[M&A事例]医薬品×食品、異色のM&A。120年以上の歴史にカイゼンの風を吹き込む

八戸東和薬品株式会社(青森県)

譲受け企業情報

  • 社名:
    八戸東和薬品株式会社(青森県)
  • 事業内容:
    ジェネリック医薬品の卸売業
  • 従業員数:
    19名(パート含む)

※M&A実行当時の情報

ジェネリック医薬品の卸売業を営む八戸東和薬品(青森県八戸市)は、2022年2月に宮城県白石市を中心に愛されるご当地食品「白石温麺(しろいしうーめん)」の製造をしてきたきちみ製麺を譲受けました。成約から約2年、異業種の企業の経営を引き継いだ髙橋 巧社長にM&A 検討から現在までを伺いました。(取材日:2024年4月24日)
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トヨタ式カイゼンとDX化の推進が大きな強みに

――2代目社長としてジェネリック医薬品の販売事業で徹底した業務フローの改善に取り組まれ、その取り組みは「中小企業白書」にも取り上げられるなど注目を集めています。これまでの事業の経緯を教えてください。

譲受け企業 八戸東和薬品 髙橋様: 当社は、ジェネリック医薬品メーカーである東和薬品の商材をメインに、青森県南と岩手県北エリアの医療機関に販売、納品をしています。創業は1984年、父の後を継ぎ私が2代目社長となったのが、2012年でした。
ジェネリック医薬品は、2010年頃から国の方針で大きく普及を後押しする流れがあり、業界全体がIT化、クラウド化を推進しようとしていました。そんな矢先に、右も左もわからない私が経営者となったわけです。当時の業界には勢いがあり売上は伸びていたものの、IT化と言われても何から始めればよいのかわからない。そもそも、経営初心者の私にとっては、何を基準に判断すればよいのかわからないことが最大の課題であり、悩み苦しみました。

――それをどう乗り越えられましたか。

髙橋様: 「経営を基礎から学ぶしかない」と考えた私は、地元で教えを乞うメンターを探し始めました。そして出会ったのが、トヨタ式カイゼンを取り入れた経営を行う経営者です。そのメンターからカイゼン手法を学ぶにつれ、経営の土台となる考え方を身に付け、悩みのすべてが解決していったような気がします。
試行錯誤しながらDX化、業務フローのカイゼンに取り組み、2年経った2014年頃からようやく手ごたえを感じられるようになりました。

そこから、積極的に社外の勉強会等に出向き、そこで自社の取り組みを紹介するなどしたところ、「詳しく教えてほしい」といった声がかかるようになり、現在では業務カイゼン、デジタル化支援などのコンサルティング事業も行っています。また、2020年、2023年の『中小企業白書』に、私たちのDX化の取り組みが事例として取り上げられています。

世の中、日本のために何ができるか考え、M&Aにたどりつく

――M&Aの検討を始めたきっかけ、背景はどんな点だったのでしょうか?

髙橋様:M&Aを検討した理由は3つあります。1つは、私が経営者になり最も影響を受けている東和薬品の代表取締役社長 吉田逸郎氏の教えです。常日頃から、「自社が成長するために何をするか」より「日本のために何ができるか」という話をよくされていて、各代理店に対しても、「業界のために、地域のために自立した経営を進めよう」というメッセージを伝えてくださり、自社の利益だけでなく公益を考える大切さを考えるようになりました。
日頃販売しているジェネリック医薬品という商材そのものが、社会のインフラのような役割も担っていると考え、「世の中のために、日本のために」という視点で仕事をしていきたいと強く思うようになりました。これが、M&Aを検討し始めた一番のきっかけです。

さらに、一経営者として、「世の中のために、日本のために」何ができるかと考えた結果、現在も掲げている「事業承継」×「地域資源活用」×「社会課題」という事業コンセプトを打ち出したことが2つ目です。改めて自分の強みの棚卸をしたとき、私自身が2代目代表としてさまざま悩み、苦労しながらここまでやってきた経験、DX化による社内カイゼンノウハウをもっていることが大きな強みだと明確になりました。そこから、過去私が悩んだように、事業承継に悩む経営者の役に立ちたい、と強く考えるようになったんです。
そして、シンプルに、経営者として自分の力を試してみたいと思ったことが3つ目の理由です。

――同じ東北エリアの宮城県で120年を超える歴史をもつきちみ製麺と出会われましたが、どのような点に魅力を感じ、最終的に譲り受けることを決断したポイントはどこだったのでしょう?

