[M&A事例]親族承継ゆえの弱みをM&Aで解決できた

株式会社笹屋昌園 代表取締役 中西 章斗様

譲渡企業情報

  • 社名:
    株式会社笹屋昌園(京都府)
  • 事業内容:
    和菓子製造・小売業
  • 従業員数:
    15名

※M&A実行当時の情報

手間隙を惜しまない手仕事に込めた想い、「誠実職人主義」―澄んだ空気・恵まれた土地・豊かな水を求めて京都の龍安寺に程近い地で産声をあげた笹屋昌園は、老舗の京菓子屋である。大正7年に創業し、100年の歴史を持つ笹屋昌園の四代目社長・中西章斗様にたくみやホールディングス株式会社(以下「たくみや」)とのM&Aによるグループ企業化について話を伺いました。

(右)株式会社笹屋昌園 代表取締役 中西 章斗様(左)日本M&Aセンター 平岡正壮

(右)株式会社笹屋昌園 代表取締役 中西 章斗様 (左)日本M&Aセンター 平岡正壮

祖父に決められた家業承継の道

日本M&Aセンター(以下MA)平岡: 中西家四代目として家業を継ぐまでの経緯をお聞かせください。

中西様: 私は二人兄弟の弟でしたので、家業を継ぐ意識は全くなく、当時やっていた塾の講師で働いていこうと思っていました。しかし、兄は公務員の道を歩むことになったこと、祖父が周囲に「次に家業を継がせるなら次男の私に」と言い続けていたこともあり、20歳のときに当社に入ることになりました。入社当初の売上は年商10百万円程度と小規模で、かつ返済しないといけない借入金が毎年年間4百万、従業員はパート1名を除き親族のみ、と歴史を重ねた家業の中身の蓋を開けて見ると非常に厳しい内容で、本当にマイナスからの承継スタートでした。

実質創業者の気持ちで家業の改革に着手

MA平岡: 四代目襲名などといった悦に浸るほどの余裕はなく、入社後いきなり家業の改革を迫られたわけですね。

中西様: 代々継いできた家業であり外からは良く見えていましたので、内情を知ったときの不安は大きかったですね。しかし、家業ですから逃げ出すわけにもいかず、これは覚悟を決めて変えていくしかないと腹をくくりました。手始めに”社内の価値あるもの”が何かを探しました。まず目に付いたのは、わらび餅用に仕入れていた国産の本わらび粉でした。 私が入社した頃は、デフレ真っ只中の時代でA級品は値段が高くモノが余っている状況でしたので、周りと同じ量産の安いわらび餅を作っていたのでは勝ち目がないと判断し、A級品を使った高級路線に進むべく商品開発に着手しました。試行錯誤の末、新商品の本わらび餅「極(きわみ)」を開発し、主力のロングセラー商品に育てあげました。次に、販売チャネルの多様化に着手しました。当初店舗小売がメインでしたが、新たに”通信販売”にチャレンジし、当時どこもやっていなかった「生ものの通信販売」を始めました。 テストマーケティングとして、オークション市場に出品したところ、極めて高評価を受けたため、「高くても良いものであれば売れる」と自信を深め、以後楽天経由での通信販売チャネルの事業化を軌道に乗せました。代々「代表者も和菓子職人であれ」との教えもあり、品質管理に絶対の自信があったことも、新たな市場への挑戦を後押ししてくれた”社内の価値あるもの”だったと思います。 消費者心理とは面白いもので、安いもの、食べやすいものが必ずしも売れる(受け入れられる)とは限らないということです。当社のヒット商品本わらび餅「極」は弾力がありつつも柔らかいところが他とは違う特徴なのですが、スプーンですくって食べるという食べにくい特徴もあります。一見ネガティブな「食べにくい」ですが、そこが印象に残り話のネタになり、その場には食を通じて家族や友人の間に「和み」が提供できている。すべて狙って当てたわけではありませんが、少なくとも「モノ本位」で取り組んだ結果であり、「誠実」が根っこにあるから受け入れられたのだと感じています。

