[M&A事例]10年後を目標に譲渡先を探し始めるも、わずか1年で同じ志をもつ企業と巡り合う

有限会社ヤマト防水工業(沖縄県)× 株式会社松山工業(和歌山県)

譲渡企業情報

  • 社名:
    有限会社ヤマト防水工業(沖縄県)
  • 事業内容:
    防水工事業
  • 売上高:
    74,000千円(2023年7月期)
    従業員数:
    従業員数:6名 (役員除く)

※M&A実行当時の情報

譲受け企業情報

  • 社名:
    株式会社松山工業(和歌山県)
  • 事業内容:
    とび・土木工事業、電気工事業、機械器具設備工事業
  • 売上高:
    約30億円(グループ全体)
    従業員数:
    約300名(グループ全体)

※2024年2月末時点の情報

沖縄県で防水工事業を手がけるヤマト防水工業は、1999年12月に山城 昌人様が創業し、2001年12月に法人化した会社です。60歳になるタイミングで地元金融機関から後継者について質問を受けたことをきっかけにM&Aを考えるようになり、2024年3月、和歌山県に本社を置くプラント設備工事業の松山工業と資本提携しました。山城社長と奥さまの洋子様に、M&Aを考え始めたきっかけやM&A 後の変化について伺いました。(取材日:2024年7月29日)

60歳で事業承継を意識し、地元金融機関の勧めでM&A検討をスタート

――はじめにヤマト防水工業の事業内容や強み、創業の経緯をお聞かせください。

譲渡企業 ヤマト防水工業 山城様: 学校やスーパー、賃貸アパートの防水工事業をしている会社です。得意なのはウレタン防水ですが、それ以外にも様々な防水技術や素材を熟知しています。沖縄職業能力開発大学校でシーリング防水検定の技能検定委員を担当しており、2023年には沖縄県職業能力開発協会表彰をいただくこともできました。

この仕事に就いたのは、高校卒業後、兄が働いていた防水塗装業や左官業を手がける地元の会社に入ったのがきっかけです。その後、数社で経験を積み、1999年12月に個人事業主として独立、2001年12月にヤマト防水工業を設立しました。社名の由来は自分の名前です。「山城(やましろ)」の「山」と「昌人(まさと)」の「人」を取って「ヤマト防水工業」と名付けました。

洋子様: 法人化したのは創業直後の売上が大きく、私たちにとってはかなり大きな額の課税があったからです。しかし、手元資金はありませんでした。法人化すれば納税のタイミングを少し遅らせることができると聞き、有限会社を設立したんです。「大手と仕事をするなら法人のほうがよい」と税理士からアドバイスをもらったことも理由の1つでした。

――創業当時は仕事でのご苦労も多かったのでは?

洋子様: 夫は技術者で、前の会社でも営業の経験はありませんでしたから、得意先の開拓には時間がかかりましたね。しかし、過去に働いていた会社の先輩方を訪ねてご挨拶回りを続けるうちに、沖縄の防水業界のリーダー的存在の方が経営する会社と、全国の賃貸アパートを手がける大手建設・不動産会社から仕事をいただけるようになりました。この2社を柱として、その他にも様々なお取引先に支えていただいて今日があります。

山城様: 創業当時は資金繰りにも苦労しました。じつはヤマト防水工業の前にも会社を経営していたのですが、その時代に保証人になっており、独立してから400万円を弁済しなければならなくなったことがあったんです。

銀行に相談したところ、「国の補助金を活用して金利1.9%で借り入れができる」と聞き、書類作成も手伝っていただいて、それで何とか支払いをすることができました。経営が軌道に乗るまでに10年ほどかかったと思います。

――M&Aを考え始めたきっかけは何だったのでしょうか。

洋子様: 金融機関から「事業承継について考えていますか?」と連絡をいただいたことです。「息子2人は県外で別の仕事をしていて、継ぐ人はいません」とお答えしたところ、M&Aというものがあると教えていただきましたので、一度お話を聞くことになりました。

――それまで事業承継について家庭内でお話をしたことはなかった?

山城様: なかったと思います。少しずつ体力の衰えを感じ始めた60歳を過ぎた頃から、「田舎に移って畑仕事をしながらのんびり過ごすような生活はどうだろう」「タクシーの運転手をやろうか」などと半分冗談まじりで妻に話したことはありました。

洋子様: 話を聞いたときは、肩の荷を下ろして残りの人生は少し楽になりたいのかなと感じました。夫も年を取っていきますし、それは職人さんたちも同じですから、やがて会社を閉じる方向で考えているんだろう、と。

銀行からは「ヤマト防水工業は借金もないし、借り入れもない。時間はかかるかもしれないけれど、お相手が見つかるかもしれませんよ。県内を含めて全国から探しますから、ゆっくり進めていきましょう」と言われ、M&Aに挑戦してみることにしました。「あと10年は頑張ってもらって70歳ぐらいで引退できればいい、それまでにお相手が現れなければそれはそれで構わない」と考えていましたね。 ただ、税理士からは反対されました。自力で利益も出して税金も払えているのに、と。

――反対もあったのですね。従業員は6名いらっしゃるとか。従業員承継については考えなかったのでしょうか。

山城様: 考えていなかったですね。当時、もうすぐ30歳になる従業員に「僕の後を継げよ」と冗談交じりに話したことはありました。それ以外の従業員は50代、60代ですから、事業承継するのは難しいだろうと思っていました。

2024年3月25日に沖縄で行った成約式にて。(役職はM&A実行当時) (左)ヤマト防水工業 代表取締役 山城 昌人 様 (中央)ヤマト防水工業 取締役 山城 洋子 様 (右)松山工業 代表取締役 松山 健太 様

2024年3月25日に沖縄で行った成約式にて。(役職はM&A実行当時) (左)ヤマト防水工業 代表取締役 山城 昌人 様 (中央)ヤマト防水工業 取締役 山城 洋子 様 (右)松山工業 代表取締役 松山 健太 様

年商1億円未満の会社に30億円規模の会社から手が挙がり驚く

――2023年3月に日本M&Aセンターと提携仲介契約を交わし、相手探しを始められました。M&Aについての不安はありませんでしたか?

