[M&A事例]100年生き残る会社を目指して。マンゴー農園をグループ傘下に迎えた老舗青果仲卸企業の戦略と決断

株式会社泉州屋

譲受企業情報

  • 社名:
    株式会社泉州屋(大阪府)
  • 事業内容:
    青果仲卸業務
  • 売上高:
    125億63百万円
    社員数:
    約300名(連結 ※パート含む)

※M&A実行当時の情報

大阪の青果仲卸業の大手「泉州屋」は、約1,600㎞離れた沖縄県今帰仁村の農業生産法人「あけのフルーツ」を、2021年10月、グループ傘下に迎えました。同社はこれまで3社譲り受けた経験を持ちますが、遠く離れたエリアから1次産業の会社を迎え入れるのは初めてのこと。あけのフルーツ代表の宮城様からインタビューのバトンを受け取った、株式会社泉州屋 代表取締役 社長の秋山昇様に、同社の描く戦略、今回のM&Aを行った目的についてお話を伺いました。

―市場*と名の付くところに初めて来ました。迫力がありますね。(*大阪市中央卸売市場東部市場)

秋山様:東部市場ができたのが昭和39年。その年に当社もスタートしたので、創業からもうすぐ60年になります。もともとは果物を中心とした仲卸業として始まりました。 さて、ここで問題です。起業してから10年続く会社は何%ぐらいでしょうか。

市場内に厨房設備・急速冷凍設備・冷凍保管設備等を有する「泉州屋 ラボ」前にて

市場内に厨房設備・急速冷凍設備・冷凍保管設備等を有する「泉州屋 ラボ」前にて

—日本は老舗と呼ばれる会社が多くあるので、希望を込めて大半の会社が、と言いたいところですが・・

秋山様:正解は6%です。国税庁の調査によると起業から10年継続する会社は16社に1社で6%だそうです。そこから10年継続する会社は5%、さらにもう10年継続する会社は5%、結局30年続く会社は0.02%です。つまり、95%のふつうの会社は10年でつぶれているんです。日本は長く続く会社が世界的に見ても多いといわれますが、30年、50年続く会社って奇跡に近いんですね。そうした実態を背景に、当社は「100年生き残る企業」を長期計画のテーマに設定しています。せっかくですので、本日はそこからご説明していきましょう。

100年生き残る、そのための7つのキーワード

秋山様:100年生き残る、そのための戦略として7つキーワードを掲げています。

7つのキーワード

①「みんなと同じならつぶれる」

―なかなか刺激の強いキーワードが最初に登場しました。

秋山様:先ほどの続きになりますが、ふつうのままの会社や、みんなと同じことしかしない会社はつぶれます。過去のセオリーを守るだけでもつぶれます。私たちはそういう危機感を持っています。特にこの業界は長い歴史があり、様々な面で保守的とみられる部分もあるので、たとえ慣例・前例がなくても、他より少し突飛に思われたとしても、自社の判断でチャレンジ、トライする。それが生き残るためには不可欠だと考えます。「時期早尚」とか「前例がない」とか、仕事がしたくない言い訳ですね。

②「売上拡大と付加価値追求」

秋山様:継続的収入を上げるためには、一般的に「売上拡大」「粗利率アップ」「コストダウン」「付加価値追求」が方法として考えられますが、お客様や仕入れ先、従業員を第一に考えるならばおのずと「売上拡大」「付加価値の追求」、この2つに絞られます。これは泉州屋が掲げるあるべき姿(お客様からの信頼が第一、仕入れ先との協力関係が第一、働く従業員のしあわせが第一)の具現化につながります。

③「分散と効率」

秋山様:「選択と集中」って言葉があまり好きじゃないんです。もちろんベンチャーなど集中せざるをえない環境にある会社は仕方がないことですが、インターネットの社会では、ターゲットが常に動いています。過度の選択と集中はリスクを招きかねません。一方で分散させるとコストは増加するので、効率の追求が不可欠です。

面のフードバリューチェーンで6次産業化を目指す

④「面のフードバリューチェーン」

—いよいよ、あけのフルーツさんが関連しそうなキーワードが出てきました。

秋山様:はい。1次産業である農家さんが生産物をつかって加工・製造(2次産業)、流通・販売(3次産業)まで一貫して行うことを6次産業化といいますが、1次産業のプロが生産をしながら、2次3次を行うのは大変むずかしいことです。実際、成功事例は少ないのではないでしょうか。

6次産業化:生産×加工×流通(販売)の一体化

また生産者ではない異業種の大手企業が、いわゆる工場野菜としてレタス・かいわれ・プチトマトなどの生産に参入するケースも見られますが、けっこう苦労されていますね。 工場野菜は天候に左右されず、品質が安定しますが、ひらたくいえば単一で面白くない。どうしても金額面での勝負になるから過剰生産につながる。生産(1次産業)、加工・製造(2次産業)にフォーカスしていて、最後お客様に届ける流通・販売(3次産業)の部分が手薄だった。つまり面でカバーされてない「線」のバリューチェーンになってしまったのが、失敗の要因と見ています。 マンゴーはちょっとでも傷がつくと等級が変わります。贈答品向けのA級品、わけあり品として販売するB級品、さらに形に難がある場合はC級品として加工用にする。それらをそれぞれの販路用に加工して流通させる。

