調剤薬局業界のM&Aと事業承継の動向・案件情報2025年最新版

調剤薬局業界のM&A

調剤薬局業界では、未来の薬局の役割を見据え、機能の拡充を図るためにM&Aで他社と組むという戦略をとる経営者が増えています。急速に進む少子高齢化による医療・介護等の社会保障制度の見直し、医療費の抑制、急速に進むデジタル化と、薬局経営は難しい局面を迎えています。M&Aは、様々な問題に直面する薬局経営の一助となりうる戦略の一つです。本記事では、調剤薬局業界のM&Aの動向や具体的な成約事例、最新のセミナーなどをご紹介します。

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調剤薬局業界の概要とM&A動向

調剤薬局業界とは、医療機関の処方に基づいて医療用医薬品を販売する事業者の業界です。
処方箋通りに薬を販売するだけでなく、薬の飲み方や回数などの服薬指導を行います。また、一般医薬品を取り扱う薬局も多く、予防医療への対応や生活面のアドバイスなど、幅広いサービスが求められています。
2021年に公表された厚生労働省の最新データによれば、2021年度の調剤医療費は7.5兆円、全国の薬局数は6万店を超え、まだまだ小規模店舗が乱立している状態にあることがわかります。大手調剤薬局上位10社の売上をあわせても市場全体の2割に満たず、隣接のドラッグストア業界(6割)や医薬品卸業界(9割)などに比べると低寡占状態といえます。 大手調剤薬局グループによるM&Aが積極的に行われているものの、隣接業界のドラッグストア業界に比べれば、まだまだ中小規模の事業者が多く残る業界です。

2021年度は受診緩和により処方箋の受付枚数が回復し、業界全体で増収傾向が見られました。しかし、薬価の段階的な引き下げをはじめ、処方せん無しで購入できるOTC医薬品の販売の規制緩和により異業種との競合が生じるなど、外部環境は厳しい状況が続きました。
また、非対面のオンライン服薬指導などのニーズや、2023年1月から運用開始した電子処方箋など急速に調剤業務におけるデジタル活用が進んでいます。新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした影響は大きく、長期の受診控えによる処方せん枚数の減少、従業員の感染リスク対策、オンライン服薬指導の普及と医薬品受け取りニーズの多様化など、薬局経営者にとっては多くの課題を抱えた一年でした。
厳しい環境の中で、ひとつの医療機関への依存度が高いことがどれほどリスクであったのか、浮き彫りになったのではないでしょうか。加えて、急速に進む少子高齢化に伴って医療・介護など社会保障制度の見直しが進められ、政府による医療費の抑制は年々強化されています。このような厳しい環境に立ち向かうために、M&Aや新規投資等を積極的に進めてきた企業、薬局経営者も多数いらっしゃいます。
また、2020年から2021年にかけては、大手調剤の中には、M&Aや新規出店に慎重な姿勢を見せる企業が目立ちましたが、2022年以降、ポストコロナを視野に入れた動きがみられます。積極的に情報収集をして、自社の強み・弱みを事前に整理しておくことがM&Aの成功のために有効です。

調剤薬局業界をとりまく環境

市場・取引動向:調剤医療費・処方箋枚数の推移

調剤薬局業界の収益の源泉は、健康保険など公的医療保険制度に基づく調剤医療費です。調剤医療費とは、薬局での保険調剤に係る技術料や薬剤料などの合計であり、厚生労働省が公表する「調剤医療費の動向」や「医療費の動向」で把握されます。
厚生労働省「令和5年度 医療費の動向」によると、概算医療費全体は2019年度の43.6兆円から2023年度の47.3兆円へと増加し、4年間で約1.085倍になっています。同資料では診療種類別の伸び率も示されており、調剤分については2019?2023年度の平均伸び率が年1.8%とされています。
国民医療費統計では、2019年度の薬局調剤医療費は7兆8,411億円で、国民医療費全体の17.7%を占めています。その後、コロナ禍初期の2020年度には一時的な受診控えの影響で伸び率がマイナスとなりましたが、2021年度以降はプラス成長に戻り、2023年度までの平均で年1.8%程度の増加となっている点が特徴です。
健康保険組合連合会が公表した資料では、令和6年度の調剤医薬費が8兆4,008億円、前年度比1.6%増であり、処方箋1枚当たりの調剤医療費は9,372円(前年比0.3%増)とされています。2019年度の薬局調剤医療費7.8兆円と比較すると、名目ベースでは約5年間で7?8%程度の増加であり、医療費全体の伸びと方向性としては整合的な水準といえます。
一方、調剤医療費の内訳を見ると、技術料と薬剤料のバランスが変化しています。先の健保ニュースでは、調剤医薬費のうち技術料が全体の約28%を占めているとされ、残りは薬剤料など薬価由来の部分とされています。後発医薬品(ジェネリック)の普及や薬価改定の影響により薬剤料の伸びが抑制される一方で、在宅訪問や服薬指導などを通じた技術料の重要性が相対的に高まっていると解釈できます。
調剤枚数や1枚当たり単価も、医療費全体のトレンドと連動して推移しています。医療費の動向によれば、2023年度の概算医療費全体では受診延日数が前年比2.0%増、1日当たり医療費が0.8%増とされています。調剤分に限定した長期推移は別途「調剤医療費の動向」で把握する必要がありますが、全体の受診動向からみると、コロナ禍で一時的に減少した処方箋枚数が2022~2023年度にかけて回復基調にあると整理できます。
※「調剤医療費の動向」調査はレセプト電算処理分を対象としており、国民医療費統計における薬局調剤医療費とは集計対象や定義が一部異なります。そのため、両統計の金額水準は必ずしも一致しない点に留意が必要です。

M&A観点:
調剤医療費総額や診療種類別の伸び率は、対象薬局の将来キャッシュフローを評価するうえで不可欠な指標です。2019~2023年度の調剤分の平均伸び率が年1.8%と比較的穏やかな一方で、コロナ禍からの回復や高齢化の進展により、地域や店舗フォーマットによって伸び方が異なる可能性があります。買収検討時には、全国平均ではなく「対象エリアの処方箋枚数と単価のトレンド」「在宅・専門外来などの構成比」を個別に確認し、トップライン成長余地と報酬制度改定の影響度を織り込んだバリュエーションが求められます。
厚生労働省「令和5年度 医療費の動向」
厚生労働省「令和5年度の医療費の動向について」
厚生労働省「令和元(2019)年度 国民医療費の概況」
健康保険組合連合会「健保ニュース 2025年9月中旬号 調剤医薬費の状況」
e-Stat「『調剤医療費の動向』調査」

薬局フォーマット別・隣接市場との関係

調剤薬局には、病院・診療所の近隣に立地し処方箋の多くを特定医療機関から受け取る「門前薬局」、複数医療機関から広く処方箋を受け付ける「面分業型薬局」、ドラッグストア併設の調剤コーナーなど多様なフォーマットがあります。近年はドラッグストアの調剤併設店舗が増加しており、ドラッグストア市場の売上は2024年度に10兆0307億円に達し、前年度比9.0%増と報告されています。
OTC医薬品販売やセルフメディケーション税制の導入も、調剤薬局のポジションに影響を与えています。生活習慣病治療薬などの一部がスイッチOTCとして解禁され、軽症段階ではOTCで対応し、重症化リスクが高い場合に医療機関受診を促す流れが強まっています。これにより、処方箋ベースの調剤だけでなく、OTC・健康食品・検体測定室などを組み合わせた「かかりつけ機能の拡張」が中長期のテーマになりつつあります。
また、在宅医療・居宅療養管理指導やオンライン服薬指導の拡大により、在宅対応やICT活用に強みを持つ薬局の需要が増加しています。オンライン服薬指導や電子処方箋の本格稼働は、患者の利便性向上と同時に薬局選択の範囲を広げ、地域内競争の構造にも変化をもたらす可能性があります。

M&A観点:
門前型・面分業型・ドラッグストア併設・在宅特化など、フォーマットごとに収益構造とリスクプロファイルが異なります。買収サイドは、自社グループのポートフォリオの中で「どのフォーマットを伸ばすのか」「ドラッグストア併設や在宅対応など隣接領域とのシナジーをどこに求めるのか」を明確にしたうえで、ターゲット選定を行う必要があります。特に、OTCやセルフメディケーション関連サービスとの補完性は、調剤報酬に依存しない収益源の獲得という観点から、M&Aの重要な評価軸になります。
薬事日報「Dgsは地域に応じた対応が必要に」
厚生労働省「令和4年社会医療診療行為別統計の概況」

