<特別インタビュー>トップに聞く調剤薬局業界大手4社の戦略
⽬次
株式会社メディカルシステムネットワーク 専務取締役 田中 義寛 氏 日本調剤株式会社 常務取締役 三津原 庸介 氏 阪神調剤ホールディング株式会社 専務取締役 岩崎 裕昭 氏 株式会社アビメディカル 代表取締役 保田 裕司 氏
※役職名はインタビュー当時のもの
2016年4月に厚生労働省より診療報酬改定が発表された。今回の報酬改定では、「患者本位の医薬分業」の実現のため、患者の薬物療法の安全性や有効性の向上、ならびに医療費の適正化のため、「かかりつけ薬局」への対応や「薬剤師の評価」を実施することとなった。また、門前薬局の評価の見直し、また後発品の算定の厳格化などが主なポイントである。 制度の改正は、業界再編が加速する大きな要因となる。 転機をむかえる調剤薬局業界を牽引する4社に、現在の事業環境や今後の展望、そしてM&A戦略をQ&A方式で聞いた。
Q1.2016年4月に調剤報酬の改定がありましたが、全体的な印象や想定と違った点などあれば教えてください。
A1.患者に選んでもらえる「かかりつけ薬局」を作ることが必要(田中氏)
阪神調剤ホールディング 岩崎裕昭専務取締役(以下、岩崎): 経営を考えると想像以上に厳しい算定要件というのが正直な気持ちです。ただし、かかりつけ薬剤師など、「患者さんに選んでもらえる薬剤師」が評価されるようになるということは、薬局や薬剤師にとっては非常に良いことだと考えています。
日本調剤 三津原庸介常務取締役(以下、三津原): 地方の薬局にとっては厳しい内容かもしれませんが、当社は予想していたほどではなかったと受け止めています。むしろ今回の改定は、日本調剤の理念である、医師と対等に薬物療法を展開するとういう考え方が評価される内容でした。これまでは、(患者ではなく)医師の方を向いてマンツーマンでやる薬局がビジネスモデルとして成立していましたが、今後は薬剤師が医師に適切な提案や良い紹介をする対等な関係に変わっていくと思います。
アビメディカル 保田裕司代表取締役(以下、保田): 厳しい改定になっており、かかりつけ薬剤師を意識した対応が急務だと考えています。当社はもともと若手薬剤師の管理薬剤師への登用には積極的でしたが、今回「かかりつけ薬剤師指導料を算定するには薬剤師の調剤経験が3年以上」という定義ができたので、30~35歳の中堅薬剤師の採用や、新卒の薬剤師の教育に力を入れていきます。「薬局はサービス業」という基本姿勢を持ち、患者とのコミュニケーションをとれる薬局にすることが差別化になっていくと思います。
メディカルシステムネットワーク 田中義寛専務取締役(以下、田中): これまでの改定とは大きく違うと感じています。大規模薬局チェーンは報酬を下げられました。大手の方が、利益率が高く儲かっているから、手っ取り早く医療費を抑えるという意図でしょうけれども、調剤業務の対価が所属する企業グループの規模で決まるというのは合理性に乏しいですし、健全な競争原理が働かないので長期的にみると良い政策とはいえないと思います。 かかりつけ薬局・薬剤師として患者に選んで頂ける薬局をつくらないと生き残っていけませんから、これからはサービスの競争がはじまります。報酬算定の条件をいかにクリアするか考えるのではなく、患者をみて処方箋を集めることが重要になります。
当社は、恐らく大手の薬局の中でもいち早く在宅業務に取り組んできたグループで、特に札幌では、ほぼ全店で在宅を実施しています。今回の改定で在宅については少しトーンが下がった印象もありますが、患者からきちんと認められるかかりつけ薬局になっていくことが重要ととらえていますので、引き続き重要課題としてやっていく予定です。
Q2.今回の改定が業界に与える影響はいかがでしょうか。
A2.新卒薬剤師の大手志向は強まり中小の採用は厳しくなる(三津原氏)
