[M&A事例]M&Aを活用し、選ばれるタクシー会社へ

第一交通産業株式会社 代表取締役社長 田中 亮一郎 様

譲受企業情報

  • 社名:
    第一交通産業株式会社(福岡県)
  • 事業内容:
    旅客運送事業、不動産関連事業、介護・医療事業、ファイナンス事業等
  • 従業員数:
    約15,000名(グループ連結)

※M&A実行当時の情報

2016年2月に弊社がお手伝いした相互タクシー株式会社を含め、創業以来200社以上のM&Aによる譲受け実績があり、幅広い事業を行っている第一交通産業株式会社。今回代表取締役社長 田中亮一郎様に、M&Aを始められたきっかけや譲り受ける際に気をつけていること、今後の戦略などを伺いました。

第一交通産業様はM&Aを積極的に活用し、事業を拡大されていますが、M&Aでの成長を選択された最初のきっかけを教えてください。

田中様: 大きな理由は、タクシーが規制業種だったことです。57年前の創業時、タクシー業を行うには許可を得る申請が必要なだけでなく、地域あるいは県単位でタクシーの車体数が決められていました。そんな中、現在の会長が5台から事業を始め、ようやく何十台かにまで増車することができたころ、やはり自分たちの力だけで事業を拡大するスピード感にもの足りなさを感じ始めました。

ちょうどタクシー業界では、各社が雇用や労働の問題を抱え、従業員も顧客も満足するきちんとしたサービスを提供しなければならない、という考え方が広まり始めていました。当時はまだ公共交通機関が今ほどは発達しておらず、一番よく利用されていたバスでさえも本数が少ない状況でした。したがってタクシー事業は今後の社会に必要だと感じた会長は、自分たちがタクシー事業を拡大させて交通機関を充実させていこうと決めました。その拡大のためには、スピードの速いM&Aしかない、と思ったそうです。

これまでに数多くの企業を譲受けてこられましたが、譲受け後の運営として特に重視されていらっしゃることや、そのために取り組まれていることがあれば教えてください。

田中様: 一番大切にしているのは、やはり、従業員の雇用の継続です。特にタクシー事業の場合では、運転手さんに売上を上げてもらえるような仕組みをどのようにつくるかということです。というのも、タクシーの運転手さん同士では「会社は仕事が多いか」「電話の回数が多いか」といった情報の交換が日常的に行われていて、情報のアンテナを高く張り、会社を転々と渡り歩く運転手さんが多くいます。そんな運転手さんたちが、どうしたら長く定着してくれるかを考えると、「第一交通」という会社自体についてくれている顧客がどれだけ多くいるか、というところに辿りつきます。選ばれるタクシー会社になるために、枠にとらわれない広い視点での事業展開に取り組み、差別化を図っています。

差別化戦略の中で、不動産を含め様々な事業を展開されていますが、そういった事業はM&Aで始められたケースが多いのでしょうか?

田中様: M&Aのケースも、試行錯誤をしながら新規で立ち上げたケースも、どちらも同じくらいあります。例えば不動産事業であれば、タクシー事業のM&Aをした際に、その土地の有効利用を考え、結果として不動産の売買や賃貸借事業を展開することになりました。さらに、賃貸したビルで飲食店が営業していた場合には、そこから帰るお客さんや従業員の方がタクシーを利用する場合に顧客になります。そうやって既存事業を展開していくうちに出てきたニーズをきっかけに次の事業の構想が生まれ、結果的にM&Aに取り組む回数も増えていきました。

また通信販売事業もあります。現在社員数は15,000人。全国のおいしいものを集めた通販ができるのでは、と考え立ち上げました。例えば佃煮屋さんが一店舗だけで楽天に出店するのは大変です。でも、第一交通産業が百貨店役になって楽天などに出店すれば、一店舗でも簡単にできます。ほかにも、「全国のタクシー運転手おすすめラーメン」などの本を出すこともできるでしょう。