事業者・店舗・設備動向:薬局数・チェーン化の進展

薬局数は中長期的に増加傾向にあります。厚生労働省「衛生行政報告例」に基づく資料では、2024年3月末時点の薬局数が62,828施設と報告されており、令和5年度の薬局数は約6.3万とされています。2010年代半ばと比較すると増加ペースこそ鈍化しているものの、依然として高い水準にあります。
一方で、チェーン化も進展しています。厚生労働省の資料では、20店舗以上を経営する薬局法人の比率が年々上昇しており、令和5年度時点で全薬局の半数程度が複数店舗チェーンに属しているとされています。民間調査によれば、2022年12月時点の全国薬局総数60,951店舗のうち、大手調剤チェーン上位10社の店舗数は合計6,030店で、店舗数ベースのシェアは約10%とされています。
このように、薬局数自体は増加する一方で、小規模薬局が多数を占めつつも大手チェーンの寡占度も徐々に高まっている「多店舗・多層構造」が形成されています。設備面では、レセプトコンピュータ(レセコン)や電子薬歴、在庫管理システムなどのIT投資が必須となっており、オンライン資格確認端末や電子処方箋対応システムの導入が進んでいます。これらの初期投資・維持コストは、単独経営の小規模薬局にとって相対的に負担が大きくなりがちです。

※薬局数の統計は、薬機法上の薬局としての届出を基準としており、保険薬局か否か、調剤機能の有無等を必ずしも区別していない場合があります。また、ドラッグストアに併設された調剤室を1薬局としてカウントするかなど、統計によって集計単位が異なる点にも留意が必要です。

M&A観点:
薬局数の増加とチェーン化の進展は、今後もM&Aによる再編余地が大きいことを示しています。大手チェーンのシェアはまだ1割程度にとどまっており、地域密着型の中小薬局が多数残存していることから、地域ドミナント戦略や在宅・専門領域に強みを持つ薬局の取り込みを通じたスケールメリットの追求が可能です。ただし、IT投資や人件費上昇を踏まえると、単純な店舗数拡大ではなく、1店舗当たりの処方箋枚数・在宅件数・単位面積当たり収益など、生産性KPIを重視した選別的なM&Aが重要になります。
厚生労働省「衛生行政報告例 薬局数・無薬局町村数・登録販売者数,都道府県別」
厚生労働省「健康サポート薬局の状況等」
メディカルリソース「大手調剤薬局の売上と店舗数ランキング!【2022年12月時点】」

需要側ファクター:人口動態・高齢化・疾病構造

調剤需要を規定する最大の要因は、人口構造と高齢化です。総務省統計局「人口推計」によると、2024年10月1日現在の日本の総人口は1億2,380万2千人で、前年同月比で約54万人(0.44%)減少しています。一方で、65歳以上人口は増加しており、とくに75歳以上の後期高齢者人口の比率が高まっています。
医療費の面では、高齢者医療費の比重が大きくなっています。医療費の動向に関する最新の解説では、2023年度の概算医療費のうち、75歳以上後期高齢者医療費が39.8%を占めているとの分析が示されています。高齢者医療費は1人当たり医療費が高く、複数の慢性疾患を抱えるケースが多いことから、長期にわたる多剤併用(ポリファーマシー)管理や在宅医療との連携など、調剤薬局の業務負荷を高める方向に働いています。
生活習慣病(高血圧症、糖尿病、脂質異常症など)の患者数は引き続き高水準で推移しており、これらの慢性疾患は定期的・長期的な処方箋発行を伴うため、調剤枚数に直結します。社会医療診療行為別統計によれば、高血圧症や糖尿病に関連する診療行為・薬剤の算定件数は2020年以降も一定の増加傾向にあり、コロナ禍における受診抑制の反動や慢性疾患管理の重要性の高まりが反映されています。
オンライン診療・オンライン服薬指導・電子処方箋の普及も、需要側の行動変化として重要です。2022年以降、特例的なオンライン診療ルールが段階的に見直されつつも、慢性疾患の継続処方などでオンライン診療を活用するケースは一定数存在し、電子処方箋・オンライン服薬指導と組み合わせることで、患者が自宅から薬局サービスを受ける環境が整いつつあります。これにより、地域をまたいだ薬局選択が行われる可能性が高まり、都市部では競争環境が一段と厳しくなる一方で、地方では在宅・訪問提供体制を持つ薬局へのニーズが高まると見込まれます。

M&A観点:
人口減少と高齢化の進展は、地域ごとに処方箋枚数の伸びが大きく異なる状況を生みます。高齢化が進んだ地域では1人当たりの調剤需要は高いものの、総人口減少により中長期的には処方箋枚数の頭打ちも想定されます。M&Aでは、「高齢化率」「後期高齢者比率」「生活習慣病の有病率」「在宅医療の普及度」といった指標を重ね合わせ、地域ごとの需要構造を定量的に把握したうえで、出店・統廃合・在宅強化の組み合わせを検討することが有効です。
総務省統計局「人口推計(2024年(令和6年)10月1日現在)結果の要約」
総務省統計局「人口推計」長期時系列データ(e-Stat)
ウィスマン「【医療業界動向コラム】第107回 令和5年度の医療費の動向」
厚生労働省「令和4年社会医療診療行為別統計の概況」

制度・規制・DX:薬機法・診療報酬・電子化

調剤薬局業界は、医薬品医療機器等法(薬機法)、薬剤師法、医療法、健康保険法、介護保険法など多くの法令・制度の下で運営されています。薬機法は、医薬品の品質・有効性・安全性確保に関する基本法であり、薬局の許可要件や管理薬剤師の配置、調剤・販売に関するルールを定めています。薬剤師法は、薬剤師の資格要件や業務範囲(調剤、情報提供、薬学的管理など)を規定しており、薬剤師による疑義照会や薬歴管理が法的義務として位置付けられています。
診療報酬制度面では、調剤基本料、地域支援体制加算、かかりつけ薬剤師指導料、服薬情報等提供料など、多数の点数項目が調剤薬局の収益構造を左右します。地域支援体制加算は、在宅対応や24時間対応、複数医療機関との連携など一定の要件を満たす薬局に加算を認める仕組みであり、地域医療を支える薬局機能へのインセンティブとなっています。かかりつけ薬剤師制度は、継続的な服薬管理や重複投薬・相互作用のチェックを行う薬剤師を患者が選択し、追加の指導料を算定できる制度です。
2024年6月の診療報酬改定では、初診料・再診料の引き上げが行われた一方で、「生活習慣病を中心とした管理料・処方箋料等の効率化・適正化」として、処方箋料等が0.25%引き下げられるなど、全体としてはマイナス改定との評価も出ています。このような報酬改定は、調剤薬局にも間接的・直接的な影響を及ぼし、特に処方箋料依存度が高い薬局では利益率圧迫要因となり得ます。
DXの観点では、オンライン資格確認、電子処方箋、電子薬歴、レセプトオンライン請求、在庫管理システムなどの導入が急速に進んでいます。厚生労働省は医療DXの推進として、マイナ保険証の普及や電子カルテ情報の標準化等を掲げており、薬局にはオンライン資格確認端末やレセコン・薬歴システムの改修といった投資が求められます。電子処方箋の利用拡大は、処方情報の共有・重複投薬チェックの高度化とともに、患者の薬局選択の自由度を高める要因にもなります。
個人情報保護や医療情報ガイドラインへの対応も重要です。医療情報は要配慮個人情報に該当するため、薬局は医療情報システムの安全管理ガイドラインや個人情報保護法を踏まえた適切な管理体制を整備する必要があります。PHR(Personal Health Record)や地域医療連携ネットワークへの参加が進むほど、情報管理とセキュリティ対策の重要性は増します。

M&A観点:
制度・報酬・DX投資は、規模の小さな薬局ほど「1店舗当たり負担」が重くなります。医療DX対応のための初期投資やセキュリティ強化、複雑化する加算要件への対応には、専門人材とシステム運用ノウハウが必要であり、中小薬局が単独で対応することには限界があります。M&Aを通じて、大手・中堅チェーンのノウハウとシステムを取り込むことにより、規制対応やDX投資負担を分散できる点は、売り手・買い手双方にとって合理的な動機になり得ます。
保険医協会「物価高騰の緊急影響調査 24年度改定 深刻な減収・経費増」