田中: 再編の流れは変わらないと思います。中小規模の薬局は、かかりつけ対応が難しいことに加えて薬剤師不足と後継者難という問題を抱えていますので。今回の改定で打撃をうけるのは地方のマンツーマン薬局(診療所の前に店舗を構えており、その診療所からの処方箋割合が高い薬局)ではないでしょうか。ひとつの病院からの処方箋の集中率が高いと報酬が下がることになりましたが、地方のマンツーマン薬局は、どうしても他の病院からの処方箋は集めにくくなります。こういった薬局はM&Aをするとしても価格が下がらざるを得ないと思います。
岩崎: 大手は今後も拡大していくと思いますが、20~30店舗の中堅企業はM&Aをやめるところも出てくるのではないでしょうか。田中専務がおっしゃったように、規模が大きくなると報酬は下がりますから、買収側の企業はいよいよ限られてくるな、という印象です。
三津原: 新卒薬剤師の大手志向は強まっていますし、ドラッグストアに有利な報酬改定になったこともあり、大手以外の薬局は薬剤師の採用が苦しくなり、M&Aはますます増えると思います。当社は研修にはかなり力を入れていますし、子会社で薬剤師派遣事業も行っていますから、そういった意味でも薬剤師はM&A後も安心して働ける環境になっています。
Q3.今後のM&A戦略についてはどのようにお考えでしょうか。
A3.5年で100店舗に拡大を目指したい(保田氏)
田中: 当社は過去約50社のM&Aを実行していて、今後も加速する方針です。まず重点地域は都市部。また薬局に大事なのはドミナントなので、ドミナントがつくれているような薬局があれば、やはり買収の優先順位は高くなります。地域ごとに中核会社に合併していくという方針ですが、ある程度の規模があれば独立した企業として存続させるなど、柔軟に検討したいと思っています。
とはいえ薬局ですから、医療・薬業という側面を考えるなら地方も無視できません。北海道の佐呂間というホタテの養殖をしている町があります。人口5,000人の無薬局の町で、薬剤師が一人もいない地域でした。その佐呂間町から、薬剤師を派遣してほしいと我々に依頼があり、薬局を出店し、併せてクリニックも仙台から進出しました。なんとか赤字にせずに運営している状況ですが、こういうことも薬局としては絶対に必要な機能だと考えます。
当社グループに入っていただいた薬局では、社員がやめてしまうなどのトラブルは起きていません。上場企業の一員となって業務が増えたりすることもあるし、いままで緩かった部分がかっちりしたというのは多少あるとは思いますが、一方では休みもきちんと取れるようになったり、教育の仕組みも充実しているので、そういう点では非常に喜んでもらっています。
岩崎: M&Aは加速させます。マザーマーケットである関西を強化するとともに、首都圏も押さえていきたいです。そのために、今年の1月、芦屋本社と東京本社の2本社制に移行しました。
M&A後は、非効率であっても、阪神調剤の看板で全て統一する必要はないと考えています。名前が変わると患者や従業員、地域の医療機関関係者から違和感や疑問を持たれるかもしれませんから、安心してもらうために店舗の名称は通常変えません。地方に関しては、地縁や血縁が非常に強いので、M&A後も社長は社内から出して頂く方針ですし、実際に、過去に買収した仙台の会社でそうしてもらったことがあります。
三津原: 業界再編のうねりの中で、当社も積極的にM&Aで拡大していきます。M&A後は基本的に日本調剤の看板に変える方針でやっていますが、稲畑産業の『アイケイ薬局』ように店舗名を残したケースもあります。システムの方は、薬歴なども引継ぎ独自開発のシステムに共通化しています。
買収する時に、病院の先生と薬局との関係性は重視しています。日本M&Aセンターの紹介で実行した神奈川のM&A案件でもそうでしたが、リレーションが築けている薬局はM&A後も順調に伸びていく可能性が高いので、そのあたりの事前リサーチは大事だと思います。
