[M&A事例]Vol.146 10年後を目標に譲渡先を探し始めるも、わずか1年で同じ志をもつ企業と巡り合う
沖縄県で防水工事業を手がけるヤマト防水工業は、10年後の譲渡を見据え準備を始めたところ、想定より早くにお相手が見つかりました。その経緯やM&A後について伺いました。
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※M&A実行当時の情報
北海道全域で道路の舗装工事を行う道路建設(北海道札幌市)は、事業拡大を目的に同じ業種の企業を譲り受けようとM&Aを検討していましたが、異業種で事業継続の危機にあった北興工業(北海道室蘭市)を譲り受けました。なぜ、当初の条件とは異なる企業を譲り受け、どのようにPMIを進めたのか。M&Aから1年、決断の背景と現在の状況を宮﨑 健悟社長に伺いました。(取材日:2024年9月13日)
日本PMIコンサルティングによる主なサポート内容
――貴社の事業内容についてご紹介ください。
譲受け企業 道路建設 宮﨑様:
道路建設はその名の通り、北海道内で道路の舗装工事を行っている会社です。道路は我々の生活に欠かせない社会基盤であり、経済発展の基礎でもあります。だからこそ当社は、1967年の設立以来「品質」にこだわってきました。舗装工事の直後はわかりにくいかもしれませんが、品質の高い工事をすると道路は長持ちします。当社は品質の高さを評価され、信頼いただいて現在があると思っています。
DX化も進んでいて、社内の業務で紙を使用することはほとんどありませんし、私を含む社員のスケジュールがGoogleカレンダーでオープンになっています。会議の日程調整などでスケジュールを聞かれることはほとんどありません。稀にではありますが判断に迷ったとしても私がオフィスにいなければチャットでの確認です。
また、自社開発の原価管理システムで簡易的な日次決算も行っています。そこまで実施している会社は北海道内ではあまり無いのではと自負しています。
さらに、弊社は北海道で一番早くに建設ディレクター(本社から現場を遠隔で支援する職域)制度を採用し、生産性とお客様満足度の向上が達成されてきました。健康経営にも取り組んでおり、様々なことにチャレンジしている企業です。
――M&Aはいつ頃から検討されていましたか。
宮﨑様: 当社は官庁工事が多く受注は安定していますが、逆に言えばいきなり大きく売り上げが伸びるということもありません。M&Aで会社を譲り受ければ1年で売り上げを2倍にすることも可能ではないかと、父が先代社長をしていた時からM&Aについては勉強していました。その後、2020年に私が社長を継いだ後もM&Aセミナーに参加するなど勉強を続けていましたが、当時は仲介会社もよく知りませんでしたし、金融機関からもなかなか案件が出てこなくて、どう進めたらいいのかわからないでいました。
日本M&Aセンターからは最初、「会社を売りませんか」と営業電話があったんです。譲受けを考えていることを伝えて、そこから相手企業探しが始まりました。プロアクティブサーチ(自社の成長戦略、買収ニーズに合致する譲渡候補企業に譲受け企業からアプローチする日本M&Aセンターの独自サービス)に取り組むなどしましたがなかなかお相手が見つからず、2年ほど検討を進めていました。
――どんな相手企業を探していましたか。
宮﨑様: 初めてのM&Aということもあり、最初は北海道内の舗装会社が良いのかなと思っていました。ただ、なかなか条件に合致するお相手が出てこなかったので、業種を建設の土木業まで広げて探し始めたところに提案されたのが、北興工業でした。
提案を受けたときは、北興工業が譲渡を検討していることにとても驚きました。北興工業は室蘭市で海洋土木関連事業を手掛ける地元でも有名な企業で、当時の社長とは業界関係者の会で知己の間柄でもありました。財務状況が厳しく、スポンサーを探していることを知ってさらに驚き、最初は言葉が出ませんでした。
――会社の内情を知ったうえで、北興工業との話を進めることを決断されたのですね。
宮﨑様:
理由は二つあります。一つ目は、会社の規模が比較的大きく歴史もある会社でしたので、そうした会社がなくなってしまうのは業界や室蘭市、地域に与える影響が大きいと思ったからです。北興工業で働く従業員さんにとっても良くないと思いました。