サプライチェーン・ロジスティクス:ジェネリック供給不安と在庫管理

近年の調剤薬局業界にとって大きな課題となっているのが、後発医薬品(ジェネリック)を中心とした医薬品供給不安です。2019年のセファゾリン欠品や、2020年末から2021年初頭にかけて明らかになった一部後発医薬品メーカーの不正製造問題を契機に、複数の製薬企業で製造停止や出荷調整が相次ぎました。
その後も、製造能力や規制対応の制約などから供給不安が続き、ある調査では医療用医薬品全体の約14%が出荷停止または限定出荷の状態にあると報告されています。この状況は、調剤薬局における欠品リスクと在庫回転率の管理を難しくし、医薬品在庫の積み増しや代替薬探索に伴う業務負荷の増加を招いています。
医薬品卸売業者は、製薬企業と医療機関・薬局を結ぶ中間流通として、物流・在庫・情報・金融の4機能を担っています。近年の供給不足や自然災害・パンデミック時には安定供給確保の役割が一段と重くなっており、薬局としては単独での在庫最適化には限界があります。複数店舗間の在庫融通や卸との情報連携を通じた需給マネジメントの重要性が高まっています。
コールドチェーンや危険物管理、リコール対応など、GMP(医薬品の製造管理及び品質管理基準)、GDP(医薬品の適正流通基準)、GQP/GVP(製造販売後の品質・安全管理基準)と整合的なサプライチェーン運用も求められています。特に、バイオ医薬品や温度管理が厳格な製剤では、保冷設備や温度管理記録など、設備投資と運用体制が重要な評価ポイントになります。

M&A観点:
ジェネリック供給不安や在庫管理高度化の要請は、サプライチェーンの共同化・統合化によるスケールメリットを強く意識させる要因です。複数薬局の在庫データ統合や卸との情報連携システムを一元化することで、欠品リスク低減と在庫回転率向上の両立が期待できます。M&Aでは、「共同購買力」「在庫統合」「IT・データ基盤」の3点がシナジー試算の重要な評価軸になります。
日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会ニュース「医薬品不正製造防止について」
沢井製薬グループ 統合報告書記事「市場拡大が見込まれるジェネリック医薬品の安定供給に向けた取り組み」
日本医薬品卸業連合会「医薬品卸を取り巻く環境変化と対応」

人材:薬剤師需給・賃金・スキル

調剤薬局業界の最大の経営資源は人材、とくに薬剤師です。厚生労働省「薬剤師調査」によると、2022年12月31日現在の全国の届出薬剤師数は323,690人で、人口10万対薬剤師数は259.1人となっています。前回調査からの増加率は0.5%と増加ペースは鈍化しつつも、長期的には増加傾向が続いています。
同調査では、薬局に従事する薬剤師が190,735人で、全体の58.9%を占めるとされています。民間の解説では、薬局従事薬剤師の内訳として開設者・管理者・勤務者などの役割別構成や、医療施設・介護施設等に従事する薬剤師数が紹介されており、薬局と病院・診療所・介護施設の間で薬剤師人材の獲得競争が存在する状況が整理されています。
地域別にみると、都市部では薬剤師の絶対数は多いものの、ドラッグストアや病院、企業など他業種との人材争奪戦が激しく、人件費水準も相対的に高くなりがちです。一方、地方部では薬剤師の偏在により採用難・欠員リスクが高く、1人当たりの業務負荷も大きくなりやすい傾向があります。
日本薬剤師会が2025年に公表した薬局経営実態調査では、物価高と賃上げの影響により9割の薬局で経営上の負担が増加し、約7割の薬局が経営状況の悪化を、約8割が今後1年の経営見通し悪化を懸念していると報告されています。人件費は調剤薬局のコスト構造の中でも比率が高く、人材確保と賃上げ対応は今後も収益性の圧迫要因になり得ます。

M&A観点:
薬剤師の採用・定着・配置最適化は、調剤薬局M&Aの成否を左右する核心領域です。買収側は、対象薬局の薬剤師年齢構成・資格(在宅認定・専門薬剤師等)・定着率・地域における採用難度を詳細に確認する必要があります。PMIでは、「店舗間の人員再配置」「評価・報酬制度の統合」「教育・研修プログラムの共通化」を通じて、人材ポートフォリオを最適化しつつ、エンゲージメント低下による離職リスクを抑えることが重要です。
厚生労働省「令和4年 医師・歯科医師・薬剤師調査 3 薬剤師」
ヤクヨミ「薬剤師の人数は?推移グラフや都道府県別・施設別のデータを解説」
日本薬剤師会「薬局の経営状況等について」

ガバナンス・コンプライアンス・広告規制

調剤薬局は、専門職である薬剤師が患者の治療に関わる医療提供施設であると同時に、医薬品販売業として多様な規制の下に置かれています。薬剤師は薬剤師法に基づき、処方内容に疑義があれば医師に照会し、必要に応じて処方変更を提案する「疑義照会」を行う義務を負っています。また、薬歴管理・服薬指導・情報提供義務なども、法令・診療報酬上の要件として明確に定められています。
広告・表示については、薬機法や景品表示法、業界の自主基準が適用されます。処方箋医薬品や調剤サービスに関する広告は、患者の受診行動や医療機関との関係性に影響するため、過度な誘引や誤解を招く表現が禁止されています。ドラッグストア併設薬局では、OTC医薬品や健康食品・化粧品等のプロモーションと、保険調剤の中立性をどのように両立させるかがガバナンス上の課題となります。
レセプト請求の適正性や不正請求防止も重要なコンプライアンス領域です。診療報酬・調剤報酬は公的財源により賄われているため、算定要件を満たさない加算請求や架空請求は重大な違反となり、行政処分や指定取り消しにつながり得ます。内部監査や外部専門家によるチェック体制の整備、レセプト点検のルール化は、M&A後も含めた必須のガバナンス要件です。
情報セキュリティ面では、医療情報システムの安全管理ガイドラインや個人情報保護委員会の指針等を踏まえたアクセス権限管理・ログ管理・インシデント対応体制の整備が求められます。特に、クラウド型レセコン・薬歴システムやPHR・他院連携システムとの接続を行う場合、システム間連携のセキュリティ評価も重要になります。

M&A観点:
調剤薬局のガバナンス・コンプライアンスは、デューデリジェンスの主要テーマです。買収前には、レセプト請求のサンプルレビュー、薬歴・疑義照会記録の運用状況、広告・キャンペーン施策の適法性、個人情報保護体制などを精査する必要があります。PMIフェーズでは、グループとしてのコンプライアンスポリシー・マニュアル・教育体系を統一しつつ、現場負荷に配慮した実務レベルの運用ルールを設計することが、M&A後のリスク低減に直結します。

M&Aリレーション:再編の潮流とプレイヤー構造

調剤薬局業界では、大手調剤チェーン・ドラッグストア・病院グループなど、多様なプレイヤーによるM&Aが継続的に行われています。大手調剤チェーンは、全国展開や地域ドミナント強化を目的として、数十〜数百店舗規模の買収を通じた拠点拡大を進めています。ドラッグストアは、調剤併設店舗比率の引き上げを通じて処方箋需要を取り込み、ワンストップショッピングの利便性向上と医薬品販売の収益基盤強化を図っています。
一方、地域の病院グループや医療法人が、在宅医療や地域包括ケアの一環として在宅対応力の高い調剤薬局を買収・提携するケースも見られます。地域包括ケアシステムの文脈では、在宅医療・訪問看護・介護施設・居宅介護支援事業所などとの連携体制に調剤薬局が組み込まれることが想定されており、「地域医療・介護ネットワーク」の一要素としての薬局M&Aの重要性が増しています。
中小薬局側では、オーナー薬剤師の高齢化と後継者不在が大きなテーマです。後継者難により廃業・承継ニーズが増加しており、地域の医療提供体制を維持する観点からも、M&Aを通じた事業承継が重要な選択肢になっています。帝国データバンク等の倒産・廃業統計でも、全産業において小規模事業者の倒産・休廃業が増加傾向にあるとされており、金融環境や人手不足が構造的な背景にあると指摘されています。

