[M&A事例]Vol.129 深刻なドライバー不足と高齢化で事業継続が困難に。採用力のある会社にグループインしてわずか半年で採用に成功
宮本運輸は、長らく人材不足の課題を抱えていました。事態が深刻化し、採用力のある会社への譲渡を行って半年、採用を含め現状について話を伺いました。
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『会社を“守る”M&A、“伸ばす”M&A』より抜粋 発行:日経BP 日本経済新聞出版本部 発売:日経BPマーケティング ※書籍刊行時の情報
事業承継の相手探しの中で見つけた、PEファンド
寺田勝社長は、神奈川県愛川町で建設資材の運送会社、寺田組運輸を経営する。創業した父親が亡くなり、2007年から後を継いだ形だ。 建設現場の仮設材として使う足場材の運搬が主力で、ユニック車と呼ばれるクレーン付きのトラックなど45台の車両を保有する中堅業者だ。配送の事業範囲は東京、神奈川が中心だが、指定された建設現場に足場材を運ぶのが仕事なので、決まった配送ルートがあるわけではない。会社は圏央道の相模原インターチェンジから車で10分ほどの好立地に位置しており、しかも本社敷地のスペースが広く一時的な足場材の仮置きが十分に可能。配送業にはぴったりの条件を備えている。 寺田社長はまだ50代半ばだが、少々体調を崩し引退を考えていた。ところが、家族や従業員の中に後継者が見当たらない。それなら第三者承継を検討しようと、2018年末、日本M&Aセンターに相談を持ちかけた。 当社担当者が、寺田組運輸とマッチングが期待できる様々な企業を紹介する。しかし、寺田社長はそのどれにも気持ちが乗らない様子だった。 「会社の雰囲気、従業員のモチベーション、ウチのカラーを、今のまま継続させたい。経営者が変わっても、皆は変わらず気持ちよく働けるような相手に譲りたいんです」 だが、紹介され話を聞いた事業会社は、どこも「ドライバーが足りないから」とか「保有車両を有効に使いたい」とか、自分たちの企業にプラスとなる面ばかり見ているように思えた。確かに、他社とのM&Aでは、その企業のカラーが入ってくることは否めない。他社と自社の色が混ざり合って、思った以上の相乗効果が生み出され、それがM&Aの醍醐味でもあるからだ。とはいえ、ともに事業を開いてきた従業員や取引先との今の良い関係が壊されないか、という寺田社長の不安もわかる。そこで、当社の担当者は次のような提案をした。 「それではいっそファンドを検討されてはいかがでしょう。中小企業向けに特化したPEファンドです。事業会社とのM&Aは、シナジー効果を出すために相手企業のやり方に合わせることもありますが、ファンドは譲り受けた企業の経営状態をよりよくするのが仕事です。黒子役に徹するファンドもありますから、社風や文化はそのままですよ」 「ファンドですか?」 寺田社長は思ってもいなかった提案に驚きを隠せなかったが、とにかく会って話を聞いてみることにした。
ファンドを知って見えてきた、自分たちの色をつなげていくM&A
当社が紹介したのは、独立系のファンド、日本グロース・キャピタル。すでに50社近い投資実績があり、中小企業との付き合いには豊富な経験がある。ここなら、寺田社長の心配も悩みも払拭できると自信を持って薦められる相手先だった。 同ファンドは、寺田組運輸が安定収益を持続、確保している点に着目した。仮設資材の搬送を得意とする専門業者の特性に加え、荷主が特定の何社かに集中しておらず、常時40〜50社の顧客からまんべんなく仕事を得ている。顧客は上場企業やその子会社など優良先がメインで、運送業務に関してほとんど同社が元請けになっている。これならば、顧客からの値下げ要求に対して抵抗力があり、仕事量も大きく変動する恐れが少ないと判断した。 面談は、2020年5月に行われた。 当初、硬い面持ちだった寺田社長だが、社員を大切にしたいという思いや、後継者探しという喫緊の課題について正直に伝えていくなかで、「どう解決していこうか」と真剣に話を聞く姿勢を見せた、日本グロース・キャピタルの担当者・佐久間亮輔さんの熱意を感じ、緊張がほぐれていったようだ。経営改善のためファンドから様々な要求が出るだろうが、多少は我慢しなければ、とも覚悟していたが、佐久間さんは、「今まで通りやってください」と朗らかに言った。 「我々は、年金基金や金融機関などの機関投資家からお預かりした資金をファンドにして、その一部を寺田組運輸に出資することになります。お預かりした資金を運用しているという立場上、積極的に企業価値を高めていく責任がありますが、御社の場合、安定収益を出せる基盤がもう出来上がっていますから、大きな変革を行う必要はないと思っています。もちろん、管理、経理、企画など様々な視点から、工夫ができそうなことをアドバイスさせていただきます。その案が納得できるものなら採用していただく。それだけです」 面談の4カ月後、寺田社長は契約書にサインをした。ファンドに託してみることにしたのである。
