コラム

コロナ以降における外食業界のM&A動向|外食業界の中食への展開

大沼 侑生

日本M&Aセンター業界特化2部/食品業界専門グループ

業界別M&A
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日本M&Aセンター食品業界支援グループの大沼 侑生です。 当コラムは、日本M&Aセンターの食品専門チームのメンバーが業界の最新情報を執筆しています。 今回は「外食業界のM&A動向」について解説します。特に、外食業界が中食の企業を買収した事例について解説いたします。

外食業界の近況

近年の外食業界について解説いたします。 外食業界は、2020年初めに新型コロナウイルスのパンデミックの影響を受け、休業要請や営業の自粛などを余儀なくされました。

日本フードサービス協会の調査によると、一時はコロナ禍前(2019年)の売上高の約10%まで落ち込んでいたと報告されています。 しかし、2023年5月に新型コロナウイルスが5類感染症に移行したことで、外食業界の営業は次第に再開されていきました。

これに加えて、消費者の反動的な動きもあり、外食業界の売上は急激な回復を見せました。 2023年5月時点では、コロナ以前の約70%の水準まで売上高が回復してきました。

しかしながら、外食業界がこのまま以前の水準まで回復していくことは難しいかもしれません。外食企業の倒産件数が増加傾向にあるためです。 コロナ禍直後は倒産する企業が多かったものの、公的な支援などもあって落ち着いた状況が続いていました。 しかしながら、ここにきて、またもや倒産件数が増加傾向にあります。

コロナ禍以降、外食業界を苦しめている課題は大きく2つあります。

人件費の高騰による人手不足

1つ目は、人件費の高騰による人手不足です。 パンデミック以前の2019年には最低賃金(1時間あたり)は901円でしたが、2024年現在では1004円に上昇しています。

売り上げは回復基調にあるものの、人件費の上昇に対応できない企業が増加しています。 人手不足により、十分なサービスの提供ができず、客離れを招くという負のスパイラルを起こす企業も少なくありません。

外食業界でアルバイトなど非正規社員の不足を感じている企業の割合は9割超といわれており、大半の企業が人手不足を実感しています。

大手企業では、人材獲得のために給与を上げたり、配膳ロボットの導入などの機械化を進めたりする事例も増えてきていますが、小規模事業者にはこうした対応が難しく、厳しい状況に立たされ、倒産や廃業を選ぶケースも見られます。

食事習慣の変容

2つ目は、食事習慣の変容です。 パンデミックの影響により、昼食を自宅で食べる機会が増え、テイクアウトなどを利用する家庭が増えています。

さらに、酒類を提供する飲食店に対しても営業制限が実施されたため、自宅での飲酒が増え、家庭内での飲み会や飲み物の提供が一般的になりました。

これは「外に飲みに行けないから家で食べる」「外に飲みに行けないから家で飲む」といった後ろ向きな消費行動の結果と言えます。 しかし、中食の需要は高まっており、家飲みの習慣も消費者に定着しつつあります

徐々に「自分のペースで、ゆっくり食べる」「自分のペースで、ゆっくり飲む」といった前向きな消費行動へと変化していった人も多くいます。 一度根付いてしまった習慣が変容するには、かなりの時間を要することでしょう。

これら2つを要因として、外食事業が苦境を迎える中で、外食業界はどのような戦略を取るべきなのでしょうか。

外食業界によるM&Aの成約事例~“中食”事業への展開

外食産業は人員確保に苦戦しており、内食業界への消費者の流出が問題となっています。 このような状況の中で、パンデミック以降、外食企業が中食事業を取り入れる動きが増えています。

中食事業は、外食業界において、比較的手軽でリーズナブルな価格帯で提供される食事を指します。 例えば、弁当や惣菜、おにぎりなどが中食に分類されます。 パンデミックの影響により、自宅での食事需要が増えたことや、外食業界が人手不足に悩む中で、中食事業を取り入れることで需要の確保や労働力の活用を図る企業が増えているのです。

外食企業が中食事業を取り入れることで、以下のようなメリットがあります。

需要の多様化

中食事業を取り入れることで、外食と自宅食の間に位置する需要層を取り込むことができます。 自宅での食事や持ち帰り需要が高まっている中で、中食事業を提供することで需要の多様化を図り、売上の安定化を図ることができます。

労働力の活用

中食事業は比較的手軽な食事を提供するため、調理や提供において労働力の活用が比較的容易です。 外食業界が人手不足に悩む中で、中食事業を導入することで労働力を効率的に活用することができます。

ブランド力の向上

中食事業を取り入れることで、企業のブランド力を向上させることができます。 中食事業の提供において独自性や魅力を持つことで、顧客の関心を引き付けることができます。

新たな収益源の創出

周辺事業の拡大により、新たな収益源を創出することができます。 例えば、外食企業が中食事業やデリバリーサービスなどに進出することで、需要の多様化や新たな顧客層の取り込みが可能となります。

原料調達コストの低減

周辺事業の拡大によって、原料の調達コストを低減することができます。 例えば、自社農園や畜産場を持つことで、食材の安定供給やコスト削減が可能となります。

店舗オペレーションの効率化

周辺事業の拡大によって、店舗オペレーションの効率化が期待できます。 例えば、物流や配送の共有化、ITシステムの導入などによって、効率的な運営やコスト削減が可能となります。