山城様: 特にありませんでした。担当の方の印象もよくて。

洋子様: 様々な事例を引き合いに出しながら、わかりやすくご説明いただきました。説明の仕方も堅苦しくなかったので、こちらもリラックスして聞くことができました。

――相手企業に対する条件はあったのでしょうか?

山城様: 在籍している従業員を継続雇用して仕事はいままで通りとすること、防水工事業と関係ない会社であること、この2点が相手企業への条件でした。 相手企業が防水工事業の場合、沖縄に同業他社のライバルを増やしてしまうことになります。創業以来、地元の様々な方にお世話になってここまで来られたと思っていますので、筋は通さなければと考えました。

――何社か打診があったのでしょうか?

洋子様: 月に1回、銀行の会議室をお借りして日本M&Aセンターからの状況報告を聞いていました。沖縄の企業も含めて、2、3社が検討しているというお話でしたね。

山城様: とにかくお世話になった会社のライバルを利するようなM&Aだけは絶対に避けたいと思い、その点については要望を出させてもらったことがありました。

――1年も経たないうちに和歌山に本社のある松山工業から意向表明がありました。最初の印象はいかがでしたか。

洋子様: 社長がお若いうえに、設備工事を行う年商30億円規模の会社と聞いて驚きました。うちは年商1億円に満たない小さな会社ですから。

山城様: 松山社長がとび職人からスタートして一代で築き上げた会社と聞きました。職人からの叩き上げで、経営も勉強しながらここまで会社を大きくするなんてすごいなと思いましたね。相当なご苦労があったんじゃないかと想像しました。 トップ面談でお会いしたとき、「職人の給料を上げて彼らを笑顔にしたい」とおっしゃっていたことが印象に残っています。

洋子様: ご自身に職人の経験があるからこそ出てきた言葉ですよね。職人から経営者になった経歴は夫と同じで、価値観も合いそうだと思いました。夫が沖縄県の技能検定員をしていることにも魅力を感じてくださったようでした。 沖縄が好きで、沖縄で仕事をしたいと言ってくださったこともうれしかったですね。

M&A後も変わらず社長として経営を担う

――2024年3月に成約式が行われました。当日をどんなお気持ちで迎えましたか。

山城様: 事前に式次第をいただいていましたが、挨拶でどんなことを話そうかと考えて緊張していました。会場は那覇市内のホテルでしたね。こんなに仰々しくしなくてもいいのではと思いましたが、日本M&Aセンターの方に「M&Aは企業と企業の結婚ですから、35年の歴史の重みをお相手企業に感じていただくためにも成約式は大切なのです」と言われ、新たな気持ちで参加させていただきました。

洋子様: 成約式当日、松山社長から「私は命がけでヤマト防水工業さんを譲り受けました。これからも命がけでやっていきますので一緒に職人たちを豊かにしましょう」と言われ、うれしく思いました。

山城様: M&Aをしても仕事はいままで通り何も変わることはありませんが、松山社長のためにも頑張って売上を伸ばしていこう、と思いましたね。

――従業員や取引先の反応はいかがでしたか。

山城様: 最終契約後、地元の防水業界のリーダー的存在の方にご報告にうかがったところ、大変驚かれました。「なぜうちに相談してくれなかった。うちが譲り受けたかった」と言われましたが、最後には「頑張ってみなさい」と言っていただきました。

従業員と仕事をお願いしている一人親方の方々には4月1日の朝、会社で話をしました。たまたまエイプリルフールの日だったので、最初は信じてもらえなくて、「冗談でしょ」と言われましたね。

――M&A後、会社やご自身に何か変化はありましたか。

山城様: 現在もヤマト防水工業の社長をしていますし、仕事も何も変わりはないです。松山社長からも「山城社長がまだまだ頑張ると言うのであれば、何年いてもらってもいい。うちは構いませんよ」と言っていただきました。 これまで通り、売上を落とさないように頑張っていくつもりです。松山工業が沖縄で本格的に仕事を始めることになったら、いろいろフォローをして恩返しできればと思っています。

洋子様: 夫は資金繰りの心配がなくなったからか、深酒が減り、寝つきが以前より良くなったように見えます。本人は気づいていないかもしれませんが、精神的にだいぶ楽になったんじゃないでしょうか。

――M&Aを検討している方へのアドバイスをお願いします。

山城様: 弊社は幸い、借金はありませんでしたが、たとえ借金があっても会社の強みや可能性に魅力を感じて譲受けを希望する場合もあるそうです。一人で考えていても結果はわかりませんから、検討しているなら思いきってチャレンジしてみることをお勧めしたいですね。

担当者コメント

金融法人部 沖縄営業所 新里 智子(有限会社ヤマト防水工業担当)

金融法人部 沖縄営業所 新里 智子(有限会社ヤマト防水工業担当)

山城社長は業界一筋40数年、防水塗装の腕を磨かれ創業されました。経営面でご苦労がありながらも奥様と二人三脚で乗り越えられた経験談を伺い、同様のご経歴で職人からスタートされた松山社長との提携は、培われた技術・経営資源・想いを引継いでいただける最良のお相手と思います。ご両社の益々のご発展を祈念しております!

※役職は取材時

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