[M&A事例]Vol.148 会社を成長させるため譲渡を決断。社長を継続し経営パートナーを得る
東北鈴木の2代目社長は、事業拡大を目指すものの方向性に悩んでいました。解決する手段の選択肢としてM&Aを考え、2024年3月に県外の会社に譲渡を行いました。
譲渡企業情報
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2021年1月に資本提携を締結した吹田鉄工(兵庫県赤穂市)と坂海工業所(滋賀県大津市)。プラント向けの製缶板金業と配管設計・工事業という隣接業種同士ということもありシナジー効果が期待できましたが、コロナ禍の影響を受け厳しい状況が続きました。そんな中でも手を取り合って実績を積み重ね、成長を遂げてきた両社。吹田 一平社長と西田 成希社長にあらためてお話を伺いました。(取材日:2023年8月30日)
――吹田社長には成約から約1年半たった頃に一度インタビュー( M&A事例インタビューvol.99 )させていただきましたね、ご無沙汰しております。当時はちょうどコロナ禍真っ只中でした。
譲渡企業 吹田鉄工 吹田様: 前回インタビューを受けたときは、無事に資本提携が成立し、従業員も前向きに受け止めてくれて、新たなスタートに期待を持っていました。坂海工業所と一緒になったことでできることが増えましたので、取引先に新たに営業し見積りをさせていただく機会もあったのですが、新型コロナの影響が予想以上に大きく、数字の面ではすぐには成果が出ませんでした。そんな中でも2社でともに実績を積み重ねてきて、現在はおかげさまで今期最高益の見込みですし、すでに来期の受注金額も過去最高金額になっています。
――すばらしいですね! 本日は、譲受け企業である坂海工業所の西田社長にも同席いただき、M&Aについて振り返っていただくとともに、2社がどのように苦しい状況を乗り越えてこられ、現在はどのようなご様子なのかお聞きできればと思います。はじめに、坂海工業所のM&Aの検討背景からご紹介ください。
譲受け企業 坂海工業所 西田様: ちょうど高い技術力を持ったプラント製缶板金の会社を探していたんです。坂海工業所はプラント配管の設計・工事を手掛けています。1948年の創業以来、取引先に恵まれ技術を磨いてきましたが、複雑化、多様化するニーズに対応するため製缶板金も請け負えるようにしようと考えていました。
最初は外注先を探していましたが長らく続く技術者不足でなかなか見つからず、内製化しようとM&Aを検討し始めました。それまでM&Aには「会社をお金で買う」という良くないイメージを持っていたのですが、会社の成長にはM&Aもしっかり経営戦略の中に組み入れていかなければならないと思ったのです。
M&Aで売上げを伸ばすというのはもちろんありますがそこが目的ではありません。せっかくエンジニアリングという専門性の高い仕事をしていますから、次を担う若い世代が夢を持てる会社にしていきたいんです。
生活に困らないというのではなく、「この会社なら自分が成長できる」という夢を持って入社してもらえる会社にしたい。それには会社を成長させていかなければいけません。その手段の一つがM&Aでした。
ただ、金融機関などを通じて実際に2、3社お会いしましたが話が進まないまま4、5年が経過しました。そんな頃に日本M&Aセンターから吹田鉄工をご提案いただいたんです。
――2020年9月に最初のトップ面談をしましたが、お互いの印象はいかがでしたか。
吹田様: 前回も話しましたが、西田社長は素晴らしい経営者でした。私のほうが10歳以上も年上ですが、きちんとした経営方針、理念をお持ちで、こちらが恥ずかしくなるほどでした。
西田様: 当然、事業内容が当社の希望にぴったりだったというのもありますが、私も一番の決め手となったのは吹田社長のお人柄ですね。お互い設立から60年以上と歴史のある会社ですから、お互いに培ってきた文化があります。
大きな会社でしたらしっかりしたPMI(M&A後の統合プロセス)の仕組みの中に組み込めばいいのでしょうが、そういったものはありませんので、文化が合わなければうまくいかないと思っていました。吹田社長とは3回トップ面談を行いましたが、“違和感がなかった”のが良かったですね。
――しかし、西田社長は途中で一度M&Aを断念しようとされたそうですね。
西田様: そうなんです。実は2020年11月、ちょうどデューデリジェンス(買収監査)中の一番大事な時に体調を崩したんです。結構深刻な状況で、たとえ良くなってもまた再発したら吹田社長に迷惑がかかると思い、これ以上進めるのはやめようと思いました。その意向を伝えたところ吹田社長がお手紙をくださったんです。そこにはこう書かれていました。
「私は経営を妻と二人でやってきました。つらい時や困った時には妻に相談すれば良かった。これからは社長にとって私がそういう役目をします」と。それで覚悟が決まりました。命をかけてやらないといけないと。
――吹田社長はどんな想いでお手紙を書かれたのですか。
吹田様: 私はM&A後も継続勤務を希望していましたので、西田社長と一緒に経営をしていきたいと思ったのです。先ほども言いましたが、西田社長は本当に考えのしっかりした方で、会社を託すなら西田社長にという気持ちが強かった。それで想いを手紙に書きました。
――成約からしばらく苦しい状況が続いたそうですね。
西田様: 成約した当初は感染拡大もそれほど深刻ではありませんでしたし、同時期に大きな投資をしたこともあって前向きな気持ちでスタートしました。ただ、新型コロナの感染拡大の影響は大きく、この2年ほどは両社とも数字的には厳しい状態が続きましたね。
