割により9店舗を買収しました。
イオン北海道は、個店ごとに最適な店舗フォーマットにリニューアルを検討しており、仕入れ・物流でスケールメリットなどのシナジーを見込んでいます。
買い手:OICグループ 売り手:イトーヨーカドー堂の一部店舗(エリア拡大)
食品スーパーロピアを運営する株式会社 OIC グループは、セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカドー堂(東京)から北海道・東北・信越エリアの一部店舗を買収しました。関東中心のロピアが新エリア進出のM&Aとなります。
ドミナント戦略型M&Aで私が注目しているのは、78店舗を地域の有力企業へ譲渡した、西友の切り離し型M&Aです。
西友は2023年2月期について売上6,647億円、経常利益270億円と報じられております。
そして、西友の85%株主が不動産ファンドであるため、今後も「分割」または「一括売却」の可能性があります。
西友は2024年3月15日時点で323店舗を展開しており、今後もM&Aでどのエリアを切り離すのか、またその時はどこが買収に乗り出すのか今後に注目が集まっています。
ノウハウ獲得型M&Aの事例
ドミナント戦略とはいいきれない株式会社OICグループのM&A戦略
2024年2月セブン&アイホールディングスのイトーヨーカ堂が、北海道、東北、信州など7店舗を株式会社 OIC グループへ譲渡して撤退を発表いたしました。
株式会社OIC グループのロピアは、関東から全国へ出店エリアを拡大しています。
また、2024年4月18日株式会社タイシステム(新潟県中魚沼郡)と資本業務提携を発表しました。
タイシステムは、主に公園・公共施設や商業施設屋上などのバーベキュー会場の運営管理を行なっており、飲食店運営、スキースノーボードスクール運営を行っている企業です。「ロピアでお買い物した食材をカートのまま屋上BBQ場へ持ち込み飲食を楽しむ」「大型ブロック肉の解体ショー」など、シナジーが見込めると発表をしています。
株式会社 OIC グループは1971年に創業し、2015年度701億円だった売上は、2023年度グループ合計で4,126億円と急拡大している企業です。
また、1店舗の平均売上が約40億円と業界平均15億前後を大きく上回る収益力です。
私も週末ロピアに買い物へ行きますが、元精肉屋専門店ということも、希少部位がたくさん並んでおります。
厚めにカットしたお肉の見た目にいつも驚かされて、ついつい買ってしまいます。また、お肉だけでなく他の生鮮食品・惣菜なども品質と安さが際立っているように感じます。
この売り場を実現しているのが、各売り場の仕入れが権限移譲されていて、独立した商店のように社内で競争する構造になっている点とドミナント戦略以外のM&A戦略です。
2024年2月に惣菜や煮物類の販売を展開する京都食品株式会社、2023年には養鶏を運営する稲葉ブロイラーを買収し、生産製造企業をグループ合計7社有しています。
面白い売り場で急拡大した「ドン・キホーテ」
株式会社OICグループより先に、権限移譲やノウハウ獲得型M&Aで急成長した企業があります。
それは、「ドン・キホーテ」を運営する株式会社パン・パシフィック・インターナショナルです。
2023年6月期の決算にて売上高1兆9,368億円、営業利益は1053億円(前年比18.7%増)過去最高を更新し、34期連続の増収増益を果たしています。
グループ全体の店舗数は国内617店舗でコロナ渦においても堅調な業績を誇っています。
2006年2月にダイエーのハワイ子会社を買収、2007年にはホームセンター老舗のドイト、長崎屋を買収しています。
また2019年にはユニー株式会社を完全子会社化と続いています。
長崎屋の買収によりこれまで弱かった食品部門のノウハウを獲得することに成功し、生鮮食品なども取り扱う「MEGAドン・キホーテ」を次々と展開することになります。
またユニーは、ドン・キホーテとの共同店へ転換し、業績を伸ばしていきました。
ドン・キホーテが急成長した要因にあります午前~深夜・早朝まで開店している「ナイトマーケット」、圧縮陳列やPOP洪水等の目が行きがちですが、独自ビジネスモデルに足りない要素はM&Aで補ったのは見逃せない戦略といえるでしょう。
最後に
株式会社OICグループも株式会社パン・パシフィック・インターナショナル同様、自社に足らないノウハウをM&Aで獲得し、自社の強みと掛け算をして独自の付加価値を創造しています。
「ワクワクするお買い物」を提供することが、スーパーマーケットのこれからの姿だと考えています。
スーパーマーケット業界は、ドミナント戦略型M&Aによる売上拡大に偏りがちでしたが、急成長した2社はノウハウ獲得型のM&A戦略を実行することで業態の付加価値を高め、更に多様化する消費者ニーズに応えています。
我々食品業界専門グループは、上記2社のような大手スーパーマーケット以外にも、地域の食文化の存続と発展に貢献すべく、地域密着型のローカルスーパーに対しても、ノウハウ獲得型のM&Aをサポートして行きたいと考えています。
当社では、食品業界の生産・加工・流通・販売まで幅広いM&Aの累計成約実績が300件以上ございます。
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