[M&A事例]Vol.146 10年後を目標に譲渡先を探し始めるも、わずか1年で同じ志をもつ企業と巡り合う
沖縄県で防水工事業を手がけるヤマト防水工業は、10年後の譲渡を見据え準備を始めたところ、想定より早くにお相手が見つかりました。その経緯やM&A後について伺いました。
譲渡企業情報
譲受企業情報
※M&A実行当時の情報
北海道旭川市で測量会社を経営してきた株式会社イガラシ工事測量の五十嵐健二社長。1980年の創業以来、正確、迅速、信頼を大切に実績を積み重ねてきた会社を、今回、異業種の会社に譲渡されました。事業承継の問題に直面しながらも大切に育てた会社をそのまま残していきたいという葛藤の中で、どんな決断をされたのか。M&Aを決意された経緯や心境をお聞きしました。
夫婦ともに元気なうちに第二の人生を歩みたい 息子が継いでくれるのではと漠然と考えていた
五十嵐様: 私は地元・旭川の工業高校を卒業後、15年ほど名古屋の測量設計会社に勤めていましたが、妻が体調を崩したのを機に、夫婦で故郷に移り住みました。名古屋で一緒に仕事をしていた大手ゼネコンの方たちが北海道支店を紹介してくれたこともあり、35歳の時に個人で創業しました。 最初はそう会社を大きくせずに一人で続けようと思っていましたが、徐々に取引先の引き合いが増えてきて、人を雇わざるを得なくなってきました。1999年に法人化したあとも徐々に従業員が増えていきました。 弊社は創業以来、トンネル測量に特化して技術を磨いてきました。おかげさまで大手ゼネコンからの信頼を得て、社員数6名ながら多くの大型受注をいただいてきました。過去には、東北新幹線や北陸新幹線、北海道新幹線などのトンネル測量のほか、陸上トンネルとしては日本一の長さの青森・八甲田トンネルの工事でも全6工区分の測量を一手に引き受けさせていただきました。
五十嵐様: 人それぞれ考え方があって、自分が仕事のできるうちはいくつになっても頑張って仕事をするという方もいると思います。ただ、私の場合は、会社が良好な状態のときに次にバトンタッチして、夫婦ともに元気なうちに第二の人生を歩みたいという思いでした。 私には娘、息子が一人ずついます。息子は測量の専門学校を出て別の測量会社に就職したので、ゆくゆくは会社を継いでくれるかと期待していました。ところが、息子は会社を辞めて違う業種で起業してしまいました。ただ、その時は私がまだ50代半ばでしたので深刻に考えず、70歳くらいまで経営をして、そのあたりで事業承継ができれば理想的だなと漠然と考えていました。もともと息子に後を継ぐよう強いるつもりもありませんでしたし、息子が無理であれば従業員に承継するのもいいかと思っていました。
取引先の言葉が事業承継を真剣に考えるきっかけに眠れなくなるほど悩んだ
五十嵐様: 事業承継を真剣に考えるようになったのは72歳になったころです。長らくお取引のある大手ゼネコンの部長とお会いした際、私の年齢を知って「今までイガラシ工事測量さんのみ指名してきた。五十嵐社長が仕事ができなくなったら、うちも困る」と言われてしまったのです。それまで特命で仕事をさせていただいていたことに誇りを感じるとともに、会社を存続させなければならないと強く考えるようになりました。 そして、その頃から事業承継に悩むようになりました。夜も眠れなくなり、夜中に妻を起こして相談することも何度もありました。妻からは、「自分で作った会社なのだから、自分が一番いいと思う方法を進めればいい」と背中を押されました。
五十嵐様: 最初は従業員に継いでもらうことも考えましたが、借入にかかる連帯保証人の引継ぎや、業績好調で高くなってしまった株式を買い取ることなど、さまざまな点で難しいだろうと断念しました。 M&Aは取引銀行からの提案で検討し始めました。当初はM&Aをすることが従業員への裏切りになるのではないかという心理的な抵抗がありましたが、誰にも引き継げないまま自分に不測の事態が起きて会社が立ち行かなくなるほうが、従業員に対してよっぽど無責任だと感じるようになりました。 M&Aの話が出てきたときには息子にも相談しました。すでに別の事業で経営者となっていたので難しいとは思いつつ、とはいえ測量の経験もあったので、会社を承継する気はないか確認をしました。息子は相当悩んでいましたが、事業が軌道に乗ってきた時期でもあり、会社を継ぐのは難しいという返事でした。 さまざまな道を考えましたが、最終的にM&Aが1回ですべてを解決する方法だと思い至りました。しかしながら銀行とのM&Aは条件が合わず、なかなか提案をいただけないまま契約期間が過ぎてしまいました。そんなとき、知人から紹介されたのが日本M&Aセンターでした。
異業種のほうが大切にしてもらえる
五十嵐様: これまではいろいろと悩みながらも、誰にでも相談できるような話ではないことから、一人で悶々と考えてばかりいました。しかし、日本M&Aセンターさんは秘密保持を一番に考えてくれたので、安心して相談できました。やっと自分の思いを聞いてもらえる人ができたと思いました。