M&A観点:
調剤薬局M&Aのプレイヤー構造は、「スケールメリットの追求」「地域ドミナント化」「在宅・専門性・DXなど機能補完」の3軸で整理できます。買収サイドは、自社の戦略がどの軸にあるのかを明確にし、対象薬局の立地・処方元構成・在宅比率・ITレベル・人材ポートフォリオ等を踏まえたうえで、案件の戦略適合性を評価することが重要です。
帝国データバンク「倒産集計 2024年度報(2024年4月~2025年3月)」

調剤薬局業界の今後の課題と展望

今後3〜5年の前提と予測

今後3〜5年(おおむね2025〜2030年)にかけて、調剤薬局業界は「人口減少・高齢化」「診療報酬・薬価の抑制」「人件費・物流費などコストの上昇」「医療DX・サプライチェーン改革」といった複数の環境変化に同時対応することが求められます。
ベースシナリオとしては、調剤医療費全体が年率1〜2%程度で穏やかに増加しつつ、薬局数はほぼ横ばい〜微減、1店舗当たり調剤医療費は年率0〜1%程度の増加にとどまる一方で、人件費単価は年率2〜3%程度で上昇する構図が想定されます。その結果、EBITDAマージンは、コスト削減・DX活用・スケールメリットを活かせる企業とそうでない企業の間で二極化していく可能性があります。
上振れシナリオでは、在宅医療・地域包括ケアの進展や、ポリファーマシー対策・服薬アドヒアランス向上など薬局機能への評価が高まり、かかりつけ薬剤師・地域連携薬局等の加算が充実することで、1店舗当たり調剤医療費が年率1〜2%程度で増加し、薬局数は再編を経つつも需要の高い地域でのドミナント展開が進む姿が考えられます。
下振れシナリオでは、薬価・調剤報酬のマイナス改定が想定を上回り、セルフメディケーションの進展やオンライン診療・電子処方箋を通じた大手プラットフォームへの処方箋集中などにより、1店舗当たり処方箋枚数が減少に転じる可能性もあります。この場合、特に小規模・単独薬局ではEBITDAマージンの急速な悪化と、金融機関からの借入返済負担に直面するリスクが高まります。 以下では、主要な論点ごとに調剤薬局業界の課題、対応策、M&A観点の順で整理します。

利益率圧迫要因

課題:
調剤薬局の収益性は、調剤医療費の伸びと、薬剤師を中心とする人件費や家賃・光熱費・物流コストの上昇とのバランスによって規定されます。先述のとおり、医療費全体や調剤分の伸び率は近年おおむね年率2%前後にとどまる一方で、人件費やエネルギー費用はそれ以上のペースで上昇しているとされています。2024年の診療報酬改定では処方箋料等の引き下げが行われたことにより、処方箋1枚当たりの報酬単価が一部マイナスとなっており、物価高・賃上げと診療報酬の乖離が利益率を圧迫しています。
対応策:
個々の薬局レベルでは、処方箋枚数の確保、在宅件数の増加、かかりつけ薬剤師の算定拡大によるトップライン強化と、在庫回転率向上・業務効率化によるコストコントロールを両立させる必要があります。具体的には、
  • 薬歴・レセコン・在庫管理の連携による棚卸工数削減
  • ピッキング・入力業務の標準化とタスクシフティング(事務職・登録販売者の活用)
  • 光熱費削減や物流ルート見直しによる経費最適化
などの取り組みが挙げられます。また、報酬改定に合わせて加算算定要件を満たす運用への転換や、在宅医療・地域連携への対応強化も重要です。
M&A観点:
M&Aを通じてスケールメリットを獲得することで、仕入条件の改善・物流の共同化・バックオフィス機能の集約などにより、利益率圧迫要因を緩和できる可能性があります。特に、薬剤師や事務職のシフト調整・応援体制をグループ全体で設計することで、ピーク時の残業・応援コストを抑えつつサービスレベルを維持することが期待されます。買収検討時には、EBITDAマージンの現状だけでなく「スケールメリット発現後のターゲットマージン」をシナリオごとに試算し、PMIにおける具体的な改善策(購買統合・物流統合・共通システム導入など)を事前に設計しておくことが望ましいです。
日本薬剤師会「薬局の経営状況等について」
保険医協会「物価高騰の緊急影響調査 24年度改定 深刻な減収・経費増」

ロジスティクス・在庫・品質管理

課題:
ジェネリック供給不安や相次ぐ出荷調整により、調剤薬局の在庫管理は高難度化しています。医療用医薬品全体の約14%が出荷停止・限定出荷の状態にあるとされており、代替薬探索・患者説明・在庫確保のための発注変更など、現場負荷が増大しています。在庫回転率を高めたい一方で、欠品リスクを避けるための安全在庫が増えやすく、キャッシュフローと棚卸資産の両面でジレンマが生じています。
対応策:
在庫・ロジスティクスの高度化にはITとデータ活用が不可欠です。複数店舗を展開するチェーンでは、店舗間在庫の見える化と融通を可能にするシステム構築や、需要予測モデルによる発注最適化が有効です。単独薬局であっても、
  • ABC分析による重点品目管理
  • 後発医薬品・長期収載品の切り替えルールの明確化
  • 不動在庫・使用頻度の低い薬剤の共同利用(地域連携)
などの運用ルール整備により、在庫水準の適正化が図れます。また、GDP・GMP・GQP・GVPなど品質関連基準に準拠した温度管理・ロットトレース・リコール対応体制の整備も重要です。
M&A観点:
ロジスティクス・在庫管理は、チェーン化のメリットが最も発揮されやすい領域の1つです。M&Aによって店舗数が一定規模以上になると、
  • 共同購買による仕入条件の改善
  • センター在庫方式や地域拠点倉庫の活用
  • 全社共通マスタによる在庫統合・可視化
などにより、在庫効率と供給安定性の両立が可能になります。PMIでは、調剤システムと在庫システムのマスタ統合(薬品コード・ロット・有効期限情報など)や、卸とのEDI連携の統一設計が重要なテーマとなります。
沢井製薬グループ 統合報告書記事「市場拡大が見込まれるジェネリック医薬品の安定供給に向けた取り組み」

人材確保・働き方

課題:
薬剤師不足や地域偏在、働き方改革への対応は、中長期的な業界共通課題です。薬剤師数は増加しているものの、地域や業態によっては採用難が続いており、特に地方都市・郡部では常勤薬剤師の確保が難しいケースがあります。また、夜間休日対応や在宅訪問、薬歴記載・監査等の業務負荷に対して、残業時間やワークライフバランスへの配慮も求められています。
対応策:
人材確保に向けては、給与水準だけでなく、
  • 勤務シフトの柔軟性(短時間正社員・時短勤務・在宅勤務を組み合わせた働き方)
  • 教育・研修体系の充実(在宅・がん・小児など専門領域やDXスキルを含む)
  • キャリアパスの明確化(管理薬剤師・エリアマネージャー・専門薬剤師など)
といった要素が重要になります。タスクシフティングにより、調剤以外の事務作業や一部のOTC販売などを事務職・登録販売者に委ね、薬剤師が臨床判断・服薬指導・在宅対応など高付加価値業務に専念できる体制を構築することも有効です。
M&A観点:
M&Aは、人材ポートフォリオの再編機会でもあります。在宅や専門領域に強みを持つ中規模チェーンと、地域ドミナントの小規模薬局が組み合わさることで、専門性と地域密着性を兼ね備えたネットワークを構築できます。PMIでは、評価・報酬制度・職位体系を統合しつつ、既存の強み(在宅専門チーム、地域密着のかかりつけ薬剤師・薬局の機能など)を損なわないよう配慮することが、人材流出防止とシナジー最大化の鍵になります。
厚生労働省「令和4年 医師・歯科医師・薬剤師調査 3 薬剤師」

