[M&A事例]Vol.146 10年後を目標に譲渡先を探し始めるも、わずか1年で同じ志をもつ企業と巡り合う
沖縄県で防水工事業を手がけるヤマト防水工業は、10年後の譲渡を見据え準備を始めたところ、想定より早くにお相手が見つかりました。その経緯やM&A後について伺いました。
譲渡企業情報
※M&A実行当時の情報
譲受け企業情報
東北鈴木(福島県石川郡)の鈴木 裕也社長は、2代目として事業拡大を目指すも、思うように改革が進まず、経営の方向性に悩んでいました。そんな折、M&Aを選択肢として考え始め、2024年3月に市川電設(神奈川県相模原市)に譲渡しました。市川電設の市川 雄士社長とともに、M&Aを考え始めたきっかけやM&A後の変化についてお話を伺いました。(取材日:2024年11月5日)
――事業内容とこれまで取り組んでこられたことなどを教えてください。
譲渡企業 東北鈴木 鈴木社長:
当社は福島県の中ほどに位置する平田村で、送電、通信、土木、再生エネルギー関連の事業を行っている会社です。事業領域が広いため、仕事を一括受注できる点が強みです。
創業者である父から社長業を引き継いだのは2016年。強みを生かし、福島県内のみならず県外にも拡大することを目指して、すぐに会社を大きくするための改革に着手しました。新たな社員教育に取り組み、創業時から続く曖昧な会社ルールの見直しなどを進めましたが、社員から想像以上の大きな反発を受けることとなりました。それでも、幹部を育てたり経営コンサルを入れたりと様々な取り組みを行いましたが、30年以上かけて築かれた企業文化はなかなか簡単に上書きできない。そんな状況が続いていました。
譲受け企業 市川電設 市川社長:
当社は神奈川県相模原市に本社があり、電気、通信、空調、給排水設備工事全般を行っています。電気工事は、住宅、非住宅、木造、鉄鋼RCとあらゆる建物の工事をカバーできるほか、全携帯キャリアの基地局工事から空調、給排水工事まで、対応できる工事の幅が広いところが強みです。
20歳のときに父の会社に入り職人としてスタートしましたが、経営方針などで意見が合わず、自分の思い描いたようにやってみたいという想いが強くなり、2008年、25歳のときに独立しました。そこからは早朝から深夜まで無我夢中で働き、3ヵ月目にはお客様の倒産によって数百万円の不良債権を抱える危機もありましたが、何とか乗り越えてきました。16年目の今も軌道に乗ったとは思っておらず、常に油断大敵という気持ちでいます。
――どのようなきっかけでM&Aを考え始めたのでしょうか?
鈴木社長:
本気で会社を成長させるにはこのままではいけない、一方で改革は思うように進まない中、自分一人で経営し続けていくことが社員とお客様のために良いことなのかと考え、M&Aを検討し始めました。
職人の高齢化も進んでいたため、若返りを図るための採用強化も経営課題の一つでした。採用が好調な企業にアドバイスをもらいに行ったりもしましたが、当然ながら根幹部分を教えてくれる人はいなかった。できれば自分自身の力で何とかしたい気持ちは最後までありましたが、「会社を成長させるため」の戦略として最後に残ったのがM&Aでした。
市川社長:
とにかく「売上を拡大したい」と考えていたとき、ある経営者から、新しいエリアに営業所をどんどん出店していくのが一番の早道だとアドバイスを受けました。そこで、人を集めて研修して育て、新規営業所に送り込むという方法で営業所を増やしていきました。
ところが、せっかく育てた人材が次々と独立してしまうというケースが続きました。営業所をむやみに増やすのは非効率だと気づいたことがきっかけで、M&Aによる売上拡大を考えるようになりました。
――どのような条件で相手企業を探しましたか?
鈴木社長: 会社をどうしたいのか、どう変えていきたいかを熟考した結果、相手企業に求める条件は、成長している会社であることと、社員教育に力を入れている会社という2点にまとまりました。加えて、エリアは距離の近い東北と関東に限定し、同業もしくは関連事業が本業であること、当社と近い規模の会社で直接相談できるような会社と出会いたいと考えていました。
市川社長: 社長を継続してもらえるのが一番ありがたいです。経営のパートナーとしてお互いに成長を目指すのが理想だと考えていました。それ以外は、電気設備に付随する事業を行っている会社であること。エリアのこだわりはありませんでした。
――最終的な決め手、決断したポイントはどこだったのでしょう?
鈴木社長: 実は最初に市川社長からお声がけいただいてから、1年ほどかけて他社も含めて検討を続けていました。その間ずっと待っていてくれたのが市川電設でした。そこに市川社長の熱意を感じましたし、実際にトップ面談でお話した際に、私にはない創業者のすごみ、パワーを強く感じました。父が社長をやっていた頃の勢いのある東北鈴木をイメージできたことが決め手になりました。
市川社長:
他社と話が進むのであればご縁がなかったのだと考えてはいました。一方で、鈴木社長は40代の若い経営者であり、新しいことに挑戦したけれどもうまくいかなかった経験をされている。何とか会社をよくしたいという熱意を感じましたし、鈴木社長と切磋琢磨しながら一緒にやっていくことをイメージできたことが決め手です。
事業面でも、当社は建物関連の工事が多いのに対して、東北鈴木は建物以外の送電や土木に強いので、「そんなやり方があるのか」と学びも多くありました。もちろん私が鈴木社長に伝えることもあり、お互いに学び合える関係が築けると感じました。相乗効果が大いに期待できる出会いだな、とピンときたのを覚えています。
――M&A後はどのようなことに取り組まれましたか?効果を感じるところはありますか?