家業も軌道に乗り事業にするために法人化

MA平岡: 通販の拡大、百貨店との取引もスタートし、事業が順調に成長していきました。

中西様: 先代には、「笹屋昌園を法人化したい」との夢があり、その夢を叶えようと、2013年に株式会社笹屋昌園を設立しました。ちょうど同じ時期に、小学校からの幼馴染の岡村氏が、独立して会計事務所を立ち上げたこともあり、法人化を機に彼に手伝ってもらうことにしました。 その後も順調に売上は伸び続け、百貨店から催事の要請を受けてからは年商も100百万円を超え、親族だけで切り盛りしていた家業も、気がつけば正社員5名、パート・アルバイト10名と、私にとっては大所帯になっていました。全国の物産展など催しに呼ばれるようになりましたので、社内外の人員のコントロールをする必要が出てきました。これがなかなか大変で、職人であり経営者でもある私の業務は膨れ上がってきていましたが、幸い家族同様に寝食をともにしていた右腕的存在の従業員がいましたので、全面的に信頼して事業の拡大を続けられることができました。

(左)株式会社笹屋昌園 代表取締役 中西章斗 様(右)日本M&Aセンター 平岡正壮

(左)株式会社笹屋昌園 代表取締役 中西 章斗様 (右)岡村勇毅公認会計士・税理士事務所 岡村勇毅様

拡大の最中右腕が去り、将来に向けて大きな不安を抱える

MA平岡: そんな拡大の最中、転機が訪れます。信頼していた右腕が退職されたそうですね。

中西様: 親族だけのときは考えなくてよかった人間関係も、従業員が増えてくると考えなければならなくなっていました。事業が急拡大していく中、気がつかないうちに信頼していた右腕の社員に大きな負担をかけてしまっていました。コミュニケーションが希薄になったこと、組織が拡大していくなかで良い立ち位置を作ってやれなかったことなど、いろんな理由があるとは思いますが、結果として彼は会社を離れる決断をしました。私にとってこの出来事は、非常に大きなショックでした。 振り返ってみると、大きくなった会社という船を自分ひとりで必死に漕いでいて、守りが薄くなってしまっていました。家内制手工業で大きくなった分、安全管理・危機管理という面でも体力不足、身につけるとしても容易なことではなく時間もかかることであり、将来的な不安が拡大、精神的にもしんどくなり、自信を失いかけていました。

顧問の岡村氏から提案された”組織を強くするためのM&A”という選択

MA平岡: 岡村氏からパートナーを得るために会社を譲渡するという提案を受けたそうですね。

中西様: 正直最初に言われたときはピンと来ていませんでした。しかし、自分の置かれている立場を見直したとき、本当に今必要な決断とは何かと考えました。 成熟期を終え衰退期に差し掛かっている和菓子業界、自分だけで事業拡大する不安。商品開発などクリエイティブなことをすることは得意だし、結びつきが強い京都において業界人と少し距離を置いていた分、余計なしがらみもない。等々半年ほどじっくり考えを張り巡らせた結果、少なくとも私と笹屋昌園にはパートナーが必要との思いに達し、M&Aの提案をしてくれた岡村氏に委ねることにしました。ほどなく業界最大手の日本M&Aセンターを紹介してもらいました。

壮

評価・案件化を通じて膨らむM&Aへの期待

MA平岡: 日本M&Aセンターに依頼すると、まず”企業評価・案件化”と”具体的な買い手候補リストの提示”を受けるわけですが、そのときの印象はいかがでしたか。

中西様: 収益は出ていたもののバランスシートは薄かったためそれほど期待していませんでしたが、予想を超える株価にまず驚きました。次に買い手候補リストを見せてもらったのですが、知らない企業ってたくさんある、有名な某洋菓子メーカーの名前もある、M&Aを考えている企業・経営者はたくさんいると驚きました。その後、実際に当社のことを買い手候補に提案してもらうことになるわけですが、アイディアを出すのが好きなので、買い手毎に「この会社とならこんなことが出来る」とかワクワクしていました。 ただ、買い手候補の反応に一喜一憂していましたので、待っている間は精神的に疲れました。当社の提案がはじまってから買い手が見つかるまで4ヶ月程度の話でしたが、待っている間は生きた心地がしなかったです。M&Aを決断したのだから、早く決まってほしいと焦っていたのかもしれません。