デジタル/データ活用

課題:
オンライン資格確認・電子処方箋・電子薬歴・在庫管理システムなど、デジタル化の要素は年々増えていますが、薬局によって導入状況や活用度合いには大きな差があります。システムが乱立し、店舗ごとに異なるベンダーや運用ルールが存在する場合、データの一元管理や分析が難しく、CRMやAI活用の前提が整っていないケースも少なくありません。
対応策:
デジタル/データ活用を本格化させるには、
  • レセコン・電子薬歴・在庫システムのベンダー統一または連携強化
  • 患者ID・処方履歴・服薬状況を紐づけたデータ基盤の構築
  • 需要予測、在庫最適化、薬歴チェック支援などAI・ルールエンジンの活用
  • アプリやSMSを活用した服薬フォロー・リフィル処方のリマインド
などが考えられます。個人情報保護と医療情報ガイドラインへの適合を前提に、匿名加工情報や統計情報として地域の処方傾向分析やヘルスケアサービスの企画に活かすことも選択肢となります。
M&A観点:
デジタル対応力は、調剤薬局グループの競争力を左右する重要な差別化要因です。システム基盤が整ったチェーンが、デジタル対応の遅れた薬局を取り込むことで、短期間に顧客ID基盤やデータ量を拡大できる可能性があります。一方で、システム統合・マスタ統合の負荷も大きいため、買収前に「現行システムの棚卸」と「統合後アーキテクチャの設計」を行い、PMI計画に具体的なロードマップ(移行期間・投資額・教育計画)を組み込むことが重要です。

ガバナンス/コンプライアンス

課題:
疑義照会・重複投薬・相互作用チェック、薬歴記載、レセプト請求など、薬局業務は多数のルールとチェックポイントで構成されています。人手不足や業務多忙により、一部の薬歴未記載・服薬指導不足・加算要件未達成のまま請求が行われるリスクが存在します。また、個人情報保護・サイバーセキュリティの観点からも、アクセス権限管理やログ管理、外部委託先の管理など、多層的なガバナンスが求められています。
対応策:
ガバナンス強化のためには、
  • 標準業務手順書(SOP)の整備と定期的な見直し
  • 薬歴・レセプトの内部点検(サンプリング監査)の実施
  • ヘルプデスクや相談窓口の設置による現場支援
  • 個人情報保護・サイバーセキュリティに関する定期研修
などの仕組みが有効です。ITツールを使ったチェックリストやアラート機能(相互作用アラート、薬歴記載漏れアラート等)の活用により、現場負担を増やさずにコンプライアンス水準を高める工夫も重要です。
M&A観点:
M&Aでは、対象薬局グループのガバナンス水準が買収後のリスクプロファイルに直結します。デューデリジェンスでは、行政処分・指導歴、レセプト返戻・査定の状況、個人情報漏えい等のインシデント有無などを確認し、不適切な運用がないかを精査することが求められます。PMIフェーズでは、グループ全体での共通ポリシー・教育プログラムを導入するとともに、既存の良好な運用(例えば地域に根差した薬歴管理の工夫など)を尊重し、単なる「上からのルール統一」に陥らないことが現場の受容性の観点から重要です。

出店・フォーマット戦略

課題:
人口減少と高齢化、医療提供体制の再編が進む中で、「どこに」「どの規模の」「どのような機能を持つ」薬局を配置するかは、経営戦略上の重要テーマです。都市部では、駅前・医療モール内・大型ドラッグストア併設など競合が集中するエリアが存在し、一方で地方部では無薬局町村や医療資源の乏しい地域も残っています。
対応策:
出店・フォーマット戦略では、
  • 都心/郊外/地方の人口動態・高齢化率・医療機関分布を踏まえたマッピング
  • 門前型・面分業型・在宅特化型・ドラッグストア併設型などのフォーマット選択
  • 直営/FC/提携などの運営形態の組み合わせ
  • 医療モール・商業施設・駅ナカなど立地タイプごとの収益性・リスク分析
が求められます。大型調剤薬局で高効率なオペレーションを実現するモデルと、小規模かかりつけ薬局や在宅特化型で密度の高いサービスを提供するモデルを、地域の特性に合わせてポートフォリオとして設計することが望まれます。
M&A観点:
出店戦略とM&Aは密接に結びつきます。新規出店では時間とコストがかかるエリアでも、既存薬局の買収により短期間でのネットワーク構築が可能です。特に医療モール内や病院近接など優良立地の薬局は、単純なDCF評価以上に「戦略的価値」を持つことがあり、プレミアムをどこまで許容するかが投資判断のポイントになります。PMIでは、既存店舗との棲み分け(処方元・在宅エリア・営業時間など)を明確にし、カニバリゼーションを避けたうえでドミナント化を進めることが重要です。
厚生労働省「衛生行政報告例 薬局数・無薬局町村数・登録販売者数,都道府県別」

外需・観光・越境需要(該当領域)

課題:
調剤薬局の主要な需要は国内居住者ですが、訪日外国人の増加やインバウンド医療の拡大に伴い、一部地域では観光客・外国人居住者向けの調剤・服薬指導ニーズも存在します。言語の壁や保険制度の違い、処方箋の有効性確認など、運用面での課題も多いため、現時点では限定的な市場にとどまるケースが多いと考えられます。
対応策:
観光地や都市部の一部薬局では、
  • 英語や中国語など多言語対応の服薬指導
  • クレジットカード・モバイル決済など多様な決済手段への対応
  • 訪日客向け案内(OTC医薬品の選び方、保険適用の有無など)の提供
  • 外国人居住者向けに、日本の医療保険制度や処方箋の取り扱いを説明するコンテンツの整備
などにより、限定的ながらも外需を取り込むことが可能です。ただし、調剤においては医師の処方箋が必要であり、OTC中心のドラッグストアとは異なる制約条件がある点に留意が必要です。
M&A観点:
外需を積極的に取り込みたいドラッグストアチェーンや医療ツーリズム関連事業者にとっては、観光地立地の調剤薬局をM&Aで取得し、自社の多言語対応・決済インフラ・マーケティング力を持ち込むことで、付加価値の高いサービスを提供できる可能性があります。ただし、市場規模は限定的であるため、純粋な収益性だけでなく、ブランド構築や他事業とのシナジーを含めた総合的な評価が必要です。

地域連携・エコシステム

課題:
地域包括ケアシステムの構築に向けて、医療機関・介護事業者・訪問看護・自治体などとの連携が求められています。調剤薬局は、在宅患者の服薬管理や退院時の情報共有、地域住民への健康相談などを通じて、地域ヘルスケアのハブとして機能することが期待されていますが、実際には情報共有の仕組みや報酬面でのインセンティブが十分とはいえない地域もあります。
対応策:
地域連携を強化するためには、
  • 退院時カンファレンスや地域連携会議への継続的な参加
  • 在宅医療カンファレンス・多職種連携会議での薬剤師の役割明確化
  • 地域包括支援センター・自治体・学校等との健康教育・相談活動
  • コンビニ受取や訪問服薬指導など、生活動線に合わせたサービス提供
などの取り組みが考えられます。地域連携薬局・専門医療機関連携薬局の認定取得は、こうした活動を制度的に評価する枠組みとして位置付けられます。
M&A観点:
地域連携に強みを持つ薬局は、在宅医療・訪問看護・介護事業者などとのネットワークを持っているケースが多く、M&Aを通じてそのネットワークを取り込むことは大きな戦略的価値を持ちます。例えば、在宅に強い中規模チェーンと地域ドミナントの小規模薬局が統合することで、在宅対応エリアの拡大と地域密着性の維持を両立できる可能性があります。PMIでは、連携先医療機関・介護事業者との関係性を損なわないよう、ブランド変更のタイミングや人事・組織変更の進め方に慎重な配慮が必要です。
日本薬剤師会「地域における認定薬局・健康サポート薬局の状況等」

倒産・再編・金融環境

課題:
金利環境や金融機関の融資姿勢、コロナ関連融資の返済本格化などにより、中小企業全体で倒産・廃業件数の増加が懸念されています。帝国データバンクの倒産集計では、2024年度の企業倒産件数が前年度を上回り、負債総額も増加していると報告されており、資金繰り環境の厳しさがうかがえます。調剤薬局業界でも、収益性低下と借入依存度の高さが重なった場合、金融機関とのリスケジュール・条件変更・スポンサー交代などが議論される局面が生じ得ます。
対応策:
経営者にとっては、早期に財務・資金繰りを可視化し、
  • 利益率改善策(前述の業務効率化・在宅拡大・報酬最適化など)の実行
  • 借入返済スケジュールとキャッシュフローの整合性確認
  • 設備投資・DX投資の優先順位付け
  • 金融機関との情報共有・関係性強化
を通じて、金融機関からの信頼を維持することが重要です。また、事業承継やM&Aの選択肢を「業績悪化後の最後の手段」としてではなく、「選択肢の1つ」として早期から検討することが、価値毀損の最小化につながります。
M&A観点:
金融環境の変化は、スポンサー交代型のM&Aや再生型案件の増加につながる可能性があります。買い手にとっては、財務リスクを適切に織り込んだうえで再生余地のある薬局を取得できるチャンスになり得ますが、デューデリジェンスでの債務状況・担保状況・金融機関との関係性の確認が必須です。PMIでは、収益構造の再設計(店舗統廃合・人員配置見直し・在宅強化など)とともに、金融機関とのコミュニケーションを丁寧に行い、再生計画への理解と協力を得ることが重要です。
帝国データバンク「倒産集計 2024年度報(2024年4月~2025年3月)」

