[M&A事例]Vol.143 静岡で有名なお弁当チェーン「どんどん」が投資会社の支援を受け取り組む新たな挑戦
東京都で中小企業投資・経営支援事業などを行うunlock.ly(アンロックリー)の三島 徹平社長に、M&Aの経緯とハンズオン支援のポイントを伺いました。
譲渡企業情報
譲受け企業情報
※M&A実行当時の情報
高齢者住宅・福祉施設の企画・設計・コンサルティングを手掛けるシスケアグループ(現:株式会社シスケア)は、2014年10月に高齢者福祉・子育て支援事業に積極的に取り組む株式会社学研ココファンホールディングス(現:株式会社学研ココファン)に全株式を譲渡しました。M&Aしてから8年半が経ち、シスケアグループの太田裕之前代表は今、新たなビジネスにチャレンジしています。M&A後から現在の歩みを伺いました。
――M&Aを決意された経緯をお聞かせください。
譲渡企業 シスケアグループ 太田様: M&Aを考え始めたのは50歳を過ぎたあたりです。シスケアグループは建築設計事務所のエス・ピー・エーと、その子会社で高齢者住宅・福祉施設の開設支援やマーケティング事業を手掛けるシスケアからなっていますが、コア業務の設計は学歴で受験資格が問われる非常に専門性の高い職業です。私には息子がいますが、彼は建築の道に進まなかったので親族後継者がいませんでした。 社員承継も考えましたが、それは難しいだろうと思いました。私もそうでしたが設計士は職人ですから、一定期間設計事務所で経験を積むと、実力のある人は独立できます。創業者親族が所有している会社の経営責任を負ったり、株式を相応の額で譲り受けるより、自由で新しい自らの事務所に魅力を感じるのも無理はありません。才能のある設計士は組織設計の社長より収入もありますから。 とは言え、徒弟制度のような低収入・長時間労働で、独立することが唯一の出口であるような組織ではノウハウの蓄積や組織の発展もないと考えてきましたので、代表のリタイアが実質組織の終焉になるという、よくあるパターンに陥りたくはありませんでした。それで、M&Aという選択肢にたどり着きました。
ただ、M&Aに不安がなかったかと言えば、嘘になります。M&A後に会社がどうなるかはわからないからです。譲受け先から新しい社長がきて、会社がいいように使われてしまうのではないか、そうしたら会社はどうなってしまうのか……。その不安は、正直なところM&A実行時にもまだ拭いきれてはいませんでした。
――しかしながら、マッチング開始からわずか3カ月での成約となりました。
太田様: そうなんです。最初は希望する相手企業のイメージもありませんでした。日本M&Aセンターからは建設メーカーやハウスメーカーなど建設業界の会社を提案されました。大手の家電メーカーからは介護業界に進出しようと考えているのでその一員に加わってくれないかという話もありました。そうした提案企業とTOP面談をしてみると、中には「この会社が欲しいのは会社じゃなくてスタッフなんだろうな」と感じる企業もありました。それはちょっと残念だなと思いましたね。そこで、シスケアグループを独立した組織として大事にしてくれるところとM&Aしようという考えに至りました。そして出会ったのが学研ココファンだったんです。
――学研ココファンの印象はいかがでしたか。
太田様: TOP面談で小早川仁社長にお会いして、組織として大事にしたいとはっきりおっしゃっていただいたことと、学研という会社自身がそうした価値観をもっていたので自分の希望に合致していると思いました。それに、学研ココファンの領域は介護です。高齢者住宅という点では一緒でしたが、業務内容はまったく異なります。領域が重ならないことで、M&A後も独立した組織として残っていけるだろうとの期待が持てました。
――最終契約締結後のディスクロージャー(社員や取引先への情報開示)ではどんな反応でしたか。
太田様: 小早川社長がシスケアに来て、今回のM&Aについて直接社員に説明してくれました。突然のことに多くの社員は唖然としていましたが、ウェルカムビデオを上映してくれるなど、非常にあたたかい雰囲気が伝わってきました。社員もネガティブな印象は持たなかったようです。小早川社長の説明を聞いて、とりあえず自分たちの仕事は変わらないと理解してくれました。
――M&A後も6年間社長を継続されましたね。
太田様: はい。M&Aをしたあと会社は大きく変わり、成長を遂げることができました。ただ、最初はそれなりに苦労もありました。一つは業務内容についてです。そもそもシスケアが手掛けてきた案件と、学研ココファンから期待されるものが違ったのです。これまで手掛けてきたスケールよりかなり大型の施設や街づくりを手掛けていきたいとの方針があり、その客先を見つけてくるところから取り組まなければなりませんでした。建築設計というのは、実績を見て依頼するかどうかを判断されます。実績を示せない中での営業活動は大変でした。幸い、学研ココファンから当初1件、大きなプロジェクトを任せてもらっていたので、その竣工後は実績を提示することが可能になり、受注・業績が安定するようになりました。
