10/6付 日本経済新聞記事「大廃業時代の足音 中小「後継未定」127万社」を受けて
⽬次
- 1. 跡継ぎを考えるだけでは会社の問題は解決しない
- 2. M&Aから考えることの重要性
- 3. M&Aにかかる時間も考慮に入れて…
- 3-1. 著者
このほど経済産業省が発表したデータに衝撃を受けた方も多いでしょう。 日本の中小企業は約420万社。 このうち2025年までに約245万人の経営者が、リタイアの時期を迎えるのだそうですが、127万社が経営者の後継がおらず、しかも60歳以上の事業主の7割は、「自分の代で事業をやめる」意向があるというのです。 このままいけば、2025年までに650万人の雇用と22兆円ものGDPを失うと予想され、国としてもこの5年余りで集中的にその対策を講じるとのことです。 しかもより衝撃的なのは、実は廃業する会社の5割が黒字だという事実です。 つまり今日本で起こっている最大の危機は、赤字企業がなくなるという企業の新陳代謝ではなく、本来日本の未来を支えなければいけないはずの、優良企業が「大廃業時代を迎えている」ということなのです。
跡継ぎを考えるだけでは会社の問題は解決しない
この危機を前に、私たちが本当に考えていかなければならないことは何でしょうか? 「何としても身内に継がせる方法を考える」ことでしょうか?「従業員を説得する」ことでしょうか?あるいは「後先のことはとりあえず考えないことにして、目の前の仕事に精力する」ことでしょうか? 気持ちは分かりますが、いずれも根本的な問題の解決にはならないのです。 黒字なのに跡を継ぐ人がいない、というのは、実は誰も会社の未来に明るい希望を抱いていないのかもしれません。だから人生を賭しても自ら経営をしていきたいと願う人がいないのかも知れません。 将来の経営ビジョンを描き、それを実行できる人材がいなければ、その一瞬だけは何とかなっても、いつか会社は行き詰ってしまいます。 ともかく跡継ぎがいないということばかりに気を取られて、誰でもいいから継いで欲しい、というだけでは、会社の抱える問題は何も解決しないのです。 ではどうしたらいいのでしょうか? その答えは、まず「10年先、当社はどうなっているべきか」を考え、その為に「もっとも相応しいのは誰か」ということを、身内や社員、第三者などの区別なしに、先入観なく判断する事なのです。 この時もっとも客観的に事業承継を考えることができる、大事なテクニックをお教えしましょう。 それは、まず「第三者承継(M&A)」から考える、ということです。
M&Aから考えることの重要性
そんなことトンデモない!と多くの方は条件反射的に反発されるかも知れませんが、少し考えてください。 実際に実行するかどうかは別として、最後にM&Aできることが分かっていれば、実はその時点で会社の存続は確定なのです。 自分がいつ引退しようが、健康状態などが悪化しようが、その時はM&Aで会社が存続できると事前に分かっていたらどうでしょうか? まず跡継ぎの心配をする必要がありませんから、積極的に投資や人材の採用を行うことができます。その結果更にいい会社になれば、もしかしたら息子が継いでくれるかも知れませんし、銀行の支援を得て従業員が継げるような資本構成になるかも知れません。 また万が一の時も、M&Aによって借入や連帯保証の責任から解放され、更に相応の株価や退職金が入ることを考えれば、老後の不安なく引退することができるでしょう。 よく、身内が継がない、従業員も継げないのがはっきりしたら最後の手段としてM&Aを考えるという人がいますが、それは全く順番が逆なのです。 考えてみて欲しいのですが、身内が継ぎたくない、従業員も継げないような会社を継ぐような赤の他人が一体どれだけいるというのでしょうか? 現在廃業する会社の半分以上は黒字企業です。 つまり事業承継絡みのM&Aの殆どは黒字企業な訳で、赤字になってどうにもならなくなってM&Aを考えても、もう全ては手遅れなのです。
M&Aにかかる時間も考慮に入れて…
少々厳しいことを申し上げましたが、最善のM&Aをしようと思うと、準備期間を含めて3年は必要です。 私の経験では最初にM&Aを考えてから実行するまで11年というお客様もあったほどです。 もちろん、これは極端な話ですが、要は事業承継を考えるにあたってまず自社のM&Aの可能性さえ知っておけば、事業承継など何も恐れる必要はないということなのです。 自社がいざという時M&Aが実行可能かどうか、可能ならその相手はどういう先が考えられ、その後どのような展開が考えられるのか?そしてその時どの程度の株価や評価になるのか? まず、その為の情報収集から始めましょう。 それさえわかれば、後は身内や従業員への継承も含めて、時間をかけてベストな方策を練ることができるのです。 事業承継にあたって大事なことは、やはり子供に継がせたいという「肉親の情」という色眼鏡を外し、冷静に「経営者の目」で会社にとってみれば次の経営者は、誰が一番いいのかという視点から判断することです。 肉親という色眼鏡を外してさえみれば、意外と自社にふさわしい後継者というのは、沢山いるものなのです。 後継者難という危機が、もう一度会社の将来やふさわしい経営者を考えるきっかけになるなら、廃業の危機は一転して会社が生まれ変わるチャンスになるかもしれません。