[M&A事例]Vol.148 会社を成長させるため譲渡を決断。社長を継続し経営パートナーを得る
東北鈴木の2代目社長は、事業拡大を目指すものの方向性に悩んでいました。解決する手段の選択肢としてM&Aを考え、2024年3月に県外の会社に譲渡を行いました。
譲渡企業情報
譲受け企業情報
熊本市内で金属製の建具工事業を営む有限会社メタルスター九州(現:株式会社メタルスター九州)は、主に県内の小中学校や商業施設等に手摺やワイヤーフェンス、タラップなどのいわゆる「化粧金物」を納めている会社です。財務状況も非常に良く、順調に経営をしていた2022年3月、同社はJR九州グループの子会社であるJR九州エンジニアリング株式会社にM&Aで株式譲渡しました。JR九州エンジニアリングは、グループの中でも中核事業である新幹線や鉄道車両、車両部品の製造およびメンテナンスを行っていますが、鉄道以外にも事業の幅を広げるという方針のもと、今回、譲受けを決断しました。 M&Aからおよそ半年がたった10月、M&A当時メタルスター九州の社長だった宮﨑文典氏は、現在は取締役会長として新たな経営陣に事業の引継ぎと経営の指南をしています。
メタルスター九州は、自社工場を持ち受注から作図、制作、取付けまで一貫対応できるのが強みです。その豊富な経験と高い技術は大手ゼネコンや建材商社、工務店を中心に厚い信頼を得て、70社以上と取引があります。 創業は2004年。宮﨑会長が前職で所属していた建築金物部門が撤退したため独立を決意、5名ほどの仲間とともにスタートした会社です。
「前職で可愛がっていただいた方の紹介で事務所を構えることはできたんですが、これがスイカ畑のなかを700mくらい入ったところにあるんです。夜は電気を消せばもう真っ暗です。夜中まで働いて、帰る時にはタバコの火を頼りに鍵を掛けたりしてね(笑)。他の従業員もみんな遅くまで頑張ってくれた。当時、苦労を共にした仲間が今も何人か残ってくれています。独立前からですから、もう30年以上の付き合いです。本当にありがたいことです。
お客様にも恵まれました。本来、大手のゼネコンと新規取引をするには口座窓口を作らなければならず、設立間もない会社が入り込むことは至難の業です。しかし、前職でお世話になった当時の現場主任たちが、従来の取引会社に頼むべき少額の仕事をわざわざ当社に発注してくれて、それで口座を作ることができたんです。徐々に取引額が増えて手形でのやりとりに変わったときに、持って行った信用金庫の担当者は驚いていました。金融機関はこういうもので信用度を図っているんだなと実感しましたね。
設立当時は、従業員に給料を払うために私自身は無給で働くような苦しい状況が1年近く続きましたが、こういう仲間やお客様がいたから会社を軌道に乗せることができました」
M&A実行当時、宮﨑会長は60歳。後継者不在による決断でしたが、M&A自体は会社設立時から選択肢の一つとしてあったといいます。それは、周辺でM&Aを決断した経営者がいたからです。 ある会社は、ご子息に事業承継して2、3年も経たないうちにM&Aで会社を譲渡しました。社内ではM&Aに対して大反対が起き、何人か辞めて部下を引き抜き別会社を作ったそうです。しかし、その会社は10年も続きませんでした。一方、M&Aをした会社は今でも存続し、順調に経営しています。 宮﨑会長は、「息子さん自身が、継いですぐに自分に社長は務まらないと判断したんでしょう。反対した人たちには社長が会社を叩き売ったと見えたのでしょうが、私は社長の判断は正しかったと思う」といいます。ほかにも同じような事例が身近にいくつかあったので、設立当時から親族承継が絶対とは考えていなかったそうです。
一方で、従業員承継は選択肢の一つとしてありました。1人技術力に優れた人がいて、一時は後継者にと声を掛けたこともありましたが辞退されたことで、いよいよM&Aを検討するようになりました。
「60歳の今ならまだ体力もあり健康なので、自分のもっているすべてを引き継ぐことができると思いました。そこで、野村證券の信頼している担当者に相談したところ、日本M&Aセンターを紹介され、いよいよ本格的な相手企業探しを始めることになりました」
宮﨑会長が提示した譲渡の条件は、「会社を続けていくだけの体力のある会社」であること。それは、従業員が働き続けられることが一番の願いだったからです。今後も常に事業が順調とは限らない。停滞する時期があっても、耐えて再度成長軌道に乗せられるだけの力がある会社であれば、安心して任せられると思ったのです。
2021年8月に日本M&Aセンターと提携仲介契約を結び、10月にマッチングを開始すると、1カ月あまりの間に複数社から手が挙がりました。その内の1社が JR九州エンジニアリングだったのです。宮﨑会長は非常に悩んだといいます。
「どの会社も素晴らしい会社でした。すべての方とお会いして、経営者としての想いに触れれば触れるほど、選ぶことなんてできないと思いました。しかし、最後は従業員を安心して託せる会社はどこかを考えて、地元で抜群の知名度を誇るJR九州グループ傘下の JR九州エンジニアリングに決めました。それに、JR九州グループは、鉄道事業以外にも九州一円のネットワークを活かして、不動産や建設、外食事業など多彩な事業を展開しています。同社と一緒になればグループ内のさまざまな事業で協業できるかもしれない。それはそのままメタルスター九州の成長・発展につながるとの経営判断もありました」
