[M&A事例]Vol.133 「良い仕事をしたい」――。2社譲り受け生き残りを図る創業75年の老舗樹脂素材製品メーカー
樹脂素材製品メーカーのカツロンは、1年半で2社を譲り受けました。元々成長戦略にはなかったM&Aをなぜ行ったのか、M&Aの目的と現在について伺いました。
譲渡企業情報
譲受企業情報
※M&A実行当時の情報
当社がお手伝いをして2015年にM&Aでの譲渡を実行された市川ダイス株式会社 谷津大幾様(当時:社長室室長 現在:専務執行役員)に、M&Aまでの経緯や心境、現在の様子などをお聞きしました。
谷津様: 市川ダイスは、千葉県多古町で金型部品・ダイスの製造・加工を行う会社です。私の祖父が1962年に創業しました。「より良い会社 より良い生活を実現させ 豊かな人間性を手に入れよう」を経営理念とし、祖父から父へと受け継がれてきました。私は大学卒業後、社会人経験を積んだ後、2008年に市川ダイスに入社しました。
“市川ダイス”の偉大さを感じながら育ち、自然と後を継ぐ意識が芽生えた
谷津様: 実は一度も父から「後を継いでくれ」と言われたことはないんです。幸せな幼少期を過ごさせてもらって、父や母、家族を支える“市川ダイス”の存在の大きさを認識するようになりました。そして、成長するにつれて「恩返しのつもりで後を継ごう」という気持ちになっていました。コンサルティング会社と大手金型商社で3年ずつ社会人経験を積んだ後、当社に入社するのはごく自然な流れでした。
成長のために必要なスピードと資金力
谷津様: 私が入社した年にリーマンショックが起こって、当社も例外でなく影響を受けました。 そのため社長室室長という肩書で様々なチャレンジをしました。私は職人ではないので金型加工はできませんから、委員会の立ち上げや人事考課制度の改定など「全員参画型経営」を目指して、培った知識を持って突っ走りました。
当時社長だった父とは、市川ダイスの今後の成長展開についてよく話をしていましたね。国内市場だけではいずれ限界が来ることは安易に予想できましたし、成長のためには海外進出が必要不可欠だと感じていました。しかし、独資で海外進出しようとすると、どうしてもスピードと資金力が足りない。仮に失敗した場合は立て直せないかもしれないという不安もありました。そんな時、日本M&Aセンターさんのセミナーに参加したんです。
経営戦略の選択肢としてのM&Aを知る
谷津様: 当時、M&Aというとマイナスイメージが強かったです。「倒産しそうだから売却する」というような、“逃げ”と言いますか。M&Aをした今だからこそ言えますが、実際は反対です。しっかりした会社だからこそ、買いたい会社が出てきて、きちんとM&Aができる。
M&Aは経営の選択肢の一つです。自社単独で生き抜いていくための力が足りないなら、他と一緒になればいい。また、「会社を売ろう」と思って自社を見てみると、強みや弱みが客観的にわかります。結果的に売らなかったとしても、そういう視点を持つ機会は非常に大切なことだと思います。
家族のように迎えてくれる相手との出会いがさらなる成長の道につながった
谷津様: 「ビビッ」と来た!というと抽象的ですが、トップ面談の時に「この会社と一緒に頑張っていきたい」と思いました。 岸本社長から、「我々のグループになったら家族です。親は子供を見守りますが、子供は自分の力で成長してほしいと思っています」と声をかけていただいたことが大きいですね。
際にM&A後、多くの部分を任せていただいています。任されているプレッシャーが良い意味で働き、「今まで 以上に成果を出してやろう!」という気持ちに繋がっていますね。
父からの「ありがとう」の言葉
谷津様: 心配していましたが、全員好印象でした。寂しさはありますが、会社が続いていくことへの喜びと期待の方が大きかったと思います。
父とは実務面の話ばかりでしたが、成約式が終わって東京駅に着いたときに呼び止められ、「ありがとう。お前のお かげだ。会社を頼む」と言われました。その時の父の表情は忘れられません。この時、M&Aをして本当によかったと心底思いました。
従業員や取引先もネガティブな反応は一切ありませんでした。当社の場合は私がM&A後も実質的なトップマネジメントを継続して担っていることもありますが、今までと何も変わらないことを伝えるとみんな安心してくれました。従業員にとっては、ゼノー・テックさんの「グループは家族」という姿勢も、安心するポイントだったと思います。
親子で感じる“最高の決断”
谷津様: 父は今は完全に引退し、自分の趣味の庭造りに没頭しています。太陽の下であれこれ動いて、以前より健康的な体になったんじゃないでしょうか。
私は今も継続して経営を任せてもらっています。個人の連帯保証が外れて肩の荷が下りた状態で経営ができるので、すっきりした気持ちで向き合えています。オーナー経営者ではありませんが、会社全体を統括してマネジメントをして、やりたかった仕事にも挑戦できています。同じ会社に入ってから父とはあまり話さなくなっていましたが、M&Aを終えて、これだけは口をそろえて言っていますね、「M&Aは最高の決断だった」って(笑)。
ゼノー・テック株式会社 代表取締役 岸本 泰博 様
ゼノー・テックは粉末冶金金型を中心に、中国・マレーシア・インドネシアに海外展開をしてきました。M&A当時、当社は国内・海外での売上増加を目標としていました。冷間鍛造金型や引き抜きダイス等で素晴らしい技術をもった市川ダイス様と一緒になれば、お客様に提供できる金型メニューが増えるので、シナジーは明白でした。 シナジーももちろんですが、市川ダイス様のあたたかい社風にも共感しました。ゼノーグループとして、今後も共に成長していきたいと思っております。
樹脂素材製品メーカーのカツロンは、1年半で2社を譲り受けました。元々成長戦略にはなかったM&Aをなぜ行ったのか、M&Aの目的と現在について伺いました。
ダクトの部品製造を手掛ける森鉄工業のオーナーは70歳を超え、後継者不在や会社の課題解決のために他県の会社に譲渡を行いました。
総合印刷会社エムアイシーグループは、約半年の間に3社を譲受けました。M&Aの目的、成約後のPMIについて話を伺いました。
まずは無料で
ご相談ください。
「自分でもできる?」「従業員にどう言えば?」 そんな不安があるのは当たり前です。お気軽にご相談ください。
業界再編部 上席課長 西田 賢史 (市川ダイス株式会社様担当)
事業面はもちろん、両社の雰囲気が非常にマッチしていたことが強く印象に残っています。お互いの工場見学や会食などのプロセスが進む過程で、信頼関係が着実に構築されていっていました。後継者として代表者のご子息である谷津室長(当時)が社内にいる上で、将来の展開やさらなる成長を考えてのM&Aは、近年増加している「成長戦略型M&A」といえます。「市川ダイスが成長し続けていくことに価値がある」と決断された谷津様、その想いを受け止められたゼノー・テック様―今後益々のご繁栄をお祈りしております。