[M&A事例]Vol.148 会社を成長させるため譲渡を決断。社長を継続し経営パートナーを得る
東北鈴木の2代目社長は、事業拡大を目指すものの方向性に悩んでいました。解決する手段の選択肢としてM&Aを考え、2024年3月に県外の会社に譲渡を行いました。
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※M&A実行当時の情報
広島県福山市で機械設備の専門工事会社として、空調・換気・給排水衛生設備工事、並びに低温システムに関する冷凍冷蔵設備を生業としている三共ホールディングスは、2023年9月に埼玉県越谷市の空調施工会社の晴輝工業を譲り受けました。これまでにも複数社をM&Aで譲り受けてきた三共ホールディングスCEOの宮本 大輔様に、あらためてM&Aの目的や企業を譲り受けるにあたって大切にしていることなどを伺いました。(取材日:2024年2月27日)
――はじめに貴社の事業について教えてください。
譲受け企業 三共ホールディングス 宮本様: 三共ホールディングスは、グループ中核の三共冷熱を中心に、空調や消火、換気設備のほか、トイレ、台所などの設計・施工管理を手掛けています。 三共冷熱は、1945年にいわゆる“まちの電気屋さん”として創業しました。現在は、空調に関わるあらゆる設備の設計から取り付け、保守・メンテナンスまでを行っており、快適な空調衛生環境を提供することを目指しています。
具体的には、公共施設やオフィスビルなどの一般向け機械設備のほか、工場や倉庫といった産業用機械設備を手掛けています。また、近年、力を入れているのが冷凍・冷蔵分野のフリーザービジネスです。今では誰でも、冷凍品や冷蔵品をお店で簡単に購入できるようになりました。これを支えているのは、生産・配送・販売・消費の流れにおいて、常に一定温度を保ち流通させるコールドチェーンです。私たちはこのプロセスの上流にあたる、食品工場向けの機械設備を提供しています。
私は4代目で、いまから17年前、35歳のときに社長に就きました。先代から受け継いだ「前へ、前へ」をモットーに多拠点化を進め、今では、北は関東から南は九州まで全国に9つの拠点を構えています。
――M&Aを経営戦略に組み込まれた理由をお聞かせください。
宮本様: 建設業界は、建築工事と設備工事に分かれています。そのどちらにも共通するのが、多重下請け構造です。 私たちの会社は、その流れの中で施工管理を担っており、「工程管理」「安全管理」「品質管理」「原価管理」を通じて多くの現場技能者とコミュニケーションを取りながら工事を施工しています。
いま、専門技能職を希望する求職者が少なくなっています。今後、少子高齢化の影響から、この減少傾向に拍車がかかると予想しています。現場技能者がいなければ、私たちの会社が工事を受注しても発注することができません。このような状況の打開策として、現場技能者を雇用・育成できる環境を整えるために、M&Aで内製化に取り組んでいます。
ただ、このような戦略を最初から持っていたわけではありません。実際にM&Aを進める中で、「設備工事には、もっとできることがある」「他社と一緒になることでお客様に付加価値を提供できる」と気づき、戦略が明確になっていきました。
――2023年9月に譲り受けた晴輝工業は、現地調査から施工までをワンストップで行えるダクト工事の企業ですね。
宮本様:関東圏の受注増加に伴い、エリアの強化を考えていたところ、日本M&Aセンターの小林 匠さんから埼玉県にある晴輝工業を紹介していただきました。まさに、私たちが求めている企業でしたので、すぐに手を挙げました。
――トップ面談では、どのようなお話をされたのですか。
宮本様:晴輝工業の社長は30代とまだ若く、これからチャレンジしたいことがあるとのことで、安心して事業を承継できる相手を探していたようです。私からは、少子高齢化に起因する現場技能者不足への危機感や現場技能者の内製化に取り組みたい旨をお伝えしました。
弊社に可能性を感じていただけたようで、2回目の面談を前に社長が幹部メンバーにM&Aを考えていることを開示されました。幹部メンバーの皆様は、最初は当然びっくりされたと思います。前向きな決断であることや、三共冷熱がどんな会社なのかを丁寧に説明いただき、話し合いは夜中の12時ごろまで続いたと伺っています。
2回目の面談で、あらためて私からも幹部メンバーに説明をさせていただきました。やはりM&Aは、会社に残るメンバーが納得していなければ成功しませんから、想いは丁寧に伝えるようにしています。
――M&Aを進めるにあたって、不安はありませんでしたか。