タクシーは日々その土地の人々と接しており、情報の宝庫です。その情報をいかに吸い上げて、事業として外に出すかを考える。単発であっても、売上が莫大じゃなくても、生き残り戦略としては有効だと思います。ただ、これらのアイディアを事業として成り立たせるには、自社にはない技術や部門が必要になってくるので、M&Aを活用していくわけです。

貴社はM&Aの際、新規に進出する地域の下調べを非常に丁寧にされますよね。M&Aを仲介する担当者としては、他社と比べてとても印象的でした。

田中様: M&Aの場合は、お相手の拠点がある全ての地域について、どんな病院があるか、自治体の施設はどういうところにあるか、そこではどんなイベントが行われているかといったことを確認するようにしています。住宅を選ぶときを想像してもらうとわかるように、橋を渡った先の方が、土地が広くて良いと勧められても、いざ住むと橋がいつも渋滞していて中心地に出てくるのに時間がかかってしまう、というようなことがあります。地図を見ただけでは分からない、また実際に目で見ても、肌で感じないと分からないことが土地についてはたくさんあると思います。肌で感じられるほどにまで綿密に調べ上げることが、その土地でこれから展開する事業への需要がありそうか、つまりはしっかりとその地域の従業員に仕事を創ってあげられるか、ということの検討材料になるので、譲受ける側の責任だと思って、特に時間をかけています。

田中社長

田中社長

貴社とのM&A後、従業員の待遇が向上したという声をよく聞きます。

田中様: 特にタクシー事業の場合、従業員の待遇を向上させるには、会社の努力と従業員の努力のどちらか一方だけでは難しいと思います。従業員の努力を反映させたくて歩合制をとっても、どうしても地域によっては、従業員の努力にかかわらず売上がそれほど上がらないケースも出てしまいます。だからといって、売上以上の給与を払い続けては、会社が潰れてしまいます。なので、他社がいる限りはその地域にお客さんは存在しているということだと前向きに考えて、他社といかに差別化するか、いかにお客さんに選んでもらえるかを考え、当社と運転手両方が待遇が上がるよう努力しています。運転手さんたちのマナーを改めて学んでもらったり、制服を全社で統一したり、車や設備をある程度の頻度で新しいものを取り入れるといったことは、その取り組みのうちのひとつです。お客さんにご利用していただいた後に、「こんなタクシー二度と乗りたくない」と思われるか、「次も第一に乗れればいい」と思われるのか、どちらがいいかということですよね。それが一日の無線回数に表れると思います。

海外ではUberやグラブといったライドシェアアプリが流行し、日本でも段々とタクシーサービスの利用形態が多様化してきました。日本のタクシービジネスを海外に持っていくこと、またライドシェアアプリが日本で使われるようになったときの対策をどのように考えられていますか?

田中様: まず、日本のタクシー会社と海外のタクシー会社には、一つ根本的な違いがあります。海外のタクシー会社は、運転手と個別の請負契約を結んでいるという点です。つまり正社員ではありません。海外ではこのような車両リース制が主流ですが、日本ではMKタクシーがこの制度をとっていることで知られている以外、ほぼ導入されていないのが現状です。日本で運転手は誰でもいいよという状況になるまでには、しばらく時間がかかると思います。

また、いずれはクレジットカードの所有率も高くなるとは思いますが、全国的に一気に主流になることはないと考えています。例えば「民泊」がまだ日本ではあまり正式に普及していないことと、よく似ていると思います。

ライドシェアアプリについて、国土交通省や警察、地元議員の方たちがほぼ100%反対しているのは、このアプリにより、労働環境と雇用形態が崩壊し、社会保障費の増加に繋がりかねない。また、収益が日本の反社会的勢力の資金源になりやすいと考えられているためです。そういうと誰もがライドシェアアプリの普及に反対しそうですが、外国人観光客はみなライドシェアアプリを使っているため、「世界中で使えるのに日本で使えないのは不便だよね」という観光や利便性の点の方に議論が偏っているように感じます。

そういった背景もあり、海外ではUberやグラブなどのライドシェアアプリが普及していますが、日本でライドシェアアプリが普及するのは難しいと私は考えています。現に、各社がアプリを開発していますが、おそらくこのアプリがタクシー会社単体のアプリである以上、魅力は少ないのではないでしょうか。そのアプリを利用して得られる付加価値が求められていると私は思います。

やはり国が違えばタクシー利用の仕方も変わってきますよね。地方と都心、タクシー利用の地域差は大きいと思いますが、どのように対応していますか?

