【ファッション・衣料業界M&Aシリーズ】2023年アパレル業界M&A総括と2024年の展望
⽬次
- 1. 2023年アパレル業界のM&A件数はやや減少
- 2. 2023年アパレル業界のM&A事例
- 2-1. 「ランドビジネス」の事例
- 2-2. 「クロスプラス」と「アイエスリンク」の事例
- 2-3. 「ANEW Holdings」と「ワン・イレブン」の事例
- 3. まとめ
- 3-1. 著者
日本М&Aセンター衣料業界専門チームの水上です。
当コラムは日本М&Aセンターの衣料業界専門チームのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
衣料業界のM&Aについて動向やトピックスなど解説して行きます。
2023年アパレル業界のM&A件数はやや減少
2023年のアパレル業界M&Aの全体件数は前年同期比約10%減少という結果になりました。
ここ数年だと、2019年の約40件をピークに減少傾向となっております。業界の特徴としては、小売、製造、商社どれかに大きく偏ることなくM&Aが行われております。
件数でみると偏りはあまりありませんが、日々経営者の方々と面談をしている中で、中堅・中小企業の場合、ここ最近特に製造業の分野で動きが大きいと感じます。
元々は製造コストが安かった中国、東南アジア等で製造していた企業が多かったですが、近年は製造コストが上昇してきた影響もあり、一部国内でクイックに製造できる拠点を持っていきたいという大手企業も増えてきております。
参照:レコフM&Aデータベースより㈱日本М&Aセンターが作成
【検索期間】1996/01/01~2023/12/28 (公表日など) 【データ種別】[M&A]M&A 【業界】アパレル 【形態】合併, 買収, 事業譲渡(営業譲渡)
2023年アパレル業界のM&A事例
2023年に実施されたM&Aの代表的な事例を3つご紹介いたします。
「ランドビジネス」の事例
ランドビジネスはアパレル領域にて3件のM&Aを実施しており、全体の10%以上を占めています。
ランドビジネスは、賃貸・分譲・不動産開発・建設・設計・施工監理をトータルにプロデュースする不動産デベロッパーです。
ランドビジネスは2021年にメーカーズシャツ鎌倉から紳士重衣料及びトラウザーズのカスタムオーダー事業を譲り受けし服飾事業へ参入しました。
その後服飾事業拡大に向けて、2023年に服飾縫製事業の3社に加え、周辺事業である宝飾品分野の企業を1社買収しております。
6月に宝飾品の製造・卸を行っている甲府貴宝を買収。デザイン企画から製品仕上げまで高品質で提供できる同社を買収し、紳士服周辺事業を拡大しました。
7月には紳士服の縫製事業を行うジェンツを買収。高い縫製技術や、三ツ星認定工場を持つジェンツをグループ化することで、服飾事業において縫製から販売まで保有することができました。
10月には1985年創業の婦人服縫製するサンクを買収。ジェンツ(福島市)を子会社化し、紳士服に関して縫製から販売までを一貫して行える体制を確立し、今回、サンクがグループに入ることにより、グループ内に紳士服と婦人服の縫製工程を持つことになります。
ランドビジネスは、服飾事業にて自社内に紳士服と婦人服の縫製工程を持つことで、生産体制の向上が見込め、また、同社の多品種少量生産方法の拡大により婦人プレタポルテ市場へ参入できます。
12月には婦人服の企画・製造・販売事業を展開するフランドルを買収。2023年中にジェンツとサンクをグループ会社化しており、2024年春オープン予定のミケランジェロマスターピースの旗艦店に加え、90店舗の販売網を拡充することができ、ミケランジェロマスターピースとフランドルの企画力を活かすことにより巨大マーケットである婦人プレタポルテ市場へ参入できます。
2023年に実施したM&Aによって、紳士服・婦人服の製造から販売まで一貫して高品質な製品を供給できる体制を整備することができます。
「クロスプラス」と「アイエスリンク」の事例
クロスプラスは、衣料品・服飾雑貨全般の企画製造、専門店・店舗・EC等への卸売および百貨店等での小売を行っている企業です。
アイエスリンクは、化粧品の製造・卸売・輸入販売を行っており、爪に貼るジェルシールやインドネシア発のヘアオイル「ellips」などを販売しております。
クロスプラスは、雑貨等アパレル以外にも事業を拡大しております。
アイエスリンクのビューティー関連事業がアパレル事業と親和性が高く、販売・物流といったクロスプラスの持つ機能の活用やEC販売の拡大など、事業の成長が見込めることから、本件M&Aにより、グループのライフスタイル分野拡大を図り、企業価値向上を目指しております。
「ANEW Holdings」と「ワン・イレブン」の事例
ANEW Holdingsは日本・アメリカ・台湾・インドの4か国に拠点を置きグローバル・ビジネス・インキュベータとしてファンド運用やコンサルティングを行っております。
ワン・イレブンは日本製本革婦人靴ブランド「one eleven」を展開しており、レディース向け国産本革製婦人靴ブランドを中心に、商品の製造・販売を行っております。
ANEW Holdingsは地域に根付いた中小企業の事業承継に取り組んでおり、今回のM&Aによってグループで抱えている商材のクロスセル、販路開拓が期待されます。
まとめ
2023年のアパレル業界は自社再建に注力する企業が多かったと考えられます。
新型コロナウイルス感染症が流行し始めた2020年序盤はとても厳しい状況に置かれた企業が多かったですが、雇用調整助成金による補助やGoToトラベル等政府からの施策もあり、国内の外出需要が確保されたことによって、アパレル消費が維持された企業も多かったと考えられます。
しかし、2023年は政府からの大きな対策はありませんでした。
5月に新型コロナウイルス感染症が5類に移行、仕入価格の上昇、最低賃金上昇に伴う人件費高騰、水道光熱費等の販管費高騰、一時1ドル=150円を超える円高・・・業界としても厳しい状況が続いていたと思われます。
そもそもの収益構造が悪化し、1社単独で戦っていく事が厳しい環境になってきました。
売上1億円の企業も売上10億円の企業も1社単独で戦っている状況では、外部環境の影響を大きく受けてしまいます。
そこで、売上1億円の会社がどこかのグループに加わることで、グループとしてシナジーを出すことができます。
バックオフィス集約によるコストダウン、仕入価格の抑制、販路拡大等様々なメリットを享受することができます。
2024年は業界として大きな分かれ目になると考えております。
2000年代のITバブル崩壊後~リーマンショックまで、2011年の東日本大震災後のアベノミクス等、大きな下落の後は経済が大きく動きやすいタイミングです。
上述した外部要因に関しては改善される見込みは薄く、不安要素は積みあがっていくと思われます。
今回ご紹介した事例のように他社と手を組むことによって、自社にないリソースの活用、バックオフィス等の集約によるコストダウンによって外部環境の変化にも柔軟に対応していくこともできます。
会社を経営していく上での選択肢の一つとして、M&Aを考えてみてはいかがでしょうか。
いかがでしたでしょうか?
今後も衣料業界専門チームから最新の業界情報をお届けさせて頂きます。
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