宮本様:不安は当然あります。車や家を買うのではなく、会社を譲り受けるわけですから、そこには人が関わっています。人が関わることに100%想定通りということはあり得ません。またM&Aにおける不安は、局面によって内容は変わりますし、全てを解消できるものではないと思っております。M&Aという戦略を実行する以上は、不安とうまく付き合いながらコントロールしていく気概が必要ではないかと考えています。もし、私が譲渡企業の社長だったら、最初から細かいことまで徹底的に聞かれるのは、気持ちの良いものではありません。
自分が安心したいことを理由に情報の可視化を追求するのは、譲渡企業に対して失礼にあたるのではないでしょうか。 M&Aは、自分が今まで培ってきた「ビジネスの本質とリスクを見る力」が試される機会と捉えています。
――とはいえ、不安を受け入れるのは簡単ではないですよね。
宮本様:M&Aには、主に2つの方向性があると考えています。ひとつは、既存事業から離れて新たな分野に進出する「多角化」。もうひとつは、本業を磨く「祖業の研鑽」。私たちが取り組んでいるのは後者です。業界のことがわかっているので、ある程度のリスクは想定できます。だから、不安を受け入れることができるのです。 それに、多くの競合する譲受け企業の中から私たちを選んでくださったので「大丈夫」と信じていました。それも、不安が受け入れられる要因のひとつです。
――晴輝工業を譲り受け、5カ月が経ちました。いまの状況をお聞かせください。
宮本様:譲受けから3ヵ月後の2023年12月末に登記を変更し、私が晴輝工業の社長に就任しました。今後について幹部メンバーと話していて思うのは、「シナジーはあとからついてくる」ということ。想定していた相乗効果はもちろんありますが、それよりも一緒になってから発見するシナジーのほうが大きい。ここがM&Aの面白いところなんです。だから、最初からガチガチに決め込まないようにしています。
――具体的には、どのようなシナジーが生まれているのでしょうか。
宮本様: たとえば、「ダクト工事ができるなら、断熱パネルの組み立ても引き受けられるのではないか」との仮説から行動を起こし、断熱パネル業界で新しいネットワークができつつあります。また、そこから「ダクトの保温もできるのではないか」という話に広がっています。 これらの工事を請けられるようにするためには、新しいスキルを身に付けなければなりません。そこで、「断熱パネルの組み立てやダクトの保温工事を担当できる現場技能者には日当をつけよう」「受注が安定してきたら、給与のベースアップを考えよう」といったアイデアが出ており、既存事業の延長ではない想定以上の効果が生まれています。
――最後に今後の展望をお聞かせください。
宮本様: 譲渡企業には歩んできた歴史があり、カルチャーがありますから、そこに外部から来た人間が口を出すのはよくないと考えています。私の目的は、将来に備えて現場技能者を確保することですから、極端に言えば譲渡企業が存在し続けてくれればそれでよいのです。ですから、過去のことには何も言及しません。ただ、未来は一緒につくっていきたい。いまは晴輝工業のメンバーが売上を伸ばすことを望んでいるので、それに対して私にどのような貢献ができるかを考えています。大事なのは、彼らがどうしたいかです。その実現を三共ホールディングスがサポートしていきたいと考えています。
東北鈴木の2代目社長は、事業拡大を目指すものの方向性に悩んでいました。解決する手段の選択肢としてM&Aを考え、2024年3月に県外の会社に譲渡を行いました。
沖縄県で防水工事業を手がけるヤマト防水工業は、10年後の譲渡を見据え準備を始めたところ、想定より早くにお相手が見つかりました。その経緯やM&A後について伺いました。
北海道全域で道路の舗装工事を行う道路建設は、当初掲げていた条件とは異なる企業を譲り受けます。M&Aから1年たった今、決断の背景と現在の状況を伺いました。
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金融法人部 シニアコンサルタント 小林 匠(株式会社三共ホールディングス担当)
これまで複数社のM&Aを経験されてきた三共ホールディングス。私自身が宮本社長と一緒にお仕事をさせていただくのは今回で2件目でしたが、毎回感じることは「常に大きな視点で物事を捉え、数ある論点の中でも本当に重要なものを見極め、譲渡オーナーの心情面にも気を配りながら進めていかれる」という事です。今まで愛情を注いで経営してきた自分の会社を、最後の最後、宮本社長に託したいと思われる譲渡オーナーの気持ちが、本インタビューを通じて理解できた気がしました。