[M&A事例]Vol.146 10年後を目標に譲渡先を探し始めるも、わずか1年で同じ志をもつ企業と巡り合う
沖縄県で防水工事業を手がけるヤマト防水工業は、10年後の譲渡を見据え準備を始めたところ、想定より早くにお相手が見つかりました。その経緯やM&A後について伺いました。
座談会参加者
譲渡企業①
主に中・高層マンションや老人ホームなど共同住宅の建築設計・監理を行う業歴32年の会社。大手デベロッパーからの受注をメインに、時代の変化に対応した住宅づくりをしてきた。
譲渡企業②
大規模修繕工事のコンサルタントをメインに建物の改修設計を専門とする設計事務所。創業者の先代社長は大規模修繕コンサルタントの草分け的な存在で、高い技術力を誇る。
譲受け企業
譲受け企業の担当営業
※M&A実行当時の情報
M&Aを通して光洋商事ホールディングスのグループ会社となった株式会社ジャトルと株式会社長谷川建築企画。M&A後の変化を、横尾佳奈子社長、藤本功社長に語っていただきました。
——2020年にジャトル、2021年に長谷川建築企画と続けて設計事務所をM&Aされました。その狙いは何だったのですか?
譲受け企業 光洋商事ホールディングス株式会社 川上様: 私はずっと自社の弱みをなくしていく経営をしてきました。その一つが地域のリスクを分散する東京進出ですが、近年はいよいよ人手不足が顕著になってきました。 これからも労働集約型産業のビルメンテナンス事業者として一定のサービスを提供し続けるためには、建物関連事業内で他の(人の雇用が少ない)事業体を持っておく必要があります。また、ストック型ビジネスとフロー型ビジネスを組み合わせたバランスのとれた経営をすることが重要であると考え、建物関連の事業の上流である建築設計事務所から下流のビルメンテナンスまでを一気通貫に手掛けることができればと思い、上流に位置する建築設計事務所とのM&Aを考えました。
——横尾社長は、M&A後に経営者になられたわけですね。
譲渡企業 株式会社ジャトル 横尾様: はい。前社長とは調印式で初めてお会いしました。
川上様: ジャトルの場合は独特なM&Aの形です。前社長は後継者がいないということで会社の譲渡を考えられました。日本M&Aセンターの紹介でお会いしたのですが、前社長は、経営面は川上さんに任せられるが、技術的な責任者となりうる一級建築士の方を社長にすることを条件に挙げられました。経営に関しては私が見ることができても、技術面は見ることができません。そこで知人だった一級建築士である横尾さんに社長になっていただきたいとオファーをだしたんです。
——川上社長のオファーを横尾社長が承諾されたのはどんな経緯からですか。
横尾様: 私は社会人になってからキャリアアップのために何度か転職をしていました。今回のお話をいただいたのは、大手企業で働いているときです。ちょうど、大きな組織の中では自分は一個の歯車に過ぎないんじゃないかというジレンマというか、フラストレーションを抱えていたときで、川上社長のお誘いにチャレンジしてみようと思ったんです。
株式会社日本M&Aセンター 井東: M&Aは縁とタイミングで決まるのですが、お知り合いに一級建築士の横尾さんという方がいたというのは川上社長の持つ引き寄せ力の結果だと思いましたね。
——実際に社長になられてどうですか?
横尾様: 私は修繕については素人でしたが、勉強する中で大規模修繕工事をはじめとする改修設計の社会的意義の大きさを知りました。やりがいのある仕事と出会えたと思っています。ただ、社員のみなさんは、社長が変わり、働く環境も大きく変わって不安は大きかったと思います。
——その社員の方たちを、どう一つにしていかれたのですか?
横尾様: 正直に自分の気持ちを話しました。分からないことは分からないと言い、真摯な気持ちでみんなに教えを乞い、いまはできないけど頑張るからついてきてくださいと……。
川上様: そういう横尾社長の素直な関わりもあって、ジャトルのみんなの意識はだいぶ変わってきていると思います。最初に私も「いい意味で脱先代をしていこう」とみんなに話したのですが、その意識も出てきたように感じます。
横尾様: 昨年の9月にオフィスを光洋商事ホールディングスの東京支店と同じビルに移したことも大きかったと思います。目に見える形で環境の変化を自覚できたと思うんです。
——藤本社長は創業者ですね。どんな経緯でM&Aを考えられましたか?
譲渡企業 株式会社長谷川建築企画 藤本様: きっかけは自分の年齢です。 60歳になり、5年、10年先を考えたときに自分がどこまで動けるかという不安がありました。後継者もいませんでしたから、会社を存続させる意味でもM&Aがいいかなと思ったわけです。
——譲渡先として光洋商事を選んだ決め手は何だったのですか?