面のフードバリューチェーン

今回の提携によって、1次産業のあけのフルーツさん、2次産業、3次産業として私たち泉州屋が手を組むことで、面のバリューチェーンが実現するというわけです。今後はさらに運送、資材、種、農薬などの関連会社とも連携を深め、さらに厚い「面」のバリューチェーンを実現していきます。

⑤「キーエンス構想」(加工の分散)

―有名な企業名が登場しました。

秋山様:キーエンス社のビジネスモデルを非常に参考にしています。キーエンスは自社で工場を持たず、国内外の協力会社とのアライアンスで製造を行っているんです。卓越した商品開発力と営業力を武器にされ、日本屈指の高収益率企業です。 当社のOEM受託部門は、2020年にスタートアップのグリーンスプーンさんと取組んだスムージーキットが大ヒットしました。同社向けのスープキットやホットサラダキットも含めて累計100万食を超えました。

グリーンスプーン社のスープキット、スムージー

グリーンスプーン社のスープキット、スムージー

このヒットをきっかけに、「こうした商品を一緒にできないか」と、おかげさまでたくさんのお問合せを受けるようになりました。社員には、そうした相談は極力受けるようにと言っています。なんでもチャレンジしようと。そうすることで何か困った時に「そうだ、泉州屋に聞いてみよう」となりますよね。 ただ受けるにはそれなりの生産体制が必要になる。私たちも自社で工場を持っていますが、他社と組むことで時間とコストも抑制されますし、可能性が広がります。 一方、商品開発と営業は自社で行う。そうした分散体制で食品加工のキーエンスを目指したいと考えます。

⑥「小ロットも受託」

秋山様:クロネコヤマトの宅配便は究極の小ロット方式ですよね。10トントラックで何十円という荷物が宅配便だと1,000円でやりとりされている。先ほど問い合わせを受けていると話しましたが、ほとんどの場合「最低ロットはどのくらいですか」と聞かれます。小ロットは非常にニーズがあるし、それ自体が付加価値と捉えています。食品加工の小ロットはライン変更や機具の洗浄をともないコスト増になります。しかし、付加価値の分だけ高く売ればいいのです。例えば、月1万個生産で加工単価100円なら、月1千個でしたら1,100円、月1百個なら12,000円いただけばいいのです。そのうえ現金先払いで、時間通りに届ければ非常に感謝されます。小ロットはブルーオーシャンです。ただし小ロットは効率改善が不可欠です。

⑦「RSS(リテールサポートシステム)」

―最後のキーワードですね。

秋山様:これはお客様への支援体制です。仲卸業はお客様が要望する商品を市場で鮮度などの品質を確認してお届けすることを本分としております。しかし、ここでいう支援体制とは、お客様が小売店であれば売り場のメンテナンスのお手伝いとか、外食産業であれば集客のお手伝いと考えています。仲卸の本分を超えてどんなお手伝いができるのか。このお手伝い体制が、リテールサポートシステムです。そしてこの体制が構築できれば泉州屋の営業の付加価値になります。

以上のキーワードをもとに、たとえば加工の分散という意味では冷凍加工、水産加工はじめ各協力会社とのアライアンスを強化したり、直近ですと物流ロケーションの効率化として敷地540坪の新平野センターを設立するなど次々とプロジェクトを進めています。

グループになることでのシナジー実現が具体的に描けた

―いよいよ本題に入りまして、あけのフルーツさんとのM&Aについて伺いたいと思います。

秋山様:今回の提携は、先ほどのキーワードにあった「面のフードバリューチェーン」の実践というのが主な目的でした。具体的にいうと次の6つになります。①~③は先ほどの説明のとおりですね。

今回M&Aを行った6つの目的

―④の「マンゴー苗木の販売」について教えてください。

秋山様:国内のマンゴーの苗木って、いまは台湾から輸入し宮崎などの生産地に販売していますが、数年後に輸入制限がかけられるようです。それを見越して沖縄のあけのフルーツさんは、苗木の育成を行っています。

―全国各地、さまざまな農業生産法人の会社がある中で、沖縄のあけのフルーツさんをお相手に選ばれた決め手は何だったのでしょうか。

秋山様:当然ながら、まずはマンゴーがとてもおいしかったこと。 実際に沖縄の圃場(ハウス)を見て納得しました。

―あけのフルーツの宮城社長は、畑を見てすぐわかってもらえた、評価されたのが嬉しかった、とインタビューでおっしゃっていました。

秋山様:いろんな生産の現場を見てきましたが、あけのフルーツさんはハウスの中も外もとにかくきれいでした。先代の会長が非常に真面目に生産されているんですよね。精魂込めて生産されている様子がハウスから伝わってきました。相手企業の事業に対する真摯な姿勢、価値観に共感できるかどうかは、どの業種においても共通するのではないでしょうか。前提条件ですね。

