[M&A事例]Vol.148 会社を成長させるため譲渡を決断。社長を継続し経営パートナーを得る
東北鈴木の2代目社長は、事業拡大を目指すものの方向性に悩んでいました。解決する手段の選択肢としてM&Aを考え、2024年3月に県外の会社に譲渡を行いました。
譲渡企業情報
譲受け企業情報
※M&A実行当時の情報
日本M&Aセンターの仲介により、2023年8月に初めてM&Aを成約した株式会社森長組と栗田建設株式会社。淡路島と姫路にそれぞれ本社を構える同県同業種のマッチングとなりました。譲渡企業社長の継続勤務の安心感から、自前でPMI(M&A後の統合プロセス)に取り組みましたが、意思疎通の難しさを痛感して日本PMIコンサルティングのPMI支援サービスを利用しました。森長組の森宏文代表取締役と不動博之取締役、栗田建設の栗田浩代表取締役にPMIの難しさと効果、今後の展望について伺いました。(2024年6月17日取材)
日本PMIコンサルティングによる主なサポート内容
――M&Aをされた経緯を教えてください。
譲渡企業 栗田建設株式会社 栗田様: M&Aをした背景は事業承継でした。私自身がちょっと病気になって、従業員や会社がどうなってしまうかが心配になりました。娘2人はおりますが、建設業ということもあり親族承継は断念し、自社株を買ってもらってまで従業員が継ぐことも難しかったため、M&Aを決断しました。M&Aによって従業員の業務負担軽減や新規採用が進むと考えていたため、私自身の中でM&Aの不安はありませんでした。森長組は近すぎず遠すぎずの距離感で、何より創業100年を超えており、歴史あるお相手として安心感がありました。
譲受け企業 株式会社森長組 森様: M&Aの目的はズバリ成長戦略でした。我々は官公庁の仕事に強みを持っていますが、淡路島というエリアを考えていくと、これからなかなか成長曲線を描きにくい面がありました。我々と違う分野で活躍している企業と一緒になることで、相乗効果を出して成長していきたいと、社長に就任する前から思っていました。栗田建設は大企業と直接取引が多く民間工事に強い。そして従業員の年齢層も若く非常に魅力的です。栗田社長の人柄に加えて、M&A後も数年間は継続して勤務してくれる安心感が初のM&Aの背中を押してくれました。地理的にも車で1時間半程度という好立地に納得でき、建設業にとって何かあったらすぐに駆け付けられることもメリットでした。
――M&A後の取り組みについて
譲受け企業 株式会社森長組 不動様: セオリー通り、M&Aの事実を伝える従業員開示を成約後に栗田建設の全従業員向けに実施しました。栗田社長が継続して勤務することや給料など従業員の待遇を変えないことをお知らせしました。今考えると一度で理解してもらえたという過信があったかもしれません。私自身も初めてのM&Aで、栗田建設の従業員とどうやってコミュニケーションを図るべきか分からない状況でした。幹部社員向けのヒアリングをしても、うまく内容を聞き取ることができず、雰囲気も決して良いとは言えない状況でした。
一度、会社見学も兼ねて栗田建設の現場を回った機会がありました。ただ短時間でいくつも回ったためか、従業員としっかり会話や意見交換をすることなく、受け入れ側からは「会社のトップばかりが物事を決めている」と思われていたかもしれません。M&Aから2か月ほど経った時に「これじゃまずいな」と感じ、日本M&Aセンターの担当コンサルタントから、中小企業庁の補助事業でPMIサービスが受けられることを聞き、依頼することになりました。当時を振り返ると、公認会計士の先生に経理周りを見てもらったり、印鑑を管理したりと実務では話し合いましたが、現場従業員と膝と膝を突き合わせて語り合う機会をつくることまで頭が回らずに反省しています。
――PMIサービスで取り組んだことは
不動様: まず日本PMIコンサルティングに従業員ヒアリングをしてもらいました。その結果、従業員が強い不安と心配事を抱えていることが分かりました。従業員開示で従業員の待遇について変えないと説明したつもりでしたが、従業員からしたら信じられなかったのだと思います。M&Aの事実をマイナスに感じている従業員が多いことが再認識できました。ヒアリングについては当事者同士だと、意見を聞きにくい、言いにくい場面があります。改めて第三者だからこそ、本音を知ることができました。そこからまずは話しやすい雰囲気をつくるためにフランクな懇親会を企画しました。
森様: コロナが落ち着いたこともあって、中華料理を囲みながら新年会を開きました。栗田建設の全従業員が集まり、私服姿で、趣味の話や働き方について楽しく話し合って盛り上がりました。お酒の力も借りましたが、仲が深まる実感がありました。栗田建設は採用さえ順調に進めば、まだまだ伸び代十分な会社です。徐々に信頼関係を築き、第二段階としてまた日本PMIコンサルティングに入ってもらい「一緒に栗田建設の未来をつくりましょう」ということで、従業員主体の経営方針を定める検討会議に取り組みました。具体的には日本PMIコンサルティングが会議進行や議題設定、各種資料の取りまとめを行い、その中で売上の計画やそれを達成するための採用計画などを幹部社員が自ら考えて、会社が成長していくための目標を一緒に決めていきました。幹部社員が経営について参加し、意見交換の機会をつくることを重視しました。
――どのような効果がありましたか
森様:栗田建設と森長組で一緒にやっていこうという雰囲気が醸成できました。従業員開示後と経営方針発表会後では反応と意識が全く変わりました。こちらの説明不足やコミュニケーションに問題がありましたが、どこか反発心のようなものも感じていました。そこから一緒に検討会議で計画を立てていく段階で、一緒に成長していくという前向きな気持ちを感じるまでに変わりました。PMIに取り組んで従業員の目の色が変わりました。