藤本様: M&Aをするにあたって考えた条件は2つです。1つは社員の雇用の持続。もう1つは子会社のようにはなりたくない、ということでした。大きな会社に譲渡すれば必然的に子会社化してしまいます。その点、川上社長は社員の雇用はもちろん、当社の独自性を認めてくださったんです。しかも、私にそのまま社長を続けてほしいと言っていただきました。もう一つ付け加えれば、川上社長の人柄も決め手になりましたね。
——どんな印象だったのですか?
藤本様: 人間として信頼できるなと思いました。初めてお会いしたときに、手づくりの資料を用意して自分のことや将来構想を語ってくれたのですが、熱が伝わってきましたし、真剣に向き合ってくれていることも感じました。
井東: 私も同席していたのですが、会社のパンフレットを説明するだけでは過去しか見えません。その点、川上社長の話からは社長個人についても、将来ビジョンについてもよくわかりました。
藤本様: 川上社長は、将来的に新築が減っていく中で自分たちがどうやって生きていけばいいのかという漠然とした不安への答えも持っておられました。この人に任せればうちの会社も大丈夫だと思ったのが1番の決め手でしょうか。
井東: TOP面談の時に川上社長は、藤本社長の息子になったつもりで長谷川建築企画の将来構想をプレゼンされていましたね。
川上様: はい。3年後までの事業計画を作りました。
藤本様: いやぁ、今後の建築業界のことをよく勉強されていると思いましたし、内容に共感しました。だからこそ、川上社長と一緒にやっていこうと思ったのです。
——藤本社長はM&A後、どんな変化をお感じになっていますか?
藤本様: 以前は経営面も含めてすべて自分で決めなければいけませんでしたが、いまは経営のことは考えずに現場に専念できるようになりましたし、非常に自由度が増したと思っています。当社も光洋商事ホールディングスと同じビルに引っ越して、隣にジャトルさんもいるし、当社の社員たちの意識も変化してきたと思います。
川上様: 藤本社長も、ジャトルや光洋商事ホールディングスの若手スタッフを気にかけてくれるので、それが私たちの刺激にもなっています。
横尾様: 私も藤本社長の会社が隣にあることや、ビルメンテナンスに強い会社があるグループの中で仕事を続けることはとても力強く思っています。これからもいろいろなシナジーが生まれてくると思います。
川上様: 先日も長谷川建築企画の採用面接を横尾社長に担当してもらったんです。結果、30歳の女性設計士を採用することができました。
藤本様: 横尾社長が面接してくれたおかげですよね。私だったら怖がられて、採用にまではいたらなかったもしれない(笑)。
川上様: そういう総合的なシナジー効果も出ていますよね。
——いまM&Aを考えている経営者の方に藤本社長はどんなアドバイスをされますか?
藤本様: まだまだM&Aに関してはみなさん不安があるかもしれませんが、自分の会社を生かしてくれる会社と連携ができるなら、それはもう絶対やるべきだと思います。迷っているのであれば、ぜひ信頼のおける人に相談してチャレンジしてみることを勧めますね。
川上様: 横尾社長は、会社勤めから突然社長になって立派に黒字の成果を出したわけですが、どんな気持ちですか?
横尾様: 生きていることが面白いなと思える、本当に濃い1年だったと思います。気軽に「あなたもやってごらん」とは言えないですが、チャンスがあって迷っている人がいるのなら背中を押してあげたいですね。
——M&Aでは、会社員から社長になるチャンスもあるということですか。
井東: レアなケースかもしれませんが、あり得ますね。 ところで、みなさんが着ているお揃いのシャツはオリジナルですか。
川上様: よく聞いてくれました。昨年の12月にBリーグの「西宮ストークス」というプロバスケットチームの共同オーナーになったんです。スポーツを通じて地域振興にも挑戦していこうと考えているのですが、せっかくなのでグループの一体感を高めるためにストークスとのコラボポロシャツを作りました。胸にストークスのSを入れ、肩にはグループ各社のロゴを入れて作った、夏のクールビズのユニフォームです。
——それはいいですね。今日はお忙しい中、どうもありがとうございました。
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東日本事業法人部 シニアチーフ 井東 純平 (光洋商事ホールディングス株式会社様担当)
光洋商事ホールディングスの川上社長は、まだ30代ながらここ数年で10件を超えるM&Aにより会社を大きく成長させてこられた経営者です。今回は、過去譲り受けたグループ会社から、売主がそのまま社長を務めている企業と、社外から社長を招聘した企業の2社にもインタビューにご参加いただきました。ぜひご覧ください。