[M&A事例]Vol.140 医薬品×食品、異色のM&A。120年以上の歴史にカイゼンの風を吹き込む
ジェネリック医薬品の卸売業を営む八戸東和薬品は、異業種のきちみ製麺を譲受けました。約2年経った現在話を伺いました。
譲渡企業情報
譲受け企業情報
※M&A実行当時の情報
有限会社プラチノは、都内2店舗で洋菓子を製造販売しています。業歴30年以上の歴史と確かな味で地域に愛され、芸能人の常連も多い人気店です。創業者の田勢克也社長は近年、後継者不在を理由に店の今後について悩んできました。今回、後継者不在問題の解決とさらなる成長戦略を描くため、ライン生産が可能な設備を持つ製菓メーカー・株式会社ホワイエに株式譲渡を行いました。M&Aに至った経緯と、成約から約3カ月たったプラチノの現在をお聞きしました。
――はじめに、M&Aを決意された経緯をお聞かせください。
譲渡企業 有限会社プラチノ 田勢克也様: プラチノは1990年の開店以来、おかげさまで多くのお客様に愛されてきました。開店当時は私の代で店を畳むつもりだったんです。しかし、年齢が60に近づくにつれて、このまま終わっていいのだろうか、自分に体力があるうちに事業承継をすればプラチノがより発展していけるんじゃないかと思うようになりました。M&Aはあくまでその選択肢の一つとして、2年ほど前から調べていました。
――M&Aについて奥様はどんなイメージをお持ちでしたか。
譲渡企業 有限会社プラチノ 田勢久子様: 夫とM&Aについて調べ始めた頃の私のイメージはあまりよくなかったですね。譲渡した途端に自分たちは必要とされなくなってしまうんだろうと思っていました。ただ、それは自分の思い込みかもしれない。それを確認するために、実際にM&Aをされた方の話を聞いてみようと思い、夫と日本M&Aセンターのセミナーに参加したんです。2020年2月、ちょうど新型コロナウイルスが猛威を振るいはじめた頃です。 セミナーを受けて、私のイメージが間違っていたことを知りました。そこで後日、改めて日本M&Aセンターへ話を聞きに行きました。
田勢克也様: 私たちのような年商1億円程度の会社を譲受けしようという企業があるのか半信半疑でした。セミナー会場でスタッフにそう話すと、「さまざまなケースがありますから、ご心配なさらず一度お越しください」とのことでしたので、詳しい話を聞いてみようと思ったのです。 実は、血縁関係はありませんが、店には長らく厨房を仕切ってくれている兄弟がいましたので、彼らに店を託そうかとも思っていたんです。ところが1年半前くらいに彼らから「3年を目途に独立を考えている」と話がありました。そこで本格的にM&Aを検討しようと、2020年3月に日本M&Aセンターと提携仲介契約を結びました。まだ50代でしたからそこまで切迫していたわけではありません。相手先はじっくり探そうと思っていました。
――日本M&Aセンターからはホワイエの前に2社紹介を受けてTOP面談をされましたね。ホワイエを選ばれた決め手はどんなところですか。
田勢克也様: 最初に紹介された2社は売上げや会社の規模が大きすぎて、当社に何を期待しているのか、当社をどうしていくのかといった部分が見えづらかったんです。親会社のデザート部門だけを担うといったことであれば自分の思い描く未来とは違います。そうした不安が拭えず、話を進められませんでした。 でも、ホワイエの松下社長とお会いして今後の事業展開をお聞きしたとき、明るい将来像がぼんやりとですが見えたんです。ホワイエは「ロシアケーキ」(ロシア伝統の焼き菓子)をはじめとした焼き菓子をライン生産していました。実際に工場のライン現場も見て、これは当社にとって大きなチャンスだと思いました。
――どんなチャンスを感じたのですか。
田勢克也様: 実は、私たちの業界は長時間労働になりがちで、働き方改革が求められています。工場のラインに任せるもの、店でしかできないものに振り分けることができれば労働環境の改善につながり、できた時間で新商品開発に力を入れることもできます。これまでも百貨店や駅ビルから声を掛けてもらうことがあったのですが、そこまでの余力がなく断ることが多かったんです。ホワイエと手を組むことで再び販路を広げることができたら、プラチノの商品を広く知ってもらうチャンスにつながると思いました。