リスク管理・BCP

課題:
感染症・自然災害・サイバー攻撃・制度変更など、多様なリスクに対する事業継続計画(BCP)が求められています。新型コロナウイルス感染症では、薬局が生活必需サービスとして休止できないインフラであることが再認識される一方で、職員の感染・濃厚接触による一時閉局リスクや、サプライチェーンの途絶などが課題として顕在化しました。DXの進展に伴い、システム障害やサイバー攻撃によりレセプト・薬歴システムが停止した場合のリスクも高まっています。
対応策:
リスク管理・BCPの観点からは、
  • 代替店舗・代替拠点への処方箋引き継ぎ体制(グループ内共有)
  • 在庫・人員・ITシステムに関するBCP(バックアップ・代替手順)の整備
  • 災害時の優先供給ルールや行政との連携窓口の明確化
  • サイバー攻撃対策(多要素認証、ログ監視、バックアップ、訓練)
  • 診療報酬・薬機法など制度変更時の影響分析と対応プロジェクトの立ち上げ
が重要です。BCPは紙の計画書の整備だけでなく、定期的な訓練・棚卸を通じて「生きた計画」として運用されることが求められます。
M&A観点:
M&Aによるグループ化は、BCPの観点でもメリットがあります。複数店舗間でのバックアップ体制や共通システムの冗長構成、代替人員の派遣など、単独薬局では難しいリスク分散が可能になります。一方で、システム統合により共通基盤への依存度が高まるため、統合後システムの信頼性・冗長性の確保が重要です。PMIでは、BCPポリシーと実務手順をグループ全体で統一しつつ、地域の防災計画や医療計画との整合性を図ることが、レジリエンス向上と地域からの信頼獲得につながります。
総務省統計局「人口推計(2024年(令和6年)10月1日現在)」:日本の総人口・年齢構成・高齢化率、参照年次2024年
総務省統計局「人口推計」(e-Stat):"人口推計"長期時系列データ、参照年次2025年
厚生労働省「令和5年度 医療費の動向」:概算医療費総額、診療種類別伸び率、参照年次2023年度
厚生労働省「令和5年度の医療費の動向について」:診療種類別医療費の伸び率(調剤含む)、参照年次2023年度
厚生労働省「令和元(2019)年度 国民医療費の概況」:薬局調剤医療費7兆8,411億円(構成比17.7%)など診療種類別国民医療費、参照年次2019年度
e-Stat「『調剤医療費の動向』調査」:調剤医療費(電算処理分)の月次動向・伸び率、参照年次2020~2024年度
健康保険組合連合会「健保ニュース 2025年9月中旬号 調剤医薬費の状況」:令和6年度調剤医薬費8兆4,008億円、処方箋1枚当たり調剤医療費9,372円など、参照年次2024年度
厚生労働省「衛生行政報告例 薬局数・無薬局町村数・登録販売者数,都道府県別」:薬局数の推移・無薬局町村数、参照年次2022年度(2023年公表)
厚生労働省「健康サポート薬局の状況等」:令和5年度薬局数約6.3万、20店舗以上経営薬局の割合など、参照年次2024年
日本薬剤師会「地域における認定薬局・健康サポート薬局の状況等」:2024年3月末時点の薬局数62,828など、参照年次2024年
厚生労働省「令和4年 医師・歯科医師・薬剤師調査 3 薬剤師」:薬剤師総数323,690人、薬局従事薬剤師190,735人、人口10万対薬剤師数259.1人、参照年次2022年
ヤクヨミ「薬剤師の人数は?推移グラフや都道府県別・施設別のデータを解説」:施設別薬剤師数の解説、参照年次2025年
メディカルリソース「大手調剤薬局の売上と店舗数ランキング!【2022年12月時点】」:全国薬局総数60,951店舗、大手10社の店舗数6,030店など、参照年次2022年
日本薬剤師会「薬局の経営状況等について」:物価高・人件費上昇による経営負担増、約7割の薬局で経営悪化との回答など、参照年次2025年
保険医協会「物価高騰の緊急影響調査 24年度改定 深刻な減収・経費増」:2024年診療報酬改定内容(処方箋料等10~25%引き下げなど)と医療機関経営への影響、参照年次2024年
ウィスマン「【医療業界動向コラム】第107回 令和5年度の医療費の動向」:後期高齢者医療費が概算医療費の39.8%を占めることなど、参照年次2023年度
日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会「医薬品不正製造防止について」:ジェネリック医薬品を中心とした欠品・出荷調整の経緯と背景、参照年次2025年
沢井製薬グループ 統合報告書記事「市場拡大が見込まれるジェネリック医薬品の安定供給に向けた取り組み」:医療用医薬品の約14%が出荷停止・限定出荷状態との記載、参照年次2025年
日本医薬品卸業連合会「医薬品卸を取り巻く環境変化と対応」:医薬品卸の役割と最近の環境変化、参照年次2023年
薬事日報ウェブサイト「Dgsは地域に応じた対応が必要に」:ドラッグストア市場売上10兆0307億円、店舗数2万3,723店など、参照年次2024年度
帝国データバンク「倒産集計 2024年度報(2024年4月~2025年3月)」:全産業の企業倒産件数・負債総額の推移、参照年次2024年度

調剤薬局業界における
M&A活用のメリット

調剤薬局業界におけるM&A活用のメリットをご紹介します。

譲渡側のメリット
  • 人材の獲得(薬剤師・登録販売者等)
  • 後継者問題を解決できる
  • 事業意欲旺盛な会社との協業により、相互に発展することが可能
  • 適切な会社に譲渡すれば、社員の雇用は保証され、成長機会も増える
  • オーナー社長は個人保証や担保提供から解放され、ハッピーリタイアができる
  • 個人保証や担保提供から解放されたうえで役員等として継続してかかわることも可能
譲受け側のメリット
  • 人材の獲得(薬剤師・登録販売者等)
  • 売上規模・シェアの拡大・地域補完が見込める
  • 事業多角化・新規事業への参入
  • シナジーの創出
  • バリューチェーンの補完・関連事業領域の拡大
  • リスク分散ができる
  • コストの削減・財務力強化(仕入れコスト、管理部門コスト、物流コストなど)

調剤薬局業界で
M&Aを実行する際のポイント

調剤薬局業界でM&Aを実行する際に注意すべきポイントには、下記のようなものがあります。

  • 処方箋の単価・枚数
  • 医療施設などとの関係
  • 有資格者の状況(人数・年齢・給与・継続雇用の可否)
  • 在庫管理・評価(過剰在庫を抱えていないか)
  • 財務問題
  • 労務問題
  • コンプライアンス
  • ガバナンス・管理体制

ここでは一般的なポイントをご紹介させていただいておりますが、実際には、個別事情を勘案すると大きく変わります。また、業界によっては独自の規制や商習慣が存在するため、M&Aの仲介を行ううえで、それぞれの業種・業界の特性を正しく理解していることが非常に大切です。
全国に拠点を展開する日本M&Aセンターでは、各業界に精通したコンサルタントが所属しているため、専門性の高いサービスを提供させていただくことが可能です。秘密保持を厳守のうえ、個別相談を無料でお受けしています。M&Aの進め方やポイントなど、気になることがありましたら、お気軽にお問い合わせください。

調剤薬局業界の
M&A動向と今後の展望

外食産業の回復と今後の課題:人材確保と労働環境の改善

2022年の薬局経営は厳しい環境に直面しました。ジェネリック医薬品の供給不足から始まり、全国の薬局に影響を及ぼす医薬品全体の供給不足。また、報酬改定や競合店舗の出現など、多角的な問題に取り組む必要に迫られました。
これらの厳しい状況を背景に、日本M&Aセンターの調剤薬局業界専門グループは、500名以上の薬局経営者と接触し、様々な形態のM&Aを支援しました。これらの経験から見えてきた2022年の調剤薬局業界のM&A動向と2023年以降の展望について考察します。

