[M&A事例]Vol.148 会社を成長させるため譲渡を決断。社長を継続し経営パートナーを得る
東北鈴木の2代目社長は、事業拡大を目指すものの方向性に悩んでいました。解決する手段の選択肢としてM&Aを考え、2024年3月に県外の会社に譲渡を行いました。
譲渡企業情報
有限会社クワイスは、愛知県名古屋市を拠点とし、測量と施工監理技術者の派遣を事業の柱にする会社です。30年続く実績と信頼で順調に経営していましたが、会社を牽引してきた創業者の清水佐知郎社長が進行性の病気にかかったことで、事業承継の課題と向き合うことに。身体を動かすことが難しい清水社長と共にM&Aを進めることになった、従業員の梅田京子様と土屋豊行様にお話を聞きました。(取材日:2023年6月5日)
――社名の「クワイス」にはどんな由来がありますか。
譲渡企業 クワイス 土屋様: 清水 佐知郎社長がまだ測量会社でアルバイトをしていた時に、仕事でサウジアラビアに行って出会ったアラビア語で「良い、順調、健康(英語ではgood)」という意味です。ご縁ある皆さまが永遠に順調で健康でありますように、との願いを込めて名付けたそうです。 当社は1994年の設立以来、名古屋市を拠点に各種測量、調査をしてきました。測量は幅が広く、公共工事や構造物を建てる際、災害調査などさまざまな現場で必要とされますので、経験の数がそのまま信用につながります。当社は設立以来、清水社長がトップ営業として取引先を開拓しながら地道に経営をしてきました。
梅田様: 清水社長は人の縁を大切にしていて、いただいた仕事には何としても応えたいと損をしてでも引き受けてしまうような方です。もう一つの事業の柱である施工監理技術者の派遣業もお客様の要望を受けて始めましたが、みんなで試行錯誤しながら経験を積む中で当社の強みにまで成長しました。現在は測量士5名、施工管理技士8名が在籍し、協力先として一級建築士や電気工事士のネットワークを持ちながら、「お客様のかゆいところまで手が届くサービスを提供する」をモットーに頑張っています。
――お二人はいつクワイスに入社されましたか。
梅田様: 設立時の募集で事務員として入社しました。途中、10年ほど結婚・子育てで離れましたが戻ってきて今に至ります。 清水社長は見た目と違ってとても優しいんです。「社員の幸せが一番だ」といつも話していました。一方で、言い出したら聞かないところもあって、無理難題を言われて困り果てることも多々ありました。そうして経験させてもらったことが自信につながっています。
土屋様: 清水社長との出会いは、今から20数年ほど前になります。当時、私は別の測量会社に勤務していて、忙しい時に互いに協力し合う会社として、某ゼネコンの所長の紹介で知り合いました。 その後、2004年頃にその会社を退職。個人事業としてコンサルタント会社から依頼を受けて各インフラ・防災等の調査をしたり、クワイスや地元の友人が経営する土地家屋調査士事務所などで測量人員が必要な時に調査・測量を請け負ったりしていました。
2017年7月頃に清水社長より、「クワイスの業務に測量以外の調査業務を加えて新規の取引先を増やしていきたいので応援してほしい」と相談を受けて、同年10月にクワイスに入社しました。以降、コンサルタント会社からの依頼で測量、各調査・点検等の業務をクワイスで行うようになり、現在に至っています。
――M&Aの決断もご病気がきっかけですか。
梅田様: 社長は進行性の病気を発症したのですが、後継者がいませんでした。
土屋様: 病状が悪化していく中、何度か「今後、会社をどうしていくつもりですか?」と尋ねましたが、自分は120歳まで頑張ると言うばかりでしたね。
梅田様: 病状が徐々に悪化していくのを見ながら、私たちも今後のことを心配してしつこく聞いていましたので、後継者候補に社員や取引先の方の名前をあげることもありましたが、本人に伝えるまでには至りませんでした。そうしているうちにいよいよ身体を動かすことも難しくなってきたので、顧問税理士の方から何度か提案のあったM&Aを検討しようと思い、日本M&Aセンターを紹介いただきました。2022年9月のことです。 顧問税理士は設立からずっとお世話になっている方で、経営について身近に相談できる心強い存在です。M&A仲介会社はたくさんありますが、信頼できる税理士さんの紹介ということで日本M&Aセンターに決めました。
――検討段階から従業員である梅田様、土屋様が携わられたと伺いました。
