[M&A事例]Vol.145 地元優良企業の経営危機。初M&Aで譲受けを決めた経営者の決断
北海道全域で道路の舗装工事を行う道路建設は、当初掲げていた条件とは異なる企業を譲り受けます。M&Aから1年たった今、決断の背景と現在の状況を伺いました。
譲受け企業情報
※M&A実行当時
福島県いわき市に本社を置くエンドーウェルディング。「配管溶接のプロフェッショナル集団」として発電所や大型プラントで溶接事業をしてきましたが、福島第一原子力発電所の事故により事業環境が一変します。リスク分散のため事業の幅を広げることを決め、さらなる成長のための投資として2021年10月に電気工事事業の計電エンジニアリングを譲り受けました。M&A 決断の背景と、成約から現在までを遠藤 修司社長にお聞きしました。(取材日:2023年7月10日)
――はじめに貴社の事業内容をご紹介ください。
譲受け企業 エンドーウェルディング 遠藤様: 当社は1974年に父親が設立しました。それまでは京浜・京葉工業地帯で個人事業主として事業をしていましたが、1973年のオイルショックの影響で石油化学などの重化学工業が落ち込み、ちょうど同じ時期に福島第一原子力発電所の建設が始まると聞いて、仕事を求めて福島県富岡町に有限会社遠藤溶接工業を設立したのが始まりです。
以来、「配管溶接のプロフェッショナル集団」として、全国の発電所や大型プラントの配管溶接工事、ガスパイプラインの建設工事に従事してきました。配管溶接は、高所作業をはじめ、さまざまな作業環境で多種多様な素材の溶接を行うことから、溶接の中でも実績と高い技術が求められます。特に当社が手掛ける発電所やパイプラインの溶接工事は、超音波検査や放射線検査をクリアする極めて高い施工精度が求められる現場ですが、父の代から働く熟練技術者が多数在籍していることを強みに、配管工事一式を請け負っています。
――今回、譲受けを検討するきっかけが2011年の東日本大震災だったそうですね。
遠藤様: 福島第一原子力発電所の事故によって、電力業界を取り巻く状況は一変しました。それまでは安定して仕事が見込めたものが、火力発電や新エネルギーの台頭で一気に先が見えなくなってしまったんです。実際に仕事量が減ったわけではなかったのですが、将来の不透明感が増す中でリスク分散のために新たな事業を模索し始め、その実現の手段の一つとしてM&Aがありました。
ただ、すぐに検討を始めたわけではありません。というのも原発事故によって会社があった富岡町が避難区域に指定されたため、移転を余儀なくされてしまったんです。とりあえずいわき市内に営業所を構えて、10年ほどは新たに工場や本社を建設するなど設備投資に奔走しました。そして新社屋の建設がひと段落ついたところで、次は会社の成長に投資をしようとM&Aの検討を始めました。
――どんな企業を探されていましたか。
遠藤様: プラントの電気工事を手掛ける会社があればと思っていました。プラント業界には、当社が手掛ける機械工事のほかに電気工事があるのですが、電気工事は手掛けていなかったからです。当社は全国で仕事をしているためエリアの希望はありませんでしたが、初めてのM&Aでしたしコミュニケーションのとりやすいエリアでとは考えていました。ほかには会社の規模がそこまで大きくないことと、技術や技能に強みをもっているかどうかという点は重視して検討を進めました。日本M&Aセンターから何社か企業を提案していただく中で、計電エンジニアリングはまさに条件にぴったりの会社でした。
――事業内容のほかにはどんな点に魅力を感じましたか。
遠藤様: 計電エンジニアリングは東京の会社で、同じプラント工事でしたが客先がほとんど異なっていたのが魅力でした。客先が違えば、お互いに新規顧客の獲得や既存顧客に新たなサービス提供ができるなど、クロスセルが見込めると思いました。 あとは、創業者の人見 雅康社長とお会いして、プライドをもって事業をされているのを感じました。客先も名の通った企業が多く、技術の高さや顧客の信頼の厚さを感じましたね。
――2021年10月の成約から2年がたとうとしていますが、どのようにM&A後の統合プロセス(PMI)を進めていきましたか。
遠藤様: 計電エンジニアリングの従業員とは、成約から年が明けた2022年1月から3ヵ月ほどかけて1対1の面談を行いました。M&Aの経緯をあらためて説明したうえで、会社をどうしていきたいか、そのために何が必要かといった要望を聞いていきました。
――皆さんの反応はいかがでしたか。
遠藤様: 従業員やお客様への影響を考えて、当面は役員の体制を変えないということでスタートしましたので、特に動揺はありませんでしたね。人見社長には社長続投をお願いして、私も取締役として加わり、月に数回、役員会議を重ねながら新たな経営体制づくりを続けてきました。 特に注力したのが未来に向けた人的投資です。経営に携わる人材を増やすべく、若手社員から一人、役員会議に参加するなど経験を積んでもらい、取締役に登用しました。今後は採用も積極的に行っていく予定です。
――2023年7月から新体制になりましたね。
遠藤様: 人見社長の退任に伴い、私の弟が計電エンジニアリングの社長に就任しました。これからは弟と連携しながら当初見込んでいた顧客獲得面でもシナジー効果を生み出していこうとしています。すでに当社から計電エンジニアリングに電気設計の発注もしていますし、当社は関東圏にも多くのお客様がいますので、ゆくゆくはエリアごとに双方の営業がどちらの顧客も担当するような体制をつくりたいと思っています。
現場でも役職者同士の交流は2ヵ月に1度のペースで行っているのですが、今後は現場の従業員同士も交流をもつことで新しいことにチャレンジできる環境ができたらいいですね。互いに切磋琢磨することで、将来的には会社を超えて役職を兼務するなど従業員のキャリアの幅を広げていきたいです。
――今後のビジョンをお聞かせください。
遠藤様: 私は、現場で働く人たちの技術や技能、プライドを守っていきたいと思っているんです。現在はコストを追求して大量生産が求められたり外国人労働者に雇用を奪われたりと厳しい環境下にありますが、それでも求められるようなプラスの価値を生み出していきたい。そのためにも今後も自社のできる領域を広げていきたいと思っています。
兄から社長就任を打診されたのは2022年11月です。自分に務まるだろうかと思いましたが、人生は一度きりと覚悟を決めました。現在は、取引先へ挨拶回りをしながら会社の状況を把握しているところです。 今後のビジョンとしては、まずは会社の土台をしっかり固めることが大事だと思っています。既存顧客から継続的に仕事がくる関係性づくりに注力するほか、エンドーウェルディングと顧客を紹介し合うなど、シナジー効果を高めていきます。
北海道全域で道路の舗装工事を行う道路建設は、当初掲げていた条件とは異なる企業を譲り受けます。M&Aから1年たった今、決断の背景と現在の状況を伺いました。
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空調・換気・給排水衛生設備工事、冷凍冷蔵設備を展開する三共ホールディングスに。空調施工会社を譲受けた目的、企業の譲受けで大切にしていることを伺いました。
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提携法人部 グループリーダー 太田 亮 (エンドーウェルディング株式会社担当)
遠藤社長は慎重さと決断力を併せ持つ経営者の方だなというのが私の第一印象です。東日本大震災のつらい経験をへて既存事業に固執せず柔軟な自社の可能性を模索される姿勢とその誠実なお人柄に、「なんとかエンドーウェルディング様の成長戦略のご支援がしたい」という想いにかられました。計電エンジニアリング様との出会いは隣接事業への進出によるクロスセルのシナジーが期待できる良縁だったと思います。