保田: 5年で100店舗に拡大していきたいと思っています。エリアはまずは東京、次いで大阪を増やしたいと考えています。出店の際には駅近を意識しています。どうしても門前薬局(病院の付近に店舗を構えており、主としてその病院の処方箋を扱う薬局)では複数の病院からの処方箋を集めるのは難しいので、新規開業するクリニックが多い駅近にはこだわりたいですね。
Q4.今後の業界の見通しや貴社の戦略などをお教えください。
A4.調剤薬局のみならずドラッグストアとの融合も視野(岩崎氏)
保田: 業界は確実に二極分化していくと思います。大手は中堅規模の薬局とは体力も違えば、薬剤師の集まり具合も違います。小さな薬局は経営を続けるのがいずれ難しくなり、売却を考える人も増えてきます。大手はこれから、10店舗単位などある程度の規模のM&Aが多くなると思いますが、当社は2~3店舗規模から積極的に買収していくことで、生き残っていきます。
田中: 当社は中小規模の薬局に加盟店になっていただき、医薬品の仕入価格の交渉を我々が代行しシステム化する「医薬品ネットワーク事業」も行っていて、現在1,400の店舗が加盟し、日本最大規模になっています。大手の薬局グループでは多角化している所もありますが、今後も医薬と介護を重点的に強化し、地域包括ケアシステムを実現していきます。10年後に3,000億円の売上がないと調剤業界では残れないと考えていますので、この目標にむけて医療・介護分野を深堀りしていきます。
三津原: ジェネリックや薬剤師派遣など、独自のとりくみは引き続き拡大していきます。今後はM&Aで数を増やすだけでなく、「かかりつけ薬局」という概念を世の中の人に知ってもらい、日本調剤に来てもらうブランディングをする必要があります。たとえば今年の3月に神奈川県で、県と協力し未病促進事業をやりました。病気になる手前で健康管理をしようということで、当社の84店舗が選定されました。患者でなくても薬局に来て薬剤師の健康指導を受けられるという取り組みです。このように、単純に「処方箋を受け付けます」というだけではなく、健康相談のため薬剤師にかかるということをもっと発信し、地域の人に支持されるようにしていきたいと思います。
岩崎: ドラッグストアに有利な改定になりましたので、お客さんが選ぶ先としても、薬剤師の就職先としても、ドラッグストアの勢いはとめようがなくなっています。対抗していくために調剤同士が合従連衡する可能性はあると思いますし、ドラッグストアと融合していく形もありうると思います。業界環境は厳しくなりますが、効率は考えていません。それよりも社員や患者さんのことを優先していくことが重要だと考えています。
田中 義寛 氏
株式会社メディカルシステムネットワーク 専務取締役
1992年、株式会社日本興業銀行(現株式会社みずほ銀行)入行。2006年に株式会社メディカルシステムネットワーク入社後は一貫してM&Aを手掛け、2015年より現職。これまで50件のM&Aを実現させ、現在も年間50人以上の調剤薬局経営者と面談、精力的な活動を続ける。
三津原 庸介 氏
日本調剤株式会社 常務取締役
1999年、日本調剤株式会社入社。2015年より現職。都内の大学にて客員教授も務める。グループ全般の戦略立案から、企業間アライアンス、電子版お薬手帳・在宅システムの構築などを手掛ける。
岩崎 裕昭 氏
阪神調剤ホールディング株式会社 専務取締役
1998年、株式会社阪神調剤薬局入社。2012年、阪神調剤ホールディング株式会社入社、現職。全国的にM&Aを展開し、2016年5月現在のグループ全体の店舗数は、調剤薬局264店舗、ケアプランセンター1ヶ所(大阪府)の合計265店舗。
保田 裕司 氏
株式会社アビメディカル 代表取締役
2000年、ファイザー製薬株式会社に入社。会社設立のため1998年退社後、翌年にアビメディカルを設立。同年にのぞみ薬局の一号店を開局。大阪を中心に、兵庫県・滋賀県・東京に店舗を拡大し、現在はグループ会社8社、計45店舗の薬局を展開している。
Future vol.11
当記事は日本M&Aセンター広報誌「Future vol.11」に掲載されています。