会社も家庭も、縁の下の力持ち。社長の“奥様”にとっての事業承継とは?

事業承継
更新日:

⽬次

[非表示]

結婚後、なんとなく家業を手伝うようになってから、いつの間にか深く携わることになってしまい早何十年・・・という中小社長の奥様は多いのではないでしょうか。家事や子育て、時には介護をしながら経営者である夫を支えるのは、並大抵のことではありません。 そんな忙しい日々を過ごす社長の奥様が、ある日突然、社長から「会社の事業承継を考えている」と相談されたら・・・。 会社は後継者がいれば必ず事業承継を成功させられるとも限りませんし、短期間ですぐに経営者を交代できるものでもありません。事業承継は社長だけでなく、社長と二人三脚で会社を支えてきた社長の奥様にとっても、非常に重要なライフイベントなのです。 そこで今回、社長の奥様にも事業承継について考えていただくセミナー「わたしらしいリタイアライフを楽しむために はじめての事業承継」を開催。約15名の現役の社長の奥様にご参加いただき、事業承継について考えていただく機会を持っていただきました。その様子をレポートします。

セミナーの様子

セミナーの様子

中小企業の社長の奥様の苦労、事業承継で「世界が違って見えた」

実際にM&Aによる第三者への事業承継を経験された株式会社向井珍味堂の元社長夫人、中尾仁美様がご自身の体験談を紹介されました。

体験談を話す株式会社向井珍味堂の元社長夫人、中尾仁美様

体験談を話す株式会社向井珍味堂の元社長夫人、中尾仁美様

結婚後、先代社長の誘いで家業の経理を手伝うことになった中尾様。時が経つにつれ、会社の経理業務を一挙に担うようになり、それから数十年、仕事を続けてきました。その間、従業員の要望にはすべて答えなければならない、というプレッシャーが常にあり、心休まる日々はなかったと振り返ります。 「従業員が結婚したり、子供が生まれたりするのはおめでたいことではありつつも、彼らの給与や扶養はどうなるのか、どうしても仕事のことが頭を離れず・・・、いわゆる職業病でしょうか。『社員は家族』とはよく言いますが、40人の従業員は本当に大切だからこそ、私にとっては家族よりもさらに責任の重い存在だったと思います」。 しかしある日、中尾様は夫である社長から「会社をM&Aで譲渡しようと思っている」と相談を受けます。その相談を受けて初めて、会社と家を往復する日常以外の人生について想像し、希望が持てるようになったそうです。 M&A決断後、お相手企業との出会いに恵まれ無事に成約。「死ぬまでこの仕事をするんだ」と思っていたはずの仕事を、成約から半年後にすべての業務を引き継ぎ終えた頃には、「世界が違って見えた」といいます。 「引き継ぎを終えた日、こんなに空が青かったんだ、という感動がありました。とても嬉しかったのを覚えています。」 中尾様は現在、ご夫婦で旅行に出かけたり、新しい趣味のコーラスを始めたりと、リタイア後の人生を謳歌されているそうです。 「自分で体験したからこそ思うのは、事業承継で一番に考えていただきたいのは『会社の存続』ということです。夫が社長を長く続ければいいというものではないですし、子供に継がせることも考えられませんでした。子供の人生を自分が決めることはできないと思っていましたから。時期が来たら、新しいことに取り組む意欲をもった人が継ぐべきだと思います」。

事業承継にも、適齢期がある

公認会計士であり中小企業の成長と事業承継を財務面から支援している日本M&Aセンターの小田切弓子は、「事業承継には適齢期がある」と指摘。 「日本政策金融公庫総合研究所のデータによると、後継者にバトンタッチするのに必要な期間の平均は5~10年と、時間がかかります。成功するには、後継者と一緒に伴走する期間を設けてから、助走をつけて一番勢いのあるときに、一番いい方法を活用すべきです。第三者承継(M&A)は、ドライな印象を受ける方も多いかもしれませんが、そんなことはありません。親族承継は、お子様に相続税の支払いがのしかかりますし、社員承継だと自社株の買い取り資金を用意できない場合があるため、第三者承継を選ぶ人は増えています。いずれにせよ、円満な事業承継を実現した方がセカンドライフを謳歌されているのです」。

社長の奥様への相続はどうなる?最新の相続法を知ろう

このほかに、弁護士として中小企業M&A業務の法務面をサポートしている日本M&Aセンター法務室辛嶋如子が、約40年ぶりに大きく法改正されたという相続法に関する最新情報を紹介。 社長である夫に万が一のことが起こった場合、残された家族への財産相続や遺言書に関する民法の改正について、主に社長の奥様に関係する改正ポイントを解説しました。

民法改正について講演する法務室 上席課長 弁護士 辛嶋如子

民法改正について講演する法務室 上席課長 弁護士 辛嶋如子

事業承継でトラブルを起こさないためには、早めに話し合いをしておくこと

公私ともに社長を支え続けてきた社長の奥様の貢献度は計り知れません。 しかし、年齢を重ねると時間的にも体力的にも、なかなかご自身の思うようなライフプランを実現するのが難しくなってくるのではないでしょうか。 突発的な要因によって、何の準備もなく事業承継を行わざるを得なくなってしまう前に、忙しい日々の中でも、早めに家族と話し合う機会を持ち、会社にとっても家族にとっても一番いい事業承継について考えていただくことが大切といえそうです。

「家族と話せる事業承継ブック」

当日は、参加者の皆様に「家族と話せる事業承継ブック」をお持ち帰りいただきました。 この資料はご家族が社長と話をするためのサポートに使っていただくための資料ですので、ぜひこちらの詳細ページからダウンロードしご活用ください。

