「この先の人生をどう過ごしたいか」。60歳を前に決断した会社の進む道

社会保険労務士法人やさか事務所(東京都)

譲渡企業情報

  • 社名:
    社会保険労務士法人やさか事務所(東京都)
  • 事業内容:
    社会保険・労働保険手続き等
  • 売上高:
    76,921千円(2023年10月期)
    従業員数:
    11名(パート含む)

※M&A実行当時の情報

東京・西日暮里に事務所を構えるやさか事務所。11人のスタッフが在籍する社会保険労務士事務所ですが、規模の拡大とともに人材確保に苦労してきました。60歳を目前に、第二の人生を考えるようになった池上貴子代表が、事務所の存続を考え選択したのがM&Aでした。2024年10月に静岡県浜松市の社会保険労務士事務所、M&パートナーズとM&Aを行い、現在も代表として円滑な引き継ぎに注力する池上代表にお話を伺いました。(取材日:2025年1月27日)
譲受け企業インタビューはこちら

第二の人生を歩むために事務所をどうするか考えるように

――事業内容とやさか事務所ならではの強みを教えてください。

譲渡企業 やさか事務所 池上様: 東京・西日暮里に事務所を構える社会保険労務士法人として、25年間やってきました。企業と顧問契約を結び、労働・社会保険手続きや給与計算、就業規則の作成・見直しなどを請け負うのが主な仕事です。顧問先の規模によって対応内容は若干変わってはきますが、 “外部の総務・人事”だとイメージしていただくのがわかりやすいと思います。

顧問先からさまざまなご相談を受けてきましたが、その中でもっとも多いのが「問題のある社員を辞めさせたい」という相談です。法律に則り可能な限り早いタイミングで辞めていただくよう交渉し、手続きするのは可能ですが、その社員の方にも生活があり、ご家庭があります。私が一貫して大切にしてきたのは、社員側の気持ちと会社側の意向を受けて、両者が納得できる退職の形です。会社側にとっても後々問題や争いが起きないのが一番です。乱暴なやり方ではなく、金銭面で社員にしっかりと寄り添う方向でアドバイスをしてきました。

おかげさまで顧問先からは、「人間味あふれるアドバイスがありがたかった」と言っていただくことが多いです。これまで大きな問題に発展したことは一度もないことを考えると、従業員と会社の双方が納得する形にこだわってきたことは間違っていなかったと思いますし、やさか事務所が誇る強みだったのかなと思っています。

――M&Aを検討し始めたきっかけは何でしたか?

池上様: 外資系の製薬会社を退職した後、社労士資格を取得して事務所を立ち上げたのが36歳のときです。顧問先が増えて順調に仕事が増加し、11人ものスタッフを抱えるまでに拡大しました。社会保険労務士事務所の多くはスタッフ1人、2人の小規模事務所がほとんどです。同業者から「すごい」と言ってもらえるのがうれしくもあり、とにかく事務所を大きくすることにやりがいを感じてやってきたように思います。

ただ、スタッフが増えていくと当然問題や悩みも出てきます。20年目を迎える頃から誰かが辞めては補充することを繰り返し、そのたびに良い人材が見つからず苦労するようになりました。25年目を前にして「60歳からは仕事以外のことに時間を費やして第二の人生を楽しみたい」という気持ちが強まっていきました

同時期に、プライベートでは母が介護付き施設へ入所することが決まり、実家の断捨離を行う過程で「物事を終えていくって難しいものだな」と強く感じました。このとき「11人ものスタッフを抱えた事務所の終わりを一体どのように迎えればいいのか?」と考え始めたことが、今振り返ればM&Aを検討する最初のきっかけだったように思います。

ちょうどその頃、日本M&Aセンターとお付き合いがある社労士仲間の一人から「社労士事務所を譲渡したいという人、知りませんか?」という一本の電話がありました。そのときはまったく思いつかずすぐに電話を切ったのですが、直後に主軸のベテランスタッフ3人が立て続けに辞めてしまうという大ピンチが発生したのです。事務所にとってこれは正直大きな痛手で、精神的にもかなり落ち込みました。

そこで電話の話を思い出したのです。うちの事務所にとってM&Aなど無縁のものだと思っていましたが、「思い立ったが吉日」が私のモットーです。「とりあえず話だけ聞かせてもらえますか?」とすぐに日本M&Aセンターの担当者とつないでいただいたのが最初のアクションでした。

3社目にして希望通りのお相手と出会う

3社目にして希望通りのお相手と出会う

――その後どのような経緯でM&Aを決断されたのでしょうか?また、相手企業にはどのようなことを求めていらっしゃいましたか?

