[M&A事例]Vol.133 「良い仕事をしたい」――。2社譲り受け生き残りを図る創業75年の老舗樹脂素材製品メーカー
樹脂素材製品メーカーのカツロンは、1年半で2社を譲り受けました。元々成長戦略にはなかったM&Aをなぜ行ったのか、M&Aの目的と現在について伺いました。
譲渡企業情報
譲受け企業情報
※M&A実行当時の情報
大阪にある株式会社STGは、マグネシウムおよびアルミニウムダイカスト製品の製造を手掛けています。デジタル一眼レフカメラなど、軽さや薄さが要求される部品成型技術が強みです。同社は2006年に中国に生産拠点を設立して以来、積極的に海外展開を進めてきました。今回、マレーシアへの進出を目的に、コロナ禍の2021年3月、M&AでSTX Precision Corporation Sdn. Bhd.(以下、STX社)の株式を100%取得、子会社化しました。「M&Aは最も有効な成長の手段」と話す佐藤輝明社長に、同社の成長戦略について伺いました。
――佐藤社長はいつ頃から海外進出をお考えだったのですか。
譲受け企業 株式会社STG 佐藤様: 2000年ごろから家電製品を中心に生産が中国に移っていることを強く感じるようになりました。当時、当社のマグネシウム部品は世界のパソコン製造大手と取引する主力事業となっていましたが、パソコンも中国での生産が活発でした。そこで、2006年に中国に現地法人を設立したのが海外展開の始まりです。
次に、タイへの進出を考えました。高級一眼レフカメラの筐(きょう)体にもマグネシウムが採用されていて、ここでもカメラ製造大手がタイでの生産にシフトしていたからです。これからは、日本から製品を輸出するのではなく現地で部品を調達、組み立てまで行う流れになる。このサプライチェーンに加われなければ生き残れないという危機感から、2011年にタイで現地工場を稼働させました。 ただこの時に、いちから生産拠点を立ち上げて軌道に乗せるのは時間がかかりすぎると感じました。工場などの設備工事、人員や顧客の獲得など取り組まなければならないことがたくさんありますから。
――これまでM&Aのご経験はおありだったのですか。
佐藤様: はい。国内で一度あります。2009年に取引先だった静岡のマグネシウム一次加工会社がリーマン・ショックなどの影響を受けて経営破綻し、民事再生することになったんです。管財人となった私は、そのとき「一次から二次加工まで一貫生産できれば競争力が大きく向上するのではないか」と思い譲受けを決意し、2010年に子会社化しました。
――今回、M&Aを決断された目的は何ですか。
佐藤様: マグネシウムだけでなくアルミニウムに本格参入して事業領域を拡大することが目的です。幸い、2019年にTPM(東証TOKYO PRO Market)市場に上場して以降、M&Aの情報が多く届くようになりました。当初は国内でも検討していましたが、2020年8月に取引銀行からマレーシアの企業を紹介されて興味を持ちました。東南アジアで比較的経済状況が安定している国への進出を以前から考えていたことと、STX社は取扱製品は違いますが業務内容が同じでしたので、シナジー効果も期待できると感じました。
――コロナ禍でのクロスボーダーM&Aということで、交渉をすべてリモートで行ったそうですね。
佐藤様: 製造業の現場は工場ですから直接視察して判断したかったのですが、渡航制限により現地に行くことができませんでした。現地を見ていない不安感は非常にありましたが、日本M&Aセンターを介してSTX社と2・3カ月で30~40回はWeb会議を行いました。
STX社のオーナーがPE(プライベート・エクイティ)ファンドだったこともあり、資料の提出も迅速でしたので、思いのほか交渉はスムーズでした。8月の企業紹介から10月にWebでのTOP面談を経て、11月には基本合意契約を締結しました。2021年に入り、2月からは詳細を確認するためにWeb会議を毎日のように行いましたね。
――マッチングから最終契約まで約6カ月というのは、海外M&Aでは異例のスピードです。
佐藤様: 中国の現地社長の伝手を使ってマレーシア在住の知人に工場を視察してもらったり、財務・法務のDD(デューデリジェンス)を行うなどして、できる限りの情報収集を行ったことも実現できた要因だと思います。
――渡航制限下でどのようにPMIを実施されましたか。
佐藤様: M&A後に初めてSTX社を訪れて、直接社員たちに今後のビジョンを説明しました。「日本の上場企業がホワイトナイトとして現れた!」と歓迎してもらい嬉しかったですね。 その後は、渡航制限があったため十分であるとは言えませんが、毎週のWeb会議に加えて、感染状況が少し落ち着いた2021年秋に日本から数名の社員が現地に向かい、マレーシア投資開発庁の協力を得て問題点の洗い出しなども行いました。
海外では日本では起きないような思いもよらないことがたくさんありますが、受け入れるしかありません。日本ではこうだ、という考え方の押し付けでは上手くいきません。また、赴任する社員も数年で帰国してしまうようでは話を聞いてくれませんから、本当に自分の右腕になるような信頼できる社員に権限を与えて送り出すことが大切だと思います。
――M&Aから約1年が経ちました。
佐藤様: おかげさまで、M&A当時(2021年3月)19.8億円だった連結売上が、今年(2022年)の3月には76%も増えました。グループに入ったことでSTX社の財務面も改善しています。 技術面でのシナジー効果は今後さらに見込めると思いますので、技術を統合することで利益率を向上させて、マレーシアでもマグネシウム事業を始めるなど顧客の統合にも取り組んでいきたいと思います。
今回のM&Aは、中小企業庁が策定する2022年版「中小企業白書」に、日本M&AセンターがFA(ファイナンシャルアドバイザー)として支援した海外M&A案件として紹介されました。新型コロナウイルスの世界的な蔓延を受けた渡航制限下で、M&Aの全交渉をフルリモートで完結したウィズコロナ時代に即した先進的なクロスボーダー案件です。
樹脂素材製品メーカーのカツロンは、1年半で2社を譲り受けました。元々成長戦略にはなかったM&Aをなぜ行ったのか、M&Aの目的と現在について伺いました。
ダクトの部品製造を手掛ける森鉄工業のオーナーは70歳を超え、後継者不在や会社の課題解決のために他県の会社に譲渡を行いました。
総合印刷会社エムアイシーグループは、約半年の間に3社を譲受けました。M&Aの目的、成約後のPMIについて話を伺いました。
まずは無料で
ご相談ください。
「自分でもできる?」「従業員にどう言えば?」 そんな不安があるのは当たり前です。お気軽にご相談ください。
Nihon M&A Center Malaysia Sdn. Bhd. 尾島 悠介 (株式会社STG様担当)
本案件前から海外展開を積極的に行い、中小企業でありながら高い海外生産比率を保っていたSTG様。コロナ禍にも関わらず、佐藤社長のさらなる成長への強い思いにより、本案件を実行されました。日本の中堅・中小企業が海外M&Aで成長を目指す、モデルケースのような案件だと思います。