新たなパートナー・たくみやとの出会い

MA平岡: 2016年の年末に日本M&Aセンターに依頼してから9ヶ月、有力な買い手候補としてたくみやの名前があがり、頼れるパートナーとして商談が進むことになりました。

中西様: たくみやの牧埜社長は、同じ業界で若いうちから苦労して会社を大きくして来られたのがよくわかりました。大手取引先との付き合いも熟知されていて、そのような経験やノウハウが自分の会社にも欲しいと思いました。まだまだ課題が多い当社でしたが、私個人を評価してくれたことも素直に嬉しかったですね。幸いな事に複数の経営者からお声掛けをいただいたわけですが、その中でも不思議な事に、牧埜社長からは、当社をM&Aの対象として”見極める”と言う目線は、全く感じませんでした。 全く違った、兄弟から暖かい手を差し伸べられているような感覚です。特に良い部分も悪い部分も見せ合って、一緒に未来を築いていこうというスタンスには心を動かされました。岡村氏からも、「管理面は買い手に任せて頼る、自分はクリエイティブな部分に特化する、お互いの強みに集中すれば、会社が更に成長できるのでは」とアドバイスを受けてさらに自分の直感に自信を得て、前向きに進めることができました。

業歴の長い企業を引き継ぐ

MA平岡: これから業歴の長い企業を引き継ぐ若い経営者にアドバイスをお願いします。

中西様: 伝統と革新が語れるのは老舗企業ならではですが、伝承と伝統は違うと思います。ただ引き継ぐ(伝承)だけでは長続きしない、革新があってこその伝統ではないでしょうか。優れた部分を見つけて活かしながら、新しいことにトライし続けることではじめて伝統につながっていきます。長く続いているということは何か優れた部分があるから、でも親族だけで守り続けることが必ずしも会社のプラスにはなっていないかも、と気にかけてみることが大事です。会社が安定的に成長していくには、パートナーを選ぶことも重要です。 長い歴史があるからこその強みと、親族で継承しているからこその弱みをたな卸しして、課題を解決するための変革、パートナー探しをしてみてはいかがでしょうか。たくみやはM&Aにより「仲間」を増やしています。実は当社の前に、金沢市ではちみつの製造加工を営む株式会社みつばちの詩工房をグループに招き入れておられます。 牧埜社長、みつばちの詩工房の矢野社長、私と岡村先生はグループの主力メンバーとして、グループの目指すべき方向性を共有しながら、夫々の情報を共有し連携を深めています。かかる中、2018年7月に私たちたくみやホールディングスは、日本投資ファンドと資本業務提携を実施し、次の成長戦略の実現に向け皆で走り出しています。この3社を今後はさらに仲間を増やして、みんなでお菓子業界を牽引するグループになっていければと夢が広がります。

広報誌「next」 vol.11
next vol.11

M&A成功インタビューは、 日本M&Aセンター広報誌「next vol.11」にも掲載されています。

広報誌「next」バックナンバー

M&A実行年月
2017年12月31日
日本M&Aセンター担当者コメント

日本M&Aセンターでは、M&Aの仲介に当たり譲渡企業担当者・譲受企業担当者・サポートする専門家(会計・法律・税務面)などで構成される3~5名のプロジェクト体制で、お客様のサポートを行っています。ご相談からお相手探し、スキーム構築、最終契約まで、すべての方のメリットをかんがみ、効果創出のための最大公約数を見つけ出す作業を行います。

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