田中様: 住民の高齢化が深刻で、運転手も高齢化しているような地域では、タクシーの使い方そのものが東京とは違います。もちろん、利便性を追求したタクシーもある程度は必要だと思いますが、地域のニーズに応えることに徹するべきだと私は思います。そのために営業エリアは決められているんですから。

地方の過疎地の交通にどのように取り組んでいくか、が課題だと思います。一見すると発展性がないように思えますが、そこから派生するサービスには今後の可能性を感じています。例えば福岡市に行くまでに20km~30kmほど離れた山の中に住んでいる100世帯の人たちは、もはや頼れる公共交通機関がほとんどありません。そういった地域に対して、国が公共交通機関としてタクシーを活用する動きがありました。

こうして公共交通機関の代わりとしてタクシーを使い始めたお客さんというのは、これまで当社のお客さんではなかった方たちです。私たちがタクシー送迎を始める前までは、その地域は午前9時と午後3時に1本ずつの路線バスしかない、という具合でした。従来は、病院の予約が午後2時でも朝9時のバスに乗り、遠回りしながら時間をかけて病院に着き、待合室で長時間を過ごし、10分の診療を受け、帰りのバスを夕方まで待つ。毎回同じ道を走り、同じ時間の使い方をする。そんな一日が週のうちに何度か繰り返されるわけです。

この地域で、デマンド(乗合タクシー)を午前に3本、午後に3本ほど始めることで、面白い変化が起こります。まず、今まで大きなバスの前と後ろに座っていた人たちが、セダンやジャンボタクシーに寄り合って乗ることで、自然と話をするようになります。すると、定額制を生かして「今日はこの道から行きましょうか」と、行きたい道を選んで目的地へ通うようになります。すると、「こんなところにスーパーができた」とか「銭湯ができた」といったことを目にするようになり、それをきっかけに「週に一回、みんなでここに通おうか」という話になりやすいんですね。普段であればタクシーで5,000~7,000円ほどかかってしまうような距離でも、3~4人で乗ると一人当たり2,000円ちょっとに収まりますので、実際に出かけるとなったときには、デマンドをやっている当社のタクシーを呼んでもらえるわけです。

いま当社では約40市町村で、130路線ほどのデマンドを行っています(2016年10月末時点)。そのなかでは例えば、「買い物してきて」や「これを届けて」といったお願いや、お墓掃除の代理のお願いなどもあります。そういった便利屋的な仕事というのが、無限にあるのではないでしょうか。

すでにいくつかタクシー事業以外の海外事業を始められていますが、今後海外での事業を本格的に展開していくということでしょうか。

田中様: 日本は少子高齢化のため、将来的にみても人口減少社会だといわれています。世界的には人口は増加しているわけですから、今後は国外に出ていかないと厳しい状況になってきます。10年や20年といった中期的な視点では日本市場の成長が止まってしまうことはないと思いますが、いざ日本の人口が市場に影響を与えるほどに減ってしまったとき、国外にもある程度の事業拠点を持っていないと、その先の成長は難しいと思います。

その時期に備え、海外の事業に関して乗り出していける基盤は今のうちにつくって、次世代に残したいなと考えています。

アジア拠点の事業について、どのようなきっかけだったのでしょうか?