お互いに長い歴史の中でこうした事態は経験がありませんでしたので、私もつらかったですし吹田社長もかなり負担を感じられたと思います。
吹田様: 私はこれまで吹田鉄工以外の会社に勤めたことがなかったので数字目標を立てるということがありませんでした。
新型コロナの影響で今まで計画してきたことが保留や延期になったり材料費が高騰したりする中で、結果を出すことの厳しさを感じましたね。
西田様: それでも強力な“パートナー”を得て、協力し合ってともに経営してこられたので、不安はあまりありませんでした。地道に実績を積み重ねて、2022年あたりから徐々に成果が出てきて、今は人手が足りないほどです。
――具体的にどんなシナジー効果が生まれていますか。
西田様: お互いにこれまで外注していた事業を内製化できるようになりました。ほかにも吹田鉄工はさまざまできることがありましたので、坂海工業所として受注できることが増えて、既存の取引先へ新たな提案ができるようにもなりました。
――ほかにコロナ禍で思うように進められなかったことはありましたか。
西田様: 私は従業員とのコミュニケーションを大切にしているのですが、一緒に食事をするといった交流が思うようにできなかったですね。
加えて吹田鉄工にそうした場を好む文化もありませんでした。いきなり当社の文化を押しつけてもひずみが出てしまいますので、あえて積極的には進めませんでした。
吹田様: 吹田鉄工の従業員たちは坂海工業所より年齢が高いせいか、これまで新年会や忘年会を開いたのも数回程度なんです。私も大事なことだと思ってはいるのですが、おろそかにしてきたこともあって…。少し時間はかかるかと思いますが、そうした文化にも徐々になじんでいくと思います。
――吹田社長が社長を続投されていることについてはいかがですか。
西田様: それはもう安心感が違います。これまでの経験から言っても、転機の時には必ず何かが起きるんです。
経営者にとって一番つらいのは従業員が辞めてしまったり動揺が広がったりすることですが、M&A後から今までまったく起きていません。それはこれまで吹田社長が実直に経営をされてきたからです。本当に素晴らしいことです。
――今後のビジョンについてお聞かせください。
西田様: 吹田社長は、吹田鉄工を20年以上経営し続けてこられました。財務状況も素晴らしい。何事も継続が一番難しいんです。吹田社長の経営のエッセンスをしっかり学ばせていただいて業績アップにつなげていきたいと思います。
2023年4月に、坂海工業所から吹田鉄工に執行役員として一人入ってもらいました。坂海工業所の営業所の所長も務めているので、毎日というわけにはいきませんが、週に1、2度吹田鉄工に行っています。
数字を見ただけでは会社のことは絶対にわかりませんから、一緒に同じ空気を吸い、一緒に食事をするなどしながら吹田社長の業務や会社の文化を学んでいるところです。
ただし、業績が上がっても従業員が疲弊してしまっては成長とは言えません。それは膨張です。今後もM&Aを選択肢に入れながら人の成長に合わせて組織全体も成長させていくことで「物心両面の幸せ」を追求していきたいと思っています。
――吹田社長はあらためてM&Aを振り返られて今どんなお気持ちですか。
吹田様: 最近、経営者仲間からM&A後についてよく聞かれるのですが、胸を張って話すことができます。それも西田社長というパートナーに出会えたからでしょうね。一緒に経営について考える相手がいるというのは嬉しいです。譲渡という決断に少しの迷いも後悔もありません。
成約式でも言いましたが、今は引退する時に西田社長から「大儀であった」と言われることを目標に頑張っているところです(笑)。
東北鈴木の2代目社長は、事業拡大を目指すものの方向性に悩んでいました。解決する手段の選択肢としてM&Aを考え、2024年3月に県外の会社に譲渡を行いました。
沖縄県で防水工事業を手がけるヤマト防水工業は、10年後の譲渡を見据え準備を始めたところ、想定より早くにお相手が見つかりました。その経緯やM&A後について伺いました。
北海道全域で道路の舗装工事を行う道路建設は、当初掲げていた条件とは異なる企業を譲り受けます。M&Aから1年たった今、決断の背景と現在の状況を伺いました。
まずは無料で
ご相談ください。
「自分でもできる?」「従業員にどう言えば?」 そんな不安があるのは当たり前です。お気軽にご相談ください。
金融提携事業部 マネージャー 河内 孝裕 (吹田鉄工株式会社担当)
まず、吹田鉄工様がM&Aにより存続し、坂海工業所様と共に成長していることを大変嬉しく思います。「譲渡の決断に少しの迷いも後悔もない」という吹田社長のお言葉は、担当者冥利に尽きます。 多くのオーナー経営者様が株式と経営の承継でお悩みですが、近年は社長がお元気かつ業績好調なうちに株式の承継は済ませ、数年間社長として継続勤務されるケースが増えています。 吹田社長は60歳でM&Aのご決断をされ、西田社長とのパートナー戦略を選ばれました。お互いをリスペクトし、強みと弱みを補完しあってスクラムを組むことで、中小企業は間違いなく強くなるのだと確信しています。
金融提携事業部 シニアチーフ 中川 大使 (株式会社坂海工業所担当)
西田社長と初めてご面談した際に製缶板金の外注先が見つからず困っていると仰っていたのを今でも覚えています。M&Aでグループに製缶板金業の会社が加わったら、課題解決ができるのではないかと考え本件をマッチングしました。初回トップ面談の会食時、両社長の紳士な姿勢に本件提携が必ずうまくいくと確信しておりました。コロナ禍を乗り越え最高益と伺い大変嬉しく思います。