【広報誌「MAVITA」Vol.4より】 スポーツビジネスとM&A Bリーグ初制覇を果たした広島ドラゴンフライズ
⽬次
- 1. 広島ドラゴンフライズについて
- 1. Bリーグ初制覇までの歩み
- 2. M&Aがクラブにもたらしたもの
- 3. 「勝敗に左右されない経営」の実現
- 4. 日本一のクラブを目指して
- 4-1. プロフィール
日本プロバスケ界の歴史に残るシンデレラストーリーに——。クラブ創設10年目で、バスケットボールBリーグで初優勝を飾った広島ドラゴンフライズは、シーズン王者を決めるチャンピオンシップ(CS)で順位が上回るクラブを次々と撃破し、見事〝下剋上″を成し遂げました。2018年に日本M&Aセンターによる仲介でM&Aを実行、NOVAホールディングスを親会社に迎え、安定したクラブ経営の実現とチームの急成長の先に手にした栄冠。M&Aを成約に導いた日本M&Aセンター東日本事業法人3部長の井東純平が、広島ドラゴンフライズ代表取締役の浦伸嘉社長にクラブ経営や今後の夢をお聞きしました。(日本M&Aセンターが発刊する広報誌「MAVITA」Vol.4より転載)
広島ドラゴンフライズについて
広島県をホームタウンとするプロバスケットボールチーム。2013年に創設され、2023-24シーズンにはワイルドカードからすべてレギュラーシーズンの成績で上位を行くチームを倒し、B1初優勝を達成。
Bリーグ初制覇までの歩み
井東 : B1(Bリーグ1部)初優勝おめでとうございます。私も地元広島の友人から「ドラフラ優勝したね」と連絡をもらい、東京にいても広島のバスケ熱を感じることができました。
浦社長: ありがとうございます。皆様に最高の結果で恩返しできたと思っています。優勝をさらなるファン獲得のきっかけとし、クラブ経営でも日本一を目指していきます。
井東 : Bリーグが発足した16年から社長を務めるクラブの歩みをお話ください。
浦社長: 広島ドラゴンフライズは広島を基盤とするプロバスケットボールクラブで、Bリーグ発足時はB2(2部)からスタートしました。私が社長に就任した時、クラブは赤字経営かつ債務超過の状態でした。転機は18年のM&Aです。NOVAホールディングスが親会社となり、資本力はもちろん、人的サポートもいただき、急激な成長を実現することができました。チームもB1に昇格して、球団設立10シーズン目の2023‐24シーズンは、初めて年間チャンピオンとして日本一を獲得しました。B2を経験したクラブでは初めての優勝で、順位も資金力も上回る相手をアップセットで〝下剋上じゃけえ〟を果たし、スポーツのロマンを体現できました。
井東: まさにシンデレラストーリーですね。コロナもあり、スポーツビジネスとしても荒波を乗り越えた先のチャンピオンでしたね。
浦社長: 今ではもう信じられないですが、コロナ禍で無観客もやりましたし、入場制限があるなかの試合で興行収入も望めず、補償があるわけでもなかったので本当に大変でした。とはいえ、オーナー企業と連携して長期戦略を立て、しっかりと投資をしてチームとしても会社としても大きく成長し、B1昇格とB1優勝を達成できたと思います。
優勝セレモニーの様子。BリーグファイナルではB1連覇のかかる琉球ゴールデンキングスを下し、「下剋上」を実現した(広島ドラゴンフライズ提供)
M&Aがクラブにもたらしたもの
井東: M&Aがクラブの転機になったとのことで、どんな変化があったのでしょうか。
浦社長: クラブとしては過去にもオーナーチェンジを経験しており、社長の役割として、いかにして親会社がオーナーシップを発揮できる環境を整えていくかだと考えていました。議論を重ね、オーナーのやりたいことや方向性を実現するため、速やかにオーナーシップを発揮してもらうことがクラブとチームの成長につながると確信していました。スタッフには、私は受け入れ側の役割に徹することを伝え、親会社の規模や経営力を活かし、ベクトルを合わせることを意識していました。最終的には、このオーナーシップの発揮がチームの成果にも結び付いたと思います。M&A直後は、「なぜ東京の会社が」といった意見もいただきましたが、親会社の出向の方がクラブの事業運営の仕組みづくりをしてくれて、グッズの内製化も実現できました。グループを挙げて支援してもらい、アウェーの遠征先でも応援してもらって、素晴らしい関係性が築けていると思います。
