「選択と集中」とは?手法やメリット・デメリット、企業事例を解説

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どの企業にも強みと弱みがあります。すべての強みを伸ばしながら弱みを小さくして事業成長を図るのが理想的ですが、活用できる経営資源は限られているため、実現は難しいでしょう。

そこで考えられたのが、「選択と集中」という経営戦略です。本記事では、「選択と集中」とはどのような経営戦略で、メリットとデメリットにはどういったものがあるのかを解説し、実行する際のポイントなども説明します。

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「選択と集中」とは?

「選択と集中」とは、中核となる事業(コア事業)に経営資源を集中させ、事業価値を高める経営戦略です。

具体的には、複数の事業を展開する企業、多くの製品・商材を扱う企業が中核となる事業(コア事業)の見極め、選択を行い、コア事業に経営資源を集中させます。一方、そのほかの事業(ノンコア事業)に関しては規模縮小や事業の売却を行います。

一般的に多くの企業は、売上規模の拡大や経営リスク分散のために多角化戦略を行います。しかし多角化を進めるほど、業績が好調な部門とそうでない部門の差が開いていきます。この状態を放置したまま多角化を続ければ、むしろ経営効率は落ちてしまうでしょう。そこで赤字部門を整理し、黒字部門に経営資源を集中投下して企業価値を増大させるのが「選択と集中」なのです。

「選択と集中」が広まったきっかけ

「選択と集中」は、オーストリアの経営学者であるピーター・ドラッカーによって提唱された経営戦略です。ドラッカーは、経営資源を有効に活用するにはコア事業への集中投下が必要であることを主張しました。

この経営戦略を実行に移したのが、ゼネラル・エレクトリック社のCEOであったジャック・ウェルチです。ジャック・ウェルチはドラッカーの戦略をもとに、市場で1位もしくは2位になれそうな部門だけを社内に残し、それ以外の部門は縮小または閉鎖させました。その結果ゼネラル・エレクトリック社の業績は飛躍的に成長し、「選択と集中」の経営戦略は世界中に広まっていきました。

「選択と集中」と「多角化」の違い

「選択と集中」は、企業の非成長分野を縮小・売却し、成長分野のみに経営資源を集中投下する経営戦略です。

一方「多角化」は、売上規模の拡大や新規参入を目的として複数の事業を展開し、シナジー効果を創出しながら経営のリスクヘッジを行う戦略です。業種の異なる企業同士の合併や買収などによって発達・多角化した巨大な企業体を「コングロマリット」と呼びます。

「選択と集中」を実現するためのM&A

これまで述べてきたとおり「選択と集中」を実現するには、ノンコア事業や不採算部門の縮小・切り離しが欠かせません。またコア事業や成長部門に関しては、必要なリソースを外部から調達した方が効率的な場合もあります。

どちらの手法を実現するにもM&Aが必要です。つまり、「選択と集中」の経営戦略を採用して自社を新たなステージへ押し上げていくには、M&Aが重要なカギを握ります。

選択と集中を行う流れ

選択と集中を行う際の流れについてご紹介します。

事業ポートフォリオの作成

投資において、ポートフォリオとは運用する資産の構成や組み合わせを指します。リスクを減らして収益を最大化するには、どの商品を組み合わせるかが重要です。また、ポートフォリオは定期的にバランスを再調整することも求められます。

事業ポートフォリオとは、これを企業の事業部門に当てはめたものです。各事業の収益性・成長性・安全性などを可視化することによって、自社の状況を把握します。つまり事業ポートフォリオの作成、分析を通じてコア事業、ノンコア事業の見極めが実現できるのです。

カーブアウトの実施

カーブアウトとは会社分割の一種で、自社や子会社の事業の一部を切り離して独立させる手法の一つです。分離した事業部門の多くは新会社として独立し、親会社からの出資や外部資本などが注入されて事業を継続します。

その後事業価値が高まると、再び親会社の傘下に、あるいはM&Aによって売却されます。選択と集中では、ノンコア事業の切り離しにカーブアウトが実施されます。

選択と集中のメリット


選択と集中の経営戦略を行うメリットは、主に以下の3つです。

1.得意領域において飛躍的な成長が期待できる

選択と集中によって主力事業に経営資源を集中投下させるため、企業が得意とする領域、主力事業が強化されます。そのため売上やシェアの拡大や、強みを活かしたイノベーションの創出が期待できます。その結果、企業価値の向上につながる、というのが選択と集中の最大のメリットと言えるでしょう。