もう一つ苦労したのは文化の違いです。介護の世界は人を相手にしますから、安全が最優先で事故は許されません。厳しいガバナンスも求められます。一方、設計の世界は柔軟な発想でよりよいものを作り出すことが重要なので、どちらかというともっと自由なんです。最初は安定して施設を増やしていきたい学研ココファンとは少々文化の異なるシスケアの社員の中で反発が起きました。シスケアの住所を学研グループ本社に移すという案もありましたが、そこは私の判断でお断りしました。そうして双方の文化の違いを守ったことで、やがてシナジー効果が出てくるとシスケアの社員たちも、親会社があるから安定した仕事が受注できるのだと納得してくれて、それからは上手く回るようになりました。
――太田社長は2020年6月に都市緑地株式会社を設立されましたが、退任のタイミングは以前から決めていたのですか。
太田様: はい。2014年10月に譲渡したのですが、実はその時に読んだ学研ホールディングス(学研ココファンの親会社)の内規に、「62歳の誕生日を迎えた次の株主総会で退任」とありました。後にM&Aの会社は例外と知ったのですが、準備していたこともあり予定通りのタイミングで退任させていただきました。
――新たな事業のアイデアを考え始めたのはいつ頃ですか。
太田様: 退任する2年前くらいでしょうか。日本ユニシス(現BIPROGY)から木材を使った地方創生プロジェクトの相談を受けたんです。シスケアでは国土交通省からの高齢者居住安定モデル事業認定の延長で木造の介護施設のシリーズを手掛けていて、木造施設の優位性についてセミナーをしていました。ある時セミナーに関係者の方が参加されていて、そのプロジェクトの話を聞いた時、ケアファームとの親和性に気づきました。
ケアファームはヨーロッパが発祥で、農園に福祉施設を併設したものです。各国の制度と風土により特徴は異なりますが、障がい者や高齢者に生きがいを提供しています。日本には菜園付きの老人ホームはありますが、単なる土いじりのための菜園で、ケアファームと呼べるものはまだありません。そこで、日本の企業によるESG投資への機会や日本の福祉制度にマッチした「日本型ケアファーム」を社会に提案しようと、都市緑地株式会社を設立しました。2022年8月には新潟で第1号がオープン予定で、学研ココファンに運営をお引き受けいただいております。
――学研ココファンとのつながりが新しいビジネスの場でも生かされているのですね。
太田様: そうなんです。今年度(2022年度)は3棟のケアファームの計画を予定しています。 私はこの事業を、「福祉は儲からない」という現状に一石を投じるものにしたいと思っています。日本型ケアファームを収益性の高い事業にすることで、高齢者住宅と障がい者雇用、都市緑地と農地の問題を同時に解決して、生きがいのある生活を支援したいのです。 35年経営してきた会社を譲渡して新たなビジネスをスタートさせたからには、社員に加わる若い人たちも生きがいと目的を持てるような会社にしたいですね。そのためにも新しいことをどんどん取り入れていきたいと思います。
――最後に、ご自身の体験を踏まえて、譲渡をお考えの方へメッセージをお願い致します。
太田様: 私は、M&Aしたことで上場企業の運営の仕方やガバナンスを知ることができました。会社の企業価値を上げるためには何をしなければいけないのか、何をしてはいけないのか、非常に勉強になりました。 それから、世界が広がりました。今、いろいろな方にお会いできるチャンスや事業機会に恵まれているのは、やはりM&Aの結果なんです。今、新しいビジネスに挑戦できているのも、この歳になってワクワクした日々が過ごせているのもM&Aのおかげだと思いますし、学研グループにはとても感謝しています。
こちらのM&A成功事例インタビューは動画でもご覧いただけます。
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金融提携事業部 部長 森山 隆一 (シスケアグループ様担当)
2014年にお手伝いをさせていただきました。2022年に久しぶりにお会いしましたが、当時と変わらない熱いビジョンと志をお持ちで、8年経過したとは思えないほどでした。M&Aによってシスケアグループはさらに発展し、今、太田社長は次のビジョン実現に向かって走り出されています。ご縁をいただいた者として、これからも応援し続けて参ります。