栗田様:まず私自身がかなり遠慮していました。それぞれの現場が忙しいため、従業員の負担にならないように、本社に集めることを極力少なくしようと考えていました。PMIのサービスを受けるなかで向き合い方を変えて、経営方針を決めるために幹部社員を入れた検討会議を重ねました。現場仕事終わりに週1回、みんなで集まって約二か月間掛けて取り組みました。これまでは月に1回の社内会議にも遅れてくることが多かったのですが、その時は毎回定時に幹部社員4人が集まりました。「社長任せにしてたらダメだ」と思っていたかもしれません。経営方針発表会では、4人の幹部社員から一言ずつ思いを語ってもらいました。紙を用意して臨んだり、その場で考えながら話したりとそれぞれでしたが、みんな前向きな意見で、安心できました。森社長から私が退任した後の社長を栗田建設の従業員から選びたいと言ってもらったことで、「自分が社長になったらどうするか」と考える従業員が出てきて、より積極的に仕事に向き合ってくれるようになりました。
――両社の成長に向けた取り組みは
栗田様: M&A後に会社で基本的に変わったことはありません。①私が65歳まで継続勤務すること②社名を残すこと③従業員の処遇④取引先の継続の4つの条件は変わっていません。ただ変えなくてはならないこともあります。人を採用することと会社の組織体制を強化することです。今までは従業員はフラットで、その上に社長の私がいる組織でした。成長していくためには管理部門や経営の補助的な立場もつくる必要があります。安全管理を図るために現場パトロールを強化したり、一緒に採用活動を始めたり変化も出てきています。賃金制度などを明文化するなどこれから取り組んでいく課題もあります。
森様: 第一に栗田建設の事業継続性を強化していきたいと考えています。栗田建設は少数精鋭の強みがありますが、現場を一人で対応する従業員も多く教育制度の充実が求められています。部下を持って一緒に現場を担当し教育するサイクルを採用強化で実現したいです。また積極的に従業員を評価して登用していきたいです。栗田社長からバトンタッチする次の社長は栗田建設の従業員から誕生させていきたいです。栗田社長から経営のイロハを吸収してほしいです。
――日本PMIコンサルティングの満足度は
不動様: 100点満点です。私たちだけじゃここまで来ることはできなかったと思います。ヒアリングや会議の進行のスキル、分かりやすい提案書作成など、今の我々にはできないことです。しっかりと会社の方向性をまとめてくれました。
森様: お世辞抜きで100点ですね。日本PMIコンサルティングに入ってもらったのは本当に大きかったと思います。中小企業庁の資料「PMI取組事例集」でも紹介してもらえました。
栗田様: 従業員から事業まで会社のことをしっかりと理解いただいた上での的確なアドバイスは本当にありがたかったです。PMIという言葉も知らないところからスタートして、正直どうかなと思っていましたが、会社が進んでいくに連れて、やっぱり良かったなと思います。従業員がPMIの取り組みに参加しやすいように、話し方等にも配慮してもらいました。
――今後の両社の目標や夢について教えてください。
栗田様:栗田建設の強みは大企業と直接取引してきた確かな技術と信頼だと思います。大企業の担当者は数年で変わってしまいますが、我々は長年お付き合いができるので現場でより良い提案ができます。私は今、57歳で会社は創業65年を迎えました。今の夢は会社の100周年のパーティーに参加することです。90歳になることが楽しみでなりません。65歳で後任へのバトンタッチを考えていますが、その時までに次期社長を従業員から育てあげて、3年先、5年先の目標を一つずつクリアしていくことが社長の責務です。さらに従業員が働きやすい環境をしっかりと作る責務を果たしていきます。
森様:伸び代がある栗田建設は、違う市場で強みを持っています。これからじわりじわりと相乗効果も出てくるはずです。我々の強みは淡路島にありながら成長意欲が強いことが特徴です。土木工事、建設工事、海洋土木とバランスよく売り上げ構成を持つ総合建設会社です。大手ゼネコンの協力企業として、淡路島に留まらず全国・海外まで仕事を展開しています。今回が初めてのM&Aですが、両社だけの満足だけではなく、成功したM&Aとして、社会に認めてもらえるように共に成長を実現していきます。森長組グループに加わりたいとお声掛けいただけるように成功に導き、中堅企業から大企業に一歩ずつ成長を積み上げていきます。
東北鈴木の2代目社長は、事業拡大を目指すものの方向性に悩んでいました。解決する手段の選択肢としてM&Aを考え、2024年3月に県外の会社に譲渡を行いました。
沖縄県で防水工事業を手がけるヤマト防水工業は、10年後の譲渡を見据え準備を始めたところ、想定より早くにお相手が見つかりました。その経緯やM&A後について伺いました。
北海道全域で道路の舗装工事を行う道路建設は、当初掲げていた条件とは異なる企業を譲り受けます。M&Aから1年たった今、決断の背景と現在の状況を伺いました。
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「自分でもできる?」「従業員にどう言えば?」 そんな不安があるのは当たり前です。お気軽にご相談ください。
株式会社日本PMIコンサルティング 西川 佳那(日本M&Aセンターグループ)
本案件では「従業員と共に考え、共に進むこと」を大切にしました。栗田建設様で働く皆様はご自身のお仕事に大きな誇りを持っていらっしゃいます。その従業員様の想いを経営陣の皆様に正しくお伝えし、今後を共に考え、共に進むための機会を設けさせていただきました。今後の両社の益々のご発展を心より祈念しております。