2. 大幅なコストカットができる

選択と集中では、成長分野に集中投資すると同時に非成長分野や不採算部門の縮小や切り離しを行います。成長を押し下げて収益を圧迫していた部門が縮小、あるいは別会社として切り離されることで、大幅なコストカットを達成できます。

3. 短期間でのコスト削減・収益改善が見込める

選択と集中による経営戦略は、組織再編を劇的に進められます。そのため、不採算部門を縮小やカーブアウトして、主力事業への集中投下を一気に行えば、短期間でのコスト削減・収益改善が十分に見込めるでしょう。

選択と集中の注意点・デメリット

選択と集中による経営戦略にはさまざまなメリットがある反面、デメリットが生じる場合もあります。生じるデメリットとは、主に以下の5点です。

1. 優秀な人材の流出・離職が進む可能性がある

ノンコア事業や不採算部門を縮小する過程で、人員整理が行われる場合があります。企業内の組織再編を進めるにあたって異動先で社員のモチベーションが低下し、最悪の場合離職につながる可能性も考えられます。

2. 従業員や株主の反発を招く可能性がある

コア事業として残った部署もノンコア事業として縮小・切り離しされる部署も、どちらで働く従業員にとっても労働環境が大きく変化します。このような大掛かりな変化に対して、一部の従業員からは反発を招く可能性があります。

また変化に伴う反発は株主からも起こる可能性があります。特定の事業領域にフォーカスすることによって、成長可能性が狭まることに不安や不満を持つ株主も出てくるでしょう。

3. 主力事業への依存による柔軟性の低下

収益性の高い事業が、将来にわたって高い収益性を維持できるかどうかはわかりません。逆に収益性が良くない事業でも、近いうちに何かをきっかけにして収益性が改善するかもしれません。したがって、事業ポートフォリオを組む場合は全体のバランスを考えながらあらゆる状況に対応できるようにしておく点が大切です。

選択と集中が行き過ぎてしまうと、収益性の高い事業への依存度が高まり、柔軟性が低下して社会や市場の変化に対応できなくなる恐れがあります。

4. 選択を誤った場合のリスクが大きい

選択と集中による組織再編は、その選択を間違えると致命傷になるリスクがあります。他の部署を縮小し、限られた一部にリソースを集中投下するため、万一これらの選択を間違えていた場合、深刻なダメージを負ってしまいかねません。

つまり過度な選択と集中は成功のリターンを大きくできる反面、失敗のリスクも甚大なのです。

5. 長期的な展望が描きづらくなる

選択と集中は、短期的な収益改善を目指す一点集中型の経営戦略であるため、短期間で効果が出やすい事業へのリソース配分が優先的に行われます。その結果、長い時間が必要な事業への投資をあまりしなくなるため、長期的な展望が描きづらくなってしまいます。

選択と集中を行う際のポイント

選択と集中による経営戦略は、成功すれば短期間で収益の改善やイノベーションなどが期待できますが、失敗すれば人材の流出や株主の反発などの大きなリスクを抱えることになります。それらを踏まえた上で、この戦略を成功に導くためには以下の3点が重要です。

長期的な視点をもって事業計画を立てる

選択と集中は、短期間で収益が改善できる経営戦略であるため、どうしても短期的な視野に立った事業計画に引きずられてしまう傾向にあります。しかし、短期的な計画ばかり積み上げていては本質的な問題を解決できないかもしれません。

したがって、選択と集中を行う場合は、短期的な視点と長期的な視点の双方から事業計画を立てるように心がけた方が良いでしょう。

事業撤退・事業再編をする勇気をもつ

選択と集中を行うと、不採算部門の縮小やカーブアウトによる切り離しを行わなければなりません。これまで投下した資本や時間などを考えると、切り捨ててしまう決断を下すのは容易ではありませんが、短期間で挽回して収益を改善するには事業の撤退や再編を行う勇気をもたなければなりません。

専門家によるサポートを受ける

選択と集中を成功させるには、どの分野を選択してどこにリソースを集中させるのかを正しく判断しなければなりません。

しかし、縮小や切り捨ての対象になる部署が万一思い入れの深い部署だったらどうでしょうか。たとえば、それが創業時には会社を牽引してくれたような主力部署だった場合、情に流されて判断が甘くなってしまうことが考えられるでしょう。

