[M&A事例]Vol.146 10年後を目標に譲渡先を探し始めるも、わずか1年で同じ志をもつ企業と巡り合う
沖縄県で防水工事業を手がけるヤマト防水工業は、10年後の譲渡を見据え準備を始めたところ、想定より早くにお相手が見つかりました。その経緯やM&A後について伺いました。
譲渡企業情報
※M&A実行当時の情報
株式会社大和冷機和田榮司前社長は、2016年8月にM&Aによって千代田興産株式会社(千代田ホールディングスグループ、本社福岡県福岡市)に会社を譲渡されました。M&Aを決意された経緯や心境、現在の様子などを伺いました。
和田様: 高校卒業後の8年ほど、福岡県にて管工事の大手企業で働いておりましたが、長男だったこともあり地元に帰るのをきっかけに創業することにしました。今から約40年前のことです。 一番苦労した時期は、バブルの後ですね。ピーク時は4億円程あった年商が急降下し、10年くらい赤字が続きました。その時は目の前の経営に必死で苦しいと思う間もありませんでしたが、今振り返ってみるととても苦しい時期でした。当社の業績は世の中の景気と連動していますので、創業以来、3回ヤマがあり、2回タニがありました。景気のタニで人をつくり、ヤマでしっかり利益を出すことを意識して経営してきました。
地元密着で無理に拡げない経営をしてきたのが幸いしたのか、人吉では一番に名前の挙がる会社になっていますし、評判を聞いた初めてのお客さんから直接電話が掛かってくることも少なくありません。そのため、営業の社員も置いておらず、積極的に営業したこともありませんでした。現場の対応力を大切にしたことが、幸いにも結果として返ってきてくれたのだと思っています。有難い話ですね。
和田様: 自分が引退する年齢は70歳、と決めていました。4人の子供のうち、ひとりは息子でしたので後継者にする、と決めていました。息子が地元の学校を卒業する際は将来会社を継ぐことを前提に東京に就職させました。残り3人の娘については、旦那さんがそれぞれ関東の郵便局員、福岡の警察官、地元のサラリーマンであり、娘の結婚相手への承継の線はないな、と早くから選択肢から外していました。また、従業員に継がせるのも荷が重いだろうとのことで、後継者候補は息子ひとりに絞っていました。
和田様: 孫(息子の子供)が中学生や高校生に上がるタイミングで地元に帰ってこいと打診していたのですが、なかなか戻ってこなかったのです。東京での生活に慣れ、地方暮らしでかつリスクのある会社経営に身を置くことはマイナスイメージだったのでしょうね。実は、私の父親も商売人で、そういった家系で育つ中で、父親である私と祖父がことあるごとに商売上での喧嘩をしているのをみていて嫌になったのではないか、とも思いました。これで後継者候補がいなくなり、いよいよ将来どうするのか考えないといけないな、と思い始めたところに日本M&AセンターからM&Aセミナーの案内が届いたのです。
親族への承継を断念し、思案した1年。好業績のうちのM&Aを視野に
和田様: セミナー案内に目を通し、いつかは第三者への譲渡も視野に入れなければと考え、机の中に書類を保管しておくことにしました。1年間いろいろな選択肢を検討しましたが、試してみないとわからないとの結論に至り、M&Aセンターに問い合わせをすることにしました。実は長年親交のある地元の方が事業を立ち上げては売却するというのを繰り返しており、M&A自体は身近な存在だったので会社が売れるとのイメージは持っていたのです。創業時から経理業務を中心に手伝ってもらっていた妻に相談した際には「(引退するには)少し早いのでは」と言われましたが、“ 会社も自分も良い状態のときに相手を見つけないと売れなくなってしまうのでは。引退さえもできなくなってしまうのでは・・・”との思いから、相手探しを始めようと決断しました。取引先や地元の会社に声をかけ、自力で譲受先を探すことも考えましたがやはり難しいと思い、日本M&Aセンターに依頼し、県外企業を中心に幅広く相手探しを依頼することにしました。
和田様: 相手が見つかる確率は半々かなと思っていましたのであまり期待せずに待つことにしました。依頼してから一年ほどが経ち、話を進める具体的な相手が現れませんでしたので、M&Aによる売却も難しいかもと思うこともありました。そんなときに考えたのは、もしM&Aが難しくても、規模を縮小すれば従業員に承継できるのでは、などと別の選択肢をイメージしてあせらずに待つようにしたのです。
そんなことを考えはじめたある日、M&Aセンターから2社同時に有力な買手候補先があるとの一報を受けました。せっかくのお話なので2社とも面談させていただきました。両社とも前向きで印象は良かったです。 最終的には成長できる組み合わせはどちらなのかという観点で相手を決めることになるのですが、1社は現在の取引先と競合関係になる懸念があったのでお断りをさせていただき、もう1社の千代田HDと基本合意することとなりました。千代田HDは九州全域で事業展開していること、電気器具卸と電気工事が中心の事業であり同業ではなく隣接領域であることから、ビジネス上、面白いシナジー(相乗効果)がありそうとの期待が持てました。
会食を重ねてM&A後のイメージを共有