ファンドならではのアプローチから後継者探し、思わぬ人材を発掘
早速、同ファンドは寺田社長の後継社長探しを本格化する。 付き合いのある人材採用のエージェント会社を使い、募集をかけた。時を置かず、40人の応募があった。その中から、寺田社長とはもちろん、社長の右腕となっている社員との相性も考慮し、また、社長に集中しがちな様々な業務をこなせるスキルとメンタルを持つ人物、何より、今の寺田組運輸の色を大切にしてくれる人物を、何度も面接を重ねて絞り込んだ。最終的には寺田社長にも面接してもらい、愛知県で運送会社の役員の経験がある髙山正樹さんを後継社長と決めた。 「これまで経験してきた業界ですし、皆さんにしっかりとサポートしていただける体制ができていましたので、不安はありませんでした」と、髙山さんは快活に語る。寺田社長は第一印象で、「この人なら後事を託せる」と思ったという。 髙山さんは、2021年1月に専務として入社、同年7月代表取締役社長に就任した。寺田さんは会長として引き継ぎに専念している。
ファンドのサポートを得て、できることが増えた
後継者探しと並行し、同ファンドは経営改善に着手した。ファンドの視点から提案される新規の顧客開拓など、新しい切り口が寺田組運輸にとっては大いに参考になった。 とはいえ、ファンドから髙山さん以外の人材を送り込むことはなく、寺田組運輸は、月に1回の経営会議で業績や設備投資などの現状を取りまとめ、ファンドに報告するだけ。もちろん日々の運営で迷ったことや悩みなど相談事があれば、随時ファンド側と連絡を取り合い解決に向けて努力している。 「私だけでなく、中小企業の社長業は大変な仕事です。プレーイング・マネージャーと言うと聞こえはいいかもしれませんが、何から何まで自分でやらなければならず、忙しさにかまけて後回しにしていることも多い。実は不動産がらみの問題で法的に処理しなければならないことがあったのですが、ずっと手がつけられずにいました。後継者も見つかり、社長業を分担することで時間ができたので、早速、日本グロース・キャピタルに助言をもらいながら解決できたんです」 寺田さんは、「いつでも相談できる相手がいるのは、ありがたい」と言う。社長業は孤独なところがある。また、日々の雑事に追われ、来年の事業計画、ましてや向こう3年の中期計画を考えるゆとりがない人も少なくはない。事業存続や成長に悩むトップにとって、ファンドの存在は大きい。
自主性を尊重しアドバイザーに徹するファンドに、信頼感も高まる
日本グロース・キャピタルの佐久間さんは、投資先の企業に対していつも同じ戦略をとるわけではないと前置きしつつ、相手企業の自主性を大事にして、ファンドはあくまで黒子役に徹するのがいいと言う。 「中小企業は小回りが利くので、少しの工夫で業績アップにつながることが多いです。それをコツコツ積み上げるのが大事だと考えます。大きな人員カットや資産売却などを迫っても、会社の本質的な体質改善につながりません。持続的な発展をサポートし、次の株主に橋渡しをするのが、ファンドの役割です。企業価値を高めたうえで、他の企業にバトンタッチをすることが多いですが、経営者にIPOを目指したいという気持ちが芽生えた場合、IPOのサポートが得意なファンドに託すという選択肢もあります。その都度、経営者の意向を良く聞きながら相談して決めていきます」 寺田組運輸と日本グロース・キャピタルの呼吸は、「事業をつなげたい、従業員を大事にしたい」という思いのもと、一致することができた。互いを信頼するパートナーとして、次は事業のさらなる成長を目指す。
宮本運輸は、長らく人材不足の課題を抱えていました。事態が深刻化し、採用力のある会社への譲渡を行って半年、採用を含め現状について話を伺いました。
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