――松下社長はTOP面談でどんなお話をされたのですか。
譲受け企業 株式会社ホワイエ 松下様: 当社はライン製造の設備を持つ製菓メーカーです。ルーツは親会社である栄光堂製菓株式会社で、1973年に設立しました。私は長年、栄光堂製菓で経営戦略を担当していましたが、3年前からホワイエの経営を担っています。この10年で栄光堂製菓は、OEMの売上比率を徐々に上げてきました。OEMでは、自分たちで値段を決めることはできませんし、新商品の企画もできません。下請けに近い仕事が増えていく状況に、私は危機感を感じていました。
これからの時代はメーカーであっても新商品を企画し、直接消費者に届けていかなければ生き残っていけない。それにはいずれ自社で店舗を持ちたいと思うようになりました。 はじめは自前で作ろうと思っていましたが、M&Aでの譲受けも検討する中でプラチノとご縁をいただいたんです。TOP面談で私がこれまで考えてきたことを資料にまとめてお伝えしたところ、田勢社長の事業展望と私の進めていきたいことが同じでしたので、プラチノとならベクトルを合わせてやっていけると確信しました。 その後、何度かケーキも食べました。何と言っても決め手となったのは味です。一口食べて、「ああ、美味しいな。一緒にやってみたいな」と思いました。一目ぼれです。
田勢久子様: ホワイエの前に2社お会いした時は、このまま進めて大丈夫だろうか、はたして主人の力が活かせるだろうかと、常にモヤモヤした気持ちが付きまとっていたんです。決めきれず、朝方に汗をびっしょりかいて目覚めたこともありました。でも、ホワイエとのお話は「これがご縁なんだな」って、不思議と思えたんです。話を進めているときも、一度も不安に感じることがありませんでした。
――TOP面談から約1カ月で最終契約まで進みました。成約式を終えて、今後の展望をどう描いていますか。
田勢克也様: 焼き菓子は栄光堂製菓にお任せをして、生菓子に専念したいと思っています。新しい技術を教えてもらいながら、これまで時間がなくてできなかった手の込んだ新商品作りに挑戦したいですね。M&A後も妻が顧問、私は取締役社長として店に携わりますので、自分の技術を伝えながらホワイエの新商品開発にも貢献していきます。
田勢久子様: 主人はこれまで、常に家族やお客様、従業員のことを考えてがんじがらめになり、孤独だったと思います。これからは松下社長という仲間を得て、両社のために最大限のパワーを注いでいけると思います。
松下様: 私はプラチノというブランドをより多くの方に知ってもらいたいと思っています。そのためにも栄光堂製菓のオリジナル商品を田勢社長に監修いただいて、全国にプラチノの味を届けたいですね。 あとは従業員さんの働く環境づくりです。菓子職人って何代にもわたって人生の節目に寄り添う、夢のある仕事だと思うんです。そのためには、まずは従業員が幸せでないとお客様を幸せにはできません。時代に合わせて労働環境を整えていきたいですね。
田勢克也様: M&Aしたことでお客様に喜んでもらいたいのもありますが、同業他社に驚かれたらいいなと思っています。「プラチノの従業員はみんな早く帰っているけど、商品も良くなっている」と噂が立ったら嬉しいですね。
――成約からおよそ3カ月がたちました。現在までにどんな変化がありましたか。
田勢克也様: 店からすぐ近くのところに新しい事務所を開設しました。スタッフがゆっくり休憩する場所ができて、商談や取材対応にも使えて重宝しています。就業規則も作り直しているところで、業界全体が抱える労働環境の改善に向けても動き出しました。まだまだやるべき事はたくさんありますが、少しずつ会社らしくなってきています。