髙橋様:地域の雇用を大きく支えているのは、やはり製造業です。事業承継の面からも、製造業であること、さらに、私たちの強みであるDX化と社内カイゼンの取り組みが活きる企業を希望していました。
ただ、条件云々よりも、きちみ製麺の一番の魅力は何といっても吉見 光宣社長(現会長)の人柄です。きちみ製麺は、白石温麺業界の中ではじめて機械製法に取り組むなど業界のリーディングカンパニーとしてチャレンジを続けてきた会社で、吉見社長はその4代目として体を張って会社を守り、戦い続けてきた方。温麺にかける想い、未来を信じてポジティブに活動されている姿に感服したのを覚えています。

製造業の中でも、食というまったくの異業種を譲り受けることに不安がなかったわけではありませんが、むしろ強く思ったのは、100年後も食べるという行為がなくなることはないということ。吉見社長とお話をする中で、きちみ製麺の温麺を未来に残したいとの想いが強まりました。
「100年続く会社にしたい」。この素直な想いを手紙に綴り、社長にお送りしました
結果、120年以上の歴史ある老舗企業が、同じ東北エリアとはいえ八戸の異業種の私たちを事業承継先として選んでくださった。私たちが決断したのではなく、選んでいただけたことがM&Aが成立した一番のポイントです。

(左)株式会社きちみ製麺 代表取締役 吉見 光宣 様 (右)八戸東和薬品株式会社 代表取締役 髙橋 巧 様 ※役職はM&A実行当時

(左)株式会社きちみ製麺 代表取締役 吉見 光宣 様
(右)八戸東和薬品株式会社 代表取締役 髙橋 巧 様
※役職はM&A実行当時

オペレーションをカイゼンし、営業利益がアップ

――成約から約2年が経ちますが、PMI(M&A後の統合プロセス)で変えた点、変えなかった点はどこでしょうか?

髙橋様: 「100年続くきちみ製麺」をスローガンに、続けるために必要な改革は待ったなしです。伝統は引き継ぎますが、オペレーションはゼロベースで考えさせてほしい、と最初に伝えました。
長年やっていると、事実を示すデータがあっても可視化されていない、共有化されていないといったことが起こり、事実に基づくのではなく勘で判断することが多くなります。まずは、経営の基本である、数値データが示す事実を事実として把握する経営を徹底しました。従業員の皆さんにも、最初に会社の現状を数値データで説明しました。これまで皆さんに共有できていなかった事実を共有すると、「会社は今、そうなっているのか」と理解が進み、仕事のモチベーションアップに大きくつながっていると感じています。
経営の基本を徹底することで営業利益は上がっていきましたが、実は、成約した1カ月後に、マグニチュード7.7の大きな地震が起こるという大ピンチがありました。工場や設備が破損し、復旧のための巨額の資金が必要になり、一度はこのまま潰れるのではないかと考えたほどの大打撃でしたが、それを救ってくれたのがまさに従業員の皆さんでした。とにかく前向きに、全員で目の前の課題を一つひとつ解決していったことでなんとか乗り越えることができましたし、大変なときこそ結束できるんだなと心から思った出来事でもありました。

――吉見会長とはどのようにコミュニケーションを取られていますか?

髙橋様: 吉見会長には、一年の移行期間を経て、現在は経営には関与せず見守ってもらっています。一方で、奥州白石温麺協同組合の理事長を続けられており、さまざまな地域に根付いた活動をされているので、3年目となる今もコミュニケーションを取るために、週1回、電話ミーティングを欠かさず続けています。

成約式で髙橋社長は「今後はきちみ製麺を背負って発展させていく」と吉見社長を背負い記念撮影を行った

成約式で髙橋社長は「今後はきちみ製麺を背負って発展させていく」と吉見社長を背負い記念撮影を行った

M&Aで東北を、日本を元気にしたい

――今後のM&A戦略を教えてください。

髙橋様:過去、事業承継を検討している企業と何度か交渉する機会はあったものの、なかなかうまく話が進まなかった苦い経験があるのですが、きちみ製麺との統合は、当社にとって間違いなく追い風になると考えています。今は、老舗の製麺メーカーを事業承継したという事例がある。今後は、その事例を持って、同じように事業承継に困っている経営者の皆さんとどんどんお会いして、協力できるところで協力していきたい。『事業承継』×『社会資源活用』×『社会課題』という事業コンセプトに沿ったよりわかりやすい経営体制にするべく、ホールディングス制への移行も考えています
改めて思うのは、製造業の事業を引き継ぐことが最も地域経済の活性化につながるということです。食品メーカーにおけるナレッジも少しずつ積み上がってきているので、そこも活かしながら、東北の製造業を1社でも多く未来に残し、少しでも日本の成長に貢献できたらと思っています。

――ご経験を踏まえて、M&Aを検討する企業へメッセージをお願いします。

髙橋様:事業承継は日本の大きな社会課題の一つであり、その解決策としてM&Aは有効な選択肢の一つです。自社の強みを活かせる業界、興味のある業界には、どんどんチャレンジしていってほしいですね。
私の経験を踏まえて言えるのは、異業種だから難しいだろう、合わないだろうと考えるのはもったいないということ。想いに共感できる企業、この先長く残ってほしい企業はたくさんあるはずなので、異業種でも躊躇せずチャレンジする経営者の皆さんが増えたらと願っています。

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