和田様: 千代田HDとは4回の会食を通じて、経営層全ての方と接点を持つことができました。おかげでM&A後にどんな経営になりそうなのかを具体的に想像することができました。私がM&Aをする上で一番気にかけていたことは、従業員が今のまま働けることです。そのため、「当面はそのまま、何も変えずに経営する」との考えを明言していただいたことにとても共感できました。M&Aで千代田HDの傘下に入れば当然数年後には、人吉・球磨エリアから拡大していくことになるでしょう。しかし経営体制が変わったうえに急拡大路線となれば、従業員が困惑するだろうと心配していたことから、上記方針に安心しました。
現場のノウハウを承継できていたことがM&Aの成功に繋がった
和田様: 業種柄「人材が重要」ということもあり、幹部候補2名にはM&A完了前に今回の件を開示することにしました。この2名がいれば自分がいなくても事業は継続できる、任せられるという人材です。プロパーで入社し、社歴の長い30代と40代です。趣旨はすぐに理解してくれましたし、不安もあったでしょうが、この先会社の成長が期待できるという点では前向きに捉えてくれたと思います。昔から人材確保には苦労してきましたし、私と同年代の従業員が多かったのですが、そういったメンバーの退職前に若い人材に上手くバトンタッチできていたことが、今思えば今回のM&Aの成功につながったとも言えます。
2名以外の従業員については、M&A後に千代田HDの谷川オーナーと朝礼で発表をしました。「当面は何も変えない、現在の仕事をきっちり行って欲しい」と谷川オーナーに明言して頂きましたので、特に混乱することはありませんでした
和田様: 熊本の震災後、復興需要に伴い外注先も含めて多くの人材が熊本市に優先投入され、人材確保に特に苦労するようになりました。その人材不足の影響から受注がしづらくなった結果、前期の売上は減少してしまっていました。もともとの営業スタイルが受け身でしたから、受注できないと当然売上は下がってしまいます。 このような外部要因に左右されやすい営業スタイルだけではなく、こちらから主体的に営業していくことも必要と、2017年4月からは千代田興産の常務が社長として半分常駐となり、アウトバウンド営業面で強化をしてくれると聞いています。
もちろん、仕事自体は今後もこのエリアでは継続した需要が見込めています。加えて、これまで大きな仕事に対応できていませんでしたが、今回のM&Aによりこれからは大規模な仕事も受注できるようになることを考えると、私の代ではできなかった規模の拡大が図れるのではとの期待を持っています。
和田様: 5年間は何らかの形で会社に籍を置く予定ですが、時間には余裕ができましたので父親が所有していた農地約300坪を使って畑を始めました。もともと他人に貸していたのですが、その方が高齢で農業を止めてしまい荒れていたのです。それなら自分で、と耕運機も購入してキンショーメロンとトウモロコシをつくっています。トマトは挑戦中なのですが、天候の影響や虫の発生など勉強しただけではうまくいかず農業って難しいのだな、と実感しています。軌道に乗るまでは苦労しそうで、会社経営とはまた違った難しさもあって、やりがいを持って取り組んでいます。
和田様: 当初「売却は少し早いのではないか」と難色を示していた妻ですが、今は完全に引退することで家族の時間がとれるようになったことを喜んでくれています。地方ほど後継者不足による廃業が進んでいて社会問題になっている、と話題になっていますが、日本M&Aセンターのように全国にネットワークを持つ専門家に頼めば、どの地域でも買手先は見つかるものだなと感じました。従業員の雇用をとにかく守りたいとの思いも強かったものですから、その思いをしっかり受け止めていただける相手が見つかり、商談の段階ではスピード感を持って対応いただいたので、今回のご縁には本当に感謝しています。地元の経営者に本件の話をしたところ、「自分が売却するときは相談に乗ってほしい」との話も聞いたりしますので、後継者問題解決の有力な選択肢としてM&Aを勧めていければと思います。
沖縄県で防水工事業を手がけるヤマト防水工業は、10年後の譲渡を見据え準備を始めたところ、想定より早くにお相手が見つかりました。その経緯やM&A後について伺いました。
北海道全域で道路の舗装工事を行う道路建設は、当初掲げていた条件とは異なる企業を譲り受けます。M&Aから1年たった今、決断の背景と現在の状況を伺いました。
自前でPMIに取り組む難しさを痛感して日本PMIコンサルティングのPMI支援サービスを利用。ご自身の経験からPMIの難しさと効果について伺いました。
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福岡営業所 事業法人部 ディールマネージャー 瀬戸 大樹
大和冷機様は熊本県球磨エリアを中心とし、地元密着で着実に管工事業を展開しており、有資格者も多数抱えて地域から常に必要とされてきました。 和田社長様が望まれていたのは、従業員が安心して働くことができ、既存の取引先を大事にして頂けるお相手とのM&Aでした。提携相手となった千代田HD様は九州全域を営業エリアとしており、和田様の築いてきた基盤を着実に引き継ぐだけでなく、更に発展させて頂けると思います。和田様をサポートできたことを光栄に思うとともに、これからもM&Aによって、地域に必要とされる会社の存続に貢献していく所存です。
成約後の年始には、和田会長より日本M&Aセンター仲介担当者宛てに年賀状をいただきました。