また、シェフクラスのスタッフの採用もできたんです。当初は厨房を仕切ってくれている兄弟が独立を希望していたのでその代わりにと募集したのですが、有名ケーキ店で修業を積んだパティシエを採用することができたことで、兄弟シェフも彼と一緒に働いてみたいと、しばらく残って働いてくれることになりました。シェフクラスのスタッフが3人になって、M&A後初めて迎えるクリスマスが今から楽しみです。
田勢久子様: Webサイトもリニューアルすることになりました。ずっとメンテナンスできずにいたのですが、これを機にお買い物システムを充実させようと思っています。今はお客様も冷凍スイーツをお取り寄せすることに抵抗がなくなってきていますので、もっと冷凍商品を増やすことで、他県の方にもプラチノの味を楽しんでいただきたいですね。
松下様: あっという間の3カ月でした。最初の3カ月でプラチノのベースを作る覚悟で様々なことに取り組むことができたと考えております。スタッフの方々との面談(コミュニケーション)、会議体の整備、中期経営計画作成、新事務所の開設、就業規則の整備、Webサイト再構築など、まだ進行中のものもありますが、プラチノは着実に進化していて私もやりがいを感じます。このいい意味での変化、熱量をスタッフとこれからも共有して、業界の皆様から羨ましがられる会社にしていきたいです。
最近思っていることは、お菓子を求めて来店されるお客様の笑顔や、街の雰囲気がとても素晴らしく居心地がよいこと。これはM&A前に直感的には感じていたことですが、改めて時間を共有する事で実感しています。今の夢は、プラチノを通じて地域にどれだけ貢献できるかを追求すること。そして次のフェーズは商品開発に力を注いでいく事です。今後の展開にご期待ください。
――最後に、譲渡を検討する経営者の方へ田勢社長からメッセージをお願いします。
田勢克也様: M&Aの検討は早い方がいいです。待ったなしの状況になって慌ててお相手探しを始めると、不安に感じる部分があっても金額面が条件に合ってるからいいかと妥協して決めることになりかねません。しっくりくる相手は必ず出てくると思いますので、その希望をもってじっくり検討するためにも、とにかく早めに始めることをお勧めします。
創業者である父は店舗を持つことが夢でした。一度、挑戦したこともあったようですが実現せず、道半ばで他界しましたので、今回のプラチノとのM&Aを、天国の父も喜んでいるのではないでしょうか。生菓子に関してはまったくの素人ですので、精一杯努力しながらプラチノとホワイエがウィンウィンの関係を築いていけたらと思っています。
ジェネリック医薬品の卸売業を営む八戸東和薬品は、異業種のきちみ製麺を譲受けました。約2年経った現在話を伺いました。
120年以上温麺の製造を行う「きちみ製麺」が譲渡先に選んだのは、ジェネリック医薬品の卸売業の会社でした。成約から約2年経った現在について伺いました。
有名アイスクリームの製造を手掛ける竹下製菓は、アイス製造会社やパン製造会社を譲受けを行っています。同社に積極的に資本提携を進める理由を伺いました。
まずは無料で
ご相談ください。
「自分でもできる?」「従業員にどう言えば?」 そんな不安があるのは当たり前です。お気軽にご相談ください。
ダイレクトマーケティング部 告宮 成郁 (有限会社プラチノ様担当)
業歴30年以上の思いの詰まったお店を、事業承継問題の解決だけでなく、さらなる成長・発展も見込めるお相手と成約ができた事を非常に嬉しく思っています。田勢ご夫妻の素敵なお人柄や、こだわり抜いてきた商品の数々がこの良縁につながったと感じています。新たなステージへと進んだプラチノ様を今後とも応援していきたいと思います。
西日本事業法人部 大村 優波 (株式会社ホワイエ様担当)
松下様は初めてのご面談時より、しっかりとした経営計画とビジョンをお持ちでした。今回のご縁では、そのビジョンを進めていただくお手伝いができたのではないかと思っております。ぜひ一度、親会社栄光堂製菓のロシアケーキ、そしてプラチノのアンジュをご賞味ください。個人的にはダックワーズがイチオシです。