[M&A事例]Vol.137 心血を注いで開発した製品と事業を存続させるため決断した成長戦略型M&A事例
敏感肌用化粧品のインターネット通信販売を展開するエクラは、3つの課題を解決するために資本提携を決断しました。その決断の背景、現在について伺いました。
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耐熱塗料で国内シェア50%超を誇るニッチトップ企業のオキツモ(三重県名張市)。1990年代から積極的に海外進出、現地生産を進め、現在ではアメリカ、ブラジル、インド、スペイン、中国、タイの6カ国に駐在所を持つグローバル企業です。海外でのネットワークや知見も豊富にある同社ですが、今回、初めてM&Aでタイの現地企業を譲り受けました。
耐熱塗料を製造・販売するオキツモ。塗料とひとくちに言っても用途によってたくさん種類があります。同社が得意とするのは、耐熱や放熱、環境配慮といった熱に関する機能をもたせた塗料の開発です。
オキツモは1957年に日本で初めてシリコーン樹脂をベースとする耐熱塗料の量産化に成功しました。「おきつも」と名付けたその塗料は暖房機器やキッチン用品などの日用品から自動車のマフラーやロケットまで幅広く使われ、以来、耐熱という特徴に顧客のニーズを合わせて付加価値をつけた塗料を開発、販売してきました。今では耐熱塗料で国内シェア50%超を誇ります。年商72.9億円(連結・2021年12月期)、従業員315名(グループ会社4社含む)、海外に拠点を6つもつグローバルニッチトップ企業です。
1945年に大亜精工株式会社を設立し(1947年、三重油脂化工株式会社に改称、1987年に現在の社名に)、現在は創業者の孫である山中 重治様が社長を務めます。オキツモの強みを山中社長はこう話します。
「自動車のボディや建物の外装といった一般的な塗料は大手企業が市場を独占しています。特に私が入社した1980年代当時は、市販の塗料を購入するのが一般的でした。そこで、顧客と共同開発して商品を生み出すことにしたんです。少量多品種ですので大手は参入しにくい。このやり方を『メニューのない居酒屋のようだ』と評されたこともあります」
現在はグループ従業員の約30%が技術開発に従事し、海外の拠点も含め開発した新しい技術や発想・情報を共有することで、さらなる新商品開発につながるグローバル技術体制を構築しています。 ちなみに社名の『オキツモ』は万葉集に詠まれた名張の枕詞『沖津藻』に由来します。『最先端のテクノロジーを追求しつつも、美しい自然を愛した万葉人の素朴で豊かな心を忘れない企業人でありたい』との願いが込められているそうです」
オキツモが最初の進出先としてアメリカに営業拠点を設けたのは1994年。この頃から日本企業の海外展開や生産拠点の海外移転が本格化し、その流れに追随するように2年後の1996年にはタイに生産拠点を作りました。その時に陣頭指揮を執ったのが、当時30歳で営業部に在籍していた山中社長でした。
「タイに赴任したときはまだ入社して数年でした。工場や技術のこと、まして経営のことなどわからない状態で飛び込んだ上に、通貨危機が起きて操業前にあてにしていたタイ国内の日系企業からの発注がほとんど期待できなくなってしまったんです。それでも工場を作るための費用は発生します。毎週の支払いを工面するのに非常に苦労しました」
困難を乗り越えて25年あまりが経ち、現在タイの拠点は順調に操業しているにもかかわらず、今回、オキツモはM&Aで現地企業を譲り受けました。その決断の背景にあったのがここ数年のコロナ禍です。
「タイの拠点は順調に利益を出してはいますが、主力商品はオートバイのマフラーの塗料で約7割を占めています。売り先もほとんどが日系のオートバイメーカーです。今は成長産業ですが、脱炭素に向けた動きなども考えるとどこかで頭打ちになる。それを見越して新たな事業創出に向けた動きも進めていたのですが、コロナ禍ですべてストップしてしまいました。そんなときに知ったのがBu社でした」
Bu社はタイでガスボンベの塗料を製造・販売する会社で、後継者不在を理由に譲渡先を探していました。ニッチな領域のため利益率も10%と高く業績もいい。何より現地のローカル企業を顧客に持っている点が魅力でした。
「日系企業は日本にいるときからの関係性がありますが、現地のローカル企業はそうした関係性が一切ありませんから価格勝負になってしまうんです。当社は顧客の要望に合わせた商品開発をしていますから、それでは強みを発揮できません。譲り受けることよって新たに事業領域を広げ、現地取引先の獲得もできると思いました」
こうしてオキツモとBu社は資本業務提携を結びました。
オキツモにとって今回が初めてのM&Aでしたが、これまでに2度、海外企業とのM&Aを検討して、成約までにいたらなかった経験を持ちます。いずれも直接交渉でしたが、「思わぬ問題がいろいろ出てきた」と山中社長は苦笑します。
「例えばこんなことが起きました。その会社とはDD(デューデリジェンス、買収監査)まで話が進んだのですが、そこでいろいろと問題が出てきました。従業員と給料未払いで揉めていたり、土地の契約更新で揉めていたり……。そもそも赤字の会社だったこともあって買収価額もつけられない。それでも当事者間で進めないといけませんから、まったく折り合いがつきませんでした。
その点、今回は非常に順調でした。相手企業の業績が良かったこともありますが、企業評価をしっかりした上で提示された金額でしたから買収価額の判断はしやすかったです。コロナ禍でなかなか現地に行って直接お話しすることはできませんでしたが、そこも日本M&Aセンター担当の杉浦 広太さんが動いてくださったのでストレスなく検討を進めることができました」
成約して数カ月がたち、現在は前オーナーからの引き継ぎの真っ最中だというオキツモですが、状況を尋ねるとものづくりの会社ならではの苦労を話してくれました。」
「予想はしていましたが、塗料の配合レシピがすべて前オーナーの頭の中にしかないんです。秘密保持の観点もあるのでしょうが、データとして蓄積されていない。それなので、今は前オーナーにヒアリングしながらレシピを記録する『見える化』の作業をしています」
オキツモでは、特にASEANを中心に今後も積極的にM&Aを活用して事業の領域を広げていこうと考えています。そういう意味において、今回のM&Aは「試金石になった」と山中社長は話します。
「例えば燃料を使った自動車がなくなったら、当社の取引の3分の1が消失してしまいます。そしてそれは、それほど遠い未来の話ではないでしょう。M&Aで譲り受けた会社に当社の技術やノウハウを融合することで、新しい事業や顧客を生み出し両社ともに事業を発展させていくことができると考えています」
敏感肌用化粧品のインターネット通信販売を展開するエクラは、3つの課題を解決するために資本提携を決断しました。その決断の背景、現在について伺いました。
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海外事業部 In-Out推進課 杉浦 広太 (オキツモ株式会社様担当)
コロナ禍ということで案件を進める難しさや、クロスボーダーならではの壁はありましたが、スピード感を持った意思決定と真摯に譲渡企業と向き合うオキツモの皆様のおかげで、友好的に進めることができました。今後も積極的に海外展開をされると伺っておりますが、本件がオキツモ株式会社様の発展に寄与することを心より願っております。