市川社長:
東北鈴木はもともとしっかりした会社ですので、従業員開示の日には「安心して今まで通り頑張ってほしい」と従業員の皆さんに伝えました。特別新しいことに取り組んではいませんが、第一ステップとして数字の把握、第二ステップでは採用に向けて内部の研修体制を整備し、ホームページのリニューアル、会社のロゴや作業着の変更などを行い、イメージチェンジを図りました。当社では外国人の雇用を進めており、そのノウハウも共有しています。
事業面でもすでに効果が出ており、東北エリア、関東エリアの顧客をそれぞれ紹介し合うことで事業の拡大につながっています。実際に今、太陽光のメガソーラーの受注を東北鈴木でしてもらい、現場が動き始めています。
また、経営者としての目線や意識にずれがない鈴木社長という良きパートナーを得られたことによる波及効果も大きく、情報交換をしながらお互いに新しい経験ができているので、良いスタートが切れたと思っています。
鈴木社長:
私が感じる一番大きな効果は、幹部人材の行動変化です。市川社長と常務には毎月東北鈴木に来ていただいていますが、その際、「幹部研修」という形で市川社長から社員にメッセージを伝えてもらっています。そこで幹部たちが一つの行動指針のようなものを与えられたことで、早くも目に見える変化が出てきています。
たとえば、これまでであれば「人が足りないから対応できません」とすぐに断られていた場面で、他部門や協力会社に応援を打診するなどしたうえで、「こういう方法で手配できました」と報告をくれるように変わったのです。報告内容も細かく具体的になり、報告の数自体も増えるなど、着実に変化しています。
私のほうも、会社をよくするために何をしなくてはいけないかを一緒に本気で考えてくれるパートナーをもてたことで安心感があるのはもちろん、これまでとは違う角度から会社を見る余裕も出てきました。大変ありがたいことです。
――日本M&Aセンターのサービスはいかがでしたか。
鈴木社長: 日本M&Aセンターは情報量やネットワーク数が多いので、提示した条件に対して多くの企業をご紹介いただけたことが良かったです。また、相手企業に自社の強みをアピールしたいと思ってもなかなかうまく伝えられない時に、担当コンサルタントの近藤さんが可視化してくれて非常に助かりました。
市川社長: 私も時間的な早さという面で仲介会社に依頼するメリットを感じました。
――今後について教えてください。
鈴木社長: まずは、市川社長にもお手伝いいただいている「人材確保」をしっかり進めることです。当社には高いスキルをもつ人材がいますので、しっかりと技術の継承を進めながら、市川電設との人の交流、スキルの交流などにも取り組んで強固な組織を築いていきたいと考えています。
市川社長: 鈴木社長のお話の通り、採用面と研修面の両方を充実させ、会社の軸となる人材の育成に注力していきたいと考えています。売上目標としてはグループ全体で100億円を掲げており、M&Aだけでなく、新規事業の立ち上げや新会社の設立、さらに海外にも拠点をもつなど、色々な方向で新しい挑戦をしていきたいという想いはあります。ただ、今回のM&Aを大切にしながら、足元をしっかりと見てバランスやスピード感は慎重に判断していきます。
――ご経験を踏まえて、M&Aを検討する企業へメッセージをお願いします。
鈴木社長:
東北の地域性もあるのかもしれませんが、M&Aは会社を譲り渡すもの、経営者は引退するものというイメージをもっている方が多いように思います。私の周囲でも「会社を成長させるための、戦略としてのM&A」という考え方はこれまでほとんど認知されていなかったので、M&Aという選択肢を考えるのはどうしても「引退を考えるようになってはじめて」というケースが多いのが現実です。
最終段階でM&Aを考えるのではなく、会社をステップアップさせるための手段としてM&Aを検討する方法もあることを伝えたいです。その場合は、自分も経営者として残り、継続して社長業をやりながら相手先企業と一緒に成長を目指すことができます。
成長戦略の一つとして、M&Aを候補の一つに入れて検討する価値は大いにあります。重要なのは、会社をこの先どうしたいのか、そのためには具体的に何が課題なのかを明確にすることです。そうすれば、相手企業がもつ強みを聞いたときに、自社がやりたいことができるかを見定める力がついてくるのではないかと思います。
こちらのM&A事例インタビューは動画でもご覧いただけます。
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北海道全域で道路の舗装工事を行う道路建設は、当初掲げていた条件とは異なる企業を譲り受けます。M&Aから1年たった今、決断の背景と現在の状況を伺いました。
自前でPMIに取り組む難しさを痛感して日本PMIコンサルティングのPMI支援サービスを利用。ご自身の経験からPMIの難しさと効果について伺いました。
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エリア戦略部 シニアコンサルタント 近藤 直人(株式会社東北鈴木担当)
鈴木社長からは、「経営のパートナーを見つけてほしい」と、最初の面談の時に要望としていただいておりました。今回のインタビューで、鈴木社長、市川社長のご両名から「パートナーとしてやっている」という言葉を伺い、ご両社が発展していくイメージが湧きました。鈴木社長に何度も、会社の現状や課題、今後のあるべき姿について話をお聞きし、私のほうで可視化させていただいたのも良い思い出です。勝手に戦友のような気持ちでいます。引き続き、よろしくお願いいたします。今後のご両社の成功を祈っております。
東日本事業法人3部 コンサルタント 垣内 健吾(株式会社市川電設担当)
市川社長から「将来売上100億円を目指したい」という熱い想いを頂戴し、一緒に成長を目指せるパートナーを探していたところ、本件のマッチングが実現しました。最初のトップ面談で、本音をぶつけ合い意気投合した瞬間を今でも鮮明に覚えております。早速、シナジーも出ているようで仲介者として嬉しい限りです。ご両社様のさらなる成功を心から祈っております。