井東: 浦社長も元プロ選手で、バスケとビジネスの共通点はあるのでしょうか。
浦社長: バスケットボールは展開が速いし、競技特性上たくさんの数字から分析できます。単純なスコアだけではなく、このメンバーの組み合わせが、一番攻撃力が高いなどの数字も出てきます。瞬間的な判断が常に求められるので経営者好みの競技かもしれません。アリーナでもバスケ好きな経営者の方とよくお会いします。これまでの経験から、結果を出すコーチと経営者の共通点を見つけました。最も大切なことは統率能力で、強力なリーダーシップを持って、組織を引っ張り上げないと成長曲線は描けません。その統率能力を下支えする資質として、公平さ、言行一致、情報収集能力があり、リーダーに求められていると捉えています。私自身も常にそうであろうと意識しています。
河田チリジ選手(写真中央)の活躍など、怪我で主力選手を欠く中で初優勝を果たす(広島ドラゴンフライズ提供)
他のチームでは選手の入れ替えが激しい中、広島は選手をほぼ変えずにチームづくりを実現(広島ドラゴンフライズ提供)
「勝敗に左右されない経営」の実現
井東: スポーツビジネスの難しさと面白さをお教えください。
浦社長: 難しい面はいろいろとありますが、直接的に売り上げにつながらない取り組みが非常に大事だという点です。360度がステークホルダーと言っても過言ではありません。行政機関やスポンサー、メディア、バスケットボール協会などとの良好な関係構築が求められます。クラブ経営の透明性を高めて地域の信頼とファンを獲得するため、普及活動や広報活動など信頼構築のための活動を一所懸命やっています。また、勝負の世界ですが、「勝敗に左右されない経営」も目指さなければいけません。チームと選手が最大の商品というなかで、価値を高めセールスしていく仕組みも必要です。日本のスポーツビジネスは昔から、ナショナルカンパニーの後ろ盾がないと成り立たないビジネスモデルだと言われてきました。ただ個人的には、親会社からの補填を減らして、いかにクラブとして自立して成長していけるかを追求することが経営者としての手腕の見せ所だと考えています。難しさもありますが、何よりお客様に感動という価値を届け、一緒に共有できる素晴らしい仕事です。
井東: 経営者として心構えをお聞かせください。
浦社長: 常に与えられた仕事の期待値を超えていくことを考えています。広島ドラゴンフライズの経営者として、オーナーから求められた役割をいかに超えていけるかが重要です。また経営者以上に企業は成長しないと考えています。トップの成長が企業の成長につながり、トップの停滞は企業の停滞に直結します。だからこそ経営者の責任は非常に重いものです。常に学んで成長する意欲を忘れず、責任と自覚を持って成長にこだわる姿勢がないと社長は務まりません。
日本一のクラブを目指して
井東: 最後にクラブの今後の目標をお教えください。
浦社長: 優勝という結果を一過性のものにせず、売り上げやファンクラブ会員数なども含めて日本一のクラブ経営を目指していきます。広島はスポーツ王国で、プロ野球では広島東洋カープ、Jリーグではサンフレッチェ広島があります。それぞれマツダスタジアムとピースウイング広島ができて大きく発展しました。Bリーグでは近年、新アリーナが続々と整備されており、我々もこの街で新アリーナを建てたいです。最高のエンターテイメントを届けることができる新アリーナを通じ、広島の発展にも貢献できると信じています。26年にBリーグは大改革を予定しており、日本一のクラブを目指すため最上位のBプレミア入りは絶対条件です。クラブの価値とブランドをさらに高めて、国内外、そして世界へ広島を発信していきます。
写真:富本 真之