[M&A事例]Vol.137 心血を注いで開発した製品と事業を存続させるため決断した成長戦略型M&A事例
敏感肌用化粧品のインターネット通信販売を展開するエクラは、3つの課題を解決するために資本提携を決断しました。その決断の背景、現在について伺いました。
譲渡企業情報
譲受企業情報
※M&A実行当時の情報
長引く新型コロナウイルスにあらゆる経営活動が影響を受けています。海外企業とのM&Aにおいても各国の拡大防止策によってこれまでの対面重視のコミュニケーションが図れないという状況が続きました。そうした状況の中で、東京に本社を置くレカム株式会社は2021年8月31日にマレーシアの企業Sin Lian Wah Lighting Sdn.Bhd.(以下、SLW社)との成約式に臨みました。これまで中国、ASEANを中心に拠点を広げてきたレカム株式会社の伊藤秀博社長が重視してきたのは、トップ自らが現地に足を運ぶということ。コロナ禍でもぶれなかった伊藤社長の決意とレカムのビジョンを伺いました。
レカム株式会社は情報通信機器やエコ商材などの専門商社として、日本、中国、ASEANを中心に主にオフィス環境を総合的にプロデュースしている企業です。1994年に創業し、2019年には25周年を迎えました。この間、海外に拠点を築きながらレカムグループとして事業を拡大してきました。 主な事業の柱は3つです。1つ目は国内で法人向けにIT機器や省エネ商材を販売する「国内ソリューション事業」、2つ目はオフィス内の間接業務をアウトソーシングする「BPO事業」、3つ目は海外で法人向けにIT機器やLED製品など省エネ商材を販売する「海外ソリューション事業」です。
BPO事業は、もともとレカムの本業だったIT機器販売事業において全国展開を推し進める際、営業の仕事を分業しようとコールセンター設立を計画したのが始まりです。当初は国内に作ろうとしていましたが、ちょうど中国がWTO(世界貿易機関)に加盟した直後だったこともあり、今後の中国の成長を見込んで中国・大連に作ることになりました。ノウハウができた2009年、BPOとして事業化しています。 海外ソリューション事業は2015年にスタートしました。日系企業が多く進出するASEANを中心にインドを加えた7カ国で事業を展開しています。
伊藤社長はこの海外ソリューション事業を「今後の成長ドライバー」と位置付けています。2018年にマレーシアに進出し、翌年にはタイ、インドネシア、フィリピンの同業の会社を譲受けし、ASEANの主要国すべてに拠点を作りました。
「レカムグループでは現在、『グローバル専門商社構想』を展開しています。時代に合った最先端の商材やサービスを、当社の強みであるダイレクトマーケティング力で、全世界のお客様にソリューション提供し、グローバル事業の成長を加速させたいと思っているのです。 今回、マレーシアで譲受け企業を探していた理由は、この事業をさらに現地に根付かせたいとの思いからです。これまでも当社では、その国のローカル企業にアクセスして顧客を作ることで成長してきました。しかし、日本の営業ノウハウを持ち込むだけでは限界があると感じていたのです。そこで現地の優良企業にグループに入っていただくことで、営業技術は日本から提供して営業ノウハウを現地で醸成していこうと考えました」
そんなときに日本M&Aセンターがマレーシアに拠点を持ちM&A事業を進めていると耳にします。
今回、レカム株式会社はマレーシアで電器・照明器具の卸売を行うSLW社と株式譲渡契約を締結しました。2021年8月31日にはクアラルンプール市内で成約式が行われました。
――今回、お相手にSLW社を選ばれた理由はなんですか。
1番の決め手は主力商品にLEDを扱っているというところです。当社はダイレクトマーケティングなので若干ビジネスモデルは異なりますが、取扱商品が同じという点で様々な面でシナジー効果が見込めると思いました。他には、社長のマギーさんが譲渡後も社長を継続する意思があったことです。 当社ではこれまで多くのクロスボーダーM&Aを経験してきましたが、その中で相手企業を決めるポイントが3つあると思っているんです。 1つ目は、取り扱う商品が同じであるということ。ですから異業種のM&Aはしません。 2つ目は、やはり買収価格です。暖簾が重たいと後のリスクにつながります。 3つ目は、今回のポイントにもなった譲渡企業の社長継続です。過去、M&A後のPMIがうまくいかずに撤退を余儀なくされた事案の理由に、社長がM&A後すぐに引退してしまったということがあるのです。社長は「自分は引退するがNo.2がいるから問題ない」とおっしゃるのですが、No.2は経営者として意思決定を下してきた経験がありません。いきなり社長になってもすぐにできるものではないのです。すると、社員も含めた離反が起きます。 そこで当社では、社長を含めた経営陣2名が2年間は残るという条件をつけているくらいです。
