[M&A事例]Vol.137 心血を注いで開発した製品と事業を存続させるため決断した成長戦略型M&A事例
敏感肌用化粧品のインターネット通信販売を展開するエクラは、3つの課題を解決するために資本提携を決断しました。その決断の背景、現在について伺いました。
譲渡企業情報
譲受企業情報
※M&A実行当時の情報
2019年11月28日、中央自動車工業株式会社と三菱商事株式会社は、三菱商事の子会社である株式会社ABTに関する株式譲渡契約を締結した。今回ABTを譲り受けた中央自動車工業 代表取締役社長 坂田信一郎様と、同社取締役 住吉哲也様に伺った。
新たな事業の柱を獲得したい 周辺事業でのM&Aを検討
中央自動車工業株式会社は、昭和21年に自動車部品の販売会社として創業された。国内事業については、祖業の部品製造販売からカーエアコン製造、カー用品販売からボディーコーティング製造販売と時代の流れとともに業態を変革し、現在はボディーコーティングを始めオイル添加剤、アルコールチェッカーなど自社開発の商品を中心に取り扱うケミカルメーカーとして事業を拡大している。海外事業では、祖業の部品販売事業で日本製の部品を海外に輸出したのがきっかけとなり、現在世界60か国で事業を展開している。本業以外にも積極的に投資を行い、クラシックカーのオークション会社等に出資をしている。
坂田様は、7年前の社長就任時からM&Aに関心があった。 「国内事業は、メーカーといってもケミカル品が中心と業態が限られていました。従来展開していたカー用品卸売や部品販売の分野はすでに撤退していたので、この状況のままでは、いつかケミカル品の柱が揺らいでしまったときにどうなるんだろう、という危機感がありました。」 新たな事業の柱を、という思いでいくつかの投資を行う一方、「一からつくり上げるのも大事だけれども、シナジーがあればどこかの会社と一緒につくりあげることも大事なのでは」と、M&Aを行う考えは常に頭にあったという。
2017年に中央自動車工業に入社した取締役の住吉様は、メガバンク出身でM&Aの経験もある。今回のM&Aを、坂田社長とともに二人三脚で実現した。今回のM&Aについて住吉様は「事業会社にとってM&Aは、一世一代の大きな買い物(大勝負)」と振り返る。 「ABT社とのM&Aは、株主の理解を得られるか、統合後に会社の計数が変わることの影響など、気を払わなければならない点はありましたが、利益率が良かったので検討しやすいと思いました」(住吉様)
マッチングの答えは、四季報の外にある
ABT社は、損保会社の全損認定車両処分に関する事務代行業務を手掛けている三菱商事の100%子会社である。元々は三菱商事の社員であった髙田様が、自動車事故などに伴う損保の事務手続きが非常に煩雑であることを背景に、その事務代行を行うサービスのニーズに着目。三菱商事から資本金1000万円を出資してもらい、2003年に同社を創業した。現在は、従業員26名。主に損保にて全損車両となった車両の廃車処理と販売仲介(オークション・解体業者等)を行っている。
三菱商事は今回、選択と集中戦略の一環として、同社の売却を決定した。 通常、三菱商事のような大企業の場合、M&Aのアドバイザーは、FA(フィナンシャル・アドバイザリー)中心の大手アドバイザーが担当する。従来と違い、今回のM&Aアドバイザーに仲介スタイルである日本M&Aセンターを選んだのはなぜなのか。 三菱商事で今回のM&Aを担当した濱中様によると、実はABT社の売却にあたって三菱商事社内では具体的な売却先の業界イメージがなかったという。 「四季報のインデックスから会社を選ぶ、というアプローチとは違うところに答えがあるのではないかと直感的に思ったんです。候補先の業界を絞っていなかったからこそ、日本M&Aセンターの強みが発揮されたのではないかと思います」 今回のM&Aを振り返ってそう語る濱中様は、広範な業種から候補先を募れることをメリットと考え、日本M&Aセンターをアドバイザーコンペに呼んだ。 「日本全国に数百人のM&Aコンサルタントが配置されていると聞いていました。全国各社のコンサルタントが実際に会った生の企業の声がデータベースにあるということで、買い手候補のニーズや要望をよく分かっているんではなかろうか。だからこそ思いもつかない候補先が出てくるんじゃないか、と期待がありました」
9社の競合
優良な財務内容に加えて、三菱商事子会社というブランドもあり、ABT社のケースでは、9社の買い手候補先があがり、9社から1社に絞るビッド(入札)が2段階で行われることとなった。9社ビッドと聞いた当時を坂田社長は「正直、これはアカンと思いました」と笑う。 「他の候補先はきっとうちよりも規模の大きな企業。うちにアドバンテージがあるとすれば、同じ自動車業界にいるということだけ。それ以外のアドバンテージがあるとは全く思っていませんでした。定量面で比較判断されて選ばれないのであれば、仕方ないなと思っていました」 「住吉と話していたのは、「当社のありのままを見て頂きましょう」ということです。当然比較されるでしょうから、うちの会社の経営方針、意向を包み隠さずお伝えしようと思いました。着飾ってみせても、いざ蓋を開けてみたときに「違った」となるのは、相手に失礼なので」
波長が合う以上に、すごいと感じた