診療報酬改定の影響と新たな挑戦

2022年4月の診療報酬改定では、対物業務から対人業務への転換を伴う報酬体系の大刷新が実施されました。地域支援体制加算の要件と評価の見直し、地域支援体制加算の細分化など、大手調剤チェーンやドラッグストアへの逆風と、個人経営薬局への新たなチャンスが生まれました。

広がりつつあるM&Aの選択肢

2022年の調剤薬局の国内M&Aは公表ベースで18件となり、前年2021年の37件と比較すると減少したように見えます。しかし、これはM&Aの選択肢が薄れているわけではなく、むしろ大型M&Aが増えた結果、一件あたりの規模が大きくなっていることが影響しています。たとえば、西日本の中堅調剤ファーマシィホールディングスによるアインホールディングスへの株式譲渡(約100店舗)や、投資ファンドの日本産業推進機構グループ(NSSK)による、さくら薬局グループ(約900店舗)の買収などが挙げられます。これらの大型M&Aは、業界に大きな動きをもたらしました。

この激動の時代こそ、経営者の皆さんには新たな視点から自社の将来を見つめ、可能性ある選択肢を探る好機と捉えて頂きたいと思います。M&Aは、様々な問題に直面する薬局経営者の皆様の一助となりうる戦略の一つです。

調剤薬局業界に訪れるM&Aの波、そしてデジタル化

2023年度頃から、調剤薬局業界のM&Aが再燃しています。アインホールディングス、日本調剤、クオール、メディカルシステムネットワーク、ファーマライズといった上場5社の2023年度第2四半期におけるM&Aでの取得店舗数は、5社で127店舗となり、前年度通期の49店舗を大幅に上回りました。この勢いは、薬局経営者たちが、地域に必要とされる“患者のための薬局”としての役割と機能を強化するための戦略として、M&Aを積極的に活用する傾向が高まっていることを示しています。

異業種からの参入、デジタル化の波

デジタル化の波や異業種からの参入がこの業界を変革させています。特に、ドラッグストアの調剤額は年々増加し、2021年度は1兆1,738億円を公表、全体調剤額の約16%のシェアを占めています。その背後には、Amazonのような巨大企業の参入や、オンライン診療・服薬指導のニーズの高まりといった新しい流れがあります。

DXへの対応、新たなビジネスモデルへ

調剤薬局業界は、これまでデジタル活用で他業界に大きく後れをとってきましたが、DXに適応できない薬局は経営が立ちゆかなくなるとの声が増えてきています。認識の変化に追いつけないプレイヤーは否応なく淘汰されてしまう時代に、大きなビジネスモデルの変革が必要とされています。

調剤薬局支援の専門チームがM&Aをサポート

未来の薬局の役割を見据え、機能の拡充を図るためにM&Aで他社と組むという戦略をとる薬局が増えています。しかし、まだM&Aという経営戦略をご存じない経営者も多いのが現状です。当社の調剤薬局専門グループでは、経営者や企業の状況に合わせて様々な提案を行い、調剤薬局が地域医療をリードしていく未来を実現すべく、努めてまいります。 調剤薬局のM&Aには、業界特有の専門知識やノウハウが求められますが、日本M&Aセンターでは、調剤薬局のM&Aに特化したコンサルタントで構成する専門チームがサポートいたします。ご検討段階でもお気軽にご相談ください。

調剤薬局業界における
M&Aの価格相場

本業界のM&Aの価格・相場感の考え方についてお話します。M&Aには様々な評価方法があります。その一例として「取引事例法」をご紹介します。
取引事例法は、過去のM&A事例から、事業内容・地域・財務指標などが似ている企業の売買事例を選定し、その売買実績に基づいて価値算定を行う方法です。取引事例法において重要なのは、類似の取引事例を参考にすることです。しかし、「他社のM&A実績から価格を参考に知りたい」と思っても、非上場企業のM&Aでは、情報が非公開のため、ほとんど参照することはできません。
類似する条件を見つけるために非常に多くの事例の蓄積が必要になります。日本M&Aセンターでは、M&Aにおいて成約実績10,000件超、M&A成約件数で世界No.1*のギネス世界記録™に5年連続で認定されるなど、豊富な実績があります。事業内容・地域・財務指標などから似た会社の売買事例を選定し、一定のルールで公正な価値評価を算出することができます。
こちらから当社の株価算定シミュレーションを体験することができます。
※ギネス世界記録™:M&Aフィナンシャルアドバイザリー業務の最多取扱い企業 2020~2023年に続き、5年連続でギネス世界記録™に認定

あなたの会社の評価額はいくら?

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あなたの会社が現在どう評価をされるか、ぜひ見てみませんか?

では、より高い評価を得て、より高く会社を売るにはどうしたらよいでしょうか。また、魅力的な買い手企業を見つけるにはどうしたらよいでしょうか。M&Aの価格は最終的には売り手企業と買い手企業との交渉になるので、買い手企業にとって「この会社が欲しい」と思われる要素を増やしていくことが必要です。
例えば、どの業界でも、全体的に人材不足となっています。例えば、買い手企業からすれば、より若くて優秀な人材(薬剤師など)が確保できるようであれば、M&Aによって買収するメリットが大きくなります。さらに、コンプライアンスやガバナンスの問題もあげられます。これはどちらかというと、交渉でマイナス要素を作らないという視点です。具体的には、顧客との間でのトラブルがないか、社会保険にしっかり加入しているか、などです。これらがあると潜在的な費用や負債として見られ、価格交渉上不利になりえます。事前にこれらの要素がクリアされていますと、買い手企業としても安心してM&Aを実行することができますし、価格交渉でのマイナスポイントが少なくスムーズに進めやすくなる傾向にあります。

なお、実際には個別の業種や取引環境等によって価格相場は変動しますし、場所や経営状態によっても大きく左右されます。初期的なご相談や、簡易的な株価診断は無料にておこなっておりますので、よりくわしく評価や課題について聞きたい方は、弊社コンサルタントから詳細をご説明いたしますので、お気軽にご相談ください。

調剤薬局の
売却の無料相談
調剤薬局の
買収の無料相談
株式会社日本M&Aセンター

業界別M&Aレポート編集部

株式会社日本M&Aセンター

業界別M&Aレポート編集部は、日本M&Aセンターの社員によって執筆・運営されています。各業界・業種のM&Aや事業承継に関する情報、トピックをお届けします。

調剤薬局業界の
最新M&A事例を解説

調剤薬局業界の動向を見るために、近年に実施された調剤薬局業界のM&A事例をご紹介します。調剤薬局やドラッグストアなど、同じ業界同士のM&Aだけでなく、スーパー、化粧品メーカーなど、業容を広げるためにM&Aが活発に利用されています。

調剤薬局×調剤薬局
調剤大手アインHD、広島の中堅調剤チェーンであるファーマシィHDを子会社化

譲渡企業
株式会社ファーマシィホールディングス(広島県福山市)
譲受け企業
株式会社アインホールディングス(北海道札幌市)

M&Aの概要

スキーム:株式譲渡 実行時期:2022年5月

2022年5月、調剤薬局業界最大手のアインホールディングスは、広島県福山市に本社を置く調剤薬局チェーン、ファーマシィホールディングスの全株式を取得し、完全子会社化しました。
売り手のファーマシィホールディングスは、日本の医薬分業の黎明期である1976年に創業し、中国地方を中心として全国に約100店舗の調剤薬局を展開。在宅医療を中心に地域医療に積極的に取り組むほか、薬剤師の専門性強化にも力をいれています。
ファーマシィホールディングスは、いくつかの同業他社と意見交換する中で、経営理念など共通点が多いアイングループとともに歩むことが、同社の描くビジョンをより確実に実現できる道だと確信し、グループへの参画を決めたとしています。また、アイングループに参画以降も、引き続き福山市を本社とし、会社の商号やファーマシィ薬局のブランドは継続する予定です。
買い手のアインホールディングスは、さらなる店舗網の拡充とともに、相互の事業ノウハウを融合することで、地域医療インフラとしての企業価値を高めていきたいとしています。

