本記事は、株式会社孫の手と日本M&Aセンターによる全3回の対談連載「“介護の会社が上場する”という地方創生」の第3回です。
群馬県太田市を拠点に介護・看護・生活支援サービスを展開する孫の手は2026年3月、東京証券取引所TOKYO PRO Market(以下、TPM)への上場を果たしました。
第1回では上場を決断した背景や上場準備を通じて生まれた組織変革について、第2回では孫の手が大切にしてきた介護観と、地域介護を守るための経営と人づくりについてを伺ってきました。
今回はその最終回として、浦野社長が考える将来に向けた組織基盤づくりとこれからの成長戦略、そしてそれらを支えるJ-Adviserである日本M&Aセンターの支援の意義についてお届けします。
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<今回の対談者>
株式会社孫の手(514A) 代表取締役 浦野 幸子 氏
株式会社日本M&Aセンター 資本市場統括部長 雨森 良治
「浦野の会社」で終わらせず、「孫の手」として成長し続けるための上場
一般的に上場の目的として語られるのは、資金調達や知名度向上だ。
しかし、孫の手の創業者である浦野氏が上場の目的として考えていたのは、会社を個人から切り離し、組織として永続させていくことだった。
浦野氏
「創業当時から私「浦野」の姓なんですが、浦野の会社、として走ってきたんですよね。どんな人たちにも「浦野の会社」ではなく「孫の手」だとしっかり分かっていただくという意味で、上場することはすごく大事だと思いました」
創業者の強いリーダーシップによって成長した会社ほど、経営者個人への依存度は高くなる。一方で、その状態のままでは次世代へのバトンタッチが難しい。
浦野氏も創業以来、介護事業への強い想いを原動力に会社を成長させてきた。
しかし従業員が数百人規模になり、複数拠点を展開するまでになっていったとき、創業者個人の存在に依存した経営(=オーナー会社)のままでは限界があると感じていたという。
浦野氏
「オーナー会社のままでは、私が退任した時に、この会社はどうなるのか。従業員や利用者様、地域社会に対して責任を持つためにも、経営体制や管理体制をしっかり構築しなければならない。それが経営者としての責務だというのもあって。
孫の手を永久に残していきたいのだとすれば、この上場という一つのきっかけを活用しようと思いました」
また、上場市場としてTPMを選択したのも、上場を単なる資本政策ではなく「会社を永続させるための仕組みづくり」と捉えているからこそだった。
浦野氏
「他の市場(一般市場)はかなり上場基準のハードルが高いというのもあります。ただ、介護は人がメインの事業なので、上場して資金調達をしたとしても人が集まってこなければ意味がない。まずTPMへ上場して、公的な会社として認知度や信用度を得るところがまずスタートラインだと考えました」

2026年3月6日 東京証券取引所で行われた孫の手社のTOKYO PRO Market上場セレモニーの様子
上場することで“社長が誰であっても会社が回る状態”に近づく
TOKYO PRO Marketへの上場準備の過程では、ガバナンス体制や意思決定プロセスの整備、各種規程の見直しなどを進めていく。
これらは上場のためだけではなく、社長個人に頼らない経営体制を構築するための取り組みでもある。
日本M&Aセンターの上場支援部門長を務める雨森は、長年中堅・中小企業の支援に携わってきた経験から、社長が誰であっても会社が回る状態になるのが上場企業だと考えているという。
雨森
「上場準備をして上場できた会社は、次の社長が作りやすい状態になっていると思っています。組織として意思決定ができるようになり、社長が誰であっても会社が回る状態に近づいていく。上場は後継者対策として非常に有効な手段だと思います」
浦野氏もそれに共感する。
浦野氏
「上場するにあたってしっかり組織を作っておけば、事業承継もしやすい。誰が後継者になっても、『孫の手の思い』を継承して進んでいけると思っています」
特に孫の手のような地域密着型の介護事業では地域との信頼関係が重要であり、創業者の引退がそのまま企業価値の低下につながってしまうケースも少なくない。
だからこそ、創業者個人ではなく企業そのものに信用が蓄積される仕組みづくりが必要になる。
東京プロマーケット上場は、そうした「企業価値の承継」を支える一つの手段でもあるといえる。
次の経営者に求めるのは「守り続ける力」と「変える力」
では、浦野氏は未来の後継者にどのような人物像を求めているのだろうか。
答えは非常に明快だった。
浦野氏
「孫の手が大事にしてきたことを、一番大事にしてくれる人にバトンタッチしたいんです。ただ、この急激な変化の時代ですから、そこに新しいスパイスも入れてもらわなければいけない。『守り続けること』と『新しくやっていくこと』を両輪でできる人ですね」
孫の手が大切にしてきたのは、「利用者本位」の姿勢だ。
効率や数字だけを追うのではなく、利用者に本当に必要なサービスを提供すること。その結果として、利用者から選ばれ、数字もついてくるという考え方である。
( >>詳しくは第2回記事「想いだけでも、数字だけでも、介護は続かない。孫の手が考える、地域介護を守る経営と人づくり」へ)
創業以来培ってきた価値観を守りながらも、変化への対応を恐れないこと。