梅田様: 社長からM&Aをすると決めたと聞いたときには正直、安心しました。こんな状況で社長が倒れたら会社はどうなってしまうだろうとずっと考えていましたから。 今度はどんな相手企業と一緒になるのかと不安になりましたが、担当コンサルタントの方から「納得できるお相手が見つかるまで何社でも会えますよ」と言っていただいたので少し安心できました。 社長も安心したのか、日本M&Aセンターの方とお会いした翌日に転倒してそのまま施設に入所したんです。「もうやるしかない」と覚悟が決まり、それからは電話や施設に行って確認をとりながら私たちで主導して進めていきました。
――同業種のほか、事業の親和性が感じられる企業9社から手が挙がり、希望条件に近い3社に絞ってトップ面談をされました。守成建設を選ばれた決め手は何ですか。
梅田様: 田中 守社長、涼介専務、宏季常務とお会いしましたが、皆さん非常に明るくて話しやすかったです。説明から、従業員を大切にしてみえるなと思いました。従業員の平均年齢の低さにも驚きましたね。クワイスという社名が残る点も魅力に感じましたし、働き方が変わらないと言っていただけたのも大きかったです。
土屋様: 土木工事だけでなく太陽光発電など将来性のある事業にも挑戦されていますし、後継者としてご子息2人が専務、常務として入られていて、堅実に経営している印象を受けました。「上下関係ではなく、対等な立場で協力し合っていきたい」とおっしゃっていたのが好印象でした。異業種のほうが両社のいいところを活かして、足りない部分は補い合えますし、顧客が違うので仕事に広がりも出るだろうと思いました。
梅田様: 社長も田中社長とタイプが似ていると感じたそうで、トップ面談後すぐに守成建設に決まりました。面談から1週間ほどで基本合意契約を結び、その1カ月後には成約式を行いました。
――M&Aを振り返っていかがですか。
土屋様: とにかくほっとしました。検討中はほかの従業員はおろか誰にも言ってはいけなかったので、それが一番つらかったですね。とても神経を使って3キロくらい痩せました。
梅田様: 社長も安心したのか成約式の日は特別元気でした。当日は感謝の気持ちを手紙に託して読みました。M&Aという決断をしてくれた社長には、「長い間お疲れ様でした。本当にありがとうございました」という気持ちです。
土屋様: 私も社長に対しては「ご苦労さん」のひと言に尽きます。一人で会社を立ち上げて30年も維持するのは並大抵のことではありません。経済成長期のいい時代でもありましたが、これから経営環境が厳しくなるなかで今回、守成建設と一緒になれたことは良かったと思います。
――従業員にはどう開示されましたか。
梅田様: 派遣部門は現場に直行することが多く、なかなか全員が揃うことがないのでメールでの報告になりましたが、とても緊張しました。守成建設からはM&Aの経緯と業務については今後も何も変わらないこと、給与体系の見直しなど福利厚生の改善に取り組むことなどをお伝えいただきました。 私からは、あらためて社長の病状を伝えました。コロナ禍もあり社長の病状をほとんど知らない従業員もいましたが、特に動揺もなく辞める人も出なかったのでほっとしています。
――成約から4カ月ほどが経ちました。
梅田様: 田中社長の奥様がクワイスの社長に就任されました。業務の面ではM&A後も特に変化はありません。 仕事では早速、守成建設からの発注をいただきました。従業員にお伝えいただいた通り給与を上げていただき、資格手当の制度もできました。トイレの改装も予定していて、守成建設さんがクワイスの従業員のことを考えてくれていてありがたく思っています。 測量士の採用についても、これまでは募集をかけても集まらず苦戦していましたが、田中常務が測量設計課の出身ということあり、人脈も活かしながら新卒採用に力を入れてくださっています。新しい人が入ったらまた会社の雰囲気も変わるだろうと期待しています。
――清水社長もM&Aを最後まで見届けることができたんですね。
土屋様: 少しでもスケジュールが遅れていたら契約の手続きが何もできなくなっていたでしょうね。
梅田様: 清水社長も成約を見届けることができ、本当にギリギリのタイミングでM&Aできたと思います。
東北鈴木の2代目社長は、事業拡大を目指すものの方向性に悩んでいました。解決する手段の選択肢としてM&Aを考え、2024年3月に県外の会社に譲渡を行いました。
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コンサルタント戦略営業部 中部 シニアチーフ 古市 光 (有限会社クワイス担当)
清水社長の健康上の理由で、受託当初から従業員である梅田様と土屋様にお力添えいただくという非常に珍しいケースでした。 クワイスには私の父が顧問税理士事務所の担当職員として 30 年以上関与しており、本件のご成約に携われたことを親子としても非常に光栄に感じております。