五十嵐様: 私が提示した相手企業への希望条件は二つです。一つは、全従業員の雇用と取引先をそのまま引き継いでくれること。もう一つは同業、異業種を問わず幅広く可能性を探りたいというものです。すると、わずか1か月で今回のお相手となった谷口板金工業所さんをご提案いただきました。わずか1か月というスピード提案に驚いたとともに、お相手が異業種(屋根・外壁工事)というのも面白いと感じました。トップ面談でお話をする中で、弊社の営業基盤をベースに新たに谷口社長のネットワークを加えて会社を発展させていきたいという先方のビジョンに共感しました。また、異業種のほうが弊社の従業員を大事にしてくれるだろうと思い決断しました。 トップ面談から監査まで1週間という、非常に速いスケジュールで進んでいきました。12月中旬に基本合意契約し、12月末に最終契約をする中で多くのことを決めていかなければなりませんでしたが、年末で忙しい時期だったこともあり、かえって余計なことを考える時間もなく、結果的に良かったかもしれません。 成約式は札幌の日本M&Aセンターで行いました。一抹の寂しさと、やっと肩の荷がおりたという安堵感で感無量でした。
社員や取引先に受け入れてもらえた
五十嵐様: 社員にはM&A実行の1週間前から幹部、社員に分けて発表しました。前年の決算内容が非常に良く、谷口社長と相談をして決算賞与を出すことを決めていたので、その発表も同時に行いました。譲渡の決断に反対も出ず、みな納得をしてくれました。決算賞与のお礼を谷口社長に伝える従業員もいるなど、いいスタートが切れたのではないかと思っています。 譲渡後は、引継ぎのために顧問として半年在籍したあと完全に引退しました。退職の日には社員の温かい気持ちを強く感じ、あらためて今まで一緒に頑張ってきてよかったとしみじみ感じました。若い社員からは送別会開催の申し出もありましたが、感情が溢れてしまいそうだったので、気持ちだけ受け取って辞退しました。
五十嵐様: 取引先へは谷口社長と新たに採用した営業部長と一緒に訪問し、譲渡の理由や新社長の紹介をしました。「名前も事務所の所在地も変わりません。私だけが抜けるんです」と説明すると、みなさんスムーズに受け入れてもらえました。谷口社長のやり方にあまり干渉したくないとの思いから、引退後は必要以上に顔を出さないようにしています。社名も変わらず、社員もそのまま残っての新たなスタートです。ますます発展してもらいたいと願っています。
経営者は決断し、実行するのが仕事
五十嵐様: 個人ではベースとなる情報も知識もないので、仲介業者を入れなければM&Aはできなかったと思います。なぜなら、売り手と買い手でそれぞれ真逆の思惑があるからです。売り手としては少しでも高く売りたい、買い手としては少しでも安く買いたいと考えます。その中で双方の希望を聞きながら合理的な譲渡価格を出していただく第三者が必要だと感じました。 また、譲渡が成立しても、その後のトラブルを避けるためにも契約書の内容についてアドバイスいただける存在が必要です。日本M&Aセンターは、基本合意契約、株式譲渡契約と、その時々の契約がしっかりしているので安心して話を進めることができました。
後継者がしっかりいて、事業も順調に発展しているという会社は少ないのではないでしょうか。会社の業績に相続の問題と、常に心配が尽きないのが経営者です。そうした中で一緒に汗を流してきた社員と離れ、会社を手放すことは容易な決断ではありません。私も、創業経営者として未練や寂しさがなかったかといえばうそになります。しかし、経営者は決断し、実行するのが仕事です。会社にとって、従業員にとって、お客さんにとって何が一番かを考えてベストな選択をしたと思っています。
沖縄県で防水工事業を手がけるヤマト防水工業は、10年後の譲渡を見据え準備を始めたところ、想定より早くにお相手が見つかりました。その経緯やM&A後について伺いました。
北海道全域で道路の舗装工事を行う道路建設は、当初掲げていた条件とは異なる企業を譲り受けます。M&Aから1年たった今、決断の背景と現在の状況を伺いました。
自前でPMIに取り組む難しさを痛感して日本PMIコンサルティングのPMI支援サービスを利用。ご自身の経験からPMIの難しさと効果について伺いました。
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コンサルタント戦略営業部 徳山 準 (株式会社イガラシ工事測量様担当)
イガラシ工事測量様は売上規模こそ比較的小規模ながら、独自の技術力を持つ非常に魅力ある企業です。本件は建設業界の中でも全く分野の違うお相手とのご成約となっており、こういったお相手探しができることが弊社にご依頼いただく魅力の一つになるのではと考えています。今後のご両社の更なる発展を心より祈念しております。