――コロナ禍で海外渡航の制限が厳しい中での交渉となりましたが、その点でのやりにくさはありましたか。
当然、コロナ前のような自由な行き来はできませんでしたが、事前の検査や感染対策を万全に行いながら対面を重視して進めました。それも、社長の私自身が現地に行くことにこだわりました。これは相手企業にとっても信頼関係を築く上でメリットがありますが、当社にとっても大事なことなんです。 人種や言葉、文化の違う企業とのM&Aは、ややもすれば不安な点に目が行きがちです。そうすると「そもそも海外の企業は何が出てくるかわからない」「カントリーリスクは考えているのか」などと役員から声が上がり、話が思うように進まなくなってしまいます。だから社長自身が現地に足を運び、誰よりもその国、会社を知っていることが大事なのです。今回も感染対策で行くたびに1週間ほど隔離されましたが、現地に足を運ぶことはやめませんでした。
――PMIで配慮している点はどんなところですか。
こちらも2つあります。 1つ目は、経営理念の共有です。これは非常に重要だと思っています。ただ、バランスが大事で、急にやりすぎてしまうと逆に反発を招く場合があるので、時間をかけて取り組みます。 具体的には、カルチャーブックというものを作っているので、それを現地の言葉に変えたものを配って説明会を開き、私が直接レカムグループの経営理念について話します。 その上で、朝礼では必ず全員で理念を唱和するなどの当社のルールから、取り入れられることはすぐに導入し、難しいものについてはどのように取り入れていけばいいか一緒に考えていきます。 2つ目は、権限の範囲を明確に示すことです。こちらもこれまでのクロスボーダーM&Aの経験から得た教訓なのですが、最初の段階でどこまでがレカムで権限を持ち、どこからが現地企業の権限かをはっきり示します。そこから時間をかけて最終的にどこに線を引くかを決めていくのです。過去に相手企業の反発に配慮しすぎてあいまいな状態でスタートさせ、あとからルールを決めたことでより強い反発を引き起こしてしまったことがありました。 また、その国の会社法にのっとって進めることも重要です。法律に抵触しないルールについては互いに話し合って、それぞれの国に合わせてカスタマイズしていきます。
――M&A後の現在の様子はいかがですか。
おかげさまで順調です。レカムグループにとって大幅増収にもつながりましたし、今回の株式取得によってマレーシアが売上高や利益、社員数において日本、中国に続いて3番目の規模になりました。今後も非常に重要な拠点です。
――最後に、今後のビジョンをお聞かせください。
グローバル専門商社構想を推し進めていくため、現地顧客の開拓を強化していきます。そして、現在8カ国にまで拡大した海外拠点それぞれで雇用を増やし、利益を上げ、その国の発展になくてはならない企業になる、それがレカムグループの目指すビジョンです。
敏感肌用化粧品のインターネット通信販売を展開するエクラは、3つの課題を解決するために資本提携を決断しました。その決断の背景、現在について伺いました。
猫用生活用品製造の猫壱は、ブランドと人のエンパワーメントに取り組むMOON-Xと統合しました。統合から約半年経った現在、両社代表に伺いました。
塗料販売を展開する榊原の3代目社長は、同社の考えに賛同する企業をM&Aでグループインし、業界の変革を目指す同社に直近のM&Aについて話を伺いました。
まずは無料で
ご相談ください。
「自分でもできる?」「従業員にどう言えば?」 そんな不安があるのは当たり前です。お気軽にご相談ください。
Nihon M&A Center Malaysia Sdn. Bhd. 尾島 悠介 (レカム株式会社様 担当)
コロナ禍にも関わらず、社長自らが現地に行くことに非常にこだわりを持ち、また、ほぼ全ての打ち合わせに社長自らが参加されていた点が非常に印象的でした。M&Aを通じて海外事業を促進させ、グローバル専門商社を目指すレカム様の更なるご発展をお祈りいたします。
海外事業部 In-Out推進課 福島 裕樹 (レカム株式会社様 担当)
本件の成約直前にも別のクロスボーダーM&A案件をご成約しており、非常に積極的な海外投資をされている一方で、過去の失敗を踏まえて注意すべきところを明確にして取り組んでいた姿が印象的でした。M&A後もいい形で運営を進められているとのことで安心しました。引き続きM&Aを通じてレカム様のご発展に微力ながら尽力出来れば幸いです。
事業法人部 梅津 孝夫 (レカム株式会社様 担当)
豊富なM&Aの経験があり、独自のM&Aへの取り組み方針を決めていることと、会社の指示系統もシンプルです。クロスボーダーM&Aは他国から競合が出てくる可能性もある中で、スピードは重要であり、これは国内外も同様です。グローバル専門商社構想の実現に向け、引き続きご支援できればと思います。