[M&A事例]Vol.142 互いを尊重し合いながら経営ビジョンを作成。社会的使命を追求し、共に全国展開を目指す
リネンサプライ業のエスオーシーは、「民間救急」事業のアンビュランスを譲受けました。異業種2社がM&Aに至った背景、PMIについて話を伺いました。
譲受け企業情報
東京都で中小企業投資・経営支援事業などを行うunlock.ly(アンロックリー)は、2023年8月に静岡県を中心に持ち帰りお弁当チェーンを70店舗展開する株式会社どんどん(静岡県静岡市)を譲り受けました。現地で社員と向き合う徹底したハンズオン支援の結果、順調に成長を続けています。さらに2024年4月にはエンジンオイルの卸売事業を手掛ける株式会社FUKUDA(京都府京都市)を新たに譲り受けたunlock.lyの三島 徹平社長に、M&Aの経緯とハンズオン支援のポイントを伺いました。(取材日:2024年7月10日)
――unlock.lyの事業の特徴をご紹介ください。
譲受け企業 unlock.ly 三島様: 弊社は中小企業投資と経営支援事業を中心にさまざまなサービスを提供する会社として2021年に設立しました。社名のunlock.lyには、日本企業の飽くなき挑戦を応援し、「可能性をunlockする(解除する)」という弊社のビジョンを込めました。日本には高い技術や長い歴史を持った会社がたくさんあります。素晴らしい可能性を埋もれさせずunlockしていく、そうした存在になりたいと思っています。
投資事業については、一般的な投資ファンドとは違い、永続保有を前提とする「プリンシパル投資」を採用しています。事業会社の投資のように親会社とのシナジーを優先することもないため、譲り受けた会社の長期的な成長のみにコミットして支援を行う点が特徴です。
また、弊社には総合商社やコンサルティングファーム、投資ファンド、弁護士事務所、スタートアップ、中小企業経営者などさまざまなフィールドでの経験を持つメンバーが在籍しています。事業承継後は、譲り受けた企業の課題に応じて必要な人材の力を活用し、ノウハウや人的ネットワークを通じて成長を加速させることで企業の価値を上げていきます。
――投資先企業を選ぶうえでの判断軸はありますか。
三島様: 「投資することにわくわくするか」という点を重視しています。弊社が関わることによって成長が明確に描けるか、譲渡オーナーとの親和性があるかといった点です。当然、財務状況や長期的な業績予測もシビアにみながら総合的に判断します。
――日本M&Aセンターの提案で、2023年8月に静岡県を中心にお弁当チェーンを展開するどんどんを譲り受けました。最初の投資先として選ばれた理由を教えてください。
三島様:
どんどんの魅力は何と言ってもその知名度の高さと規模です。静岡県を中心に一都四県で70店舗の持ち帰りお弁当チェーンを展開し、40年以上地元に愛されてきました。30年以上放送しているテレビCMは、静岡県民なら知らない人はいないほどです。無借金で堅実経営をされていて財務面も完璧でした。
そんな会社が後継者不在で承継先を探している。会社のことを調べていくうちにさまざまな改革案も浮かんできて、ぜひ投資したいと武者震いしたのを覚えています。
――トップ面談では非常に詳細な提案資料を提出されたそうですね。
三島様:
60ページ以上の資料を作成してトップ面談に臨みました。会社として最初の投資先となる企業でもあり、実績がない分、いかに具体的なビジョンを示せるかに力を注ぎました。弊社が投資することでどんどんがどう変わっていくのか、組織体制から経営方針、具体的な施策までを臨場感をもってお伝えしたつもりです。
トップ面談時には手応えを感じられませんでしたが、吉原 かおる会長(当時は社長)が提案書をお子さんたちに見せていたそうで、成約式で息子さんから「提案書から本気度が伝わりました」と言っていただきました。
――2023年4月にトップ面談をし、同月に基本合意、8月にM&Aが成立しました。unlock.lyは投資先にハンズオンで支援していますが、成約後はどんなPMIを実施しましたか。
三島様: 会社の組織体制については、私がしばらく本部長を務めたのち、代表に就任しました。弊社は資本参画や経営の支援のみを行うことはせず、経営そのものを当事者として行うことで本気の事業承継を行います。私のほかにも人事や経理、法務、営業など経験と実績を持つメンバーが経営に参画しています。
まずは全店舗の店長が集まる会議の場でワークショップを行いました。そこで皆さんからやりたいこと、できたらいいなと思うことを出し合ってもらいました。並行して社員全員と個人面談も行い、集まった意見をもとに会社の方向性を定めて皆さんに発信しました。