著者

M&A マガジン編集部

M&A マガジン編集部

日本M&Aセンター

M&Aマガジンは「M&A・事業承継に関する情報を、正しく・わかりやすく発信するメディア」です。中堅・中小企業経営者の課題に寄り添い、価値あるコンテンツをお届けしていきます。

この記事に関連するタグ

「事業承継・家族・後継者不在・親族内承継」に関連するコラム

【連載】「経営者と家族のための事業承継」現場でみる最新の考え方と進め方 ~第3回「後継者について知ってほしいこと」~

事業承継
【連載】「経営者と家族のための事業承継」現場でみる最新の考え方と進め方 ~第3回「後継者について知ってほしいこと」~

中小企業庁の発表では、2025年までに、平均引退年齢である70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万社が後継者未定と言われています(2019年11月中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」より)。中小企業・小規模事業の経営者の皆様の多くは、ご自身の会社の事業をどのように継承していくか、考えられたことがあるかと思います

【連載】「経営者と家族のための事業承継」現場でみる最新の考え方と進め方 ~第2回「最適な後継者選びに必要なこと」~

事業承継
【連載】「経営者と家族のための事業承継」現場でみる最新の考え方と進め方  ~第2回「最適な後継者選びに必要なこと」~

中小企業庁の発表では、2025年までに、平均引退年齢である70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万社が後継者未定と言われています(2019年11月中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」より)。中小企業・小規模事業の経営者の皆様の多くは、ご自身の会社の事業をどのように継承していくか、考えられたことがあるかと思います

【連載】「経営者と家族のための事業承継」現場でみる最新の考え方と進め方  ~第1回 いい事業承継とは?~

事業承継
【連載】「経営者と家族のための事業承継」現場でみる最新の考え方と進め方  ~第1回 いい事業承継とは?~

中小企業庁の発表では、2025年までに、平均引退年齢である70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万社が後継者未定と言われています(2019年11月中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」より)。経営者の皆様の多くは、ご自身の会社の事業をどのように継承していくか、考えられたことがあるかと思いますが、その参考にしていた

事業承継を考えるとき、何から準備すればいい?

事業承継
事業承継を考えるとき、何から準備すればいい?

事業承継の準備は、まず家族と話し合うことから始める会社の将来を真剣に考える中で、事業承継について経営者の方がまず行うべきは「将来についてできるだけ早く家族と話し合う」ことです。これは顧問税理士や公認会計士、取引のある金融機関など第三者への相談よりも、優先した方が良いでしょう。驚くべきことに「子どもが事業を継ぎたいのか、継ぎたくないのか」という基本的な意識確認、「親として継がせたいのか、継がせたくな

大学で家業の事業承継を学ぶ学生たち。”ベンチャー型事業承継”で、家業にイノベーションを

事業承継
大学で家業の事業承継を学ぶ学生たち。”ベンチャー型事業承継”で、家業にイノベーションを

実家が家業を営んでいるという若い世代は、自身の将来についてどんな考えを巡らせているのでしょうか。自分の進みたい道がある、漠然と家業は継ぎたくないと思っている、親である社長の考えがわからず不安に感じている等々、さまざまな方がいるでしょう。もちろん家業を継ぐことを真剣に考えていて、若いうちは実家から離れて就職し、将来戻ってきて家業を継ごうとしていたり、最初から家業に入って後継者として経営のノウハウを学

親任せにしていませんか? ~継ぐ側こそ、知識が必要~

事業承継
親任せにしていませんか? ~継ぐ側こそ、知識が必要~

先日、ある3姉妹にお会いしてきました。「本当にうちは、女系なんです。」そう笑っておっしゃったのは、社長を務めているご次女でした。「曽祖父が創業して、娘婿である父が継ぎ、私は3代目です。」お父様が倒れられたとき、お姉様はすでに海外で仕事をされていたので、ご次女である社長が跡を継いだそうです。「幸い、いまのところ事業は順調にいっているんです。」「でも、ちょっと恥ずかしい話でもあるんですけど、家族内でち

「事業承継・家族・後継者不在・親族内承継」に関連するM&Aニュース

ウィルグループ、CEspaceから自治体及び企業へのDX支援事業を承継

株式会社ウィルグループ(6089)は、完全子会社である株式会社CEspace(東京都中野区)の地方自治体及び企業へのDX支援事業に関して有する権利義務を、吸収分割により承継すること(以下:本会社分割)を決定した。ウィルグループを承継会社、CEspaceを分割会社とする吸収分割方式。ウィルグループは、人材派遣、業務請負、人材紹介を主とする人材サービス事業を行うグループ会社の経営計画・管理並びにそれに

トーカイ、佐藤から福祉用具貸与・販売事業等を承継

株式会社トーカイ(9729)は、佐藤株式会社(福岡県福岡市)の福祉用具貸与事業、福祉用具販売事業及び住宅改修事業(以下:福祉用具貸与・販売事業等)を会社分割により、承継することを決定した。佐藤を分割会社とし、トーカイを承継会社とする吸収分割方式。トーカイは、病院リネンサプライなど病院運営の周辺業務受託、宿泊施設などへの寝具類の貸与福祉用具の貸与及び販売等を行っている。佐藤は、壁装材・襖材など内装材

東京ガス、GHPを主とした各種サービス事業を熱供給事業子会社へ承継

東京瓦斯株式会社(9531、以下:東京ガス)は、GHP※を主とした各種サービス事業を会社分割によって、東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社(東京都港区)に承継させることを決定した。東京ガスを分割会社とし、東京ガスエンジニアリングソリューションズを承継会社とする吸収分割方式。東京ガスは、ガス事業等を行っている。東京ガスエンジニアリングソリューションズは、熱供給事業等を行っている。※GHP

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース