デューデリジェンス(DD)とは?M&Aで行う目的や種類、費用を解説

横井 伸

監修

横井伸

日本M&Aセンター法務部部長/弁護士/博士(経営法)Ph.D.

山崎 祐慶

企業評価総合研究所 /公認会計士

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更新日:
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デューデリジェンスとは?

デューデリジェンス(Due Diligence)とは、投資や買収を行う前に、対象企業の詳細な調査・分析を行うプロセスを指します。「Due=当然行われるべき」「 Diligence=義務・努力」は「DD」と略され、M&Aでは「買収監査」とも呼ばれます。

この調査は、財務状況、法的問題、業務運営など多岐にわたり、専門性が高く調査する範囲も広いため、弁護士や公認会計士など専門家の協力を得ながら進めていきます。M&Aでは調査・分析を通じて買収の妥当性、つまり「買収にふさわしい企業かどうか」を検証します。

本記事ではM&Aにおけるデューデリジェンスの概要、役割についてご紹介します。

この記事のポイント

  • M&Aでは買い手企業が対象企業に対し、弁護士など専門家に依頼して行う。
  • デューデリジェンスで調査する範囲は多岐にわたり、対象企業の規模や事業によって異なる。
  • コスト削減などを理由に必要な調査を省略すると、重大なリスクを見逃す可能性があるため、適正な範囲で行うことが不可欠である。

⽬次

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デューデリジェンスのタイミング・期間

M&Aでは、基本合意契約を締結した後に、デューデリジェンスが行われることが一般的です。

デューデリジェンスを実施するタイミング

デューデリジェンスに要する期間は、およそ1~2ヵ月ほどですが、対象企業・事業の規模や業種、調査する範囲などによって2週間で完了するケースもあるなど、期間は異なります。資料の提出など対象企業側の協力を得る必要もあるため、その点も考慮して計画立てる必要があります。

デューデリジェンスの費用相場

デューデリジェンスにかかる費用は、対象企業の事業規模や調査の範囲、そして依頼する専門家の熟練度によっても異なります。そのため一概にいくらと断定できませんが、企業規模を目安にしたおおよその費用相場は、以下の通りです。

譲渡対象企業の規模 費用相場
中小企業 数十万~数百万円ほど
大企業・規模の大きい事業・海外の会社 数百万円~数千万円ほど

デューデリジェンスの目的

M&Aにおいて、デューデリジェンスを行う主な目的は、以下の通りです。

リスク評価

対象企業に潜むリスクを特定し、評価することで、買収の実行可否の判断材料とします。具体的なリスクとしては、財務リスク、運用リスク、法的リスクなどが挙げられます。

売り手側にとっても、リスクを把握しておくことで予め問題点への対応を講じることができ、契約後のトラブル回避にもつながります。

企業価値評価

調査結果を踏まえて、対象企業の価値を評価し、最終契約締結前の条件交渉に役立てます。

また、対象企業の事業環境を把握することで、新たなビジネスチャンスの発掘や買収後のシナジー効果を描くことができ、重要な判断材料になります。

これらの目的により、デューデリジェンスはM&A前に欠かせない重要なプロセスとなっています。

デューデリジェンスの種類

調査の範囲は、対象企業の業種や事業規模、企業価値評価の結果などによって異なります。例えば、対象企業が複数の事業を展開している場合、後述の財務、法務、ビジネス、ITなど様々な側面から調査を行うケースがあります。ここでは、M&Aで行われる主な種類をご紹介します。

ビジネスデューデリジェンス

ビジネスデューデリジェンスは、 対象企業の事業戦略や状況 を正確に把握し、リスクや機会の明確化を目的に行います。調査対象には主要な事業活動、市場競争力、戦略、顧客との関係、将来の成長見通しなどが含まれます。

<調査対象>
各種決算資料、事業計画書、競合や仕入先、顧客、製品・サービス、市場、保有する技術など

財務(ファイナンシャル)デューデリジェンス

財務デューデリジェンスは、 対象企業の実態純資産、正常収益力、簿外債務の有無、キャッシュフローの状況、内部統制の状況等の財務的な健全性 を確認し、潜在的な財務リスクを特定するために行います。中堅・中小企業のM&Aでは、決算書と実態がかけ離れているケースが多い傾向にあるため、財務デューデリジェンスは必須と言えます。税務・法務など他のデューデリジェンスと並行して実施し、それらの結果をふまえて調査範囲を調整する場合もあります。

また、財務デューデリジェンスは、公認会計士あるいは監査法人が行う「財務諸表監査」と混同されることがありますが、財務諸表監査のように財務諸表の適正性について意見を表明するものではありません。
他にも目的や調査対象、実施する手続きなど根本的に異なるため、両者を混同しないよう注意が必要です。