二つ目は、金融機関への支払い利息の負担が大きく経営が厳しい状況ではありましたが、事業としては利益が見込める状況だったので、財務内容が改善されれば業績は安定するだろうと考えました。
隣接しているとはいえ異なる事業を譲り受けることに不安がなかったと言えば嘘になりますが、そこはトップ面談で仕事の内容を詳しくお聞きする中で意外と共通点があることを知り、少しずつ譲受け後のイメージができてきました。
あとは前社長にM&A後も北興工業に残り、一緒に経営をやってほしいという当社の希望が叶ったことも大きいです。中小企業では、常駐する新しい経営者を送り込める企業は少ないと思います。譲り受ける前提として、譲渡企業がM&A後も概ね自走できることが重要でした。もちろん譲渡企業にいる役員や部長クラスなどで経営に向いている方でも良いとは思いますが、今回は前社長が聡明な方ということもあり、継続しての勤務を依頼しました。
事業再生案件における経営者の継続勤務は異例のことだと思いますが、前社長が残って私と一緒に経営を行うことで、北興工業が良い方向に進んでいくだろうと思えたので譲り受けることを決断しました。現在は副社長として引き続き会社をまとめてくれています。
――ディールを進める上で、仲介会社が支援するメリットは感じましたか。
宮﨑様: すべてにおいて感じました。初めてのM&Aに加えて事業再生の案件でしたので、直接交渉だったらどう進めればいいかまったくわからなかったと思います。最初に提案をもらってから成約までに半年以上かかりましたが、担当のコンサルタントが複数の関係者間に入って論点を整理しながら前社長や金融機関と何度も本当に粘り強く交渉を重ねてくれました。報告を受けるたびにプロ意識を感じましたし、そこまでやってくれたのかと感動することもありました。彼らがいなかったら話がまとまっていなかったと思います。
――M&A後の統合プロセス(PMI)についてはいつごろから取り組まれましたか。
宮﨑様: PMIに関する書籍を読んだりセミナーに参加したりしていましたので、流れについては一通り理解していたつもりですが、実践は別物と思っていましたのでどのように進めるか思案していたのですが、日本M&Aセンターの担当コンサルタントに日本PMIコンサルティングを紹介されて、成約前から入っていただきました。最初のスタートダッシュの段階で両社の間に立って様々調整していただいて良かったです。
――具体的にはどうPMIを進めていきましたか。
宮﨑様: まずは北興工業の従業員を全員集めて開示を行いました。あまり反応はありませんでしたが、私が「M&A」や「買収」といった言葉をあえて使わなかったので、状況を理解した人もよくわからなかった人もいたと思います。そういう言葉を使ったほうがわかりやすかっただろうと思いますが、従業員にネガティブな印象を持たれる可能性のある言い回しは意識的に避けるようにしました。
その後は、PMIコンサルタントの勧めで2日に分けて全従業員と面談を行いました。皆さんの業務内容や改善してほしいことなどをお聞きして、改善できそうなことはすぐに対応しました。また、ほとんどの人が道路建設と一緒になって良かったと思ってくれていること、北興工業に対するエンゲージメントの高さを感じることができましたし、やるべきことが明確になって経営方針の仮説も立てられたので、非常に意義深い時間でした。
日本PMIコンサルティングが全従業員に対して行ったアンケートでも「仕事にやりがいを感じている」割合が90%を超えていました。従業員同士皆仲も良くて、この社風は絶対に維持していかなければいけないと思いました。
――中期経営方針はどのように決めていきましたか。
宮﨑様: 社長に就任した私と副社長、北興工業の幹部、PMIコンサルタントの方たちで検討を重ねました。面談や会議を通じて見えてきた課題を盛り込み、グループ化に伴う今後10年間の経営方針を決めました。副社長をはじめ幹部とは意見がぶつかる場面もありましたが、社風や文化、過去の経緯などは尊重しつつも経営者の責任として譲れない部分は意見を通しました。丁寧に話をすることで理解していただけました。