田中様: 水産加工事業の場合は、とにかく人脈だけで進出していきました。きっかけは地元北九州にある日本で唯一のミャンマー式の寺院です。その寺院はもともと、第二次世界大戦の際に門司港より出兵した戦没者の慰霊を目的に建立されたものだったようですが、遺族会が高齢化したため資金がもたなくなり、閉鎖されてしまいました。当初僕はそのような事情はまだ知らず、「きれいなお寺だな」と観光資源としての魅力を感じ、社内で検討し、寺院を復活させることにしました。いざ寺院が復活すると、ミャンマーの仏教会や政府から感謝状をいただいたり、「この4~5年の間、ミャンマーの人たちが拝むところがなかった。それを復活させてくれてありがとう」東日本大震災の追悼のために日本を巡礼していたミャンマーの大使や仏教会の会長が立ち寄ってくれたりと、非常に驚きました。

その時に初めて、「ところであなたは何の仕事をしているのか?」と尋ねられ、タクシー会社を経営している話をしました。すると、「ミャンマーは壊れて動かなくなった車が路上にそのまま放置されている。車の修理を請け負ってくれないか」とお誘いをいただき、ミャンマーで整備業を始めることになったんです。思いもよらないきっかけでした。

最近では同じくミャンマーで水産加工業も展開されていますね?

田中様: ミャンマーでの人脈ができ始めたころ、ミャンマー国内の日本が再開発している地区に連れて行ってもらいました。そこではマレーシアやシンガポールの富裕層向けに、3000坪ほどの大きな池で3万匹ほどの観賞用ニシキゴイを飼育していました。今注目のビジネスなんですね。そこで餌やり体験をしたんですが、なんと驚くことにその餌がウナギの稚魚だったんです。「ちょっと待ってくれ。僕の国ではウナギは高く売れるぞ」と。

ちょうど同じころ、現地のある水産加工会社の社長から「自分の会社を買わないか」と言われたんです。その水産加工会社は、東南アジア発着のビジネスクラス、ファーストクラスの機内食の白身魚の加工をしている会社で、年商が日本円で1.5億円ほどあり、国際衛生基準もきちんとクリアしている会社でした。“ニシキゴイの餌やり体験”も後押しになり、水産加工会社を任せていただけることになりました。

近い将来は海外での事業をもっと本格的に展開していくということですね。

そうですね。現在ミャンマーでも、第一交通産業のマークを付けたタクシーが走っていますが、実はこれらは当社が出資したタクシー会社ではありません。整備をうちに頼んでくれている会社のなかで、もっと良い車を使いたいというニーズのあった先に車を納車していて、その車に第一交通産業のマークが付けられています。整備を軸にした納車のニーズが増え、マークの付いた車が増えたおかげで、ミャンマーの日本人街や日本企業に勤めている人がうちのマークの付いたタクシーを選んで使ってくれるようになりました。いまはまだ規模は小さいですが、2~3年たてばそれなりに売上がたつと見越しています。今後この事業をさらに伸ばしていくために、何か関連事業を結び付けられることがあれば、タクシーに限らず結びつけて売上ボリュームを大きくしていきたいと思っています。

広報誌「NEXT」 vol.6
NEXT vol.6

M&A成功インタビューは、 日本M&Aセンター広報誌「NEXT vol.6」にも掲載されています。

広報誌「next」バックナンバー

M&A実行年月
2016年2月
日本M&Aセンター担当者コメント

榊原 啓士

榊原 啓士
榊原 啓士

第一交通産業様は、タクシー業界にて様々な新しい取り組みを行われている業界のリーディングカンパニーです。現在は本業に加えて、住宅分野などへも新たに取り組んでおられます。今後もタクシー業界は基より、周辺の事業に関しても積極的にM&Aのご提案をしていきたいと思っております。

本サイトに掲載されていない事例も多数ございますので、お気軽にお問合せください

同じ業種のインタビュー

まずは無料で
ご相談ください。

「自分でもできる?」「従業員にどう言えば?」 そんな不安があるのは当たり前です。お気軽にご相談ください。

事業承継・M&Aの無料相談はこちら