働く環境についてはオペレーションの見直しをして、それまで電話注文がメインだったところにモバイルオーダーを導入することで効率化を図りました。人事制度も、頑張った人が頑張っただけ評価される透明性の高い内容に変えました。
――三島社長はどう関わりましたか。
三島様: 最初は週5でどんどんに通っていました。現在は新体制が軌道にのったため、そこまでではないですが、今でも店舗を回るなど現場にはよく顔を出していますね。
どんどんはコアなお客様の層が50代、60代なんです。それを今後は10代、あるいは20代にも広げていきたいと思っています。新たな取り組みとしてユニクロとコラボTシャツを作ったり、地元の有名企業とのコラボ商品を出したりしました。私自身も積極的にTik Tokに出演してどんどんの魅力を若い世代に発信しています。韓国フェアや洋食フェアの実施、メガ丼の発売など、「どんどん=和食」というこれまでのイメージを変える施策も展開しています。また、8月からはnews every.のローカル番組の「everyしずおか」でコメンテーターを務めるなどメディア露出も増やしています。
――さまざまな施策を三島社長が中心となって行っておられるのですね。M&Aから1年が経とうとしていますが、手応えは感じていらっしゃいますか。
三島様:
ようやく数字が伸びてきたという実感はあります。昨年に比べ売上アップする週が増えてきました。
また、今年の4月に7年ぶりに新店舗を出店したのですが、すでに全店舗で1位の売上を上げています。法人営業を強化したのが成功の要因です。法人営業には今後も力を入れていく方針で、専任の営業も採用しています。
――こうした取り組みについて、どんどんの吉原会長の反応はいかがですか。
三島様: 現在、吉原会長には週に1回会議に参加いただいていますが、行動力については非常に評価いただいています。ユニクロとのコラボTシャツが出たときには実際に店に並んで買ってくださったそうです。変化を楽しんでくれているんじゃないかなと思います。
――2件目の投資先として2024年4月に京都府でエンジンオイルの卸売事業を手掛けるFUKUDAを譲り受けました。FUKUDAを選んだ理由は何ですか。
三島様: トップ面談で工場を訪れた際、床にオイルが一滴も落ちていないきれいな工場に驚きました。従業員の皆さんも皆気持ちのいい応対で、質の高い管理体制と人員体制を持った会社というのが最初の印象です。加えて、今後大きな成長が見込める業界とは言えない中で増収増益を続けているどころか直近では最高益を出されている。自動の残量検知システムを使った新しいデリバリービジネスにも挑戦されていて、非常に魅力を感じました。福田 喜之社長にも三島という人間を気に入っていただいて、順調にお話が進みました。
――まだ成約から3カ月ほどですが、今後はどんな支援を予定されていますか。
三島様: 福田社長は2024年8月に会長に就任する予定です。新体制では福田社長が人脈を活かし営業面を、私は代表として経営管理や人材採用、教育など経営強化や新事業を担います。実は福田社長は、同時にunlock.lyの顧問にも就任予定で、ビジネスパートナーとしての新たな関係で新事業展開も検討中です。福田社長には社外の立場からもFUKUDAをご覧いただき、これまでと違う活躍に大変期待しています。
――最後に、unlock.lyとしての今後の展望についてお聞かせください。
三島様: 今後もM&Aによる中小企業の事業承継の受け皿としての機能を果たしていきたいです。当社にグループインしていただくことで、従業員や取引先が守られることはもちろん、事業展望においても、わくわくする未来を描いていただける。そんな会社が増えることで事業承継の課題解決の一端を担えればと思っています。
ゆくゆくは投資先企業の従業員が別の投資先企業の経営者に就くといった仕組みも作れるといいですね。
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成長戦略部 シニアコンサルタント 丹治 涼(株式会社unlock.ly担当)
三島代表は投資をする基準として「わくわくするか」と挙げられていましたが、三島代表こそまさしく周りの方々をわくわくさせてくれる経営者です。今回資本提携が実現した2社のオーナー様もそこに惹かれ、unlock.ly様に自社を託すご決断をされたのかと感じております。今後も微力ながらご支援させていただければ幸いです。