――M&Aから約1年ですが、方針に沿ってどんな取り組みをされましたか。
宮﨑様: 利益を重視した体質に変えていくために、毎月の経営会議などで利益に対する考え方を伝えていきました。少しずつ全社に浸透していき、利益の出やすい体制に変わってきていると思います。ほかにも、採用には力を入れてきました。道路建設は採用ノウハウが蓄積されているので、北興工業の採用活動を全面的にバックアップしたり、両社合同で企業説明会を開催したりしました。これまで力を入れることができなかった採用も年度の経営目標に加えて動き出し、本気度を感じてもらっていると思います。採用も成功し、早速結果が出てきました。
また、道路建設のノウハウを活かして北興工業でもDX化が進んでいます。従業員同士の交流も活発で、両社の工事部がお互いの良いところを学び合うなど、部署単位、プロジェクト単位で交流してお互いに刺激を受け合っています。両社の全社員が集まっての合同の研修会も開催し、好取組の事例発表やハラスメント研修、資産運用セミナーなど、より生産性の高い学びの場ができてきたと感じています。
事業の面でも、港湾工事に舗装工事が伴う場合もありますので、案件があれば道路建設が請け負うことも今後はあるだろうと思います。ほかにも道路建設で発生した建築の仕事を北興工業の建築部門に発注するなどシナジーも生まれています。
――日本PMIコンサルティングに依頼したメリットはお感じになりましたか。
宮﨑様: 非常に安心感をもって進めることができました。3名のチーム構成で、ミーティングの事前準備やタスクの進捗管理を担っていただいたので、自分のやるべきことに集中できました。優秀な秘書がいるという感覚でしたね。初めてのM&Aの場合や、自社より大きな会社を譲り受けた場合は特に、日本PMIコンサルティングのようなプロを活用したほうが絶対に良いと思います。
――今回のM&Aを振り返っていかがですか。
宮﨑様: 北興工業を譲り受けたことは地域の方々や業界関係者からも好意的に受け止めていただきました。このM&Aによって存続できたという意味で、価値のある決断だったと思っています。
まだこのM&Aが成功したという判断をするには時期尚早ですが、今のところは順調ですし、今後もともに成長していけると信じています。
沖縄県で防水工事業を手がけるヤマト防水工業は、10年後の譲渡を見据え準備を始めたところ、想定より早くにお相手が見つかりました。その経緯やM&A後について伺いました。
自前でPMIに取り組む難しさを痛感して日本PMIコンサルティングのPMI支援サービスを利用。ご自身の経験からPMIの難しさと効果について伺いました。
空調・換気・給排水衛生設備工事、冷凍冷蔵設備を展開する三共ホールディングスに。空調施工会社を譲受けた目的、企業の譲受けで大切にしていることを伺いました。
まずは無料で
ご相談ください。
「自分でもできる?」「従業員にどう言えば?」 そんな不安があるのは当たり前です。お気軽にご相談ください。
株式会社日本PMIコンサルティング 佐古 光(日本M&Aセンターグループ)
本PMIの特徴は以下の2点です。
1.隣接する業種であるが、異なる業種であること。
2.両社が同じ地域に所在し、互いに知り合いであること。
このようなケースでは、両社が相手を気遣い過ぎてなかなか本音を言えず、統合が進まないことがあります。本件では面談や経営方針のディスカッションの場を設けることで、意見がぶつかっても両社の経営陣が徐々に本音を言い合える関係を築くことができました。皆様が互いを尊重しながらも、懐に踏み込む適度な距離感を作り上げた点が成功の要因と考えます。
株式会社日本M&Aセンター 成長戦略部 シニアコンサルタント 丹治 涼(道路建設株式会社担当)
本件は道路建設様にとって初めてのM&Aでした。宮﨑社長は本件実行前から「M&AはPMIが最も重要」と考えており、当社が出版しているPMIの書籍などを通して勉強をしているとお聞きしておりました。今回当社のグループ会社である日本PMIコンサルティングをご紹介した際も、ぜひお願いしたいと即決いただいた記憶がございます。そういった宮﨑社長の意思決定の早さはディール中も随所で見られ、非常に心強く感じておりました。これからのご両社の発展を楽しみにしております。