2022年4月、メタルスター九州とJR九州エンジニアリングの成約式が行われました。M&Aを検討し始めてから半年ほどのスピード成約に、不安や迷いはなかったのでしょうか。
「M&Aという選択自体は、会社を継続していくという意味において正解だったと思っています。しいて言うなら、自分が想定していたよりもトントン拍子に話が早くまとまったので、そのスピード感には多少戸惑いました。良い相手と巡り合うまで数年かかると思っていたので、気力体力が充実しているうちにバトンタッチできればいいくらいに考えていたんです。ただ、きちんと検討して順調に話がまとまってこのスケジュールだったのだから、時間をかけても結果は同じだったろうと思います。そうであれば、結果的にはこれで良かったと思っています」
成約式から約半年。メタルスター九州の社内は活気づいています。まず、成約後すぐに新社長と常務が新たに就任、営業も1名入りました。その後も経理が1名、さらに10月からは営業と工場勤務の方が3名追加で入社。この3名はJR九州グループ内の公募によって自ら手を挙げたメンバーだといいます。宮﨑会長はかねてから労働力不足の課題を感じていましたが、採用は思うようにいきませんでした。やる気のある人材が多数加わり、役員を含め新しいメンバーに経営の考え方や仕事を教えるのは「教え甲斐があって、楽しい」と宮﨑会長は顔をほころばせます。
業務内容など従業員の働く環境は変わりませんが、待遇面ではいい方向に大きく変わっています。これまでは繁忙期とそうでない時期で月の休日日数に差がありましたが、JR九州エンジニアリングと同じ条件になったことで繁忙期の休みも増えました。従業員の中には部長に昇格した人もいます。
「M&Aしたことを初めて伝えたとき、従業員は一様に驚いた表情を見せていました。そのとき私は、『今後もこの会社が悪くなることは決してない。皆さんにとっていい方向に進んでいく』と断言したんです。その約束を守るためにも、新しく就任した役員の方には「緩やかに飛行機は離陸してもらいたい」とお願いしてきました。その希望通りに実行していただいています。当時は内心ドキドキしながら伝えたM&Aも、今では従業員にもいい決断と受け止められているようで安心しました」
メタルスター九州は2022年4月に有限会社から株式会社に移行しました。来年には福岡に営業所を構える計画もあるといいます。現在も変革を続ける同社ですが、あらためて今回のM&Aについて宮﨑会長にお気持ちを聞きました。
「廃業も一つの選択肢としてあったのかもしれませんが、従業員やお客様のことを考えたら、経営者として『会社を止める』という決断はできませんでした。経営を継続する手段としてM&Aはベストな選択だったと思っていますし、何の後悔もありません。今、会社の将来について悩んでいる方がいるなら、あなたにとって何が一番大事なのかを自分に尋ねてみることです。私にとっては従業員がこれからもずっと働き続けて、『この会社で働けて良かった』と思ってくれることが一番で、その答えがM&Aでした。 あと私に残された責任は、『かっこよく辞めていくこと』ですね。だから今は、新しい役員の方、従業員たちに全力で自分のすべてを伝えています。従業員から『今までの5倍仕事が増えたんじゃないですか』と言われているくらいです(笑)」
東北鈴木の2代目社長は、事業拡大を目指すものの方向性に悩んでいました。解決する手段の選択肢としてM&Aを考え、2024年3月に県外の会社に譲渡を行いました。
沖縄県で防水工事業を手がけるヤマト防水工業は、10年後の譲渡を見据え準備を始めたところ、想定より早くにお相手が見つかりました。その経緯やM&A後について伺いました。
北海道全域で道路の舗装工事を行う道路建設は、当初掲げていた条件とは異なる企業を譲り受けます。M&Aから1年たった今、決断の背景と現在の状況を伺いました。
まずは無料で
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「自分でもできる?」「従業員にどう言えば?」 そんな不安があるのは当たり前です。お気軽にご相談ください。
金融提携事業部 シニアチーフ 河内 孝裕 (株式会社メタルスター九州様担当)
宮﨑社長は業績絶好調な中、メタルスター九州のステージアップのために資本提携を決断されました。成約後、「以前の5倍忙しくなったが、若くて意欲的な人たちに仕事を教えるのは楽しい」と仰っていたことが印象的でした。メタルスター九州のさらなる飛躍を陰ながら応援しております。
コンサルタント戦略営業部 シニアチーフ 米澤 伸輔 (JR九州エンジニアリング株式会社様担当)
本件によって、JR九州エンジニアリングはモノづくりへの本格進出を果たすことができました。同時に、メタルスター九州は宮﨑社長が大切にしてこられたご家族や従業員、会社に対する熱い想いを次に受け継ぐことができました。両社の想いに応えるマッチングが実現できたことは、仲介者として本当に良かったと感じております。成約式では、両社長から一緒に明るい未来を作っていくという熱い想いをお聞きして、非常に感動しました。