池上様: M&Aについて詳しく話を聞いて「なるほど」とは思いましたが、うちの事務所の規模では現実的ではない、というのが私の結論でした。ところが担当者から候補先企業を提示され、「会ってみようか」と気持ちが動きました。

相手企業の条件として考えたことは、事務所が抱える従業員と顧問先のすべてについて、何も変えずに維持して引き継いでもらうことです。決して安くはない仲介手数料ですから、手数料のお支払いも考慮した上で妥当な額を希望していました。

2社とトップ面談をし、3社目に紹介いただいたのが、静岡県浜松市に事務所を構えるM&パートナーズでした。パート含めて16人の従業員を抱えておられるという規模感、さらにやさか事務所のスタッフは全員女性なのですが、先方もほぼ女性スタッフというところに親和性の高さを感じました。実際に松澤所長とお話しした印象も良く、女性スタッフをしっかりとマネジメントされていて、うちのスタッフともうまくやっていっていただけると確信しました。流れでここまできてしまったとはいえ、進めるなら早いほうがいいと考え、話を進めることを決断しました。

――今回のM&Aで、吸収合併というスキームを選択した背景を教えてください。

池上様: 中小企業のM&Aで多く用いられる株式譲渡という形を取らなかったのは、社労士事務所は2以上の拠点を持つことができないという決まりがあるからです。つまり、静岡県に事務所を構える松澤所長は、東京のやさか事務所の代表にはなれないのです。別に代表を立てるということもできましたが、私は松澤所長に譲り受けてもらいたかった。それが可能なスキームとして吸収合併を選択しました。

どんな業種にもM&Aは企業存続の選択肢になる

どんな業種にもM&Aは企業存続の選択肢になる

――吸収合併後はどのように関わりを持たれているのでしょうか?

池上様: 吸収合併した2024年10月から1年間は事務所に残り、しっかりと引き継ぎ業務を行うことが契約条件の一つになっています。今はまさに、顧問先にM&Aのご説明とご挨拶に回っているところです。従業員には今まで通り働いてもらい、顧問先にも継続してお付き合いいただくのがベストではありますが、顧問契約をこの先も続けていただけるかは顧問先が決めることです。当然無理強いはできませんが、それでもできるだけ100%に近い状態で引き継ぎができるようにとの想いで尽力しているところです。

――あらためて今、M&Aを振り返ってどのように感じていらっしゃいますか?

池上様: 成約するまではすべて一人で考えて判断、決断しなくてはならず大変でしたが、この先に思い描いている人生を実現するためには乗り越えなくてはいけない壁だと考えました。事務所を立ち上げて以来、子育て、家庭と両立しながらとにかくがむしゃらに走り続けてきました。60歳を前にしてこの先の人生をどう過ごしたいかと考えたとき、忙しさから解放されてゆとりをもって好きなことを楽しみたいという想いが前提にあったことで、何とかここにたどり着けたかなと思います

士業事務所を存続させる選択肢の一つとして、まずはM&Aの話を聞いてみてほしい

――日本M&Aセンターのサービスに対してどのような感想をお持ちでしょうか?

池上様: M&Aは人生ではじめての経験です。わからない中で判断しなくてはいけないことが沢山あって苦労しましたが、こちらが質問したことにすぐに答えてくれましたし、的確なアドバイスをもらって本当に助かりました。担当者の存在がなければM&Aは決してうまくいかなかっただろうなと思います。また、M&A後の今も気にかけてくれるので、いろいろと相談に乗ってもらっています

――M&Aを検討している経営者に向けてメッセージをお願いします。

池上様: この先確実に高齢化が進んでいきますから、それに伴って社労士事務所を譲渡するというケースは増えていくと考えられます。ただ一方で、士業事務所の規模ではM&Aは現実的ではないと考える方も多いかと思います。
経営者の目線でいえば、これまで作り上げてきた会社を自分の代だけで閉じてしまうのはやはりつらく、悲しい気持ちがあるはずです。誰かに託せたら、引き継いでもらえたらという想いは必ずあると思いますので、どんな業種であってもM&Aという選択肢も候補に入れて検討してみるとよいのではないでしょうか。

日本M&Aセンター担当者コメント

法人チャネル 西日本事業法人部 石丸 蒼馬(社会保険労務士法人やさか事務所担当)

法人チャネル 西日本事業法人部 石丸 蒼馬(社会保険労務士法人やさか事務所担当)

池上代表は社会保険労務士業をスタートさせて26年間、常に第一線で活躍しておられました。一方で自身の勇退をどのように進めるかについて悩まれており、本件はその点を解決、発展させていけるようなお相手かつ条件で進めることができたと思います。成約式の際に松澤代表から、「池上代表からいただいたバトンをしっかりと受け継ぎ、事業の成長・発展を進めていきたい」とのお言葉を受け、池上代表が安堵されている姿が非常に印象的でした。

※役職は取材時

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