ABT社とのトップ面談について、坂田社長は振り返る。 「最初は、元三菱商事の商社マンということやABT社の仕事の性質上のこともあって、気難しい人なのかなと思っていたんですが、面談してみて、物腰の柔らかさに驚きました」 とはいえ、その仕事への姿勢は坂田社長が当初抱いていたイメージを上回って「徹底」されたものだった。廃棄証明書の提出、年1度の監査の実施など、140社にも及ぶ解体業者とのリレーションがきっちりと組まれていた。 現状を見た住吉様はこう振り返る。 「当社は取締役会で議論するまでは、社長と私の2人で本件の意思決定をしているので、我々2人との波長があえば、コミュニケーションは上手くいく。企業としての魅力は受け止めてもらえるのかなと思っていました。そういう意味で、波長が合うかどうかを気にしていたけれど、髙田社長を知れば知るほどすごい人だな、と感じる面談になりました。仕事も速いし、細かいし、気配りもできる、だから全国に展開していけたんだなと。うちで同じことをやれと言われても、正直誰も真似できないです」
将来を託す相手として選ばれる感激
ABT社と中央自動車工業のケースでは、トップ面談を2度行い、坂田社長は自社の社風、従業員の対する思いなどを語った。「従業員の幸せなくして顧客満足はない。従業員満足を重視しています。これを髙田社長にもぜひ理解してもらいたかった」
「会社対会社だけではなく、社長同士が個人対個人として会話ができたことが良かったと思いますね。トップ面談での対話を通じて、髙田社長にも当社のことを理解してもらえたと思う」(住吉様)
2度のトップ面談、詳細な企業精査、条件交渉を経て、ABT社と三菱商事、中央自動車工業の間で最終条件がまとまり、2019年11月、三菱商事の本社で内定書の授与が行われた。 坂田社長は、この内定書を受け取った瞬間が「一番感激した」という。 「短い期間だったけれど、受け取るときにふと最初の面談が思い浮かんで。9社の中から自社を選んでもらえたと思うと、とても感慨深かったですね」
仲介だからできたこと
先にも紹介したように、大企業のM&Aの場合、監査法人や投資銀行などの大手アドバイザーがFAをつとめる。3社はそれぞれ仲介をどう感じたか。 「M&A仲介の専門会社ということで、細部に精通していて非常に頼もしかったです。三菱商事様とも、ちゃんと話ができた。私どもの会社の方針、意向について言いたいことも伝えられたし、先方の要望も聞けた。しっかりと話し合いの段取りをして頂いたのは非常にありがたかったですね」(坂田社長)
中堅・中小企業のM&Aにおいては、譲渡企業オーナーの気持ちをどれだけ汲み取り、納得できるお相手を探せるかが、アドバイザーの価値だ。 トップ面談前に、中央自動車工業に対して、日本M&AセンターのABT社担当者から「髙田社長様は、ABT社を一から立ち上げたプライドをお持ちです。ご承知のことと存じますが、そのあたりを大事にしてあげてください。」という申し入れがあったという。 「仲介モデルといってもABT社側のご担当者は当社担当とは別にいます。当社に対して言っても良いことと、悪いことがあったと思います。そんな中で、言葉を選びながら髙田社長の心情も踏まえてアドバイスをしてくれたので助かりました。仲介だったからできたと思っている。片側だけのFAでは、非常に難しい案件だったなと思います」(住吉様)
全社員でつくりあげる相互尊重の組織風土
毎月発行される中央自動車工業の社内報の新春号では、坂田社長からのメッセージとして次の内容が全社員に向けて発信された。 「私の今年の抱負は、グループ企業ともお互いを尊重し、仕事は別々ですが、気持ちを『One Team』になれるようにしたい。親会社の社員である事から出る『驕り』に注意して下さい。関連会社に対して、上から目線という態度は絶対に許しません。」 坂田社長は、ABT社の譲受けにあたり、髙田社長以外の役員についても報酬を引き上げたほか、元々三菱商事内の本社オフィスに勤務していたABT社社員が、M&A後も近隣で勤務できるように新たに都内にオフィスを借りるなど、”従業員満足”を有言実行した。 「中央自動車工業のグループになってよかったなと思ってもらえるように動いていきたい」とABT社への想いを語った。
敏感肌用化粧品のインターネット通信販売を展開するエクラは、3つの課題を解決するために資本提携を決断しました。その決断の背景、現在について伺いました。
樹脂素材製品メーカーのカツロンは、1年半で2社を譲り受けました。元々成長戦略にはなかったM&Aをなぜ行ったのか、M&Aの目的と現在について伺いました。
猫用生活用品製造の猫壱は、ブランドと人のエンパワーメントに取り組むMOON-Xと統合しました。統合から約半年経った現在、両社代表に伺いました。
まずは無料で
ご相談ください。
「自分でもできる?」「従業員にどう言えば?」 そんな不安があるのは当たり前です。お気軽にご相談ください。
提携統括事業部 金融法人部 部長代理 シニアディールマネージャー 角井 隆三
本件は一見すると大企業のポートフォリオの入れ替えに見えますが、髙田社長様が設立し、育ててきた会社のM&Aという点において、本質的には日本M&Aセンターの得意分野であるオーナー企業のサポートに近い案件でした。今回の案件の本質を見極め、我々をアドバイザーに選定頂いた三菱商事の濱中様のご英断により、最良の結末に結び付いたと思っております。
担当コンサルタント
私も数十件のM&Aに携わってきましたが、9社競合で商談を進めるのは初めての経験でした。その中から1社に選ばれたご縁は本当に深いものだと感じています。中央自動車工業様のM&A に対する考え方・姿勢は、現在M&Aを活用した成長戦略を検討されてる企業様にはぜひ参考にして頂きたいと思います。ABT社とのシナジー効果を存分に発揮され、両社が一層成長・飛躍されることを心から祈念しております。