会社の収益を短期間で回復させるには、正確な判断を迅速に行わなければなりません。そのような判断を下すには、経験が豊富で客観的な判断をサポートできる専門家の支援を受けながら進めることをおすすめします。

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選択と集中の戦略を行った企業事例


実際に選択と集中を行った企業事例をご紹介します。

日立製作所の事例

2008年9月のリーマンショックを契機に、翌年3月期の決算で過去最大7873億円の最終赤字を出したことをきっかけに、日立製作所の「選択と集中」が始まります。日立製作所が取った施策は、主に以下の3つでした。

  • 責任と権限を明確にした製品別体制の構築
  • 低収益事業の再建・撤退の断行
  • コスト競争力の強化

責任と権限を明確にするために導入されたのが、カンパニー制です。社内の各部門をグループ会社のように一つの法人と見なすことで、独立採算による迅速な運営を徹底しようとしました。
また事業を6グループに集約し、一体化することで成長分野への集中投資と経営の迅速化を図りました。

低収益事業の再建・撤退の対象になったのが、自動車機器関連事業・薄型テレビ事業・HDD事業です。自動車機器関連事業は構造改革により再建され、薄型テレビ事業は自社生産からの撤退が決定されました。またHDD事業に関しては、再建後に売却が行われました。

コスト競争力の強化では、日立社内のコスト構造改革「スマートトランスフォーメーションプロジェクト」により営業利益率の改善を行うとともに、購買の集約化やグローバル調達の拡大、生産拠点の最適化・集約などが行われました。

日立製作所は選択と集中を行った結果、総合家電メーカーからの脱却からIT技術によるデータ分析や活用を支えるソフトウェアの開発力を強化し、社会を支えるインフラを創出するITを核とする企業集団へと生まれ変わりつつあります。

キヤノンの事例

国内企業の中でも早い段階から「選択と集中」を取り入れて成功させたのがキヤノンです。

バブル崩壊後の1995年に社長に就任した御手洗冨士夫は、23年間の米国駐在で得た経験から、「経営手法は世界共通のやり方で行い、雇用はローカルに徹する」という独自の経営哲学を生み出します。

御手洗社長が行ったのは、伝統的な日本型の終身雇用制は守りながら、かつて主力部門の一つだったパソコン事業などの赤字部門を切り捨て、複写機やプリンターに使うインクカートリッジなどに経営資源を注力する選択と集中でした。

従業員の雇用形態を守る代わりに、年功序列は撤廃して実力主義の賃金体系の導入を組合に認めさせたのです。ジャック・ウェルチが行った選択と集中を、日本の風土に合うものに修正し、日本版の選択と集中を生み出すことに成功しました。そして赤字部門の切り離しと主力部門への集中化を行った結果、キヤノンは業績を劇的に改善させることに成功しました。

Appleの事例

選択と集中を究極的な形に昇華させたのが、Apple社と言われています。

1976年創業後、失脚の時期を経て復活したスティーブ・ジョブズが最初に着手したのは、製品の取捨選択でした。ジョブズが不在の間にApple社の製品は約40種類まで増えていました。当時ライバル企業もあらゆるジャンルで「数打てば当たる」戦略を実行していましたが、ジョブズは自社が得意分野とする4つの製品に注力する少数精鋭路線で挑んだのです。

その結果、iPodやiPhoneなど収益性が非常に高く魅力的な商品の連続リリースに成功し、Apple社は世界を代表する企業となりました。

終わりに

市場のニーズにはトレンドがあり、また技術は日々進歩しているため、いつまでも同じ商品が売れ続けるケースはほとんどありません。したがって、その変化を敏感に察知して、それに合わせて企業側も変わることが求められています。

これを実現するには、定期的な組織再編は欠かせません。その際に劇的な効力を発揮するのが、選択と集中です。選択と集中によって不採算部門やノンコア事業の縮小・切り離しを行うとともに、主力分野へのリソースの集中投下を行えば、短期間で収益を劇的に改善することもできます。

ただし、選択と集中による経営戦略は諸刃の剣と言えますので、使い方を誤ってしまうと取り返しのつかない事態が起こりかねません。

したがって、選択と集中を導入するには、経験豊富な専門家にアドバイスを求めながら進めていくのが良いでしょう。そうすれば、失敗のリスクを最小限に抑えつつ、成功に向かって進めるはずです。

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