<調査対象>
決算書や総勘定元帳、具体的な証憑類、予算・事業計画書、監査法人による報告書、役員会の資料、銀行に提出した資料。(そのほか、簿外債務の把握のため、雇用・不動産・法務関係の資料や契約書なども含める場合もある)

法務(リーガル)デューデリジェンス

法務デューデリジェンスは、 対象企業の法務 を対象に、想定されるリスクの把握を目的に行われます。

調査対象のなかでも「 許認可と訴訟 」について重点的に調査が行われる傾向にあります。事業によっては許認可が引き継げなければ事業を継続できず、訴訟を抱えていれば賠償金を支払う可能性があるため、法務デューデリジェンスでは重要な調査対象となります。

<調査対象>
会社組織に関する資料、株式と株主関連の資料、役員・社員に関する資料、業務に関する資料、紛争に関する資料、許認可に関する資料など

税務デューデリジェンス

税務デューデリジェンスは、 対象企業の過去の税務申告内容や納税状況、税制度遵守、未解決の税務問題 などから、税務リスクを洗い出すことを目的に行われます。もし重大な税務リスクが発覚した場合「そのリスクを負ってでも買収するのかどうか」を判断する、あるいは「税務リスクを回避・軽減するM&Aスキーム」を検討するための調査です。

書類のみで調査が不十分な場合には、対象企業のオーナーへインタビューが実施されるケースもあります。税務デューデリジェンスの結果によっては、当初予定していたM&Aスキームが変更するケースもあります。特に「株式譲渡」スキームの場合は、対象企業の税務リスクを引き継ぐことになるため、あまりにも税務リスクが高い場合には「事業譲渡」スキームに変更するケースもあります。したがって、税務デューデリジェンスも非常に重要な調査の1つです。

<調査対象>
決算報告書・勘定科目内訳明細など各種基礎資料、財務関連の個別資料、税務関連資料など

ITデューデリジェンス

ITデューデリジェンスは、 対象企業の情報技術(IT)インフラストラクチャー、ソフトウェア、セキュリティ、データ管理 などの詳細を調査するプロセスです。M&A後に、両社の情報システムを統合するケースがあるため、ITデューデリジェンスでは、対象企業のITリスク、セキュリティの問題、システムの効率性を評価し、M&A後におけるITの課題を特定します。

ITデューデリジェンスはM&Aの手法(スキーム)方法と対象企業によって対応が異なります。そのためITデューデリジェンスの結果を踏まえて、継続使用する情報システムの取捨選択やシステムを移行するまでの時間、移行にかかる費用などを考慮する必要があります。

<調査対象>
情報システムの体制など組織に関する資料、アプリケーションに関する資料、インフラに関する資料、コストに関する資料、システム管理を担う人材、セキュリティなど

人事デューデリジェンス

人事デューデリジェンスは、 対象企業の従業員に関連するリスク、文化の適合性、スキル の適切な評価を行い、人事の側面からのM&Aの課題を特定することを目的に行います。両者の人事制度などの違いで問題が発生しないよう、調査結果を踏まえて条件のすり合わせが実施されます。

<調査対象>
雇用関係の資料、人事規定の資料、年金関連の契約書類、労使関係の資料、人件費の資料など

その他のデューデリジェンス

取り上げたデューデリジェンス以外にも環境デューデリジェンス、知的財産デューデリジェンス、不動産デューデリジェンスなどの調査が挙げられます。最近では、企業の社会的責任が高まる中、人権デューデリジェンスなど、ニュースで耳にする機会も増えています。M&Aを進める際は、自社と対象企業に合わせて調査する項目を決めましょう。

デューデリジェンスのプロセス


デューデリジェンスを進めるプロセスは大きく次の3つにわかれます。

1. 調査チームの組成・調査準備

買い手企業は、デューデリジェンスの実施範囲を決定し、それぞれの調査ごとに担当者と専門家(弁護・公認会計・税理士など)でチームを組成します。チーム組成後は、重点的に調査する項目や予算、スケジュールを決めておきます。

また、調査ごとに必要資料をリストアップし、対象企業に資料の提出やヒアリングなど協力依頼を行います。デューデリジェンスでは対象企業の機密情報に触れるため、対象企業と秘密保持契約を結ぶ必要があります。

2.資料の分析・聞き取り調査の実施

入手した資料の分析を行います。工場・施設などは現地確認をする必要があります。また、すべての情報が得られない場合、対象企業のオーナーへヒアリング調査を行います。現地確認やヒアリングは、対象企業の社内で行われるケースが一般的です。従業員にM&Aを進めている事実を知られないように、土日などに計画立てることも重要です。

3. 調査結果の検討

デューデリジェンスの報告書は、専門家から提出されます。内容をふまえて、買い手企業側の経営陣は、M&Aについて議論を行います。
M&Aによって抱えるリスクが大きい場合には中止も視野に検討が行われます。リスクが何らか軽減できる可能性がある場合は、価格交渉が行われる場合もあります。

一方、譲渡側である対象企業は、調査の結果明らかになった問題点について、解決策の提案を求められることがあります。M&Aの続行・中止に関わるため、真摯に対応する必要があります。

デューデリジェンスの注意点

デューデリジェンスを行う際に注意すべき点をご紹介します。

M&Aの規模、内容に応じて適正な範囲で行う

企業や事業の規模に見合ったデューデリジェンスの実施が必要です。規模に対して、調査範囲が限定的だと、不十分な調査によりリスクを背負う可能性があります。反対に、必要以上に調査範囲を広げて実施すると、M&Aの必要性が問われます。

また、時間の短縮化やコスト軽減を理由に、本来必要な調査を省略する、あるいは、外部専門家に依頼せず自社内の担当者だけで完結しようとすると、重大なリスクを見逃す可能性があります。そのため適正な範囲でデューデリジェンスを行うことが必要です。

期間内に優先順位をつけて行う

調査の期間内に必要な情報を探し出せるよう、調査項目に優先順位をつける必要があります。確認すべき調査項目に優先順位をつけておくことで、調査の範囲を広げず、費用と時間の節約が可能です。

また、買い手企業側が、M&Aを急いでいたとしても、前述の通り対象企業の協力無くしてデューデリジェンスは実施できません。相手の都合も考慮して、計画立てることが必要です。

対象企業は積極的に情報提供を行う

調査される側となる対象企業は、買い手側から請求された資料の提供や、聞き取り調査など、協力姿勢で対応する必要があります。また、あらかじめ認識している自社が抱えるリスクについても、隠さず伝えておくことが重要です。

後からリスクの存在が明らかになることで、最悪の場合、M&Aが破談につながる可能性もあるため、両者の信頼関係のためにも、積極的に情報提供を行うことが大切です。

情報管理を徹底する

デューデリジェンスでは、買い手企業側が対象企業の機密情報に触れるため、秘密保持契約を締結します。

入手した情報の取扱いに細心の注意を払う必要があります。調査のために得た情報をM&A以外で使用できないよう、売り手側は制限をかけ、場合によっては、専門家に開示範囲について助言を求めるのが良いでしょう。

デューデリジェンスの実行を含めてM&Aを検討する際は

M&Aでは対象企業の現状や抱えるリスク、収益性などを把握するために、徹底した調査が欠かせません。

デューデリジェンスの実施にあたって、M&A仲介会社は、日程や場所の調整、連絡など事前準備、当日の立ち会いなど手続き面のサポートを行います。

また、デューデリジェンスの結果を受けて、リスクや課題が発覚した場合、弁護士、公認会計士、税理士などを含めた士業のチームで対応を協議し、成約に向けてサポートを行います。第三者に適切なサポートを求めることで、デューデリジェンスの負担を軽減でき、定めた期間内で必要な調査を終えられるでしょう。

日本M&AセンターではM&Aに精通した公認会計士・税理士・弁護士など専門家を含めた盤石の体制で安全・安心のM&Aをサポート致します。詳しくはコンサルタントまでお問合せください。

監修

横井 伸

横井よこい しん

日本M&Aセンター法務部部長/弁護士/博士(経営法)Ph.D.

東京大学経済学部卒。旧防衛庁勤務を経て、2006年司法試験合格。2007年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2023年一橋大学大学院法学研究科ビジネスロー専攻博士課程修了。 ディール進行上のコンプライアンス・受託スキームの検討など法務全体の統括責任者を務めている。 主な著書に、「買い手の視点からみた中小企業M&AマニュアルQ&A(第2版)」(中央経済社)、「M&Aの視点からみた中小企業の株式・株主管理」(中央経済社)など。 神戸大学大学院経営学研究科 客員教授(2023年6月1日就任)。

山崎 祐慶

山崎やまざき 祐慶ゆうけい

企業評価総合研究所 /公認会計士

大手監査法人、税理士法人(FAS事業部)でのDD・バリュエーション業務等を経て、2015年日本M&Aセンターへ入社。 累計関与案件1,000件超の経験をもとに、M&A実務の教育研修活動を社内外で行うなど、M&A業界全体の品質向上に精力的に取り組んでいる。 2024年4月より現職。

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