M&Aによる取得額は非公表ですが、ファーマシィホールディングスの2021年3月期の売上高は約215億円で、アインホールディングスのこれまでのM&Aでも最大規模となりました。新規出店とM&Aを活用した事業拡大を図るアインホールディングスにとって、絶好のパートナーであったといえましょう。このM&Aにより、ファーマシィグループが持つ約100店舗を加え、アインホールディングスは1,200店舗を超える調剤薬局を擁するグループ企業となり、今後もM&Aを中心に、年80店舗ペースでの出店拡大を掲げています。
※「5年で400店増計画」2022年日本経済新聞のインタビューによる

人材派遣×調剤薬局
日本調剤、連結子会社を通じて産業医業務提供を行うWORKERS DOCTORSを子会社化

譲渡企業
株式会社WORKERS DOCTORS(東京都杉並区)
譲受け企業
株式会社メディカルリソース(東京都千代田区)
※日本調剤株式会社(3341)の連結子会社

M&Aの概要

スキーム:株式譲渡 実行時期:2020年11月1日

2020年11月、日本調剤の連結子会社である株式会社メディカルリソースは、産業医業務提供を行う株式会社WORKERS DOCTORSの全株式を取得しました。

株式会社メディカルリソースは、保険調剤薬局チェーンの経営を展開する日本調剤の連結子会社です。薬剤師や医師、メディカルスタッフ(登録販売者・看護師など)の人材紹介などの事業、有料老人ホーム、高齢者住宅検索サイトの企画・運営などの施設事業を行っています。
本件M&Aにより、日本調剤は、医師紹介実績や全国規模の営業体制と WORKERS DOCTORSが保有する産業医に関するノウハウやネットワークを活用することで、産業医業務提供事業の全国への展開を図り、業容をさらに拡大し、企業の健康経営には欠かせないメンタルヘルスを含む健康管理を中心とした労働衛生管理へのさまざまなニーズに幅広く対応させることを目指しています。

調剤薬局×ドラッグストア
ウエルシアHD、愛媛の調剤薬局ネオファルマーとサミットの2社を子会社化

譲渡企業
株式会社ネオファルマー(愛媛県四国中央市)
株式会社サミット(愛媛県新居浜市)
譲受け企業
ウエルシアホールディングス株式会社(東京都千代田区)

M&Aの概要

スキーム:株式譲渡 実行時期:2020年7月1日

2020年7月、薬局併設型を含むドラッグストアを全国展開するウエルシアホールディングスは、愛媛県を中心に地域密着型の薬局を展開している「ネオファルマー」及び「サミット」の全株式を取得し、子会社化しました。 2社は同一創業者のもと、愛媛県を中心にそれぞれ10店舗と3店舗の調剤薬局を展開していました。このM&Aにより、ウエルシアホールディングスは、愛媛県の調剤事業の推進及び四国地域の店舗網拡大を図るとともに、サービスとノウハウの融合ならびに共同仕入によるスケールメリットを生かし、調剤を中心としたビジネスモデルの展開を進め、グループの企業価値向上を高めていくとしています。

※さらに、2021年3月1日を効力発生日として、ウエルシア薬局株式会社を存続会社、ネオファルマー、およびサミットを消滅会社として、吸収合併をおこなっています。本部機能の効率化と経営資源の有効活用を目的として、両社はグループの中核的子会社であるウエルシア薬局に合併されました。

小売・卸×調剤薬局
調剤薬局大手のアインHD、病院向け事業を展開するシダックスグループと資本業務提携

譲渡企業
シダックスアイ株式会社(東京都調布市)
※シダックス株式会社の連結子会社
譲受け企業
株式会社アインホールディングス(北海道札幌市)

資本業務提携について

2020年2月、調剤薬局大手のアインホールディングスは、シダックスグループとの資本業務提携を発表しました。全国の病院や官公庁、企業で400店超の売店を受託運営しているシダックスアイの全株式を取得し、完全子会社化しました。シダックスは病院給食の受託を手がけており、病院向けの事業を展開する同グループと連携することで、店舗網の拡大に生かす意図です。

M&Aの概要

スキーム:株式譲渡 実行時期:2020年3月

シダックスアイは、シダックスの全額出資子会社で、病院を中心として企業、官公庁、大学及びオフィスビル等の閉鎖商圏における売店の受託運営を主業とし、全国で400超の店舗を運営。特に病院内売店事業及び企業内売店事業等においては最大手として長年に亘る実績を有していました。
アインホールディングスが、シダックスアイの総資産額に相当する15億円で全株式を取得、子会社化しました。病院などに対してアイン薬局との共同出店をするなど、同グループと連携し、薬局出店の競争力強化につなげる見込みです。

さらに、2020年5月、アインホールディングスの100%出資子会社である株式会社アインファーマシーズ(北海道札幌市)は、シダックスアイを吸収合併しました。
シダックスアイに関し、アインファーマシーズが吸収合併する手法をもって、同社の売店事業等を承継することになりました。医療機関との連携がより一層強化されるとともに、重複管理業務を削減し、グループ全体としての事業効率の向上を図る目的です。

調剤薬局×ドラッグストア
ウエルシアHD、岡山の調剤ドラッグストアチェーン金光薬品を子会社化

譲渡企業
金光薬品株式会社(岡山県倉敷市)
譲受け企業
ウエルシアホールディングス株式会社(東京都千代田区)

M&Aの概要

スキーム:株式譲渡 実行時期:2019年6月

2019年6月、ウエルシアホールディングスは金光薬品の全株式を取得し、子会社化しました。
売り手の金光薬品株式会社は、岡山県南部を中心にドラッグストア「金光薬品」や調剤薬局「金光調剤」の運営及びチェーン展開を行っている企業です。1934年の創業以来、地域における医療環境において、生活者の健康維持、疾病予防及び治療推進を通して幸せな社会づくりを目指して、岡山県内に31店舗(うち調剤薬局12店舗)を展開していました。
ウエルシアグループは薬局併設型を含むドラッグストアを全国に2783店舗(2023年5月時点)を展開し、デイサービスや訪問介護などの事業も行っているグループ企業です。
買い手のウエルシアホールディングスは、設立以来、新規出店とM&Aによって店舗数を増やしています。関東中心に東北から中国地方まで出店エリアを拡大させていました。2019年3月から新たに中国地方へ出店を開始していましたが、店舗数はまだ少なく、金光薬品を子会社化することで、中国地方での地盤強化につなげる見込みです。

※さらに、2022年6月1日付で、ウエルシア薬局株式会社を存続会社、金光薬品株式会社を消滅会社として、吸収合併をおこなっています。本部機能の効率化と経営資源の有効活用を目的として、グループの中核的子会社であるウエルシア薬局に合併されました。

調剤薬局業界の
M&Aニュース

調剤薬局業界のM&Aニュースを表示します。

調剤薬局業界のM&Aニュース一覧

調剤薬局業界の
M&A仲介実績

日本M&Aセンターが仲介・支援して成約した調剤薬局業界のM&A案件をご紹介します。
※現在、2025年9月までの実績を掲載しています。次回の更新(2025年10月~12月分)は2026年1月30日以降の予定です。

譲渡・売却企業 譲受け・買収企業
2025年9月 調剤薬局・ドラッグストア(関東) 調剤薬局・ドラッグストア(関東)
2025年9月 調剤薬局・ドラッグストア(北海道・東北) 調剤薬局・ドラッグストア(北海道・東北)
2025年6月 調剤薬局・ドラッグストア(関西) 調剤薬局・ドラッグストア(関東)
2025年6月 調剤薬局・ドラッグストア(関東) 調剤薬局・ドラッグストア(関東)
2025年6月 調剤薬局・ドラッグストア(関東) 調剤薬局・ドラッグストア(関東)
2025年6月 EC販売(関東) 医薬品卸売(関東)
2025年6月 介護・福祉(東海・北陸) 調剤薬局・ドラッグストア(関東)
2025年3月 調剤薬局・ドラッグストア(東海・北陸) 介護・福祉(東海・北陸)
2025年3月 調剤薬局・ドラッグストア(北海道・東北) 調剤薬局・ドラッグストア(九州・沖縄)
2025年3月 調剤薬局・ドラッグストア(関東) 調剤薬局・ドラッグストア(中国・四国)

調剤薬局業界を含む医薬品卸・小売業界のM&A仲介実績一覧

調剤薬局業界の
最新のM&A事例インタビュー

当社の仲介によりM&A・事業承継された調剤薬局業界の事例を、経営者様へのインタビュー形式でご紹介します。

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