このように、外食企業が中食事業を取り入れることで、需要の多様化や労働力の活用、ブランド力の向上などのメリットを享受することができます。 以下では、具体的な事例の紹介を行います。

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中食への展開を目的に行ったM&A事例

【事例1】ゼンショーホールディングス×ロッテリア

2023年2月16日、ゼンショーホールディングスはロッテリアの買収を発表しました。 ゼンショーホールディングスは、牛丼の「すき家」やファミリーレストランの「ココス」、回転寿司の「はま寿司」などを運営する日本の外食大手であり、2022年度の売上高は6,585億円と、日本の外食企業の中でも最大手の企業です。

一方、ロッテリアはロッテホールディングスが運営するハンバーガーチェーンであり、国内には358店舗を展開しており、マクドナルドやモスバーガーに次ぐ第3位の規模を持っています。

経緯および得られる相乗効果

パンデミックによって外食産業が下火になる中で、中食の習慣が消費者の間で広まっていき、中食市場は着実に成長しておりました。

2020年時点で約8兆円のマーケットに拡大していました。 その中で、ゼンショーホールディングスはM&Aによって中食のハンバーガー業界へ展開することを選びました。

本業である外食市場の回復を待つのではなく、消費者の行動の変化に合わせて周辺事業への拡大を行うことで業績の拡大が期待できます。 その他にも、原料の調達コストの低減や店舗オペレーションの効率化など、さまざまな相乗効果が考えられます。

さらには、周辺事業の拡大によってブランド力の向上や競争力の強化も期待できるM&Aです。

【事例2】SRSホールディングス×株式会社NIS

2023年2月1日、SRSホールディングスは株式会社NISの全発行株式を取得し、子会社化しました。 SRSホールディングスは、和食を中心とした外食ブランド「和食さと」、「天丼・天ぷら本舗さん天」、「にぎり長次郎」、「家族亭」、「得得」、「宮本むなし」、「ひまわり」、「かつや」、「からやま」などを直営およびフランチャイズ展開している企業です。

一方、株式会社NISは唐揚げ専門店「鶏笑」を運営し、テイクアウト唐揚げ専門店の競争が激化する中で、約250店舗という国内外での店舗展開を実現しています。

経緯および得られる相乗効果

パンデミックによって消費者の生活、行動が変容した結果、外食事業の市場は伸び悩みを見せる中で、“中食”の市場が拡大してきました。 “中食”の市場に展開していくことで、回復しきらない外食産業に頼ることなく、成長をしていくことが可能だと考えたためだと思われます。

低価格帯のポートフォリオを強化することが可能になり、グループ一括買い付けによる原材料のコストダウンや、新商品の開発、既存事業とのコラボレーション等によりグループシナジーを具現化することが可能となります。

鶏笑各加盟店の更なる収益アップや、グループの中食事業のより一層の拡大を見込むことのできるM&Aです。

以上のように、周辺事業の拡大には多くのメリットがあり、業績の拡大や原料調達コストの低減、店舗オペレーションの効率化など、さまざまな相乗効果が期待されます。外食企業は、消費者の行動変化に敏感に対応し、戦略的な拡大を行うことで競争力を強化し、持続的な成長を実現することが重要です。

最後に

コロナ禍以降に外食企業が手掛けたM&A事例の中でも、特に外食事業を行っている企業が中食企業を買収する事例を中心に紹介いたしました。

外食企業は中食事業を取り入れることによって、パンデミックや最近の時流に対してのリスク回避ができ、グループ全体でみると盤石な体制を確立することができます。

中食事業を行っている企業からすると、大手企業の傘下に入ることで、今まで自己資本では出店ができなかったほどの店舗数の拡大が可能となったり、店舗運営のノウハウを得られることによって今まで以上に効率の良いマネジメントが可能になります。

仕事終わりにお惣菜やファストフードなどを家に持ち帰って食べる人が昨今増加しているなかで、こういったM&Aによって、中食のお店が拡大していき、家の近くに今までなかった店舗ができて、色々な選択肢を選べるようになれば嬉しいですね。

様々な環境的要因によって、本業が苦境に追い込まれているときは成長している周辺事業に展開していくことも1つの選択肢なのかもしれません。

周辺事業に展開していく際に、自社で0から立ち上げるのではなく、既存の企業とM&Aによって競業することで、スピード感のある周辺事業への展開が可能になることでしょう。 また、M&Aを活用することで様々なシナジーも期待できるのではないでしょうか。

いかがでしたでしょうか? 食品業界のM&Aへのご関心、ご質問、ご相談などございましたら、下記にお問い合わせフォームにてお問い合わせを頂ければ幸甚です。 買収のための譲渡案件のご紹介や、株式譲渡の無料相談を行います。 また、上場に向けた無料相談も行っております。お気軽にご相談ください。

日本M&Aセンターでは、事業売却をはじめ、様々な手法のM&A・経営戦略を経験・実績豊富なチームがご支援します。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。

著者

大沼 侑生

大沼おおぬま侑生ゆうき

日本M&Aセンター業界特化2部/食品業界専門グループ

2002年京都府生まれ。東北大学経済学部を卒業後、新卒で日本M&Aセンターに入社。 外食・食品業界専門チームにて、企業の存続と発展に向けたM&A支援に取り組んでいる。

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