成約式当日、あけのフルーツ宮城康吉会長と

成約式当日、あけのフルーツ宮城康吉会長と

マンゴーは丁寧につくられており、とてもおいしい。ただいろいろとお話を伺うと販売に課題があると感じました。あけのフルーツさんは1次産業のプロ。うちは仲卸業として販売、流通に強みを持つ。自社の戦略に当てはめて考え、具体的にどういうシナジーが生み出せそうか、ピンときました。あとは、先代である宮城康吉会長、現在の宮城洋平社長、社員のみなさんが非常に真面目でマンゴーづくりに熱意を持っておられたこと。特に宮城社長は当社の戦略をすばやく理解してくださった。きわめて優秀な経営者だなというのが第一印象でしたね。

―宮城社長はグループの一員となったことで、社員の方が刺激を受け成長することも楽しみにしているそうです。

秋山様:これから事業を通じてどうシナジーを具体的に生み出していくか、具体的な戦略を協議しているところです。人的交流という面では本格的にはこれからですが、泉州屋の社員にとっても、グループでつくっているマンゴーにどう付加価値を付けていくか、広めていくか考えるうえで、すごくいい刺激をもらえると思っています。当社は、生産者サイドのJAの方や、外食のオーナーさんなど各業界・業態のプロの方を講師としてお招きして社内セミナーを積極的に行っているので、そういう面でも今後交流がはかれればいいなぁと考えています。

―最後になりますが、M&Aを検討されてる方、特に譲り受けを検討されている方に向けてアドバイスをお願いします。

秋山様:今回日本M&Aセンターに依頼しましたが、過去にも他の会社を譲り受けた経験からいえることは、大きく3つあると考えています。

他社を譲り受ける側のアドバイス

ひとつめは「外部の人の言う事に左右されない」こと。日本M&Aセンターの人を前に言うのもあれですけど(笑)。M&Aの仲介会社の人、業界の専門家の人、もちろんプロの方のお話は参考にします。けれども、頭から終わりまでぜんぶその通りにする必要はもちろんないんですよ。「よくプロが言う事に従います!」って経営者もいると聞きますけど、それは経営者としてプロではない。自社のブレない方針を軸に持っておいて、それに沿って判断して進めるべきだと思います。

あとは買い手、譲り受ける立場としては「相手のことを気にしすぎない」。相手の状況に同情して話を進めてしまったり、必要以上に気を遣う必要はないと考えます。ビジネスなので当然ですよね。 お会いして、最初から思いや戦略がかみ合ってないな、理解されてないな、と少しでも違和感を持ったら、すぐ次の候補先を探すべきです。合わない部分を感じながら妥協を重ねて一緒になっても、その後お互い不幸になるだけですから。採用や他の商取引でも同じことが言えますよね。 ただ、一旦仲間になったら、その会社さんのことを墓場まで守りぬく決意と覚悟が、譲り受ける側には必要だと私は思っています。

最後は「普段から自社の戦略、思いを周囲に伝えておく」こと。言いふらすというのとはもちろん違いますが、業界の関係者、お取引先、金融機関など相手を選んで「こんな会社探している、こういう分野を開拓したい」など発信していると、求めている情報が自然と届きやすくなったり、ご縁につながると確信しています。

日本M&Aセンター担当者コメント

担当コンサルタント

担当コンサルタント

泉州屋様として考えていらっしゃるフードバリューチェーンの構築にお手伝いできることがあり、大変嬉しく思っております。お伺いした始めの面談では秋山社長より仲介する会社を通すことはないとはっきりとおっしゃられてしまいましたが、お役に立てることができて良かったです。あけのフルーツ様のマンゴーが日本一となりますように、今後もお手伝いができればと思っております。より成長されていかれます両社のご活躍を今後も祈念しております。今後M&Aを検討される会社様は、是非経営戦略の一つの手法として常にそばにおいてお考え頂けますと幸いです。

大阪支社 営業企画部 CS推進課 眞辺 翔子(成約式 セレモ二スト)

大阪支社 営業企画部 CS推進課 眞辺 翔子
大阪支社 営業企画部 CS推進課 眞辺 翔子

本案件の成約式の担当をさせて頂き大変光栄でした。ご両社様共に素敵なお人柄で大変笑顔の多いお式を執り行う事が出来ました。譲渡前社長よりこういった物を家に飾りたいという要望を受け形にした成約証明書をお渡ししました。想像以上に喜んで下さり、感無量でした。ご両社様の相乗効果でどんな未来を作り上げて行かれるのか非常に楽しみでなりません。

※役職は取材時

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