この両立が次期経営者に求められる条件だ。
浦野氏
「社外から経営者を迎えれば、『孫の手イズム』が分からないかもしれない。だから期待としては社内からしっかり出てきてほしいなと思っています」
同社では上場準備やその以前から、同社の“人生楽しむべし”という経営理念の浸透や管理職育成にも力を入れてきた。
「なぜその目標を追うのか」「なぜ数字を管理するのか」を社長自ら丁寧に従業員へ共有しながら、経営視点を持つ人材育成を進めているという。
こうした積み重ねが、孫の手が未来へ続いていくための土壌となっている。
孫の手がTOKYO PRO Market上場で見えた新たな可能性
では、孫の手はこれからどのような成長を描いているのだろうか。
TPM上場によって、新たな可能性も見えてきた。
浦野氏
「その地域の人から『孫の手があるから大丈夫だよ』と言われる場所(拠点)を増やしていきたい。
また、上場したことで、今までお会いできなかった大手企業さんとの接点も増えていくと思います。他社さんと協業して新規事業が成立するかもしれません。DXやAIもそうですが、現場の声を持っている私たちだからこそ一緒に作れるものがあると思うんです。一番生産性向上の方法を知っているのは現場なので、その声と技術をマッチングさせていきたい」
介護業界ではDXや生産性向上の重要性が叫ばれている。
しかし、本当に現場で使える仕組みを作るためには、現場を知る企業の存在が不可欠だ。
さらに浦野氏は、自社の成長だけでなく、業界全体への貢献にも視線を向けている。
浦野氏
「人対人であることを忘れてはいけない。その大事さを介護業界全体に伝えながら、必要なことを行政にも発信していける存在になれたらと思っています」
TPM上場後の今孫の手が目指しているのは、一企業の成功ではなく、日本の介護の未来づくりだといえよう。
上場はゴールではなく、その理念をさらに社会へ広げるためのスタートなのだ。
J-Adviserが大切にする上場後の成長支援
TOKYO PRO Marketの特徴の一つが、上場後もJ-Adviserが継続して伴走する仕組みだ。
そのJ-Adviser制度については、上場会社にとっても安心できる制度だという。
浦野氏
「TPMは上場後もJ-Adviserがついて色々指導してくれる。上場して終わり、ではないというところが非常に心強いと感じています」
孫の手のJ-Adviserである日本M&Aセンターが支援企業に対して重視しているのも、「上場させること」そのものではない。
雨森
「我々が一番大事にしているのは『地方の有力企業にしっかり成長してほしい、そしてその地域を代表する企業になってほしい』ということです。これから人口が減っていく中で、地方に残った会社が使命感を持って、しかも透明性を持って地域の人たちに支持される。そういう企業に残ってもらうことが、今の日本には非常に大事だと思っています」
また、支援先の指導・審査にあたる際には、業績や規模だけではなく経営者の姿勢を重視しているという。
雨森
「最初に見るのは社長です。ビジョンや思いを持って、組織づくりをしたいという意思があるかどうか。会社を良くしたい。地域のために働きたい。従業員に報いたい。そういう純粋な想いを持っている経営者の方を応援したいと思っています。」
地方企業の成長こそが地域活性化につながる。
だからこそ日本M&Aセンターは、上場支援だけでなく、M&A、資本提携、業務提携なども含めて企業の成長を支援している。
TOKYO PRO Market上場は未来へのバトンをつなぐためのスタートライン
「浦野の会社ではなく、『孫の手』として残していきたい」
浦野社長が語ったこの言葉には、今回の東京プロマーケット上場の本質が表れている。
創業者個人に依存する経営から、組織として持続的に成長できる企業へ。その変革は、単なる上場準備にとどまらず、未来に向けた土台づくりでもあった。
また、孫の手が描く未来は、ただ会社を続かせるだけではない。地域に必要とされる拠点を増やし、他業種との協業、DX活用などを通じて新たな成長機会を創出していく構想も見据えている。上場はゴールではなく、さらなる成長戦略を実現するためのスタートラインなのである。
日本M&AセンターがJ-Adviserとして大切にすることもまた、「上場すること」そのものを目的としていない。企業が次世代へ事業をつなぎ、持続的な成長を続けるための経営基盤を築くこと。そして上場後も伴走しながら、その成長を支援していくことに価値がある。
孫の手の挑戦は、TPM上場が企業の信用力向上だけでなく、事業承継と成長戦略を同時に実現する選択肢になり得ることを示している。
地域に根差した企業がこれからも必要とされる存在であり続けるために。
今回の上場は、その未来に向けた大きな一歩と言えるだろう。
本対談の第1回記事・第2回記事はこちら
第1回記事(PR TIMES STORY)
【対談連載・第1回】“介護の会社が上場する”という地方創生。地域サービスを止めないために、孫の手と日本M&Aセンターが語る「地方企業の上場」という選択
https://prtimes.jp/story/detail/Bka0EJHYO0r
第2回記事(孫の手社公式HP)
【対談連載・第2回】想いだけでも、数字だけでも、介護は続かない。孫の手が考える、地域介護を守る経営と人づくり
https://magonote-inc.jp/special-dialogue2/