業務用食品卸売業界のトップ企業として、「業界再編の核」へ
⽬次
- 1. 業務用食品卸売は小規模乱立再編は急速に進んでいく
- 1-1. まず、貴社の属する「業務用食品卸売業界」とは、どのような事業を行っているのでしょうか。
- 1-2. 業務用食品卸売業界の市場構造はどのようなものでしょうか。
- 1-3. 今後の業界再編の動きをどう見ていますか。
- 2. M&Aの歴史は失敗からのスタート
- 2-1. これまで16件のM&Aを実行されていますが、 その判断の過程で重視されている要素は何でしょうか。
- 3. M&A後は互いの良さを活かす新体制を構築トーホー本体では人材多様化を推進
- 3-1. M&Aを実行後、最初に何を実施されますか。
- 3-2. トップ派遣とおっしゃっても、16件のM&Aを実行されたわけですから、人選が大変では?
- 4. M&Aは「CSR」の一環 会社を存続させ、地域に貢献できる
- 4-1. 最後に、今後のM&A戦略についてお聞かせください。
- 4-2. 今後とも積極的にM&Aを提案してまいります。本日はお忙しい中、大変ありがとうございました。
- 4-3. 監修
株式会社トーホーは、創業67年を迎える業務用食品卸売最大手企業。「M&A戦略の更なる加速」を重点施策として掲げ、16件のM&Aにより、コア事業(業務用食品卸売、業務用食品現金卸売、食品スーパー)の拡大を図っている。業界の現状やM&Aを活用した戦略ついて、上野社長に語っていただいた。
(聞き手:日本M&Aセンター 執行役員 平山 巌)
業務用食品卸売は小規模乱立再編は急速に進んでいく
まず、貴社の属する「業務用食品卸売業界」とは、どのような事業を行っているのでしょうか。
食品卸売業界には、大きく分けて2つの業態があります。ひとつはスーパーなどの量販店へ食品を納める業態で、最終的に家庭へ食品を納めることになります。もうひとつは、トーホーも属していますが、主に外食事業者へ業務用の食品を納める業態です。これが業務用食品卸売と呼ばれています。この事業の特徴は、商品の形が変わって最終ユーザーに届くということです。すなわち、外食事業者のメニュー本位でお客様に食材を提供することになります。単なる中間流通ではない、と当社では自負しています。
業務用食品卸売業界の市場構造はどのようなものでしょうか。
社数は正確に把握できないほど多くあります。年鑑記載企業だけでも1,000社以上あります。地域密着型で、地域の外食あるいは給食事業者に食材を提供していますが、中には、魚介だけあるいは野菜だけ取り扱っている企業などもあります。300億円超の売上を計上している企業は、当社も含めてわずか10社程度ですから、まさに小規模乱立、戦国時代ともいえます。
今後の業界再編の動きをどう見ていますか。
地域ごとに生き残れる、という観点からこれまでは遅々とし たものでした。メーカー戦略である「地域一番店重視」からも、棲み分けての生き残りは容易でした。しかし、今後は業界再編が急速に進んでいくと思います。他業界と同様「後継者問題」は着実に増加しています。よく日本M&Aセンターさんがおっしゃる「継がせる不幸」なども目にすることが増えてきました。そのような中で、トーホーはトップ企業として、『業界再編の核』になっていかなければならないと考えています。
M&Aの歴史は失敗からのスタート
これまで16件のM&Aを実行されていますが、 その判断の過程で重視されている要素は何でしょうか。
まずは『コア事業か否か』、ということです。コア事業を明確 にし、「選択と集中」に徹するということです。申し上げた通り、我々は外食事業者に支えられてきました。ですから、我々は外食事業者が「繁盛」することに徹しています。単に商品をお納めするだけでなく、「食」の安全・安心をご指導申し上げる、あるいは情報システムの構築、店舗の建築・改装など、外食事業をトータルでサポートすることをコア事業と捉えています。
過去の話ですが、当社ではかつて「多角化」の時期がありました。当社に無いリソースを欲してM&Aを行ったのです。しかしこれらのほとんどは失敗に終わりました。そこで私がまずやったことは、12に及ぶ多角化事業からの撤退でした。当社のM&Aの歴史は、失敗からのスタートといえますね。今はコア事業に徹していますので、ノウハウ・技術は着実にグループ企業全体に蓄積されています。
次に重視することは『経営者・企業の理念』です。外食事業者に貢献するという理念があるか否かです。価格ありき、売上ありきの会社は当社グループには適さないと考えています。
日本M&Aセンター企業戦略部長 平山(左)とトーホー上野社長様(右)
M&A後は互いの良さを活かす新体制を構築トーホー本体では人材多様化を推進
M&Aを実行後、最初に何を実施されますか。
まず経営トップを決めます。トップは必ずトーホーから送らせ てもらっています。相手企業の良い部分はもちろん変えずに残しますが、一緒になるわけですから、トーホーの良さやDNAも植え込み、シナジーを最大限に発揮できるよう体制を整えます。 相手企業の従業員への説明は、私自らが行います。M&A公表時点では、新体制への不安、あるいはオーナーに対する気持ちなど、従業員の皆さんは複雑な心境です。それをトップ自らが説明して安心してもらうことが大事です。
新体制を構築するため、当社では「SWATチーム」を編成します。名前はいかめしいですが、相手企業の制度、情報システム、経理、人事などの現状を正確に把握するためのチームです。何か不足があれば補給を検討します。社長の奥様が一人で経理をやっているなどのケースもありますから、それで不足であれば、経理の人材を投入するなどのケースです。1年でほぼトーホー並みの管理体制が完成するようなスケジュールで進めています。
トップ派遣とおっしゃっても、16件のM&Aを実行されたわけですから、人選が大変では?
人選は大変です。当社グループには、現在26人の社長がいるわけですから。ご一緒になった企業へは、トーホーフードサービスの営業第一線から経営者としてふさわしい人材を派遣します。営業が最重要だからです。
一方トーホー本体では、中途採用をどんどん行っています。当社の管理部門の幹部には中途採用者が多くいます。彼らの他社での経験をトーホーに移植してもらう、いわば人的diversity(多様化)を進めています。いつまでも金太郎アメでは困りますので。ここ3年で20人ほどの採用をしました。私が中途採用をやるものですから、グループ企業の社長もそれぞれで中途採用をどんどん行っています。私自身が34歳で出版社から転職してきましたので、中途採用には抵抗がありません。
M&Aは「CSR」の一環 会社を存続させ、地域に貢献できる
最後に、今後のM&A戦略についてお聞かせください。
M&Aは今後も積極的に行っていきます。当然、前にお話し した条件に当てはまるものだけですが。「社長は既存の会社のことよりもM&Aに力を入れている」と考える社員が中にはいるかもしれませんが、一方でグループ企業の社長に抜擢されることを心待ちにしている社員も大勢います。一国一城の主になりたいわけです。これは社内の活性化にも素晴らしいことです。
私は、会社を存続させ雇用を確保し、地域のお客様にも貢献できるという観点から「M&AはCSR(企業の社会的責任)の一環だ」と社内外で言い続けています。そのためにも良い企業があれば積極的に検討していきます。
今後とも積極的にM&Aを提案してまいります。本日はお忙しい中、大変ありがとうございました。
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Future vol.7
当記事は日本M&Aセンター広報誌「Future vol.7」に掲載されています。